「お前はいじめっ子だったからな」。小学校時代の恩師が笑顔で下した私についての評に耳を疑った。隣の席の子にシャープペンシルの先をぷすぷす刺したりしていたという。身に覚えはない。むしろ記憶に残るのは暴れん坊に殴られ、いじめられたという意識だ。
「自分は弱い」という思いが、武道をかじるきっかけにもなった。恩師の言葉はまだ腑(ふ)に落ちないのだが、知り合いの精神科医いわく「やった方は覚えていないもんだ」。
会社や学校で「いじめ」や「パワハラやセクハラまがいの説教」があるとはよく聞く話。彼らが、意識せずやっているとすれば、傷つけられた側はどう対処すればいいのだろうか。
神戸女学院大教授で武道家の内田樹氏は著書で「不愉快な人間関係に耐えていると、生命エネルギーがどんどん枯渇する」と指摘。自分は「不愉快な場から逃走する」と明かし、学生にも我慢しないよう勧めるという。「ストレス耐性」が問われる昨今だが、それでは道が開けないということだ。卓見かもしれない。【藤好陽太郎】
毎日新聞 2011年3月10日 12時26分