銀輪の死角

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銀輪の死角:交通基本法案決定/3 相次ぐ、歩行者「ひき逃げ」 賠償なく泣き寝入り

男性の陳情で事故現場付近に設置された自転車の安全運転を呼びかける看板=東京都府中市で2011年3月9日、西本勝撮影
男性の陳情で事故現場付近に設置された自転車の安全運転を呼びかける看板=東京都府中市で2011年3月9日、西本勝撮影

 09年10月13日午後4時半。東京都府中市の住宅街を通る片側1車線道路の歩道は、買い物帰りの主婦らで混み合い、子供たちの自転車が縫うように走っていた。自営業の男性(55)は、外出先から歩いて近くの職場に戻る途中、突然、右足ひざ辺りの後ろ側に何かがめりこんだような衝撃を感じた。大きな音はしなかったが、オートバイがぶつかったのかと思った。

 「痛い」と叫んで前のめりに倒れ、振り返ると10歳くらいの男児のおびえた目と視線が合った。横には倒れたマウンテンバイク。痛みで起き上がれないうちに、男児はマウンテンバイクにまたがり、そのまま去った。

 歩いて近くの病院に行くと、診断は右ひざの打撲と捻挫。しかし、痛みは右腰や右肩にも広がり、今も右足にはしびれが残ったままだ。趣味のジョギングやエアロビクスもできなくなった。一言謝ってほしくて、男児を捜し続けた。

 1年後、現場近くでよく似た小学生を見つけ、入った家の脇には似たようなマウンテンバイクがあった。後日、妻と訪れ、玄関先でその小学生と両親に事情を話した。両親は黙って話を聞いていたが、小学生は「僕じゃない」と否定。結局、加害者は特定できず、無力感に襲われた。

 法事で中部地方の実家に帰った昨年末、弟と昔話をしているうちに、自身の小学4年時の記憶がよみがえった。歩いて押していた自転車を近所の男性にぶつけてそのまま逃げ、家に帰ると父親に怒られて一人で謝りに行った。「やったことは、いずれ自分に返ってくるのだ」と感じた。

 今も「ひき逃げをして何の責任も取らないのは許されない」と考えている。一方で、男児には「事故を心に刻み気をつけて自転車に乗ってくれれば」との思いも芽生えている。

 府中市の事故現場付近は交通ルール違反の自転車が目立つ。何とか改善できないかと昨年2月、歩行者と自転車の安全対策を施すよう市議会に陳情し、全会一致で採択された。「歩行者優先」などと注意を呼び掛ける看板が付近に6枚設置され、警察官も街頭に立つようになった。

 ただし、それだけでは足りないとも思う。「自転車に乗る子供にはルールだけでなく、違反した場合の危険や責任も教えてほしい」

    ◇

 財団法人・日本自転車普及協会によると、歩行中に自転車との事故を経験した約2000人のうち78・5%は「相手の自転車に逃げられた」と回答。警察に届け出た人は5・8%にとどまる。多くは軽傷だが、被害者はとっさに対応できず、謝罪も賠償もないまま泣き寝入りするケースも少なくない。=つづく

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毎日新聞 2011年3月10日 東京朝刊

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