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2011年3月10日(木)付

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自殺者3万人―心を開ける場所もっと

ようやく転換の時なのだろうか。警察庁によると、昨年の自殺者は9年ぶりに3万1千人台に減った。前年に比べ、34都道県で減少している。三重県は25%減、青森県は17%減と顕[記事全文]

企業の合併審査―世界競争下の新基準を

世界市場に巨大なライバルが存在し、輸入品が簡単に入ってくる時代に、企業はどこまで大きく強くなってよいのか。「独占禁止法の番人」も悩みつつ、新時代の審査のあり方を模索しているようだ。[記事全文]

自殺者3万人―心を開ける場所もっと

 ようやく転換の時なのだろうか。

 警察庁によると、昨年の自殺者は9年ぶりに3万1千人台に減った。前年に比べ、34都道県で減少している。三重県は25%減、青森県は17%減と顕著に減った。13年連続の3万人台とはいえ、変化の兆しかもしれない。

 年度末の3月は毎年、自殺が増える月で、政府は昨年から対策強化月間にした。さらに手を尽くしたい。

 昨年、人口あたり自殺者数の割合が高い東北6県で軒並み減少したのに、平均より低い香川県、滋賀県、石川県などで逆に増えている。危機感の違いが対応の差になってはいないか。

 東京、大阪といった都市部は横ばいだ。3千人、2千人もの人が死を選んでいる。2006年の自殺対策基本法が社会的な取り組みを強調し、多重債務対策や心の健康診断も強化したが、やはり決め手があるわけではない。

 自殺者数のデータはいま、市町村別に公表されるようになった。わがまちの現状はどうか。対策はどうなっているか。住民として、気にかけたい。統一地方選が近づき、よく耳にする「安心、安全」が必要なのは、交通事故や災害対策に限ったことではない。

 基本法の原動力になった市民活動の広がりには勇気づけられる。

 「自殺対策に取り組む僧侶の会」(東京)は、44人の集まりだ。面談や電話相談をするには人手が足りない。悩む人たちの手紙を受け付けることにした。受けた手紙は、3年で2500通。「やっと気持ちの届け先を見つけた」「だれにも言えなかった」などとある。僧たちは3人一組になり、相談しながら返事を書く。

 代表の僧は49歳で、元IT企業幹部だ。仲間が参加しやすいよう、受けた手紙は電子化し、返事の文案もメールでやり取りしながら練る。最近、広告会社員らの協力で、僧が赤い郵便受けを持ってほほ笑むポスターも作った。

 三重県の志摩市では老人会などで、地域のボランティアグループ「お達者サポーター」が紙芝居を演じ、うつ病などの早期相談を呼びかけている。手書きの絵に思いを込める。

 ただ、手紙も紙芝居も参加者は女性が多い。自殺者の3分の2を占める男性がなかなか顔を出さない。そこで、秋田県藤里町の市民グループは、夜に飲酒OKのミニ会合「赤ちょうちん よってたもれ」を始めた。自分史を語り合う何げない機会が、心を開く。

 警察庁データで自殺原因の上位にあげられたのは、今回も「健康問題」であり、「経済・生活問題」だった。「就職失敗」も増加していた。

 不況は続き、社会は高齢化する。苦しみはこの先も避けがたいだろう。孤族の時代と言われる今日、こうした人のつながりにこそ、瀬戸際の人間を踏みとどまらせる力があるだろう。

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企業の合併審査―世界競争下の新基準を

 世界市場に巨大なライバルが存在し、輸入品が簡単に入ってくる時代に、企業はどこまで大きく強くなってよいのか。「独占禁止法の番人」も悩みつつ、新時代の審査のあり方を模索しているようだ。

 公正取引委員会が、企業の合併や買収を審査する基準としている指針の見直し案を発表した。

 合併や買収により、国内市場で寡占状態が強まることが明らかでも、世界市場のシェアがそれほど大きくなかったり、潜在的な輸入圧力が強かったりすれば、企業統合を認める。審査長期化の原因とされてきた「事前相談制」は廃止するという。

 菅政権は新成長戦略にもとづき、グローバル市場の現状に即した企業再編を進めやすくする環境づくりを公取委に求めていた。

 企業再編は以前から日本の経済界の課題だが、改めて焦点化したのは、再編で先行する韓国企業が手ごわい存在になってきたことが主因である。

 韓国では1990年代後半の経済危機をきっかけに、政府主導で電機や自動車などの業界ごとに主要企業を1〜2社に絞りこんだ。その結果、世界市場で力を発揮する企業が増えた。

 これに対し、日本ではあいかわらず業界ごとに大手数社がひしめき、激しい消耗戦を続けている。

 こうした状況下で、公取委が世界市場での競争を考慮して審査基準を見直す意義は大きい。事前相談制の廃止も、経営にスピードが求められる時代の要請にこたえるものだ。従来は公取委から山のような資料の提出を求められて審査が長びき、それを負担に感じて合併を断念する例もあった。

 再編が進まず日本企業の国際競争力が衰えれば、雇用にも響く。グローバル化のもとでは、社会全体の利害も考慮した合併審査への改革が求められているといえよう。

 もちろん合併が市場の独占による高価格を生むのでは論外だ。韓国では現代自動車が国内で実質1社体制となり、国内販売の価格を輸出品よりも高くして利益を稼ぎ、問題視されている。こうした消費者の利益を損なう再編では本末転倒だ。

 合併がコスト低減や効率化を生み、よい製品やサービスをより安く提供することで消費者にも利益がもたらされるべきだ。それには独禁法の運用のみならず、自由貿易協定(FTA)の拡大で海外製品との競争を促進することも欠かせない。

 企業側の意識改革も大切だ。「独禁法の壁」を理由に合併・買収をためらってきた経営者たちは、積極的に再編に取り組んでほしい。

 新日本製鉄と住友金属工業の合併計画が近く公取委に正式申請される。新時代の審査の試金石となろう。

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