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[政治]ニュース
【宮家邦彦のWorld Watch】日本に戦略はないのか
一昔前は日米間でも戦略対話があったが、これも常に戦術に終始した。米側関係者が、日本の国会答弁の調整ばかりで、米側が望むような中長期的議論はほとんどなかったと嘆いていたのを思い出す。悲しいかな、これも日米同盟の一側面なのだ。
国家戦略の本質は「生き残るため国家は何をやり、何をしないか」であり、安全保障戦略とは「いつ、誰と戦い、誰を味方にするか」の基本方針であるはずだ。防衛戦略はそこから演繹するのが筋であり、防衛計画などさらにその下の概念でしかない。
1945(昭和20)年以来、日本はこうした知的作業を回避してきた。いや、吉田ドクトリンなる戦略があまりに成功したため、冷戦後日本の政治家、官僚、学者は「誰と同盟すべきか」だけを考え、「誰と敵対しなければならないか」を明確にする必要などなかったのかもしれない。
東アジアにおける米国の相対的地盤沈下は現実であり、現在ワシントンの目は再び中東の騒乱に向き始めている。それにもかかわらず、今巷(ちまた)で語られる戦略論の多くは結局「日米同盟が機軸」としか語らず、「吉田ドクトリン」の見直しにまで踏み込んではいない。
世界のどこにも自国の安全保障戦略の詳細を全て公表している国などない。しかし、日本のように、安全保障戦略を公式文書化すらしないまま防衛計画だけが作られているのに、誰もそれを不思議に思わない国も、残念ながら、ないのである。
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【プロフィル】宮家邦彦
みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。安倍内閣では、首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
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