4月から全面実施になる小学校の新しい学習指導要領が、地球儀ブームを巻き起こしている。5、6年生の社会科で使う教材の例として、地球儀が加わったからだ。
これまでの指導要領も、同じ項目のなかで地図や年表の活用を求めていた。そこに地球儀と明記されただけなのだが、教科書の記述も全国の学校の授業も変わる。地球儀メーカーは増産を続けているという。
学習指導要領の束縛
何を、どれだけ、どう教えるか。それを定めたのが学習指導要領だ。法的拘束力を持ち、文部科学省がほぼ10年おきに改訂するこの文書の威力は、かくも絶大である。
子どもたちが地球儀に親しむのは結構なことだ。グローバル時代には大切な教材だろう。しかし指導要領に何から何まで盛り込み、それを金科玉条のように受け止める教育の現状には大きな問題がある。
文科省は指導要領の本体のほかに「解説書」もつくっている。これがまた手取り足取りの細かさだ。逆に言えば、書いてない事柄は無視されがちになる。地球儀も、従来は記述がなかったから子どもが興味を持っても授業に使わずに済んだ。
教科書検定制度も指導要領に基づいている。審議会で検定意見を決めるのが建前だが、実際に強い権限を持つのは文科省の調査官だ。
日本の教育をおおもとから変えるために、学習指導要領のあり方を抜本的に見直さなければならない。
かつて、指導要領は手引書だった。1947年の最初の冊子には「この書は、一つの動かすことのできない道をきめて、それを示そうとするような目的でつくられたものではない」とある。それが60年代以降の高度成長期に拘束力を強めていった。
しかし時代は大きく変わり、成熟した社会の担い手には独創性や自主性が一段と重要になっている。
いま必要なのは、指導要領を大綱化、簡素化し、授業の組み立てやその中身を思いきって地域や学校現場に任せることだ。これと併せて、地域での学校選択をもっと自由にしたい。国は教材に地球儀を含めるかどうかまで決めるのをやめ、大きな立場から教育課程などを示せばいい。
そうすることで、地域や学校の創意工夫の余地が広がり、現場の実情や子どもの個性に合わせた教育がやりやすくなる。知識の詰め込みではなく、子どもの「考える力」を育てるには、教員も授業を柔軟に考えることのできる環境が欠かせない。
経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)で常に成績が上位にあるフィンランドなどは、教育に対する国と地方、現場の役割分担を進め、公教育を再生した。根本にあるのは分権の思想だ。
こうした改革を進めれば教員は責任も重くなる。学校間の競争も厳しくなるが、それは教員自身を目覚めさせることにもつながるだろう。
地域ごと、学校ごとに裁量を広げるなかでは、子どもたちの個性に応じ、それぞれの分野で伸びる子をどんどん伸ばせるようにしたい。現在の学校は、そうした出る杭(くい)を抑えて横並びを強いている。
同時に、体験を重んじた学習にもっと取り組むべきだ。かつての「ゆとり」路線は安易な「ゆるみ」に堕したが、グローバル時代に問われる創造力や問題発見能力を育むのは、本来の意味でのゆとりだ。そこから出てくる杭を、存分に伸ばそう。
教委は本当に必要か
もちろん、学習指導要領のほかにも大がかりな改革が必要だ。
公立小中学校の教員給与の一部を国が負担する制度も、中央集権の基盤になっている。国の負担は給与総額の3分の1だが、総額は国が決めた教員定数から算出する。その定数の基になるのも、法律に定めた1学級の標準的な児童・生徒数だ。
文科省は、この枠組みのなかでも地方の自由度を増してきたと言う。しかし、そもそも国が1学級の子どもの数などを決めるべきなのかどうか。教員給与分も含めた教育一括交付金への転換を考えてもいい。
もうひとつの重要な改革対象は、教育委員会だ。もともとは教育の政治的中立性を守るためにできたのに、首長部局の権限が及びにくいため文科省の出先機関と化している。
自治体が教育改革を進める際に、かえって教委が邪魔になっていると訴える首長は少なくない。すべての地方自治体に教委を置かなければならないとする法規制を含め、制度を大きく改めるべきだ。
文科省―教育委員会―学校。この上意下達システムは、学習指導要領をはじめとする様々な仕掛けに支えられて多様な教育の道を閉ざしてきた。子どもたちのために、構造そのものを変えなくてはならない。
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