霧で視界が悪いときに点灯する物。それがフォグランプ(霧灯)。補助灯の一種だ。
最近の車には標準で装備されているものも多い。
霧でもないのに、常に点灯させている奴は大馬鹿者。
問題も多いこのフォグランプだが、昔から黄色が多い。
何故、黄色が多いのか?
一言で言えば、「霧の中では黄色が乱反射しにくく見やすいから。」らしい…。
俺の車、(平成7年式 トヨタ アバロン)にもフォグランプがついている。
色は例に漏れず「黄色」だ。
俺も最初はそんな話を耳にして、峠で霧が出た時に点灯してみたことがあるのだが、
点灯したほうが更に乱反射がひどくなって見にくかった。
少なくとも俺はそう感じた。
そもそも、霧の中では「黄色」が見やすいとする、もっともな理由は何なのかと調べてみると
以下のことが書かれていた。
霧の中では、白色光は乱反射してかえって視界が悪くなってしまうが、
黄色の光は波長が長く、霧の中でも光が通りやすい。
確かに言っている事は間違っていない。
白色光は色々な波長の光のミックスであるから、それよりは黄色の単色のほうが見やすいわけだ。
波長が長いほうが霧の中でも光が通りやすいというのも本当だ。
光は
紫外線<紫色<青色<緑色<黄色<橙色<赤色<赤外線
400nm以下 400nm 450nm 530nm 590nm 600nm 630nm 700nm以上
の順に波長が長くなる。ただし、紫外線と赤外線は人間の目には直接は見えない。
変な話だが、赤外線撮影をすると洋服が透けて見えるのは、赤外線は波長が長く透過性が
高い(=回折しやすい)為である。
テレビリモコンもこの赤外線の光が使われている。
つまり、波長が長いほうが光が通りやすいなら、黄色より赤色を使うほうがいいことになるが
赤色は交通においては、信号やテールランプに用いる色なので、前方を照らす補助灯に用いることは出来ない。
それに、緑色から黄色にかけての波長域(530〜590nm)は人間の目の感度が最も良い部分でもあるのだ。
霧の際、カーブなどで対向車にいち早く発見されやすいという点でも黄色は有効だ。
だがこれは、その光が「純粋に黄色」である場合の話だ。
では、「純粋に黄色」とはどういうことか?
実は、日常生活において「純粋に黄色」の光を見る機会は少ない。
信号機の黄色も、ウインカーの黄色も、工事現場の回転灯の黄色も大半は「純粋に黄色」ではない。
一番手っ取り早く、「純粋に黄色」の光を見ることが出来るのは
「トンネル内の天井に設置されている照明」
「高速道路のICやPA付近に設置されていることの多い街灯」
である。あの黄色い照明だ。
アレは「ナトリウムランプ」と言って、ナトリウム原子が持つ固有の光を発生している。
その波長は、589nm〜589.6nmで、その他の光は一切含まない。
他の光を一切含まず、純粋に黄色の成分しかないのだ。
これを「純粋に黄色」と俺は表現している。
色彩的に鮮やかな黄色と言う意味ではない。
事実、ナトリウムランプの約590nmの光は、色彩的にはオレンジに若干近い気がする。
(注:場合によっては、少し赤味が強いトンネル灯もある。それにはカリウムも含まれているらしい。)
波長が単一であるからこそ、先に書いた乱反射しにくく、霧の中でも光が通りやすいと言うことがいえるのだ。
他の波長の成分も含んでいたら、他の波長の成分が乱反射するので、結局は眩しい。
通常のフォグランプは、普通のフィラメントを持つ電球の周りを黄色くコーティングしたり、黄色い透明なカバーをかぶせて
黄色に見せかけている。
フィラメント電球の光は加熱したフィラメントによる、熱の発生に伴う発光であり、全波長域にわたる。
光源自体が黄色なのではなく、色々なミックス光なのだ。
一般に市販されているフォグランプは、その上に黄色のかぶせ物をしているだけだ。
それは、人間の目には黄色に見えても、実際に波長の分布(スペクトル)を解析すると、全波長域の光が
出ているのを観察することが出来る。(下図参照)
これは、実際に測定したデータではなく、説明用にCGで描いたものだ。
ここでフィラメント電球の代わりに例に出しているのは理想的な白色光の波長分布である。
本物の電球の光を解析した場合、紫色から青色の成分はもっと少なく、緑色から黄色にかけての成分が多い感じになる。
だが、光の成分を想像していただく分には、この図と大差は無いと思っていただいて差し支えない。
ナトリウムランプに関しては、殆どこれと同様の波長分布である。
「黄色く見える光」と「黄色しか含まない光」は全く性質が異なるのだ。
一般的なフォグランプは単なる「黄色く見える光」だ。フィラメント電球がベースであるから当然だ。
おそらく、波長分布的には普通のフィラメント電球がベースである以上、
黄色のカバーをかけようが電球だけの光と大差はないはずだ。
だから、従来から言われている「フォグランプは「黄色」のほうが見えやすい」と言うのは
俺に言わせれば、実体験から言っても大いに眉唾な話だ。
しかし、自動車メーカーもフォグランプを単体で販売しているメーカーも最近このことに気付いたのか
ここ数年に発売された自動車に標準でついているフォグランプは黄色ではなくなってきている。
フォグランプ単体で売っているPIAA等では、見た目をカッコ良くする意図もあってか
電球やカバーにコーティングを施している。このコーティングは青みがかった虹色に見える。
実際に波長分布を測定していないので何とも言えないが、おそらくこれは、
黄色以下の波長成分を極力抑えて黄色波長を強調するコーティングではないかと推測している。
そうすれば、単に黄色のカバーをかぶせるだけよりは、本当の効果が見込めるかも知れない。
しかし、あれだけ強力な光量を僅かなコーティングだけで完全に分離することは不可能だし、
本来、全波長域から出ている光の集合で明るさが発揮できるフィラメント電球の光を
黄色以上の成分だけに限定してしまうと、暗くなってしまい非常に効率が悪い。
それゆえに、黄色以下の成分も含まざるを得ないのだ。
もっとも、実際の製品ではそれを補う為に、ベースの電球に高効率のものを用いて照度を維持しているようだが。
しかしながら、極端な結論を言ってしまえば、フィラメント電球をフォグランプとして使っている以上、
黄色であろうとなかろうと、コーティングされていようがいまいが、大差は無い。
と俺は思う。
但し、人間は感覚と思い込みの動物である。
同じものを食べても美味しいと感じる人も居れば不味いと感じる人もいる。
だから、物理的な裏づけなど無くても本当に黄色のほうが見やすい人が居るかもしれない。
それは個人の感覚で、見やすいと思うのであればそれでいいのだ。
いろいろなものを使ってみて、そして自分にとって一番見やすいものを見つければよいのだ。
以上のことから物理的に裏付けられた本当に霧中でも見やすいフォグランプは、フィラメント電球では実現できない。
だからと言って、ナトリウムランプを使用したフォグランプは発売されていない。
おそらく、保安基準を満たさないからではないだろうか。
何故なら保安基準には「白色または淡黄色」という規定があるからだ。
前述したようにナトリウムランプの約590nmの光は、色彩的には若干オレンジ色に近い黄色であるから
これは「淡黄色」の規定を拡大解釈しても、ちょっと厳しいものがありそうだ。
「いや、そんなことは無い!実際に黄色に変えてみたら明るくて見やすいぞ!」という人も居るだろう。
先にも述べたように人間の目には黄色の光は鮮やかに映る。
人間の目に色彩的に「色」として認識される分においては「純粋に黄色」でも「黄色に見えるだけ」でも「黄色」には変わりない。
紙に黄色のマジックで書いたものが、眩しく見えるのと同じだ。
論点は、明るく見えるかどうかではなく、霧の中で見やすいかどうかだ。
それに、一般的なヘッドランプは電球色か白色であるから、それがフォグランプを点灯することで黄色に変われば、
いつもと違う感覚になるので明るいと錯覚するだけである可能性が高い。
それにヘッドランプに追加する形でフォグランプを点灯すれば、新たに光源を追加するのであるから黄色でなくとも明るくなる。
フィラメント電球のフォグランプは、大雪や濃霧の際に視界を確保するものではなく、
対向車や先行車に対して自車の存在を知らせるという意味合いで用いるもの
として解釈するべきだろう。(これを被視認性の向上という。)
また、被視認性の向上という観点であれば、フォグランプに黄色を用いるのもやぶさかではないであろう。
あとは余談になるが、ヘッドランプにも黄色の電球を用いる人が居る。
やはり荒天時に見やすいからという理由で用いるらしい。
一応、保安基準を満たしている製品であれば法的には問題ないのだが、ヘッドランプを黄色にすると
対向車や先行車から見ると、ウィンカーランプが見えにくい場合がある。
自分がウィンカーを出していても他の車に認識されていない事態が起こると、危険を伴うシチュエーションが
発生する可能性もある。夜間、常に点灯するヘッドランプに黄色を用いることはあまりオススメできないと俺は思う。
同様の理由で黄色のフォグランプも、必要以外の時には必ず消灯することを心がけなければならない。
まとめ
・保安基準に適合する範囲において、フィラメント電球ベースのフォグランプは
「霧中での視界を確保する」という点においては、色は白色でも電球色でも
黄色でも大差なく、運転者個人の主観次第である。
・但し、大雪や霧中で対向車や先行車に対して「被視認性を高める」という点に
おいては、黄色を用いることには一理ある。
・濃霧や大雪のとき以外はフォグランプは消灯する。
(2002年7月22日掲載、8月29日加筆修正。)
俺の独り言
「北海道と旅と俺」
↑これはどうだろう?
白地に黄色文字だ。目がチカチカしないだろうか?
俺の経験からだと、俺の目から見る見やすさであれば、フォグランプは自然な白色光が理想的だと思っている。
蛍光灯で言えば「昼白色」である。「昼光色」だと青味が強いし、「電球色」だと赤味が強い。
色温度で言えば4000〜4500K(ケルビン)くらいだろうか。
このコラムの最初の方で、「峠で霧が出た時に点灯してみたことがあるのだが、点灯したほうが更に乱反射がひどくなって見にくかった。」と
書いたが、大雪の中でも同様だった。
そもそも俺がこのコラムを書くに至ったのも、霧や大雪の中で黄色が見やすいなどと全く思えなかったからだ。
果たして白いモノに黄色い光を当てて、本当に見やすいだろうか?
確かに明るくは感じる。このように白地の画面上に黄色文字で書いただけでも眩しい。
だけど文字は極めて読みにくいはずだ。
大雪や吹雪の中で、黄色い光を当てたりしたら、目の前でチラチラして、本当に目が疲れる。
本文中では、被視認性の観点で一理あるという表現をしたが、運転者から見た場合の視認性は決して良くないと思う。
俺には、黄色い光が 「雨、霧、雪に絶対強い」 などと謳う電球メーカーの宣伝文句は、全く信じられないのだか・・・。
やはり個人的にはフォグランプに黄色の光を用いるのは否定的である。