批判されるべきは鳩山さんというより、朝日新聞に代表される「本土」でしょ〜「抑止力は方便」発言の受けとめ方 - どん・わんたろう
マガジン9提供:マガジン9
2011年02月24日00時20分
菅内閣が徳俵に追い込まれたことで話題の埒外に去ってしまったが、前の総理大臣だった鳩山由紀夫さんが火だるまになったのは先週のことである。例の「抑止力は方便」発言。菅政権や本土のマスコミから集中砲火を浴びるのを眺めながら、すっきりしない思いが募った。肝心の沖縄の人たちはどんな感想を持ったのだろうかと、あれこれ考えていたからだ(『マガジン9』は2月16日号の巻頭言で「沖縄では『抑止力は方便だった』発言に県民が怒っています」と断じていましたが……)。
その数日後、普天間基地の辺野古移設に反対する「ヘリ基地反対協議会」代表委員の安次富浩さんが東京で講演すると知り、聞きに出かけた。
鳩山さんをボロカスに罵倒するかと思いきや、そうではなかった。今さらながらの発言に呆れ気味ではあったにせよ、「よくぞ本音を吐いてくれた」と一言。「菅政権は火消しに躍起だけれど、結局、辺野古に基地を造る理由はないということ」と強調した。同じシンポでパネリストを務めた、沖縄で平和教育に携わる小学校の先生も「鳩山さんは正直。『県外移設をやりたかったけれど官僚や政治家が邪魔をして出来なかった』という(一連の経緯の)裏にあるものを見つめていかないと」と冷静だった。
普天間基地がある宜野湾市の安里猛市長は「抑止力そのものを前首相が否定されたこと自体、新たな基地が沖縄につくれないということだ。(基地建設の)理由がなくなったことからすると良かった」と発言を「評価」した(読売新聞・2月18日付朝刊)。辺野古がある名護市の稲嶺進市長も「辺野古回帰の論拠を失った今、菅政権も『最低でも県外』を目指した民主党の原点に戻り、合意見直しを米側に求めるべきだ」との談話を発表した。
確かに、鳩山さんが件のインタビューで語った「(海兵隊は)一朝有事のときに米国人を救出する役割」なんて言葉は、沖縄の基地に反対する人たちの主張に重なる。「(沖縄から)ある程度の距離があっても(米軍が)ワンパッケージであれば十分、抑止力という言葉で成り立つ」という認識も示している(琉球新報・2月13日付朝刊)。
そうした点に着目すると、実は鳩山さん、沖縄に寄り添おうとした初めての宰相だったと言えるかもしれない。そもそも「普天間基地を最低でも県外に移す」と正面切って発言した総理大臣がこれまでにいただろうか。「沖縄に集中する基地負担の軽減に全力を尽くさなければなりません」ともっともらしい能書きを口にするばかりで、辺野古を「ベターな選択」なんて言い放って平気な菅さんとかいう人に比べれば、行動を起こそうとしただけでも余程マシな気がする。手法が稚拙で見通しが甘かったことは否めないにせよ。
普天間の県外移設を潰したのは誰だったのか、改めて振り返ってみたい。鳩山さんもインタビューで触れているが、外務・防衛両省を中心とする閣僚や役人、アメリカ、そして本土のマスコミだった。
とりわけ悪質だったのは本土マスコミ、特に朝日新聞だろう。このコラムの栄えある第1回で取り上げたが、沖縄の味方をするかのようなポーズを見せながら、主筆なる方の論文で「中国に対する日米同盟の抑止力を保つために、沖縄への海兵隊駐留が必要だ」との趣旨をうたって沖縄を激怒させた。私の知る限りでは、この記事はいまだに本土不信の基点になっている。安次富さんも講演で「アメリカ一辺倒の本土マスコミの報道」への批判を繰り返した。
今回の鳩山発言に対しても、朝日の社説(2月16日付)は、ひどかっただけでなく小ずるかった。「沖縄に対する背信をさらに重ねる行為以外の何ものでもない」「沖縄県民は(中略)政府への不信を一層深めるだろう」というくだりは、とりあえずは額面通りに受け取るとしよう。しかし、本音はすぐに吐露される。「辺野古移設を確認した日米合意の存立を揺るがしかねない事態である」と……。