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星野リゾート・星野佳路さんの講演を聞いてきた

で、星野さんの話。会場からツイッターで実況してたので読んでくださった方もいるかもしれないけど、あらためて整理しておきます。写真も何枚か撮ったし。

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挨拶の後、冒頭に観光産業の実態について。

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これはぼくが前にまとめた資料とほぼ同内容。

観光産業の実態として、星野さんは「観光市場は安定している。中高年とファミリーが支えている。」と話されてた。数字としてはその通りなんだけど、これはむしろ「伸びてない」と見るべきなんだろうな。
とくに2007年1月1日から観光立国推進基本法が施行され、大きな予算がついたにも関わらず伸びてないんだよね(円高とか外部要因があるにせよ)。

で、今日のテーマは組織論ということで、「会社の規模が大きくなり、スタッフの数が増えていくときにどうするか。組織のあり方や仕組みをどうやって維持するか。」ということについて、星野リゾートの取り組みを話していただいた。

ぼくは星野さんのことが好きなので、過去に出演されたテレビ番組もほぼ見てるし、本もおおよそ読んでると思う。
「カンブリア宮殿」に出演されたときの内容をまとめたこの記事はぼく自身がいまでもたまに読み返すくらい。

そのくらい気になってるので、今日の話もいくつかは知ってたけど、それでもすごいなと思った。それは「ぶれない」ところなんだよね。

それは「私心がない」とは言わないんだけど、優先順位として「組織の持続可能性」を重視しているからぶれようがないのかなと思った。この「持続可能性(sustainability)」というのは最近は観光の世界でも言われていることだけど(もともとは環境やエネルギーの分野で使われていた)、企業自身にも当てはめて考えなきゃいけない。
ぼくが星野さんに注目するようになった2004年くらいからぜんぜんぶれてない。なによりもそれがすごい。

今日は以下の5つのキーワードを軸にじつに具体的な話をたくさん聞いたので、ひとつずつ講演の順にまとめます。

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1つ目は「ビジョン・価値観の共有」。
最初の悩みは求人だったらしい。若い社員に来てほしいのになかなか来てくれない、リクルーティングが悩み、という話をされていて、おそらくこれは日本各地の中小企業のどこでも起こってる話。星野さんもおっしゃってたけど、就職率や内定率の数字は学生が選り好みをしているからであって、求人数そのものはけっして学生の数を割り込んでるわけじゃない。

もちろん学生側がどうせ就職するならいいところで働きたいと思うのも当然で、サービス産業全般に対する「休みが不安定、給料が安い、......」といった、ネガティブな印象を払拭することが大事だし、事実は事実として開示した上で共鳴・共感・共有できるビジョンを掲げる必要がある。

星野リゾートの場合、「リゾート運営の達人」になるために、

  • 顧客満足度、2.50
  • 経常利益率、20%
  • Ecological Points、24.3pts

の3つを同時達成するのがビジョンということだった。
後半出てくるんだけど、バランスを意識しているのがよくわかる。お客さんの評価(顧客満足度)と会社の評価(経常利益率)と社会の評価(エコ) のすべてを同時に満たすためには、選択と集中が不可欠だし、万人受けや大衆迎合とは相容れない。

正直、Ecological Pointsってのはざっと調べただけではよくわかんなかった。論文が見つかったので、おそらくそれを読めば計算式も書いてあるんだろう(24.3ptsってけっこう半端な数字を目標にしてるってことはなにかしら意味があるんだろうし)。

ビジョンについてはこんな図も示された。

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ビジョン、つまり将来像というものはいまの自分たちとまったくちがう姿を描いたほうがいい。それは言い換えれば夢物語だけど、それでいいと。スタッフが見れる夢を語ることの大事さを話されていた。これはぼくもよくわかる。SEIHAや攻城団のことを話すときはまさにそのことを意識してるし。

そして価値観を共有するからこそ、現在から将来像に向かって進めるともおっしゃっていた。その価値観については、「星野リゾートの7つの価値観」として以下が紹介された。

  1. 法令遵守
  2. 同僚への敬意
  3. 取引会社への礼儀
  4. 経営情報の共有
  5. 自由な情報交換
  6. 機会の均等
  7. 喫煙者なしの組織

こういうのってザッポスの「10のコアバリュー」なんかもそうだけど、当たり前のことなんだよね。だけどこれが暗唱できるくらい全スタッフに染み込んでいるかが大事。
ちなみに最後の「喫煙者なしの組織」はぼくが星野さんを好きになったきっかけでもある。

2つ目は「コンセプトへの共感」。
これは共有ではなく、共感だと強くおっしゃっていた。コンセプトの話は「カンブリア宮殿」などでも話されていたことで、「誰に対して何を提供するのか」が星野さんの言うコンセプト。そしてコンセプトというものはそれが正しいかどうかよりも共感度が高いかどうかが大事だと。ぼくはここに「なるほどなあ」と思った。

そもそも正しいかどうかなんてやってみないとわからないんだから当たり前のことなんだけど、多くの失敗するプロジェクトはどっかの頭のいい人が考えた机上の正解っぽいコンセプトを押し付けられて、ヒトゴトの感覚で実行している。

星野リゾートでは再生する旅館でもともと働いていた人たちがコンセプトを考える。立候補制で、コンセプト策定委員会を作るそうです。
そのコンセプト委員会がやることは、まず競合調査。他社をベンチマークする。ぼくは知らなかったけど、観光産業は競合企業(旅館)に何でも教えてくれるらしい。正面からお願いすれば全部教えてくれるので、覆面でやる必要がないんだって。

もちろん市場調査もやる。でも既存顧客への調査をいちばん大事にしているとおしゃっていた。
「ユーザーに聞けばいい」ってぼくもよく言うんだけど、なかなか理解してくれないよね。すぐ調査会社を使いたがる。ムダなのに。
このへんは本で読んだかな。いくら落ち目とは言え、それでも泊まりに来てくださるお客さんがいるわけで、そういう既存のお客さんに、自分たちが気づいていない魅力を指摘してもらう。そこを伸ばしていくと。

古牧温泉「青森屋」では、方言を大事にしたり、ねぶた祭りを毎晩やってるレストランを作ったりしたそうです。
ここでも大事なことを話されていて、それは「再生においてソフト面、サービス面を改善すると利益は出る。でもそれをハード面に投資しないとダメ。レストランで出した利益を温泉や客室の改装に投資する。」ということ。

そもそも利益が出る仕組みを作るのが先決ではあるんだけど、ソフト面ってのはいわゆる花火にしかならないわけで、そこで出した利益を投資にまわして土台作りをしなきゃ本当の再生はない。これはよくわかる。ネット系の企業でも同じだと思うよ。

3つめは「フラットな組織文化」。
意思決定プロセスの公開、経営情報の公開。とくにプロセスを公開するのが大事とおっしゃってた。星野リゾートでは、会議は事前にアジェンダが公開されていて、自分が参加したいところには自由に参加できるらしい。

こういう数字もどんどん共有されるんだって。

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星野さんは直前のLotusのプレゼンを聞いて、今後は会議の内容をあとで動画でチェックできるようにするとか、その場にいなくても参加できる仕組みは考えてもいいかもと話されていた。これは実現するとおもしろいな。
じっさい観光産業に限らず、シフト制で働いている企業は少なくないし、それこそ今後は異なる場所で異なる時間に働くメンバー同志が連携していくことも増えると思う。メールや掲示板だけでなく、必要に応じて音声や動画といったリッチな手段も使っていくべきだと思う(現時点でどこまでやる価値があるかは微妙だけどね)。

ここで「フラットとは?」というスライドが出てきて、それは

  • コミュニケーションが双方向(わいわいがやがや、侃々諤々、言いたいことを言い合う)
  • 行動はチームとして(それでいてひとつにまとまっている、協力する、助けあう)

という両方が満たせていることだとおっしゃっていた。星野さんの話は言葉の定義がとにかく明確だったなあ。

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もうひとつ、おもしろい話として「集合写真を撮るとわかる。総支配人を真ん中の一番前にする組織はフラットじゃない。」とおっしゃってて、これもなるほどなあと思った。

4つ目は「醍醐味満喫」。
このへんは「カンブリア宮殿」の話とかぶるんだけど、どうすれば社員が辞めないか、仕事の醍醐味をどのように共有するか、という話。

「日本人は褒めるのが下手。不満そうな顔をしているお客さんも、じつはすごく満足していることが多い。なので満足度調査を始めた」そうです。

(とりわけサービス産業において)お客さんに褒められることが仕事の最大の原動力になるのは疑いのない事実だし、だけど現実として褒めるのが下手な日本人を相手にする場合、どうやってお褒めの言葉を頂戴するかを設計しなきゃいけない。じつに論理的。

顧客満足度アンケートは1994年から始めたらしいけど、上記のような目的だったので、不満を探すためではなく、どこに満足されているのか(どこを褒めてくださっているのか)を把握するために始めたそうです。それを社内で共有すると。
経営者がひとりで全員をくまなく見ることなんてそもそもできないし、それはリーダーやマネージャーに権限委譲しても問題自体は(小さくはなるものの)本質的には解決していない。だからこそ「お客さんの目」を最大活用するというのはいいよね。
ちなみにこのアンケートは紙だけじゃなく、最近はウェブも使っているそうで、回収率も上がったとのこと。

ここでこんなスライドが登場。

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「顧客満足はほんとうに必要か?」ってそれこそフジイくん(@fujii_yuji)や青木さん(@kohei_a)となら5時間くらい話せそうなネタだけど、答えは出ていて「顧客満足だけ追い求められるほど現実は甘くない」ので「どこで折り合いをつけるかをとことん考える」が唯一の正解。

星野さんの話でも「顧客満足度を上げるのは楽しいからどんどんやる。ある程度までいったら『良い食材を使おう』とか、どんどんコストの掛かる案が出てくる。いつのまにか経営者が抵抗勢力になる。」ということをおっしゃっていたけど、これは顧客満足度「のみ」がKPIになってるのが問題。
(だから星野リゾートでは経常利益率などもビジョンに入れてるんだろうね)

けっきょく顧客満足が本当に利益に繋がっているのか、その間のブラックボックスを解明しないと無意味なんだよね。

まさに顧客満足への科学的アプローチで、星野リゾートではアンケートは40項目くらいとっているらしいんだけど、すべての項目が等しくリピート率と相関関係があるわけではないと。

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このへん、時間の都合でけっこうすっ飛ばされたんだけど、たぶん星野さんも何時間でも話せちゃうんだと思う。じっさいこの相関関係って旅館ごとにちがうと思うし、ある程度は固定化するものの、世の中にあわせても変化するだろうしね。

なので、そういう見極め(=選択と集中)をきちんとして、限られたリソースを有効に使って利益を生み出さなければならないという話。

最後は「自分でコントロールするキャリア」。
リクルーティングとあわせて、離職率をいかに下げるか、ということを星野リゾートでは真剣に考えていて、そのための制度もいろいろ用意している。これも本で読んだな。

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最近は「ワーク・ライフ・バランス」についていろんな企業でいろんな取り組みがされているので、とくに星野リゾートがすごいという話ではないんだけど、全力を出せる環境を用意するのって大事だよね。
もっともこれも多様な働き方を受け入れる制度を作れば本当に企業にとってプラスになる(=利益につながる)のかというと、そこもやっぱりブラックボックスで、効果検証も必要だし、会社組織は人間の集団である以上、その人だけがハッピーでやる気満々になっても意味はない。周囲も含めて理解や納得、そして共感がないと全体のパフォーマンスは上がらないわけだしね。

さすがにこれだけ有名になると、有名大学や大手企業から人材も集まってるんだろうけど、今日の話をそのまま聞く限り、限られたリソースをどう活用するかという中小企業が抱える課題について真剣に取り組まれた結果を話していただいたように思う。

「欠点がある人をマネージャーにしなきゃいけないし、常にどこかでリソース不足が発生している。だからこそ『共感』が大事。問題はあるけど『現状のベスト』であることを共感してもらう。」という話は実務家ならではのコメントだと思う。こんなのは現場に出ないコンサルには絶対に言えない。

星野さんとはいつか仕事でご一緒したい。
「攻城団」を立ち上げ、SEIHAプロジェクトを展開していけば、きっと対等な立場で、けっこう重要かつ重大な話をできると思ってる。それはぼくの数年後の楽しみでもある。

じつをいうと去年だったか、一昨年だったかに「3ヶ月で改善案を出すので、試用期間でいいから雇ってくれ」と直訴しようと思ったことがあります。ウェブにしろ、マーケティングにしろ、コールセンター運営にしろ、なにかしら貢献できると思ったから。
けっきょくそんときはSEIHAを思いついたので応募はしなかったんだけど、これからも星野さんのことはずっと意識し続けるだろうな。

今日は初めて星野さんの講演を聞いたけど、とても楽しかったです。ありがとうございました!

あ、そうそう。星野さんはツイッターやってます。アカウントは @skier1960 です。頻繁ではないけど、ちょいちょいユーザーとやり取りされてるんですね。

[追記]
ぼくが読んだのはこのへん。おもしろかったよ。

「プロフェッショナル」に出た時のはDVDになってますね。

それと今日、会場からツイッターに投稿したまとめはこちら。

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