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天声人語

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2011年3月9日(水)付

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 ベトナム戦争で、アメリカは第2次世界大戦の総量の3倍を超す爆弾を相手に浴びせた。司令官だったウェストモーランド将軍が、記録映画「ハーツ・アンド・マインズ」で語っていたのを思い出す。「東洋では人の命は安いのです」▼時をへても、差別意識はあの国から容易に消えないのだろうか。沖縄総領事だった米国務省のケビン・メア日本部長の発言が、沖縄への侮辱だと怒りを呼んでいる。植民地主義の残滓(ざんし)のような不快な言葉の数々である▼米国の大学生を集めた席で語ったそうだ。「沖縄の人々は東京に対する、ごまかし、ゆすりの名人だ」「沖縄の人々は怠惰でゴーヤーも育てられない」「沖縄の人々は普天間が世界で最も危険な基地だと主張するが、彼らはそれが真実でないことを知っている」――他にもある▼1995年に沖縄で、米兵による少女暴行事件が起きた。米太平洋軍の司令官は記者説明の席上、「犯行に使ったレンタカー代で女を買うこともできたのに」と言って批判を浴びた。むろん事は違うが、同種のにおいを今回の発言に嗅ぐ▼人と人、民族と民族、そして人種も、それぞれの差異に優劣の物差しをあてる愚は避けたいものだ。偏見の温床になる。思えば西洋(の男)は長く、自らの物差しで失礼にも他を測り続けてきた。日本の近代もその愚と無縁ではなかった▼発言で知るかぎりメア氏は伝統をよく受け継いでいるとお見受けする。ポストは米政府の対日政策の責任者だという。「レンタカー代」の司令官は直後に辞任しているが、さて。

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