ヨネクラジム“ガード”破られた…現金９０万円盗難

拳をふるって怒りをあらわにする米倉健司会長

　元世界王者のガッツ石松さんらを輩出したプロボクシング界の老舗「ヨネクラボクシングジム」（東京・豊島区）で今月３日、現金約９０万円が入ったアタッシェケースが盗まれていたことが８日、分かった。「甥をジムに紹介したい」とかたり、練習を見学していた男が持ち去ったと見られる。腕っ節に自信があるボクサーの前で起きた犯行に、同ジムの米倉健司会長（７６）は「犯人をぶん殴りたい」と悔しさをにじませた。

　名門ジムの“ガード”が、いとも簡単に破られた。被害に遭った米倉会長は「いい度胸してる。全く犯人をぶん殴ってやりたいよ」と怒り心頭だ。

　警視庁目白署やジム関係者によると、３日午後５時過ぎ、約６０人が練習していたジムに、３０歳ぐらいの男が「甥が『ボクシングをしたい』と言っている。見学させてほしい」と現れた。通常は外からガラス越しの見学を許可している。男は見慣れない顔だったが、選手を紹介する事情もあり、ジム内に入れた。

　リングの横に米倉会長の机とソファがある。男はそこに座り練習見学。机の上には、財布やジム生の月謝など計９０万円が入った会長のアタッシェケースが置かれていた。ヨネクラジムは月謝を手渡しで納める方式で、月末と月初めに納入が集中したため、多額の現金があった。男がいる間も、６～７人が月額１万２０００円の月謝を納め、会長が男の前で現金をケースにしまっていた。

　一方、男はジムのマネジャーに「私もアマチュア経験がある。ライトフライ級（４８キロ以下）だ」と説明した。「シュクトク」という学校に在籍し、実在した選手の名前をあげ、対戦経験も強調。また「甥は仙台育英高で国体３位だった」と話した。男はボクシング経験を感じさせる鷲（わし）っ鼻で、専門知識もあったことから、ジム関係者も不審に思わなかった。

　約４時間も居座った男は、ジム生が数人残っていた午後９時すぎ、携帯電話を取り出すと「甥がジムに向かっているが、道に迷った」と説明。ジムのマネジャーが甥を迎えに出かけ、帰り支度を始めた会長が一瞬、目を離したスキに、アタッシェケースとともに、男の姿も消えていた。携帯電話で話しながらケースを持って立ち去る男を、ジム生が目撃。目白署は窃盗容疑で捜査。ボクシング業界の事情に詳しい者の犯行とみている。

　米倉会長は「わざわざ金を盗みにくる所じゃない。魔が差したんだろうよ」と肩を落としていたが「くそっ、なめやがって」と何度も拳を振り上げた。

　ガッツ石松氏（ヨネクラジムＯＢ、元ＷＢＣ世界ライト級王者）「ＯＫ農（ＮＯ）場だ！　格闘技のジムで盗みをするなんて、世の中には大胆不敵な男がいるもんだ。出来心じゃない。プロだな。練習見学のフリをしてたんだろう。そういえば、俺が現役の時も、米倉会長は財布を事務机に置いていた気がするな…。たまたま持っていたんだろうけど、ボクシングジムにとって９０万円は大金。練習生も減っていただろうに…。会長は俺にとって恩師。“幻の右”もミットで受けてくれて、マッチメークもしてくれた人なんだ。早く犯人が捕まってほしいよ」

　◆ヨネクラボクシングジム　１９６３年、元東洋太平洋バンタム級王者の米倉健司会長が東京・目白に設立。７０年代前半に世界２階級制覇した柴田国明（ＷＢＣフェザー級、ＷＢＡ、ＷＢＣスーパーフェザー級）や、ガッツ石松（ＷＢＣライト級）、中島成雄（ＷＢＣライトフライ級）、大橋秀行（ＷＢＡ・ＷＢＣミニマム級）、６度防衛の川島郭志（ＷＢＣスーパーフライ級）と５人の世界王者を生み出した。世界王者輩出数は、日本のジムで３位（トップは協栄ジムの１１人）。現在のジム生は約７０人。

（2011年3月9日06時03分スポーツ報知）