現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年3月9日(水)付

印刷

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

米高官発言―沖縄への許し難い偏見

このようなあられもない偏見の持ち主が、米国政府の対日政策の責任者だとは。驚きと怒りを禁じ得ない。米国務省のケビン・メア日本部長が、大学生を相手にしたオフレコの講義で、沖[記事全文]

内部告発―保護法改正に踏み込め

勇気をふるって不正を内部告発した人をクビにしたり、降格したりしてはならない。そうしたルールを定めた公益通報者保護法の改正が見送られそうな雲行きになっている。施行から5年[記事全文]

米高官発言―沖縄への許し難い偏見

 このようなあられもない偏見の持ち主が、米国政府の対日政策の責任者だとは。驚きと怒りを禁じ得ない。

 米国務省のケビン・メア日本部長が、大学生を相手にしたオフレコの講義で、沖縄の人々は「ゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも育てられない」などと発言していたことがわかった。

 メア氏は職業外交官であり、日本での勤務が長い。2006年から3年間、在沖縄総領事も務めた。その間、これほど差別的な沖縄理解しか持ち得なかったとするなら、氏はいったい何を見、何を経験していたのだろうか。

 メア氏は共同通信の取材に対し、学生の記録は「正確でも完全でもない」と語った。しかし、米軍普天間飛行場は「特別に危険ではない」との見方は、沖縄在勤当時も公言し、物議を醸したものだ。一連の発言は氏の本音に違いあるまい。

 講義では、学生に対し日本人の「建前と本音」の使い分けに注意を促しつつ、「沖縄の人々は普天間が世界で最も危険な基地だと主張するが、彼らはそれが真実でないことを知っている」とも語っている。どのような根拠があって、ここまで断言するのだろう。

 そもそも、日米の首脳が96年に普天間返還で合意したのは、住宅地の真ん中にある危険な基地で万が一、住民を巻き込む事故が起きれば、沖縄の反基地感情に火がつき、日米安保体制を揺るがしかねないという強い危機感からではなかったのか。

 03年に上空から視察したラムズフェルド米国防長官も「事故が起きないほうが不思議だ」と語り、移設促進を指示したほどだ。

 沖縄県議会はきのう、発言の撤回と謝罪を求める決議を可決した。那覇市議会の抗議決議には、発言は沖縄を「植民地扱い」しているという文言が盛り込まれた。当然の反発である。

 メア氏は、辺野古移設の日米合意を実現するため、日本政府は沖縄県知事に対し「お金が欲しいならサインしろ」と迫るべきだとも語っている。

 もはや振興策と引き換えに、過重な基地負担を引き受けることはしない――。政権交代を実現した一昨年の総選挙以降、すっかり定着した沖縄の民意を見誤っているだけではない。

 これでは「県民のみならず日本国民の感情を傷つける」(枝野幸男官房長官)ことを避けられない。

 米国政府には真摯(しんし)な対応を求めたい。発言が助長するだろう対米不信をぬぐい去ることなしに、ただでさえ暗礁に乗り上げている移設問題の出口を見いだすのは一層困難となろう。

 それにしても、これまでメア氏と接してきた日本政府の担当者に、氏の認識を正す機会はなかったのだろうか。沖縄や日本への的確な理解を米国側に促すのは、政府の責任でもある。

検索フォーム

内部告発―保護法改正に踏み込め

 勇気をふるって不正を内部告発した人をクビにしたり、降格したりしてはならない。そうしたルールを定めた公益通報者保護法の改正が見送られそうな雲行きになっている。

 施行から5年となる来月をめどに法の見直しを検討することになっているが、その是非を審議する消費者委員会の専門調査会が結論を先送りにする報告書をまとめたからだ。

 経済団体や学界、法曹界などから選ばれた委員の意見が一致しなかったというのが先送りの理由だが、改正の必要がないとは思えない。

 現行法に基づいて内部告発し、解雇された人もいる。その事例をみると、問題点がいくつも浮かび上がる。

 地方自治体の職員らでつくる自治労共済の15支部で、本来なら加入できない別居親族らにも自動車共済の契約を認めていた。これに気づいた島根県支部の職員が本部に告発したが、十分に改善されなかった。

 そこで、法の定める手順にそって監督官庁である厚生労働省に通報した。外部への通報には不正を裏付ける証拠が必要とされ、職員は上司のパソコンから無断でデータを入手した。

 しかし、厚労省の担当者は指導に乗り出さないばかりか、職員の名前と通報内容を共済側に伝えていた。職員は「内部情報の不正取得」を理由に解雇されてしまった。

 職員は民事裁判で、解雇無効と認められたが、現行法は告発者を直接守る役割を果たせなかった。通報を受ける行政機関の秘密保持については定めがないからだ。告発者の秘密を守る規定を法に盛り込むべきではないか。

 厚労省が自治労共済本部に改善を求めたのは通報から1年4カ月後、朝日新聞記者の取材を受けた後だった。

 こうした役所の怠慢を許さないことが肝心だ。1カ月程度の調査期間を定めて、どう処理したのかを告発者に伝える義務を定めてもらいたい。

 現行法では、勤め先や監督官庁への通報が優先され、消費者団体や報道機関などに訴えても法の保護対象にならないことがある。通報すればクビになったり、勤め先が証拠を隠したりするおそれがあることを、告発する側が証明しなければならないというのだ。

 保護の要件を緩やかにする必要がある。不正の証拠などを手に入れるのは簡単なことではない。危険を冒さなくてはいけないというのでは、尻込みする人も多くなる。

 通報時の状況などから、それなりの理由が認められれば積極的に保護するように改める。敷居を低くすることが公益に結びつく。法の趣旨をひろく知らせることにも力を入れたい。

 消費者行政を監視する消費者委員会は首相に勧告することができる。強い権限をいかしたい。

検索フォーム

PR情報