銀輪の死角

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銀輪の死角:交通基本法案決定/2 未成年に多い「加害者」 高齢者「被害」は深刻

 東京地裁で昨年9月14日、自転車同士の事故を巡る訴訟の判決があった。70代の元裁判官の弁護士が、事故当時に小学6年だった少年と両親に賠償を求めた。判決は弁護士の過失も認めたうえで少年に賠償責任を負わせ、その両親の教育も足りなかったとして、連帯して537万円の支払いを命じ、確定した。

 事故は08年1月26日午後7時過ぎ、東京都杉並区の住宅街で起きた。テニスレッスン帰りの弁護士が狭い交差点で、右から来た塾帰りの少年と出合い頭に衝突。現場は信号も街灯もなく、角にブロック塀があって見通しは悪い。転倒した弁護士は左すね骨折、小学生はすり傷を負った。

 少年は塾帰りに度々友達と自転車で鬼ごっこをし、当日も「鬼」に見つからないよう走っていたという。判決は双方の安全確認が不十分としつつ、弁護士が先に交差点に入った点を考慮。少年の両親について「危険な乗り方をしないよう具体的に指導すべきだった」と指摘した。

 弁護士は裁判官時代の一時期、交通事故裁判を専門に担当したが、車の事故ばかりで自転車が加害者の事故は記憶にない。台数が増え性能も上がり、事故が目立つようになった。「子供が乗るには安全教育と保険加入が不可欠」と考えている。

     ◇

 三重県の伊賀地域に住む女性(57)の母(92)は05年9月30日の日没直後、上り坂の県道右側の歩道を歩いていた際、正面から下ってきた女子中学生の自転車とぶつかった。転倒した母は右太ももを骨折。7カ月後に腰の圧迫骨折も判明した。以前は家事をして1人で出歩くこともできたが、事故後ほとんど寝たきりに。物忘れも出始めた。

 女性は仕事を辞め、母の介護を余儀なくされた。収入がなくなり生活保護も受けた。将来が不安で弁護士に相談し、母は約5000万円の賠償を求めて09年1月に提訴。だが、相手側に「後で分かった骨折は骨粗しょう症が原因」などと主張され、けがの程度などを巡り今も係争中だ。

 事故後、女性も自転車で高校生の自転車とぶつかった。幸いけがはなかったが、危険を実感した。「特に高齢者は自転車でも大けがをする。何とかしてほしい」

     ◇

 09年に起きた自転車事故で、自転車側が過失の大きい「第1当事者」となった場合、その40%は未成年者だ。一方、自転車乗用中の事故死者のうち、65歳以上は64%を占める。子供が「加害者」となり、「被害者」の高齢者に重大な結果が生じるケースは少なくない。=つづく

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毎日新聞 2011年3月9日 東京朝刊

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