事件【産経抄】3月8日2011.3.8 02:35

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【産経抄】
3月8日

2011.3.8 02:35

 「時に及んで当(まさ)に勉励すべし、歳月 人を待たず」。この有名な一句は、中国・晋の時代を生きた、陶淵明(とうえんめい)の「雑詩」と題する詩のなかにある。現在の日本では、「勉励」は、「刻苦勉励」の四字熟語があるように、勉学や仕事に励む、という意味で使われる。

 ▼もっとも、中国文学者の守屋洋さんによると、陶淵明は「そんなしかつめらしいお説教を垂れているのではない」(『漢詩の人間学』プレジデント社)。確かに同じ詩の前のほうでは、うれしいときは、近所の人たちと大酒を飲もうと言っている。

 ▼冒頭の句は守屋訳によれば、「楽しめるときには、せいいっぱい楽しもう。歳月は人を待ってはくれないのだから」となる。ニュージーランドのクライストチャーチを襲った地震で、日本人留学生28人が安否不明となっていた。通訳や看護師、シェフなど海外での活躍を夢見て、日本と中国、両方の意味で、「勉励」していた人ばかりだ。

 ▼その一人、平内好子さん(61)の死亡が確認された。富山県の県立高校で40年近く生物を教え、校長まで務めた平内さんは、ダニの研究者としても知られている。退職を待ちかねたように、論文を書くのに必要な英語を学び直し、第二の人生を謳歌(おうか)している最中だった。

 ▼まさに、「勉励の人」と呼ぶのにふさわしい。後任の校長は、「生徒に常にポジティブなメッセージを発信していた先生だった」と語っている。平内さんの生き方を手本にして、進路を決めた教え子も少なくないはずだ。

 ▼最愛の家族と別れの言葉をかわす時間も与えられなかった、平内さんの無念はいかばかりか。「歳月 人を待たず」。誰の人生にも、限りのあることはわかっているのだが。

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