きょうの社説 2011年3月9日

◎北陸の景気 消費・雇用改善も原油高不安
 大雪の影響で個人消費がやや冷え込んだ1月から一転、北陸の「街角景気」が改善に向 かっている。内閣府が発表した2月の景気ウォッチャー調査によると、直接顧客と接する百貨店やコンビニエンスストア、住宅販売などに携わる人々の景気実感が上昇し、春の訪れを感じさせる。特に職業安定所や求人情報誌、人材派遣など雇用部門で急回復が目立ったのは心強い。

 街角の景気実感を全国ベースで見ると、2月の現状判断指数は前月比4.1ポイント高 い48.4となり、2カ月ぶりに上昇した。前月は日本海側を中心とした大雪の影響で消費が落ち込み、3カ月ぶりに悪化したが、2月は比較的天候に恵まれたことが幸いした。

 個人消費は、エコカー補助金の終了やエコポイントの半減による販売の落ち込みが収ま り、家計動向関連のなかでも特に小売と飲食の改善が目立つ。北陸では「高級食材や高級羽毛布団など、イエナカ消費が好調」(百貨店)、「好調だった前年並みに持ち直してきている」(家電量販店)、「成約数が通常の2倍以上」(住宅販売)など、節約疲れもあって、高額商品が動き出しているようだ。

 雇用関係では、「仕事量の増加に伴って求人が増えている」(人材派遣)、「新規求人 は31.8%増」(職業安定所)などの回答が多く、「やや悪くなっている」「悪くなっている」の回答は皆無だった。雇用の改善は、景気回復の足取りがしっかりしてきた証拠である。

 全国的な景気の基調判断は、前月と同じく「このところ持ち直しの動きがみられる」と なっている。だが、手放しで喜べないのは、2−3カ月先を見る先行き判断DIが横ばいで推移し、好転の兆しが見えないことだ。急激に進む原油高が暗い影を落としており、企業部門では、原材料価格上昇による収益圧迫懸念が強まっている。ガソリン価格の上昇が続けば、家計部門にも影響が及び、個人消費に黄信号がともるだろう。

 中東情勢の不透明さと、投機資金の流入で、原材料価格が一段高する局面があれば、輸 出関連産業がけん引する北陸の景気は一挙にしぼみかねない。

◎6次産業化法施行 若者を呼び込める農業に
 農林漁業者が生産だけでなく、商品の加工、販売まで行い、収益を増大させることを促 進する「6次産業化法」が今月1日に施行されたのを受け、北陸でも新制度の説明会や推進組織の会合が相次いで開かれ、具体化へ動き出した。

 100兆円規模の食品関連市場の中で、1次産業の農・水産物の生産額が占める割合は 1割強にとどまっている。新法の支援を受けて加工、販売分野にも食い込んで利益を上げることができれば、1次産業を若者にも魅力のある産業に脱皮させることが可能であろう。農業法人などの積極的な取り組みが望まれる。

 6次産業化とは、1次産業の農林水産業に2次産業の加工業、3次産業の流通業を足す 、あるいは掛け合わせて、農林水産業の多角化、高度化を図ろうという意味である。農業法人や農家が農産物の加工食品を製造、販売するような場合、事業計画が認定されれば、施設整備などで政府の補助金を受けることができる。

 農業者らに戸惑いを与えかねないのは、似たような農業の強化策として「農商工連携促 進法」が一足早く施行されていることだ。同法に基づく政府認定の事業計画は、北陸農政局管内でも既に30件以上が実施に移されている。

 農商工連携は、農業者と中小の商工業者が連携して、食のビジネスをめざすもので、経 済産業省を主体に農林水産省も協力して推進している。これに対して、6次産業化は農業者がみずから商工分野に参入することを想定しており、農水省が中心になっている。

 農業と加工、販売を結びつける点では同じ補助事業であり、どちらの手法がよいのか迷 う農業者が出てくることも予想され、的確な指導が必要である。各県に配置される「6次産業化プランナー」の役割が重要になってくる。

 農水省と経産省の主導権争いの心配もなくはない。農商工連携事業で両省は垣根を越え て協力するようになったが、6次産業化事業が始まることで、かつての縦割り行政の弊害が生じることがないよう注文しておきたい。