朝日新聞の記事が昨年末の森元首相の訪ロから、4月末連休での福田・プーチン・メドベージェフ会談に至る経過を伝えている。この流れが洞爺湖サミットを前にした今回のメドベージェフ大統領会見の中にも反映されている。
● 資源と開発 思惑一致/日ロ首脳、友好演出
2008.4.27朝日新聞
【モスクワ=伊藤宏、大野正美】アジア太平洋に活路を見いだしたいロシアと、資源獲得を狙う日本。福田首相とプーチン大統領、メドベージェフ次期大統領の初顔合わせは、双方の思惑が一致して温かい雰囲気の中で進んだ。しかし、懸案の領土問題打開の道筋は見えてこない。
「ロシアの指導者と個人的な関係を築き、そのことですべての分野での相互協力の発展に弾みを加えたい」福田首相はプーチン大統領との会談冒頭、首脳間の信頼関係をテコに、両国関係を強化する強い意欲を示した。
首相は「ねじれ国会」の影響で、大型連休後半の欧州訪問を断念したが、訪ロの予定は変えなかった。5月に新大統領に就任するメドベージェフ氏といち早く関係を作ると同時に、退任後も首相として強い影響力を持つプーチン氏とも大統領在任中に会う――。この時期の訪ロは、ロシアを重視する姿勢を最大限アピールする狙いがあった。
きっかけは、昨年12月の森元首相とプーチン大統領との会談だった。福田首相の後見役でプーチン氏とも関係の深い森氏が首相との会談を勧め、プーチン氏は「どのようなタイミングや場所で会えるか考えよう」と即座に応じた。
ロシア側は経済発展の著しいアジア・太平洋地域への関心を強めており、首相側は「今が関係改善の好機」(外務省幹部)ととらえる。
日本にとっても、日本海沿岸を中心にロシアとの貿易が増えているほか、シベリアは有望なエネルギー供給源だ。首脳会談で合意した油田の共同開発は、そんな両国の利害が一致した結果といえる。日本側は経済分野で具体的な協力を実らせ、停滞する北方領土問題を前進させる環境整備につなげたい考えだ。
この日の首脳会談は当初、クレムリンで予定されていたが、直前になってモスクワ市郊外のプーチン氏の公邸に変更になった。両者の会談は昼食を含め、予定を上回る約2時間。「またぜひ日本を訪問いただきたい」という首相に、プーチン氏が「日本が好きであり、喜んで訪日する」と応じるなど、友好ムードに包まれた。
領土問題深入りせず
日ロ関係の「トゲ」となってきた北方領土問題は、解決の展望が依然開けていない。小泉、安倍両政権では目立った進展がなく、今回の首脳会談でも、領土問題解決の重要性を確認したものの、具体策には踏み込まなかった。
首相にとっては初の会談ということもあり、「まずは首脳同士の信頼関係を作ることが先決。ロシア側も大統領の交代期で、最初から難しい問題に踏み込むのは得策ではない(外務省幹部)との判断が働いたようだ。
プーチン氏は会談の冒頭、自らこのテーマを取り上げ、「我々は平和条約についての対話を継続している」と言及したが、一方で、問題解決には条件整備が欠かせないとの考えも示した。
プーチン氏はこれまで、歯舞、色丹の二島引渡しを想定した56年の日ソ共同宣言に基づく解決策を唱えてきた。日本専門のビクトル・パブリャテンコ氏は「プーチン氏にはあった日本に対する独自の態度が、メドベージェフ氏にはない。政策にも変化はないだろう」とみている。
外憂ロシア、日本重視
ロシアは、経済成長による国力回復を背景に独自の主張を強めてきたが、一方で米欧とのあつれきも激化させた。そんな中で、高い技術力を持つ日本に関心を向ける。極東とシベリアの開発という「重荷」も、ロシアを日本重視の方向に動かしているようだ。ロシアと欧州連合(EU)のエネルギー協力を含む新しい「パートナーシップ協定」の交渉は、かつてソ連の支配を受けた東欧諸国が交渉に条件をつけ、足踏みが続く。米国のミサイル防衛(MD)施設の東欧配備や、ウクライナやグルジアの北大西洋条約機構(NATO)加盟をめぐる対立も、くすぶっている。
「米一極支配」への対抗で共同歩調をとった中国との関係でも、ロシアからのエネルギー供給交渉が停滞するなど陰りが見える。人口希薄なシベリアと極東の長い国境で向き合う経済発展の著しい大国は、潜在的な脅威でもある。
逆に日本とは、領土問題を除けば深刻な対立事項は見当たらない。東シベリアや極東でのエネルギー開発でも共に利益となる関係が見込める。政権移行期に、日本の首脳と協力の継続性を確認しておくことは、ロシアにとっても大きな意味を持つ。
ロシア外務省高官は「日本から必要なのは、一層の経済発展のための高度技術分野などでの協力」と強調する。だが、開発が立ち遅れたシベリアや極東では「なお資源分野への日本からの技術協力などが必要だ」とも認めている。
次期大統領と福田首相会談
【モスクワ=大野正美】 福田首相は26日、プーチン大統領との会談に引き統き、メドベージェフ次期大統領とモスクワ郊外の大統領府迎賓館で会談した。冒頭、メドベージェフ氏は「大統領に当選した際、手紙や電話でお祝いをいただき感謝したい」と述べ、「(福田、プーチン両氏が本日協議を始めた)ロ日関係や重要な国際間題、北海道でのG8サミットについて、話し合いを続けたい」と話した。
福田首相は「洞爺湖のある北海道は、環境問題を協議するのにふさわしい場所。環境問題で協力し合っていけるのではと期待している」などと述べた。
日ロをめぐる主な動き(肩書は当時)
93年10月 細川首相とエリツィン大統領が、北方四島の帰属問題を解決し平和条約を結ぶことで合意した東京宣言を発表
97年11月 橋本首相とエリツィン大統領が、2000年までの平和条約締結に全力を尽くすとするクラスノヤルスク台意
98年4月 橋本首相が静岡県伊東市での会談で、エリツィン大統領に国境線を画定すれば二島返還も当面棚上げとの譲歩案示す
01年3月 森首相とプーチン大統領が会談し、平和条約締結後の歯舞、色丹二島の日本への引き渡しが盛り込まれた56年宣言を交渉の出発点と位置づけるイルクーツク声明を発表
03年1月 小泉首相が訪ロし、プーチン大統領と平和条約交渉など6分野についての協力を盛り込んだ日ロ行動計画で合意
07年6月 独ハイリゲンダムで安倍首相がプーチン大統領に、ロシア極東や東シベリア開発での協力を提案し、支持された
● 日ロ共同油田開発に合意 首脳会談、北方領土対話継続も
asahi.com 2008年04月26日22時05分
【モスクワ=伊藤宏】ロシアを訪れた福田首相は26日午後(日本時間同日夜)、プーチン大統領とモスクワ市郊外の大統領公邸で会談した。両首脳はアジア・太平洋地域での両国の関係強化の具体策として、東シベリアで初の油田の共同開発を進めることで合意。北方領土問題の解決と平和条約締結に向けた対話を継続することでも一致した。
日本の首相の訪ロは05年5月の小泉首相(当時)以来。プーチン氏に続き、5月に就任するメドベージェフ次期大統領とも会談した。
日本側の説明では、福田、プーチン両氏は北朝鮮のシリアへの核拡散問題でも意見を交換。6者協議の場で北朝鮮に完全な申告を求めるため協力することで一致した。首相はまた、拉致問題でロシアが北朝鮮に影響力を行使するよう要請。プーチン氏は拉致問題を含め、極東地域の安定のために協力すると述べた。
油田の共同開発の舞台は、イルクーツク市から北へ約1千キロのセベロ・モグディンスキー鉱区(3747平方キロ)。日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とロシアの民間会社イルクーツク石油が合弁会社を作り、油田調査や掘削などを行う。作業期間は5年間で、約100億円と見込まれる事業費は日ロ双方で負担する。
日本側には、東シベリアの油田地帯から日本海に向けて建設中の「太平洋パイプライン」を通じて、日本への安定供給を確保するとともに、同地域の石油資源を中国に独占させない狙いがある。
北方領土問題では、首相が両国関係を高い次元に引き上げるために平和条約交渉の具体的進展が不可欠との考えを強調。プーチン氏は交渉を続ける意向を表明する一方、そのためにも両国関係の全面的な発展が必要だと指摘した。
首脳往来を頻繁にし、あらゆるレベルで交流を深める必要があるとの認識でも一致。7月の北海道洞爺湖サミットでの福田首相とメドベージェフ氏の首脳会談に向けて準備を進めることや、毎年100人規模の青年交流事業を5倍に増やすことで合意した。12年にウラジオストクで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の成功に向けて協力することも確認した。
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