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第七話 新しい生活の始まり
<ロレント地方 ブライト家 ヨシュアの部屋>

ヨシュアの部屋のベッドで眠っていたシンジは、疲れて居たはずなのだが、葛城家のいつもの習慣で朝早くに目を覚ましてしまった。
シンジが部屋を見回すとヨシュアの姿は見当たらない。

「ヨシュアはもう起きているのかな?」

シンジは隣の部屋で寝ているアスカとエステル、1階の自分の部屋で寝ているカシウスを起こさないように気を遣いながら静かに廊下を歩き、階段を降りた。
ダイニングキッチンにもヨシュアの姿は見当たらない。
するとヨシュアは庭に居るのだろうか?
そう考えたシンジは玄関のドアをそっと開けた。
すると庭に居たヨシュアはシンジの気配に気づいていた様子で玄関から顔を出したシンジをじっと立って見つめていた。

「昨日は疲れていただろうから、今朝はゆっくりでも良かったのに」
「……いつも朝早く起きるのが習慣みたいになっちゃって」

ヨシュアに言われたシンジは照れ臭そうにそう答えた。

「ヨシュアの方こそ、こんな早く起きてるなんて驚いたよ」
「庭で朝の鍛錬をね」
「遊撃士になるって、そんなに大変なの?」
「いや、誰にも邪魔されずに1人で居られる時間が欲しかったんだ」
「エステルって、とってもおせっかいな感じがするからね」

ヨシュアの言葉を聞いて、シンジは苦笑しながらそう答えた。

「そうなんだよ、僕がこの家に着た頃は無理やり虫採りに付き合わせようとするし。僕が無視をしていたら、巨大なカブトムシを捕まえに森へ行っちゃったんだよ」
「エステルってボーイッシュな子なの?」
「うん、腕白小僧って言葉が似合う子だったね。それで森の中で蜂の巣を突いちゃったらしくて、この家の庭まで怒った蜂の群れに追いかけられていたんだ」
「蜂から走って逃げられるんだ」
「木にもたれかかって座っていた僕の手を握って、あそこにある大きな池へと飛び込んだんだ」

ヨシュアは楽しそうな笑顔を浮かべてエステルと出会った頃の事を話していた。
自分を見つめるシンジの目が笑っているのに気付くと、ヨシュアは顔を反らす。

「すっかり話し込んでしまったね。そろそろエステル達を起こさないと」
「目覚まし時計は無いの?」
「タイマー機能のついたオーバル時計は値が張るからね。エステルはメルダース工房でオーバル時計をいじっていて壊しちゃった前科があるし」
「それは大変だね。僕も朝にアスカを起こそうとするといつも怒られるんだ。勝手に部屋に入るなとか、体に触るなとかね」
「僕はエステルの体に触ったりしないし、部屋にも入らないよ」
「へえ、じゃあどうしているの? おたまでフライパンを叩いて起こすの?」
「そんなことしないよ」

シンジの言葉にヨシュアはあきれたようにため息をついた。
ヨシュアはハーモニカを取り出すと、シンジの顔を見て少し照れくさそうな表情になってからハーモニカを吹き始めた。
少し寂しさを思い起こさせる美しいハーモニカの調べが静かな森に囲まれたブライト家の敷地に響き渡って行く。
シンジはヨシュアの奏でる旋律に聴き惚れてしまった。

「へえ、なかなかのものじゃない」

玄関の扉を開いて、エステルの服に着替えたアスカとエステルが姿を現した。

「今日は起きるのが遅かったじゃないか」
「アスカがなかなか起きなかったもんだからさ」
「ごめん、アスカは朝が苦手なんだ」
「何でシンジが謝るのよ」

アスカはそう言ってシンジをにらみつけた後、ヨシュアに向かって問い掛ける。

「さっきハーモニカで吹いていた曲は何て曲なの?」
「星の在り処って曲だよ」
「ふーん、聞いた事無いけど、シドの曲に似ているわね」
「シド?」
「アスカの好きなアーティスと何だけど……って言っても分からないか」
「本当にシンジ達って凄い遠くから来たのね。王国も帝国も共和国も知らないなんて」
「うん、僕達もどこから来たのかって上手く説明できないんだ」
「さあお前達、朝食が出来たぞ」

4人が庭で話し込んでいると、カシウスが家の玄関からカシウスが顔を出した。

「あ、ごめん、今日はあたしが当番だったのに」
「構わないさ、家に居る時ぐらい家族孝行させろ」

カシウスの作ったホットケーキは焼き具合が絶妙なものであり、アスカとシンジは感激した。

「食事が終わったらさ、庭の池で釣りをしようよ。色々な魚が釣れるから面白いよ!」
「池なのに魚が居るの?」
「どうやら底の方で水路が他の場所と繋がっているみたいだよ」
「エステル、今日は日曜学校のある日じゃなかったのか?」

カシウスに指摘されたエステルはギクリとした表情になる。

「今日はアスカとシンジの面倒を見なくちゃいけないから……」
「そんなの学校を休む理由にはならないよ」
「そうだ、2人を町に案内してあげろ」
「はーい」

学校をさぼれなくなったエステルは残念そうな顔でため息をついた。

「学校に行けるの?」
「うん、週に1回七耀教会で授業があるんだよ」

学校と聞いたシンジは目を輝かせてヨシュアに尋ねた。
シンジにとって学校は楽しい場所へと変わりつつあった。
もちろん、人見知りの激しいシンジだが、新しい友達が出来るかもしれないと想像するだけで嬉しさもひとしおだった。
朝食を終えたエステル達は日曜学校の授業を受けるためにロレントの街へと向かう事になった。



<ロレントの街 七耀教会>

期待を胸にロレントの街へと向かったシンジは、教会につくと少しガッカリとしてしまった。
エステルに紹介されたアスカは嬉しそうにエリッサとティオと話していたが、シンジは他の同世代の男子と話す機会が無かった。
この世界でもトウジとケンスケのような友達が出来ると期待していたシンジは残念そうにヨシュアに話しかける。

「男の子の友達っていないみたいだね」
「正直女の子の中で男は僕1人だったから、シンジが来てくれて嬉しいんだよ」
「そっか、これからは友達としてでもよろしく」

微笑むシンジが差し出したその手をヨシュアは自然と握り返した。
そして、教会の神父とシスターによる授業が始まる。
日曜授業の内容は宗教倫理学だけでなく、政治経済、自然科学、国語数学など多岐に渡っている事にアスカとシンジは驚いた。
本格的な授業にアスカとシンジは復習に気が抜けないと思った。
しかし、エステルはマイペースに居眠りをしていた。
教師役である神父やシスターはいつもの事なのか、何事も無いように授業を続けた。

「あの、エステルを起こさなくて良いんですか?」

見かねたアスカが神父に忠告すると、神父はエステルが寝てしまうのは退屈な授業をしてしまった自分が原因だと語った。
神父の言葉に、アスカとシンジは首を横に振る。

「そんな事無いですよ、とっても楽しい授業です」
「学ぶ事がどれも新鮮で、分かりやすいです」

アスカとシンジの言葉を聞いた神父は嬉しそうに微笑んだ。
2時間に及ぶ授業を終えて、エステル達はエリッサとティオと共に教会を出た。

「シンジは学校の成績が今一つだったわね、こっちでも苦労するわよ」
「これからは勉強も運動も頑張るよ、アスカに負けてばかりはいられないし」
「ふふん、せいぜい精進しなさい。ちなみに今日の授業はアタシにはバッチリ解ったわよ」
「凄いアスカ、ずっと遠くからロレントに来たばかりなんでしょう」
「とても頭がいいのね」

エリッサとティオに憧れの眼差しで見られたアスカはとても上機嫌だった。
シンジはすっかり元気になったアスカを見て嬉しく思う反面、アスカが図に乗ってしまわないか心配だった。
アスカのプライドの高さが増長してエヴァのエースパイロットだと自負していた時のように傲慢な性格に戻って欲しくは無いと祈った。
授業を終えたエステル達はエリッサの両親の経営する居酒屋アーベントで昼食を取る事になった。

「エリッサはここの看板娘だったのね」
「どう、アスカもこの店で働かない? きっと人気者になれるわよ」

エリッサの誘いにアスカはまんざらでもない様子だったが、アスカは軽く首を横に振る。

「アタシはもう遊撃士を目指すって決めたのよ」
「アスカは遊撃士になるんだ、凄いわね」

断られたエリッサは残念な表情をしながらも、アスカを応援した。

「そうだ、これから私の家に来ない? 私の家族にもアスカとシンジ君を紹介したいし」

ティオの提案にみんな賛成し、エステル達はロレント郊外にあるティオの家族が経営する農園へと行く事になった。



<ロレント郊外 ミルヒ街道>

エステル達はブライト家に居るカシウスに話してから、ティオの家族が経営するパーゼル農園へと向かった。
カシウスに夕食の当番を任せられたシンジは嬉しそうに歩いていた。
アスカはそんなシンジを見て、皮肉めいた声を掛ける。

「前は仕方が無いって感じで料理をしていたのに、今はやけに嬉しそうじゃない」
「アスカより得意な分野を見せられるから嬉しいんだ」
「生意気ーっ!」

アスカはそう言ってシンジのほおを思いっきりつねった。

「アスカは料理は苦手なの?」
「今までする必要が無かっただけよ」

エリッサに尋ねられて、アスカは恥ずかしそうにそう答えた。

「アスカって貴族のお嬢様だったの?」
「そういうわけじゃないけど、ご飯・掃除・洗濯は毎日僕がやっていたんだ」
「酷っーい!」
「シンジ君、かわいそう!」

エリッサとティオが声を上げると、アスカは顔を赤くして叫ぶ。

「これからはやってやるわよ!」
「当たり前だよ」

ヨシュアは少しあきれたやら怒ったような表情でため息をついた。
シンジは苦笑してヨシュアに心の中で謝った。

「大丈夫、家事ならお姉さんが教えてあげるって」
「へえ、エステルがアスカのお姉さんなんだ」

エステルの言葉を聞いたティオが感心したようにため息をもらした。

「ぐっ、何かエステルに教えられるなんて屈辱ね」

やり込められているアスカを見て、シンジは安心して笑顔になった。
ここには自分達が心安らげる場所がある。
シンジはそう確信したのだった。
そして、エステル達がパーゼル農園に着くと、ティオの弟と妹がエステル達を嬉しそうに出迎える。
ティオの弟と妹はエステルとヨシュアと同じようにアスカとシンジを姉や兄代わりの存在として慕った。
エステルとヨシュアに妹や弟扱いされたアスカとシンジは自分の妹分や弟分が出来て嬉しそうだった。
こうして、アスカとシンジは暖かなロレントの街の人々に囲まれて新たな生活を始めるのだった。
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