昨年のシーズンオフ、アレックス・ロドリゲスのレッドソックス入りが組合の介入で破談となった後、アーロン・ブーンの突然の膝の故障で空いた三塁の穴を埋めるためにヤンキース入りが決まった「ドンデン返し」については、読者もよくご記憶の通りである。しかし、結果としてA−ロッドが獲れなかったレッドソックスが86年振りのワールドシリーズ優勝に輝き、A−ロッド獲得で絶対有利となったはずのヤンキースはリーグ選手権でレッドソックスに悪夢の逆転を喫したのだからこれほど皮肉な話もない。
A−ロッド加入で「史上最強打線」の編成が可能となったのに、なぜ、ヤンキースはレッドソックスの後塵を拝する結果になったのだろうか? 最大の理由は、「現代最高の選手」というA−ロッドの看板に偽りがあったことだろう。OPS(出塁率と長打率の和)8割8分8厘(リーグ18位)は並みの選手だったら文句無しに合格点だが、2200万ドル近くと、大リーグ一の年俸を得ているスーパースターとしては、「期待はずれ」と言われても仕方がない数字なのである。
しかも、得点圏に走者を置いたときの打率が2割4分8厘と、「並み」以下の成績だったから、ヤンキー・スタジアムでチャンスに凡退する度にブーイングされるようになったのも無理はない。「4番失格」の烙印を押され、9月6日から2番を打つようになったが、2番を打つようになってから当たりが出たことも、皮肉と言う他はない(4番でのOPSはわずか8割1分5厘だったが、2番でのOPSは8割9分3厘と上昇した)。
01年に、契約期間10年、総額2億5200万ドルという大リーグ史上最大の契約をレンジャースと結んだ際、A−ロッドはエスクワイア誌のインタビューに応じて、「自分がなぜ史上最高額の契約に価するのか」とばかりに、自分とジーターとの違いを滔々と述べ立てた。A−ロッドは、「ジーターは2番打者でチームを率いる役割はしたことがない。3番や4番を打つのとは全然違うからね」と目一杯ジーターをバカにしたのだが、自分がヤンキースに来て、4番では全然打てずに2番になって漸く打てるようになるなど、夢にも思っていなかっただろう(ちなみに松井が4番に入ったときのOPSは10割5分7厘と、殿堂入りのスーパースター並みの数字を残した)。
A−ロッドの「勝負弱さ」はプレーオフでも祟った。レッドソックスとのリーグ選手権、最終4試合を17打数2安打と、肝心のところで大ブレーキになってしまったのである。挙げ句に第6戦ではピッチャーのグラブからボールを叩き落とすという卑劣な守備妨害でヤンキース反撃の芽を摘んでしまった。試合後、なぜ叩き落とす行為が規則上守備妨害になるのかという説明を受けた際、A−ロッドは、「じゃ、叩き落とすのでなく『体当たり』していたら守備妨害にならなかったのか」と、反省にならない「反省」の弁を述べてまたまた男を下げたのだった。
「あの守備妨害は中学生だってしない恥ずかしいプレー。ま、A−ロッドがああいうことをしても驚かないけれど」と、これ以上はないほど手厳しくA−ロッドを批判したのは、ソックス血染めの快投で男を上げたカート・シリングである。
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