電気自動車(EV)部品や医療機器など、ハイテク製品に不可欠な素材であるレアアースの価格高騰が続いている。2月18日に財務省が発表した昨年12月の輸入通関統計によると、レアメタルの輸入平均単価が前年同月比なんと4倍に急騰した。昨年7月の中国のレアアース輸出規制(輸出量を前年比4割削減する)を受けて、国際価格が急騰したことが明らかである。また、2月25日付の日本経済新聞によると、2月下旬のレアアース取引価格の昨年末比上昇率はネオジムが60%高、セリウムが46%高、ディスプロジウムが31%高で、直近も騰勢が弱まっていないことが分かる。さらに、豪州産のレアアースにも影響が及んでおり、1月14日のブルームバーグ報道によると、「ノーランズ・レアアース」という豪州の指標の評価額が昨年末比7%上昇した。
中国によるレアアース輸出規制には、資源ナショナリズムや外交カードとしての活用という側面が確かにある。ところが、昨年11月15日のコラム「中国のレアアース市場で本当に起きていること」に書いたとおり、輸出規制は中国の長期的な経済戦略の一環という面がある。つまり、中国政府は、レアアース業界を戦略的産業として育成するべく、環境汚染規制の運用強化、国内の悪徳中小業者の排除、ハイテクを国内で育成することを目指しており、輸出規制はその結果である。規制強化は続いており、中国環境保護部は2月24日、レアアースの採掘、選鉱、精錬産業を対象に汚染物質の排出量の上限などを定めた「稀土工業汚染物排放基準」を公布した。
日本は中国のこのような行動を批判することはできないし、換言すると、中国のレアアースが一昨年の状態に戻ることは期待できない。
日本の現状の対策と「もうひとつの対策」
この状況への対策として、昨年8月30日のコラム「中国のレアアース輸出規制に見る『資源ナショナリズム外交』への対処法」に書いた、①「技術と資源のバーター」(中国から資源を得る代わりに中国への技術移転を行う)、②「中国との長期的なWin-Win関係作り」、③「レアアースを使わない代替製品の開発」の3点に加えて、④「中国以外の代替供給地の確保」がある。①と②は中国の強硬姿勢が続く間は実現が難しいので、日本は専ら、③と④の対策に注力している。
代替製品の開発と代替供給地確保は重要なのだが、さらに、5番目の対策として、「製品開発の理念を変える」ということが重要である。これが本稿のテーマである。
第5の対策について述べる前に、日本が注力している二つの対策について、最近、大きな動きが見られた。2月25日、経済産業省は、レアアース使用量削減やリサイクル関連の設備投資を計画する企業の160事業を対象に、総額331億円の補助金を交付すると発表した。企業が負担する設備投資額と合わせて総額1100億円が投入されることになる。日本は年間約3万トンの国内需要の9割を中国から輸入しており、数年後には需要の3分の1に当たる約1万トンの使用量を削減する計画である。
採択された事業は、レアアースの使用量低減・代替事業、リサイクル事業、米国や豪州などへの供給源の多様化関連などで構成されている。ガラスの研磨工程に使用済みレアアースの再生装置を導入する旭硝子や、レアアースを使用しない自動車部品開発実験設備を導入する日産自動車などが選ばれた。さらに580億円分の追加募集が行われる予定である。
「製品開発の理念を変える」意味
「もうひとつの対策」である「製品開発の理念を変える」とはどういうことか。それは、レアアース材料を変えたり減らしたりして、今までどおりの良い製品を作るのではなく、「良い製品を作る」という場合の「良い」のそもそもの意味を問い直すことである。
例えば、EV部品のモーターには、回転子に永久磁石を採用している「永久磁石モーター」が一般的に使われている。この永久磁石に、価格が高騰しているレアアースであるネオジムとディスプロジウムが必要とされる。永久磁石モーターの利点はトルク(車輪の回転軸にかかる力)を正確かつ高効率に制御できるため、「良い」EVの開発には不可欠とされている。
ところが、永久磁石モーターだけがモーターではなく、それ以外に、生産にレアアースを必要としない「誘導モーター」がある。誘導モーターは永久磁石モーターより回転制御効率が落ちるのだが、パワーエレクトロニクス(電力用半導体素子を用いた電力変換などの技術)の進化により、低効率の問題は解決されつつある。そうであれば、永久磁石を使わずに、誘導モーターでも「良いEV」を作れるはずである。
ユーザーにとって「良い」EVとはフル充電後の走行距離が長く、安全なクルマであり、トルク制御が高効率のクルマではないはずだ。運動制御の効率が悪いと安全性に問題があるという反論が来るかもしれないが、誘導モーターを使ってEVを作っている米テスラ・モーターズやゼネラル・モーターズ(GM)はどうなるのだろうか。EVには永久磁石が不可欠という常識は疑わざるを得ない。
また、レアメタルを原料とするリチウムイオン電池がなければ、「良い」EVは作れないという常識も疑う必要がある。リチウムイオン電池を積んだEVは、家庭用コンセントで何時間もかけて充電しなければならない。手間が大きいし、雨の日は感電するかもしれない。これでは、ユーザーにとって「良い」商品とは言えない。
この手間とリスクを省くためには、プラグやコンセントを必要としない「ワイヤレス型充電」の方がユーザーにとって「良い」EVと言える。ワイヤレス型の場合、駐車場や道路に充電器を埋め込めば、駐車している時、幹線道路をクルマが走行する時に充電できる。また、このようなインフラができれば、高価なリチウムイオン電池は必要ではなく、「キャパシタ」を使って「良い」EVを作れる。キャパシタは「電気二重層」現象の原理を用いた蓄電器で、エネルギーを通常の電池のように化学反応で失うことがなく、半永久的に充電や放電を繰り返し、充電の所要時間も数十秒で済むという利点がある。
堀洋一東京大学大学院教授は、「高性能運動制御」「大容量キャパシタ」「ワイヤレス充電」といったリチウムイオン電池方式に頼らないEV技術が有望と主張している。EVをガソリン車の改良版ではなく電車の応用版と捉え、「製品開発の理念」を変えるわけである。永久磁石モーター、リチウムイオン電池のようにレアアース、レアメタルが材料として不可欠な部品を使わなくても、理念を変えることによって、「ユーザーにとって良い」製品を開発することが可能になる。
レアアースを使わなければ、高性能の製品を作れないかもしれない。しかし、市場は必ずしもメーカーが考える高性能製品を求めているとは限らないのである。
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尾崎弘之 東京工科大学大学院ビジネススクール教授
昨年6月からWSJ日本版に連載開始。著書「環境ビジネス5つの誤解」(日本経済新聞出版社)が1月13日に出版。クリーンエネルギー、電気自動車、水などの5分野に関して誤解を指摘し、問題の解決方法を分析する。
東京大学法学部卒、ニューヨーク大学MBA、早稲田大学博士。野村證券NY現地法人、モルガン・スタンレー証券バイス・プレジデント、ゴールドマン・サックス投信執行役員を歴任後、ベンチャービジネスに転身。2005年から現職。専門分野は環境ビジネス、金融市場論、ベンチャー企業経営論など。主な著書は「出世力」(集英社インターナショナル)、「次世代環境ビジネス」「投資銀行は本当に死んだのか」(いずれも日本経済新聞出版)。http://hiroyukiozaki.jp/