「本物の死体」による標本を目玉にした「人体の不思議展」が現在の形での初開催から10年目の今になって、違法性を問われかねない事態となっている。府警は死体解剖保存法(死体保存許可)違反容疑での告発を受理。しかし、背景にはこの法律を所管する厚生労働省や自治体の主体性の欠如が透けて見え、捜査関係者たちはあきれ気味だ。【林哲平、太田裕之】
京都展は昨年12月4日~今年1月23日、京都市勧業館みやこめっせであった。府保険医協会など告発者側は開幕前、厚労省や市に対し、死体の保存には自治体の許可が必要と定めた同法違反の可能性を指摘。ここで、展示のために人体標本を会場に置くことが「保存」に当たるかどうか判断する必要性が生じた。
京都市は厚労省に照会したが、当初は回答はなかった。市は「法律を解釈するのは国。自治体は従うだけ」とし、会場の使用は拒めないと判断。主催者側に死体保存の許可申請を求めなかった。
一方、開幕後に「標本は死体」との見解を示した厚労省医事課は取材に対し、「何が保存に当たるかは社会通念上の判断が必要で、それは許可をする自治体がする」と説明。自治体で判断できないとする京都市の立場を伝えると「では司法判断ですかね」と述べた。
人体展は過去にも標本の出所が不透明などとして、遅くとも06年ごろから週刊誌などが違法性を指摘。日本医師会や日本赤十字社は途中で後援を下り、医療関係者らから批判声明なども出るようになった。それでも厚労省は「調査が必要と認識したことはない」としてきた。
死体解剖保存法は1949年施行。「保存」は大学病院などで研究・教育目的で行われることを前提としている。人体展のようなケースは想定外で、立件しても罰則は2万円以下の罰金に過ぎない。
今回のような場合、捜査機関は通常なら行政の指導に従わなければ検挙するというスタンスを取る。それだけに、京都府警の関係者らは厚労省や京都市の態度に「あまりに怠慢」「開いた口が塞がらない」と不快感をあらわにしている。
では、主催者側が許可を申請していたら、認められたか--。京都市は未整備だが、横浜市などいくつかの自治体は同法施行細則と申請書の様式を定めている。それによると、申請には、死者の本籍地▽元住所▽氏名▽生年月日などの記載と、遺族承諾の証明書面が必要だ。提供元が中国とされ、素性が不透明な人体展の標本は申請が受け付けられるかどうか微妙とみられる。
人体展を実質的に主催・運営しているとみられる東京都港区のイベント企画会社社長は取材に応じていない。
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■ことば
02年の大阪展を皮切りに京都展まで36回開催。650万人以上が訪れた。主催者は人体標本について「プラストミック」という手法で樹脂加工した死体を中国から輸入したと説明。当初は医学的見地から日本医師会や日本赤十字社が後援していたが、「献体者遺族の同意が明確でない」(日本赤十字社)などの理由で次々に下りた。最近では医療関係者らからの反発も多く、石川県警も京都と同様の告発を受理している。
毎日新聞 2011年3月8日 地方版