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2011年3月8日(火)付

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前原外相辞任―いつまで続く泥沼か

菅直人政権は泥沼にはまり込んで、出るに出られないようだ。予算関連法案の成立のメドが立たないところにもってきて、重要閣僚の一人である前原誠司外相が辞任した。[記事全文]

前原外相辞任―外国人と政治献金

どうにも、もやもやが残る。焼き肉店を経営する在日韓国人の女性は、中学2年で父親をなくして近所に越してきた前原誠司氏を、息子のように思って付き合ってきたという。彼女からの[記事全文]

前原外相辞任―いつまで続く泥沼か

 菅直人政権は泥沼にはまり込んで、出るに出られないようだ。

 予算関連法案の成立のメドが立たないところにもってきて、重要閣僚の一人である前原誠司外相が辞任した。

 首相の窮状は言わずもがな、日本外交にとっても就任半年足らずの外相交代は痛手というほかない。

 事態を真摯(しんし)に受け止めよ、改めて政権の立て直しに臨め。同じ言葉をまたも繰り返さなければならないことが、もどかしくてならない。

 前原氏は政治とカネの問題で不信を招いたと謝罪した。法の禁じる在日外国人からの献金受領は、外相として脇の甘さを批判されても仕方がない。

 しかし、献金そのものというより、「職にとどまることで国政課題が滞ることを避ける」(前原氏)ことを重く考えての身の処し方だったのだろう。

 辞任しない場合、自民党などは参院に前原氏の問責決議案を提出する構えをみせていた。予算案の審議のさなかに問責が可決され、国会が止まることはなんとか避けたい。そんな判断があったに違いない。

 衆参ねじれの下、参院で多数を握る野党は、法案のゆくえのみならず、閣僚の進退まで左右できる。その力を再びまざまざと見せつけた。

 前原氏が辞めても、野党の政権批判が緩む気配はない。むしろ勢いづき、二の矢、三の矢を放ってきそうである。当面の標的は、主婦の年金救済問題で批判を浴びている細川律夫厚生労働相だろうか。「辞任ドミノ」と取りざたされるような惨状である。

 むろん、政権を監視するのは野党の大切な役割だ。閣僚に問題があれば、追及するのは当然である。

 ただ、政権打倒の「政局」政治に傾くあまり、国民の暮らしを犠牲にし、国益を損なうようなことがあってはならない。

 野党が目先の衆院解散を狙って対決姿勢を強め、予算案や関連法案の修正協議にいつまでも応じなければ、いずれ政府機能の停止や金利の上昇といった危機が現実になりかねない。

 事の軽重を問わず政争の具とする。あくなき攻撃と報復の応酬にふける。これでは腰を据えた政策遂行は望むべくもない。議論し、調整し、物事を決めていくという政治本来の役割の自己否定であり、空回りというほかない。

 政権を追い込めば野党の勝利という発想は、自民党政権が盤石だった時代の遺物だろう。いま野党の力は強く、政策決定に主張を反映させることも十分可能だ。それこそが勝利だと、なぜ発想を転換できないのか。

 翻って菅首相も、社会保障と税の一体改革を含む多くの懸案を与野党協議を通じて解決していこうというなら、「辞を低くする」という作法をもっと身につける必要があるのではないか。

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前原外相辞任―外国人と政治献金

 どうにも、もやもやが残る。

 焼き肉店を経営する在日韓国人の女性は、中学2年で父親をなくして近所に越してきた前原誠司氏を、息子のように思って付き合ってきたという。彼女からの年5万円、計25万円の政治献金が「国益が損なわれる」ほどのことだったのか。

 政治資金規正法は外国人や、外国資本が過半数を占める企業からの政治献金を原則禁じている。日本の政治への外国の関与や影響を防ぐためだ。

 パチンコ店を営む在日韓国人の男性は以前、こんな話をしていた。

 出店をめぐる問題などで商売柄、国会議員から市議会議員まで、どうしても政治家とはつきあわざるを得ない。金の支援は外国人からと分からぬように、献金者の記載義務がない範囲で、たとえばパーティー券なら20万円までにしておく。秘書とのあうんの呼吸だという。

 外資系企業の献金規制をめぐっては2006年、国内で上場して5年以上たっていれば可、と規正法が改正された。国際化で外資が50%超になっても企業献金できるようにしたものだ。自民党は解禁を提案したが、このときは民主党が「外国勢力が特定の意図で政治家に影響を与える懸念がある」といい、上場年数の要件がついた。

 こんな話もある。

 在日本大韓民国民団の各地の事務所には、選挙が近づくと、いろんな党の候補者が入れ替わり、あいさつや推薦依頼に来るという。もちろん、外国籍の人に選挙権はない。だが日本人と結婚すれば子どもは日本国籍も持ち、事業をしていれば日本人従業員がいる。在日の人たちが多く住む街では、無視できない存在だからだ。

 いくつかの例から見えてくるのは、日本の政治や選挙と外国人の間の線引きが実はあいまいで、政治家の都合で左右されている現実だ。

 外国人の中でも在日韓国・朝鮮人の人たちは、日本に根を下ろしてすでに3世代、4世代目だ。国籍取得の手続きや自身のルーツへの思いから、外国籍を持ち続けている。一方で、日本人と同じように税金を納め、生活空間をともにし、政治を含めた地域社会に組みこまれた存在だ。きちんと住民の一員として認めてほしいと、地方選挙権を求める運動も起きている。

 在日外国人の献金は確かに法に触れる。だが、国会や街中の議論で「外国人献金問題」と抽象化した瞬間、焼き肉屋のおばちゃんのいきさつは消し飛び、まるで国家間の諜報(ちょうほう)を論じるようだ。その間に互いに本音で話しあえる大切なものが落っこちていないか。

 今回、ことさらに「国益」をうんぬんし、「外交問題が起こった時にどちら側に立つか」と問うような批判は、当たっていたのだろうか。

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