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専業主婦の年金をめぐり、国会が揺れている。この問題を速やかに解決する必要を与野党が見失い、政争の具にし続けるのなら、国民は「決められない政治」の被害者となる。サラリーマ[記事全文]
中国は軍事費だけでなく経済力も米国に次ぐ位置を占めることになった。世界が気にせざるを得ないこの大国の行方を示す、年に1度の全国人民代表大会(全人代)が開かれている。第1[記事全文]
専業主婦の年金をめぐり、国会が揺れている。この問題を速やかに解決する必要を与野党が見失い、政争の具にし続けるのなら、国民は「決められない政治」の被害者となる。
サラリーマンの妻で専業主婦は「第3号」被保険者として、自ら保険料を払わなくても年金を受け取れる。ただし、夫が会社をやめるなどした場合、妻は届けを出して「1号」になり、保険料(現在は月約1万5千円)を納めなくてはいけない。
ところが、本人が届け出をせず、3号のままの人が数十万から100万人いることが、わかった。
放置すれば低年金や無年金の人がたくさん出るため、厚生労働省は今年1月に「運用3号」という特別扱いを始めた。直近2年間の保険料を払うことは求めるが、それ以前については3号として認めるという内容だ。
だが、まじめに届けを出して保険料を払ってきた人がいる。以前に届け出漏れが分かった人は、年金を減額されている。こうした人たちとの不公平を2月2日付の社説で指摘した。
その後、「運用3号」は、国会で繰り返し批判された。総務省の年金業務監視委員会も、総務相を通じた是正勧告を検討中だ。
安易な救済でなく、公平性や公正さを重んじるのは当然のことである。
厚労省は「運用3号」の取り扱いを停止し、法改正を検討中だ。
是正は超党派で速やかに行うべきである。直近の2年に限らず、保険料を払えるだけ払ってもらう。払えない分は加入期間として認めるが、受取額には反映させない。そうした内容なら、公平性と救済を両立できる。
心配なのは、この問題が与野党の対立の焦点のひとつとされ、解決が遠のいてしまうことだ。
野党は、民主党がかつて年金記録問題を政権交代に結びつけたことへの意趣返しを試みている感がある。政権側は追及を恐れ、誤りを素直に認めようとしない。このままでは、より公正な政策への転換がなされず、該当者の年金支給が遅れてしまう。
冷静に考えれば、与野党合意の土台はある。年金保険料の未払い分を過去10年間さかのぼって後払いできるようにする法案のことだ。昨年、民主と自民が修正合意して衆院を通過したが、参議院で継続審議になっている。
この法案に修正を施せば、新たな法案を出さず早く問題を解決できる。
「運用3号」による救済を決めた責任者は長妻昭・前厚労相だ。長妻氏は国会で経緯を説明すべきだ。
自民党も、長年にわたる与党時代に、年金記録問題を放置してきた責任は重い。与党を追及するだけではなく、よりよい解決法を主導するくらいの見識を示してもらいたい。
中国は軍事費だけでなく経済力も米国に次ぐ位置を占めることになった。世界が気にせざるを得ないこの大国の行方を示す、年に1度の全国人民代表大会(全人代)が開かれている。
第12次5カ年計画を審議する節目の大会でもある。温家宝(ウェン・チアパオ)首相は5日の政府活動報告で、今後5年の間に「経済体制の改革を大いに推し進め、政治体制改革を積極的かつ着実に行う」と述べて、政治改革への意欲を示した。
「権力が極度に集中しながら制約されていない状況を是正する」とも温首相は語り、共産党体制の根本的な問題を指摘した。
しかし、政治改革で具体的な提起がほとんどなかったのは残念だ。
中国では、当局側が開発事業のため違法な土地収用をしたり、住民に立ち退きを強制したりすることが増えている。国民と当局の衝突事件は年に10万件ともいわれる。
高速鉄道網整備にすご腕を振るってきた鉄道相が収賄と伝えられる容疑で最近解任されるなど、幹部の腐敗はますます深刻になっている。幹部の家族が権力に便乗して暴利を得る例もこれまで以上に目立つ。
これらの不正は、貧富の格差拡大とともに、国民の大きな不満だ。しかし党の指導がすべてに優先するという体制が続く限り、権力は公正には監視されまい。
だから、ノーベル平和賞を受けた劉暁波氏らは弾圧されるのを覚悟のうえで、党の独裁に反対する「08憲章」を発表したのだった。各地で起きる衝突でも党への不満が訴えられる。
チュニジアのジャスミン革命にならい、中国語で「茉莉花(モーリーホア)革命」という活動も始まった。1党体制の打破や司法の独立などを求めて、インターネットなどで集会が呼びかけられている。
きのうの日曜日は約40の都市で集会が予定されたが、当局は当然のように厳しく取り締まった。集会どころか、散歩したり、ほほ笑んだりするのも許されなかったところもあったようだ。
全人代で要人が集まっている北京は制服と私服の警察官であふれ、警備車両があちこちに配置された。国防費だけでなく、治安維持費も急増していると実感させる光景だった。
厳しい取り締まりに加えて、経済成長で増える中間層は保守的なため、茉莉花革命は実際には起きない、との見方が中国では一般的だ。
しかし、経済の高度成長がずっと続く保証はない。一人っ子政策のため生産年齢人口の増加が鈍り、2015年ごろに減少に転じると見られる。
そもそもカネとモノだけを大切にするような社会は異常である。様々な民意が重んじられ、表現の自由が保たれるのが豊かな社会だ。世界第2の大国に、ぜひそうなってもらいたい。