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(1)大型店も撤退 高齢者悲鳴

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これからどこに買い物に行けばよいのでしょう」と嘆く塩原さん(右)と小松さん=群馬県渋川市で

スーパーへ「タクシー使うしか」

 商店街の衰退に、消費の冷え込みによる大型店の撤退が追い打ちをかけ、高齢者が日々の買い物に困るようになってきた。まさに「買い物難民」という事態が全国で生まれている。その現状を伝えるとともに、地域で何ができるのかも考えたい。

 群馬県中部にある渋川市は、起伏の多い街だ。ゆるやかな坂道を縫って約20分かけ、福田茂子さん(76)は買い物にやってくる。「周りに商店が全然なくなった。車の免許がないし、宅配は冷凍物が多くて使いにくい」。背にはリュック、両手にもバッグを提げている。

 JR渋川駅近くの「渋川サティ」には、こうした年配の女性の姿が多い。「自宅から40分かけて歩いてくる」「私は30分」という人が珍しくない。「娘に心配されても、自分で車を運転して来る」という87歳の女性もいた。市内各地で小さな商店が店を閉じ、生鮮食品や日用品がそろう大型店は、中心部でここだけだ。

 そのサティが来月、閉店する。近くに住む塩原千恵子さん(70)は、片方の目を失明してから車の運転をしていない。「別のスーパーまでタクシーを使うしかないかも」と表情を曇らせた。

 同店は開業から30年近くたち建物が老朽化。「中心街の高齢化、人口流出で環境が変わり、売り上げが落ち込んだ。近年、郊外にスーパーが相次ぎ進出したことも響いた」と運営会社のマイカル(大阪市)では説明する。こうしたスーパーは中心部から2、3キロ離れ、車での来店が前提だ。

 渋川市では木暮治一(じいち)市長自ら、横浜市にあるマイカルの事務所まで出向き「閉店は市民生活への影響が大きい」と存続を要望。地元の自治会や商店街も、「踏みとどまって」という要望書を提出したが、閉店の方針は変わらなかった。

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 渋川サティが駅前に進出したころは、週末などに駐車場に入ろうとする車で周辺が渋滞した。「地元の住民がなかなか家に帰れないほどだった」と、近くでスポーツ用品店を営む小松秀司さん(59)は振り返る。

 当時、商店主らは「客足が奪われる」と反発した。実際、もともとの市の中心街で、サティから約500メートル離れた四ツ角地区では「このころから年5%ずつ売り上げが落ちた。くしの歯が欠けるように店の数が減っていった」と、書店経営の高塚茂さん(65)は振り返る。

 四ツ角には約30年前、道の両脇に100軒以上の店が並んでいたのに、今残るのは十数軒。空き地が目立つ通りに住宅が点在し、シャッターを下ろした空き店舗すら見られない。

 もちろん大型店の進出だけが商店街衰退の原因ではない。中心部の人口は10年で1割以上減り、65歳以上の高齢化率も28・7%と市の平均を上回る。それに商店自体の後継者不足も加わった。

 四ツ角のシンボルだった地元百貨店は1986年、ジャスコと提携して近郊に移転。「ジャスコ渋川店」となり、2003年に閉店した。その跡地は、市が買い取って建物を第2庁舎として利用している。四ツ角にある百貨店跡地も市が買い取り、市民が利用できる多目的スペースとして整備を進めている。

 かつて市外からも買い物客を集めた商店街の衰退を惜しみ、四ツ角周辺では商店主や住民がイベントなどを行う。「状況は厳しいが、少しでもにぎわいを取り戻したい」と、中心メンバーの小松さんらは願っている。

2009年6月2日  読売新聞)
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