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社説:日本国債 暴落を心配するのなら

 ギリシャやアイルランドのような国債暴落が、日本で起きたらどう対処すべきか--。“万一”に備えるための勉強会を自民党の国会議員が開いている。昨年末に発足したもので、財務省や日銀、民間金融機関などから意見を聞いたうえで、年度内に提言をまとめるそうだ。

 会には「Xデープロジェクト」なる刺激的な名前が付いた。市場で国債の買い手が激減し、金利が急騰して日本経済が大混乱に陥る。世界を揺さぶる。そんな悪夢のXデーが起きないよう警鐘を鳴らすと同時に、起きた時の被害を最小化する策を、今から考えておくのが趣旨らしい。

 米国の格付け会社が、日本国債の格付けを引き下げたり、見通しを下方修正する中、野党議員も危機意識に目覚め、財政健全化を急ごうというのであれば歓迎したい。だが、来年度予算をめぐる与野党対立を見るにつけ、本当に危機感を持っているのかと問わずにはいられない。

 民主党の財政再建への取り組みが生ぬるいのは自民党指摘の通りだ。税収を大幅に上回る国債発行に依存した来年度予算案も、合格点にはほど遠い。しかし、互いの非難で時間を費やすばかりでは、それこそXデーを現実に引き寄せかねない。その危険に与党も野党も気付くべきだ。

 国債の信用力とは、ほかならぬ国家の信用力である。いったん市場が疑念を抱き、売り圧力が強まれば、事態は制御不能の速さで悪化する恐れがある。欧州の例が示している。

 市場で国債が売れなくなれば日銀に高値で買い取ってもらえばいいとの発想もあるようだが、仮に効果があったとしても一時的だろう。現下では想像し難い規模の歳出削減や増税を短期間に実施し、信用を取り戻さない限り、国債価格の回復も難しいのである。

 ギリシャ政府がまとめた財政再建策に匹敵する重さの措置を、仮に日本が採るとなると、1年あたり約30兆円にもなる。それをもってでも長期金利がすぐ元の水準に戻ることはないだろう。国民の痛みは長きにわたり続く。

 日本の財政状況が先進国一悪いというのに、これまで極めて低い金利で国債を発行できたのは、消費税引き上げなどにより遠からず財政を改善できるとの信頼が市場にあったことが大きい。しかし、それがいつまでも続く保証はない。このところの格付けをめぐる動きが警告している。そして今最も注目されているのが政治の問題解決力なのだ。

 Xデーは絶対にあってはならない。起きたらどうするかを議論している場合ではない。まず予算で合意点を見いだし、早急に財政健全化で具体的進展を示すことである。

毎日新聞 2011年3月7日 2時30分

 

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