前原誠司と暴力団の影 - 貸金業者の金利規制撤廃に奔走していた
予想していた以上に速いテンポで事態が進行し、疑惑発覚から3日目の昨夜（3/6）、前原誠司が外相を辞任した。日曜の深夜に外務省で会見という異例の騒動で、逃げ足の速さに舌を巻くが、付き合わされた外務官僚も迷惑千万だっただろう。辞任は一つの責任の取り方だが、説明責任を果たす場から逃亡を図っていること、日本国の外交日程を混乱に陥れたこと、その二つの意味で無責任の誹りは免れない。マスコミ報道で解説されているとおり、傷口を広げないうちに姑息に遁走したのであり、職に止まっていれば政治生命に関わる重大な危機を招く恐れがあったのである。第一に、在日外国人献金の故意性の問題がある。「認識してなかった」という釈明は嘘だ。追及の結果、事実が判明して嘘がバレると、議員辞職しなければならない破滅に至る。第二に、暴力団フロント企業からの献金の問題がある。この件では、黒い企業や代表の名前が表に出るのを恐れ、報告書に虚偽記載をする不正を犯している。政治資金規正法違反の事件としては、在日外国人からの献金よりもずっと悪質で重大だ。この件は、まだ問題のとば口に立っているだけで、全体の輪郭が浮かび上がるのはこれからである。第三に、北朝鮮との黒い癒着の疑惑がある。おそらく、週刊誌はこの醜聞にフォーカスして取材編集しているはずで、今週号で暴露記事を書いて部数を売るだろう。
この第二の問題、すなわち暴力団フロント企業からの黒い献金について、今後どれだけ真相が解明されるか期待して見守りたいが、頭を過ぎるのは、2009年初の時期に、前原誠司が熱心に貸金業のグレーゾーン金利規制に反対して国会内外で奔走していた事実だ。この問題について、ネットの中では証拠となる情報は消去されていて、検索で拾って確認することができない。関心のある方は、「世に倦む日日」のレジまぐ版をご購入いただき、2009年8月1日の記事をご参照いただきたい。前々回も触れたが、私はこの事実を反貧困ネットの集会に参加した折、登壇した森まさこの挨拶の中で初めて知った。周知のとおり、森まさこは福島での少女期において、父親がサラ金に借金したことが原因で多重債務地獄に陥り、家族が塗炭の苦しみを味わった経験がある。苦学して奨学金で東北大(法)に進学、サラ金問題の解決のために法律を学んで弁護士になった経歴を持ち、その関係で宇都宮健児と人脈が繋がった。集会後に私はネットで検索をかけ、前原誠司のHP上にある「直球勝負(64)−なぜ政権交代が必要なのか」の記事を発見した。これは、2009年正月に前原誠司が年頭政策所見として掲載したものである。狡猾な前原誠司は、過去に自身がHP上に公開した記事を悉く削除していて、一本も検証できないように隠滅処理してしまっている。そのため、検索語を工夫してエンジンを回しても、この記事情報についてはキャッシュさえ発掘できない状態になっている。
その「直球勝負(64)」の記事には、「官製不況をもたらしている、建築基準法・金融商品取引法・貸金業法を見直します」と明記されていて、他にも、日本への海外投資を増やすだの、羽田空港を24時間運用するだの、海外からの観光客を2000万人に増やすだの、気の滅入る新自由主義政策がこれでもかと列挙されていた。これらの政策は、当時、竹中平蔵や木村剛や財部誠一が、田原総一朗のサンデープロジェクトに出演して毎週のようにプロパガンダしていた項目である。そして、菅政権の下で強力に実行されている施策である。貸金業者のグレーゾーン金利規制に対して、それへの見直しを「官製不況」の語で正当化するのは、まさに竹中平蔵の奸智なレトリックそのものだった。2008年から2009年当時の、衆参の財政金融委員会の議事録を精査すれば、森まさこが言っていた前原誠司による貸金業法規制潰しの策動の一件が、明白な証拠として出て来るかもしれない。この頃は、リーマンショック後の世界金融危機の真っ最中で、中谷巌の「資本主義はなぜ自壊したのか」を始め、新自由主義に対する批判意識が社会的に高まっていた時期である。サンデープロジェクトでの竹中平蔵と木村剛の話を聞いただけでも、その時代錯誤ぶりに呆然とさせられたし、それを番組で堂々と言わせる田原総一朗の感性にも驚愕させられたが、まさか国会で前原誠司が法改正に狂奔しているとは想像もしなかった。間違いなく、貸金業者から巨額の裏金を受け取っていたのだろう。
この時期、貸金業者のグレーゾーン金利や、それによって多重債務に陥った犠牲者を食いものにする闇金業者が、社会悪の象徴としてどれほど世間から非難され糾弾される対象だったか。彼らに与するという行為が、政治家としてどれほど悪魔的で反国民的なものか、常識で考えれば誰でも分かることではないか。特に、「国民の生活が第一」を掲げて自民党政権と対峙していた民主党の議員が、サラ金のグレーゾーン金利の回復と保障を目指して国会で奮闘するなど、絶対にあってはならない倒錯した行動である。その立場を公然とできたのは、竹中平蔵や中川秀直に連なる一部のワルだけだった。この当時、前原誠司は政治の第一線から引いて目立たない位置にあった。副代表ではあったが、党の枢要な役職に就かず、政策決定に関与する身分でもなかった。2006年に偽メール事件の不祥事を起こし、代表の座から滑り落ちて以来、前原誠司は冷や飯組で雌伏の境遇だったのである。小沢一郎が「国民の生活が第一」の路線で党を左方向に旋回させて以降、前原誠司は地下で不気味に新自由主義の毒牙を研ぐ危険分子となり、2008年5月には、同じく不遇をかこつネオリベ同志の玄葉光一郎と連れ立って、あの小泉勉強会の会席で箸をとり、小泉構造改革を絶賛して小池百合子の興を誘うという不穏な造反行動に走っていた。HPの記事を見たとき、前原誠司は隠れた場所でこんな悪事を働いていたのかと、身の震えるような憤怒と憎悪を覚えたものである。前原誠司の金脈を詳しく調べれば、確実に闇金業者（暴力団）に行き当たるはずだ。
前原誠司は、存在そのものが公共敵だと断言できる。政治生命を抹殺してやるしかない。前原誠司の辞任で、政局はさらに混迷が深まり、政権運営は先が全く見通せない視界不良の状態になった。マスコミ報道にあるように、今週は細川律夫の進退が焦点になる。年金主婦問題で集中審議をかけられたら、立ち往生で翌日には辞任会見になるか、さもなくば厚労相問責で審議ストップになり、空転したまま首相問責に雪崩れ込む情勢になるだろう。国会の主導権は自民党が完全に握り、公明党も菅政権とは何も妥協できなくなる。前原誠司に対しては、北朝鮮問題で参考人招致をかけてくる可能性がある。「政治とカネ」は野田佳彦と蓮舫に向かう。暴力団フロント企業の献金問題については、渡辺喜美の名前が上がっており、もし自民党議員の関与がなければ、自民党にとっては総選挙を控えて恰好の政治行事になる。みんなの党も叩くことができて一石二鳥。今月末までの3週間は、国会は自民党の占領地状態で、ナチス治下のポーランドやイスラエル封鎖下のガザ同然の残虐で冷酷な空間と化すだろう。2月末までの政局は予算関連法案が人質だったが、これからは解散が人質になる。菅直人は解散ができず、解散先送りと引き換えに閣僚のクビを与え続け、最後は自分のクビを差し出さなくてはならない窮地に追い込まれるだろう。自公主導で暫定予算措置となり、関連法案は新政権か総選挙後の扱いになる。内閣が機能しなくなり、内閣と官邸の存在感が消える。
自民党が畳み掛けてくる集中審議や参考人招致の要求に対して、政権は全く抵抗能力を失っていて、サンドバッグ状態でボコボコにされるか、自民党が組み替え動議で提出した89兆円の予算案を丸呑みするしかない。事実上の無政府状態だ。今後の展開として、仙谷由人が動いて、菅直人の首に鈴をつけるべく立ち回ると予想される。例えば、暴力団フロント企業の献金問題の引責を口実にして、凌雲会の野田佳彦と蓮舫を内閣から引き揚げさせる。そうなると、菅直人は万事休すで総辞職するしか道がない。それを脅しにブラフをかけ、細川律夫の首が落ちた頃合を見計らって菅直人に引導を渡しに出るだろう。そして、旧民社Gなど中間派の抱き込み工作を始め、岡田克也を後継にする臨時代表選を根回しするのではないか。前原誠司が落後し、野田佳彦も資格なしとなると、主流派は岡田克也を担ぐしかないし、それが最も中間派の支持を得る候補となる。また、菅政権と凌雲会の政策である消費税増税とTPP加盟の2本柱を継承するのも、岡田克也を首班に戴く政権しかなく、官僚とマスコミはその路線を修正なく定置することを強く求める。岡田克也は、この二つを6月に閣議決定する日程を動かさない方針で臨むはずだが、代表選とその後の動きで状況は流動的になるに違いない。代表選と閣議決定の間に総選挙をせざるを得ないからである。総選挙をしなかった場合は、民意を得ない首相が二代続く事態になり、マスコミは必ず選挙をしろと嗾けるし、全社揃って応援すると約束するだろう。
代表選には、岡田克也、樽床伸二、原口一博が出る。争点は09年マニフェストの見直しか否かで、(1)消費税、(2)TPP、(3)小沢問題が議論されるが、政策をめぐって党内は大きく割れる。挙党態勢を目指せば小沢系の主張に耳を傾けるしかなく、そうすれば、(1)-(3)の方針は微妙になる。また、(1)-(3)を菅直人と全く同一姿勢で貫徹し、すなわち凌雲会の方向で突進すれば、表紙を変えても総選挙での惨敗と下野が見えている。選挙で勝とうとすれば、(1)-(3)を現実的に修正転換し、小沢系も同意できる路線に変えなくてはならない。それが政治の常道である。だが、岡田克也は政治的に菅直人より無能で鈍感な人間で、こうした定石の判断ができない欠点がある。だから、この男は一度も選挙に勝てないし、今回の幹事長職でも選挙に負け続け、党を一つに纏められず、党勢を殺ぎ続けた。政治一般が理解できておらず、ママゴト遊びのような政治をする。政治家としての必要最低限の資質と見識を持ってない。小沢一郎から見れば、菅直人は政敵だが、岡田克也は幼児だろう。必然的に党内が混乱し、日程を目前にした総選挙を前に、政策をめぐって分裂せざるを得なくなる時が来ると思われる。菅政権の政策をそのままコピーしたマニフェストでは、どれほど事前にマスコミが高い支持率を与えても、選挙では絶対に票が入らないからだ。有権者は岡田政権を信任せず、政界再編を狙う第三勢力を台頭させ、その民意で消費税とTPPの政策に変更を迫るだろう。第三勢力がキャスティングボートを握り、選挙後にさらに政界再編を転がす。菅政権はもうすぐ終わるが、その政策路線も、あと2か月で無効になるはずだ。
