真っ暗な何も無い空間にラヴ子は胡坐をかいて座っていた。
そして考える。
それにしても参った、ここまで強いとは想定外だったわね
アタシがまるで歯が立たないなんてビックリ通り越してドッキリムッチリレベルだわ。
この実力差は流石にもぅお手上げかもしれないわね、オカマは諦め早いのよ
と、なるとバトンはあの子達に渡る訳だけど・・・・。
さてあの子達はこいつに太刀打ち出来るかしら、
うーーーーんそうねぇハム子やカツヲ達と合流出来れば何とかなるかしら
そこに冒険者達を率いたバデロン達が間に合えば・・・・・・もしすると・・・。
いやいや待って頂戴、もしあの子達がアタシの帰りを待っていたり、解体に手間取ってあの部屋に残っているとしたら・・・・?
既に満身創痍のあの子達3人では、いや・・たとえ体力全快だっとしてもこの強さは圧倒的すぎるわ・・・
とするとどうなるの?今のアタシの様に一撃すら与えられずに大男のなすがまま殺されるの?
待って頂戴!何ですって!あの子達ガ死ヌ?
そう思った時、ギルドマスターから受け取り腰に吊り下げていたクリスタルが赤く輝きだした。
【コロサレルナ】許せナい、ソレはダメだ【アキラメロ】ソレだけは阻止シナいト【ムリダ】
ここデアタシガ止めナケレバ・・・・デモ勝てナイ【イマノオマエデハナ】
【チカラガホシイカ】ええ、アタシはドウナッテモいい、チカラガ欲シイ
【ホシイノナラクレテヤル】ホシイ ドウスレバ【ネガエ】
アタシハ【モヤセ】スベテヲヤキツクス【コワセ】ハカイノ【モトメロ】チカラヲ!!!
その時クリスタルに亀裂が入り小さな赤い光の雫がポっと現れゆっくりと地面に落ちる
またたくまに地面が真っ赤に燃え出してあたり一面が火の海に。
ラヴ子は慌てて立ち上がるが足元から大蛇の様な炎が這い上がりやがて全身が炎に包まれる。
そしてどこからともなく声が鳴り響く
【ケイヤクハ カンリョウシタ スベテ ハカイシロ ソシテ ヤキツクセ】
馬乗りになっていた大男をいとも簡単に弾き飛ばし、自然と身体が起き上がり戦闘態勢を取っていた。
その様子を驚きとも喜びとも取れる不気味な表情で見つめる大男、そして真似するかの様に何度も自分で倒れて立ち上がり拳を構える。
大男『ウキケキケキキ・・・・キシャーーー!!』
そしてそれにも飽きたのか奇声をあげながらラヴ子に拳を振りかぶり飛び掛って来た。
考えるより先に身体が動き皮一枚の所で避けるラヴ子。
大男から拳に膝や肘打ちも交えた怒涛のラッシュが襲い掛かるがどれもクリーンヒットは無く
ラヴ子は殆どの攻撃を上半身だけの動きで避け、避けきれない分はガードで捌き切る。
そしてごく自然に肘を突き出しかと思うとそのエルボーが大男の鳩尾にカウンターで深々と入り
驚いた事にその当たった部分が鍛冶ギルドで使用する熱したコテを押し当てた様にジュッと焼け焦げた。
肉の焼ける嫌な匂い。
大男『グォァ』
そこで初めて大男の顔が苦悶の表情に歪んだ。
ぼんやりとした意識の中、一体何が起ったか理解出来ていないラヴ子だったが自らの身体に強い違和感を感じていた。
ラヴ子の赤い瞳はより一層赤く輝き、黒い肌は硬質化し体中の血液が全てマグマに置き換えた様な感覚で焼けるように熱い。
その体躯も一回り以上大きくなり、それにより岩の様に変化した肌は急激な速度で進行する肉体の変化に追いつけずところどころひび割れだしていた
そして身体の奥底から湧き上がるドス黒くうねる様な憤怒と憎悪の感情、そして燃え滾る破壊衝動が
噴火直前の溶岩ドームの様にみるみる膨れ上がり爆発する。
そしてそれはラヴ子の意識を一層混濁させている。
この現象は過度の疲労状態が続く中、激しい負の感情の起伏が一度に押し寄せた為、
通常時は深く抑え込んでいたミコッテ希少種であるガイアイーターの生きる為の野生の本能が
ギルドマスターから受け取ったクリスタルに宿っていた炎の魔人と呼応し肉体と精神を支配し始めたのだった。
激しい感情や生存本能だけで目覚める程度の野生であれば通常時より数倍程の力が出る程度で、しばらく時間が経てば治まるのだが
クリスタルの魔人の力が加わった事により強大な力を手にする事が出来た。
しかしその代償にラヴ子の人格は心の奥底にある奈落の中の牢獄に一歩ずつ追いやられ、その牢獄に完全に囚われた時
変化は加速し最終的には紅蓮の炎を纏い怒りのままに破壊し尽くす鬼神(オーガー)そのものなる。
大男『ガガ・・クヒィ?!dオウイウkトダ・・ガァァァァァ』
弱りきっている相手に自分が思う存分攻撃をしていたはずなのに何故こちらがダメージを受けている事を理解出来ていない大男が
意味不明な言葉を叫びながら更に攻撃を仕掛けたが、拳が命中する直前でラヴ子が視界から一瞬にして消えた。
そして次の瞬間、後頭部に激しい衝撃を感じ地面にそのまま叩き付けられた。
大男『ウグゥg・・・』
砕けた床石に埋まった顔を上げると目の前には勢いを増したラヴ子の両膝が迫っていた。
倒れた大男の両肩にラヴ子が置いた手を支点に逆立ち状態になり両足を振り子の様に振り上げたかと思うと
その顔面に向けて両膝を一気に振り下ろしていた。
ボグッ!っと石材を割る様な鈍い音が鳴り大男の顔面が焼け焦げ膝がめり込む。
ぐったりとしている大男の後頭部を鷲掴みにし床に数回叩きつけた後
そのまま砕けた床に押し付けたまま走り出すラヴ子。
その間にも徐々にラヴ子の肉体は変化しておりそのこめかみからはまるで雄牛の様に捻れた漆黒の角が生え出していた。
肉体が変化するに連れ益々意識が混濁し憤怒と憎悪の支配が強まっていく、既にラヴ子の元の人格は殆ど失われており
沸き起こる破壊の衝動と本能だけで行動していた。
そして片手で大男の身体を高々と持ち上げ渾身の力で壁に投げつける。
壁にめり込む程の勢いで激突した大男、その衝撃で砕けた壁の破片が四方に飛び散った。
ラヴ子『ウグゥゥゥウボァァァァァ!!!』
飢えた獣の様な雄たけびが部屋中に響きわたる。
その振動によって至る所の壁や柱が崩れ落ち
近くに置いてあった書物はその灼熱の息により燃え上がる。
炎の魔人イフリートに支配され
荒れ狂う鬼神ラヴ子の第一声であった。
続く
2011年03月03日
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