2011年02月25日

ある日オカマに訪れる危機 其の漆 恩返し

〜ロストユー地下道〜
距離的にはそれ程無かったがとにかく時間が惜しかった。
この1分この1秒の差で二人の生死が決まるかもしれない、そう思うと
少しでも早くその場所に辿りつく為に走らずには居られなかった。

節子『着いた!ここです。あれ?開かない。あれ?』
地上へ繋がる隠し扉に細工がしてある様だ、
おそらく悪さをした節子を閉じ込める際に逃げ出さない様に作っていた仕掛けが作動しているのであろう
さすがカズママだ。しかし今回はこれが邪魔をする。
ラヴ子『そこどきなさい、ふんぬらばっ!』
力を込めて扉を持ち上げる・・・・・・鈍い音がして暗い通路に店内の薄暗い照明が差し込む。
そして一緒に外からの空気も流れ込んでくる。
乾いた血特有のツンとした鼻につく嫌な匂いがする。

持ち上げた扉の隙間から節子がするりと飛び出し我先にと外へ走り出す。
その後を追ってラヴ子も外に出た。
日はすっかり落ち辺りは真っ暗だったが次第に目がゆっくりと慣れてきて
視界に飛び込んできた光景を見て驚愕した。

ラヴ子『これは・・・・・何なの?』

確か記憶では店の前は綺麗に舗装された広場のはずだった
しかし今、目の前に広がるのはあちらこちらに散らばる折れた石柱と砕け散った床石の残骸。
そして大量の血跡
そして何より驚いたのが目の前に積み上げられた亡者達の山だった。
すぐに山の向こう側から節子の声にならない声が聞こえた。

節子『・・・!!・・・・!!!』
駆けつけたラヴ子が見たのは
背中合わせに座り込み動かなくなったカズママとおけいの姿だった。
狼狽して何を言っているか解らない節子を跳ね除け
すぐさま胸に耳を当て心音を確認する・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・ン・・・・・トクン・・・トク・・・・トク・・ン

大丈夫、まだ微かに息がある!二人ともまだ何とか生きている。
しかしその生命の火は驚くほどに弱々しく今にも消えかけようとしているのがラヴ子にも理解できた。
時間が無い、そして置かれた状況は決して良くは無い。
その事を節子に伝え、一刻でも早く二人を治療しなければ、そう思い二人を担ぎ上げて運び出そうとしたその時
蠢く気配を感じて周りを見回すと既に多数の亡者達に囲まれていた。
ラヴ子『こんな時に・・・本当に空気の読めない子達だわ』
1人であればこれ位の数は何とかなる、しかし今は両肩に瀕死の二人を抱えている状態。
かといって小柄なミコッテの節子に何とかおけいは運べても、もう1人運ぶのは明らかに無理だ
ましてや大柄なハイランダーのカズママを背負って走り続ける体力があるとは考えがたい。当然そんな状況を奴等が見逃すはずはない。
まさに絶対絶命とは今の事を指すのだろう。しかしこの状況をどうにか突破しなければ二人を助ける方法は無い。
すると節子が何かを決心した様に口を開いた。
節子『ママ、二人をお願いします。私が突破口を何とか・・・いや必ず開きます。』
ラヴ子『節子・・・言いたい気持ちはわかるけど、貴方この数と闘った事あるの?無理よ』
節子『私は今まで先輩やおけいに守られて頼りっきりで、二人の背中ばっかり見てきたんです、だから今しか・・・こんな時とか命懸けで恩返し出来ないんです』
その目に涙はすっかり消えていて今まで見たどんな時よりも強くそして透き通っていた。
ラヴ子『・・・・・聞きなさい、あそこから細いスロープになっているわ、そこなら一度通り抜けさえすれば一度に襲い掛かってくる敵の数もしれてるわ
アタシの経験上二人を守りながらここを突破をするならそこしか無いわ、よくって?』
節子『あいっ!』
にじりよってくる亡者達、大きく息を吸いラヴ子の雄叫びを合図に共に走り出す
そして一斉に亡者達が襲い掛かってきた。
ラヴ子『ぉぉぉぉおおおおおおおう邪魔よ!!どきなさい!!!』
二人を抱えている為、両手は使えないが足だけで亡者達を次々に蹴散らしていくラヴ子。しかし数が多いためすぐに追いつかれてしまう。
肩に担いでいるおけいに止めを刺そうと飛び掛る亡者。

節子『ブォーーーー』
ミコッテの中でもサンシーカーと言う種族は、集中力を最大限まで高め、身体能力を限界まで引き出した時、通常時の数倍の肺活量になる為、法螺貝に似た音を発する呼吸法になる。
節子はまさに今その状態にまで高まっていた
複射準備を既に終え構えた弓から次々と放たれた3本の矢が空気を絡ませながら飛びかかろうとしていた亡者の同じ部分に深々と突き刺さる。
そして刺さっても尚、威力は衰えず回転をし続けその螺旋は亡者の体全体をも風車の様に回転をさせながら近くに居た他の亡者を巻き込んで吹き飛ばす。
しかし更に別の亡者が今度は反対側のカズママに襲い掛かる。
節子『ブォーーーー』
感覚が研ぎ澄まされ狙うべき敵だけに焦点が合う。
間髪入れず次の矢を番え今度は猛者の一撃を込めた矢を最大限に引き絞りそして放つ。
まるで狼の様な唸りをあげた矢が亡者の脇腹に刺さる。いや正しくはえぐる様に命中し先程と同様に吹き飛ばす。
ラヴ子『そのまま前方にクイックノック!突破口開くのよ!』
耳をピクピクと動かしラヴ子の声を聞くと言われるがままに動きを最小限にまで抑え脅威の速度で矢を番え連続した5連射、その矢は全て前方に待ち構えていた亡者達に命中し
そして突破口となる一本の細い道が出来た。
スロープまであと数メートル、二人はようやく見えた一筋の希望に向かって、次々と襲い掛かる亡者達の中を全力で走り抜けた
節子『フゥフゥ、フゥフゥ、うぁっ!!ズザザザザー』
しかし慣れない呼吸法で一気に疲労が押し寄せ、一瞬速度が落ちた節子の足を亡者の攻撃が捕らえた。そしてそのまま前のめりに転んでしまう。
ラヴ子『馬鹿あとちょっとよ、待ってなさい今行くわ!!』
節子『そのまま走って!立ち止まっちゃダメです!!』


・・・・・うん、これでいいんだ。
いっつも駄目な私がここまでやれたのは多分今この場所で死ぬから。神様が同情して誰かを守る力をほんの少しだけご褒美として私に分けてくれたんだ。
ここまで来れれば後はラヴママが居るからもう大丈夫だな。これで先輩とおけいは助かる。
だったらもう思い残す事は無いや、あぁそういえば先輩の大事にしてた食器割っちゃって棚に隠したままだったなぁ
見つかったらまた吊られるだろうなぁ・・・あ、そうかここで死ぬからもう吊られる事も無いや
えへへ私って本当に馬鹿だな・・・・でもいいや。あの二人に恩返し出来たし短い人生だったけど、それでもいいか・・・・・

覚悟を決めた節子が目を閉じてそのままその場にうずくまろうとする。

ラヴ子『そこで諦めるからっ!アンタはいつまで経ってもっ!馬鹿節子なのよぉぉぉ!!!』
戻ってきたラヴ子が蹴撃のモーションでそのまま節子を高く蹴り上げた!!
節子『いいとこだったのに何でぇソレぇぇぇ?』
一気に現実に戻されて空中高く舞い上がった節子にラヴ子が叫ぶ
ラヴ子『その高さなら矢番える時間あるでしょ!!
何の為の範囲WSだと思ってんの!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
その一言で諦めず生きる事に目が覚めた節子はバランス感覚が抜群のミコッテらしく空中でクルリと一回転し渾身の力を込めて弦を引き絞った
全身の筋肉が悲鳴をあげているのが解る、嗅覚なんかとうに無い、耳も殆ど聞こえないし正直目もあまり見えていない
ただ体の中の一番深い場所で燃え滾る狩猟民族の本能だけが節子の体を動かしていた。
そして大きく深く息を吸い込んで、吐き出す。

節子『ブォォォーーーーーーーーーーーー』
節子のアローヘリックス
その場で飛び上がり自分を中心とした範囲に複数の矢を曲撃ちする弓術師の技、通常ではせいぜい数メートルの範囲だが、ラヴ子が蹴り上げた事でいつもより数倍の高さから放つことになり
結果、丁度自分の真下で囲まれているラヴ子達を除くドーナツ状の範囲全体に矢が降り注いだ。
そして狙ったのか運が良かったのか全ての矢がクリティカル。亡者達を一掃する事が出来た。嘘みたいだが事実だった。
ラヴ子『うん、まぁ合格点ってトコね』
節子『えへへー・・・・ぶぎゃ』
精神力、集中力を全て使い果たしたまま落下した為、着地に失敗する節子。
ラヴ子『さぁ急いでギルドに戻るわよ』
二人はそのまま冒険者ギルドへ向かった。
フラフラになりつつも何とか走りながら、ふと担がれているカズママとおけいの顔を見ると
『まだまだよ、フフ』『だなw』と声が聞こえた様な気がした。

〜ロータノ海沖〜
海上には似つかわしい二つの小さな影が海面を滑る様にリムサ・ロミンサへ向かう
半蔵『ほぅーほーぅ、こりぁ快適じゃわい』
ロッティ『あい、潮風がとても気持ちいいです』
トニ子『ヨカッタ、久々に収穫以外で感謝されてトニ子感激』
2人のララフェルはトニ子の背中に乗り海を渡っていた。
ヴォーゼルフは海の職業を生業とする。なので一般的に泳ぎが得意なルガディンではあるが
トニ子のそれは既に哺乳類の泳ぎと言うレベルでは無く敢えて例えるなら生涯泳ぎ続ける回遊魚のトゥーナに近かった。

半蔵『しっかし、滅多に陸に上がらぬお主がよくあんな場所に居たもんじゃのぅ?』
長時間走り続けた上、藁の中でも必死にもがいた為、またお腹が空いたのか半蔵から与えられたアルドゴートの干し肉を美味しそうに頬張るロッティ。
ロッティ『あい、助かったのです。はのまま(クチャクチャ)藁の中ふぇ(クチャクチャ)一生過ごふのかと思いまふぃた(クチャクチャ)』

トニ子『いつもは頻繁に通るはずの定期船がぱったりと来なくなって、収穫に来るはずのラヴママもいつまで経っても来ないから
これはチャンs・・・これは何かあったんだと思ってウルダハへ向かう途中だったのね、そしたら見覚えのある可愛いララフェルちゃん達が困ってるから・・・』
半蔵『ほれほれ、ロッティ殿、ゆっくり食べるんじゃ。ああ!すまんすまん。なるほど、あそこで会えたのも何かの縁じゃなぁ、こうして海も渡れとる訳じゃしのぉ』
トニ子『ところでリムサには何を?ひょっとして魚介類の新しい調理法がっ?』
半蔵『いやいや、それはじゃなぁ、ロッティ殿から説明を・・・・』
突然話を振られて、干し肉を食べる手を止めてロッティは語りだした。
ロッティ『はふぃ、あのですね』


続く
posted by ラヴ子ママ at 11:15| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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