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【朝日社説】 2006年10月03日(火曜日)付
歴史認識 もう一歩踏み出しては
安倍首相が初めて臨んだ衆院代表質問での答弁で、先の大戦での日本の「侵略」や「植民地支配」をようやく認めた。
日本がアジアで行った戦争をどう見るか。総裁選を通じて、安倍氏は「歴史家の判断に任せるべきだ」と述べてきた。
戦後50年の95年、日本の植民地支配と侵略への反省と謝罪を表明した村山首相談話についても「精神は引き継ぐ」と言いながら、安倍内閣で踏襲するかどうかの明言は避けてきた。
「自虐史観」を批判してきた安倍氏である。進んで「侵略」を認めることには抵抗感があったのだろう。だが、国政を預かる身になれば、そんなあいまいな態度では通らないことは自明だった。
民主党の鳩山由紀夫幹事長の質問に対し、村山談話や戦後60年の小泉首相談話を引きながら、こう認めた。
「政府の認識は、わが国はかつて植民地支配と侵略によって、多くの国々に、とりわけアジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えたというものである」
これは、鳩山氏や国民だけでなく、北京やソウルにも向けられた発言だ。首相は近く、中国と韓国を訪問する方向で日程を調整しているという。その環境づくりのために、歴史認識の基本では村山内閣以来のものを踏襲するとのメッセージを送りたかったのだろう。
小泉前首相の靖国神社参拝で途絶えてきた隣国との首脳往来が復活するのなら、私たちも大いに歓迎したい。中国、韓国との関係を修復し、行き詰まっているアジア外交を正常化させる。これが安倍政権にとって最大の外交課題であることは明らかだ。
初めはあいさつ程度の出会いであったとしても、首脳同士の信頼関係に発展させるきっかけにすべきだ。経済などで利害がぶつかり合うことが少なくない隣国関係では、そんな信頼こそが支えになるからだ。
しかし、果たしてそこまで期待できるかと言えば、なお大きな懸念がある。
安倍氏の答弁は「政府の認識」を述べたものだ。しかし、「首相としての安倍氏の認識」はどうなのだろうか。
歴史の評価を問われると「政治家の発言は政治的、外交的な意味を持つ。謙虚であるべきだ」と逃げる。政府としての認識と安倍個人は別、と言わんばかりの姿勢で、信頼関係など築けるものなのだろうか。
焦点の靖国問題では「参拝するか、していないかについて宣明するつもりはない」と、相変わらずのあいまい作戦である。A級戦犯の国家指導者としての責任についても言葉を濁した。
今回の首脳会談に限って言えば、それでしのげるのかもしれない。だが、火ダネは残ったままと言わざるを得ない。
隣国の信頼を得るには、首相が自らの言葉で日本の過去について語る必要がある。安倍氏には歴史から目をそむけず、謙虚で率直な発言を求めたい。