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【放送芸能】

前向きシナリオに栄冠 米アカデミー賞作品賞 「英国王のスピーチ」

2011年3月1日 朝刊

 ロサンゼルスで2月27日(日本時間28日)に行われた第83回米アカデミー賞の発表・授賞式。作品賞に選ばれたのは「英国王のスピーチ」(トム・フーパー監督)で、エリザベス英女王の父・ジョージ6世が、吃音(きつおん)を克服する物語。映画評論家の矢崎由紀子さんと受賞の要因を分析してみた。 (小田克也)

 ■ 対決 

 作品賞は、最多十二部門でノミネートされた「英国王〜」と、前哨戦といわれるゴールデン・グローブ賞などを受賞した「ソーシャル・ネットワーク」(デビッド・フィンチャー監督)の事実上の一騎打ちだった。

 「英国王〜」は、英国王のジョージ六世(コリン・ファース)が主人公。兄が恋に溺れて王位を捨てたため、一九三六年、望んでもいなかった王の座に就く。

 吃音で、人前でしゃべるのが苦手。だが妻やスピーチ矯正の専門家・ライオネルに助けられ、ナチス・ドイツとの開戦に際して、不安に揺れる国民に感動のスピーチを届ける。実話に基づく作品だ。

 一方、「ソーシャル〜」は、世界最大の交流サイト「フェイスブック」を創設した青年の話。若くしてネット社会を制覇するが、その後仲間から訴えられるなど、成功と挫折を描いている。

 ■ 明暗 

 矢崎さんは「両作品ともテーマはコミュニケーション。『英国王〜』は、国王が国民やライオネルと心を通わせていく前向きな話。だが『ソーシャル〜』は、友人を失うなど終わり方がネガティブ。やはりオスカーは前向きな話が好きなのでは」と“勝敗”の要因を分析する。

 「英国王〜」では、ジョージ六世がライオネルの診察室にこもって特訓に励む姿が描かれる。矢崎さんは「国王が決して人前では見せない姿を、ファースは想像力で補い、提示してみせた」と指摘。アカデミー賞は俳優らの票がものをいうが、ファースの見事な演技を同業者が高く評価したのは間違いなさそうだ。

 「ソーシャル〜」が題材としたフェイスブックは、最近の中東情勢の中で反政府デモの呼び掛けに使われるなど政治色が強くなっている感があり、矢崎さんは「アカデミーがこの作品を評価すれば、誤った政治的メッセージを発信することになりかねない。そうした判断も働いたのでは」と推測する。

 ■ プロ 

 「英国王〜」はイギリスとオーストラリアの合作。米国の映画会社ワインスタイン・カンパニーが北米配給を担当し、創設者のワインスタイン兄弟は作品の製作総指揮に名を連ねている。

 同社は、ケイト・ウィンスレットに第八十一回の主演女優賞をもたらした「愛を読むひと」などの製作・配給を手掛けてきた。オスカーの“根回し”は得意とするところで、受賞に際しては同社の果たした役割も大きかったようだ。

 今回、監督賞を受賞したトム・フーパーは英国出身。同国のテレビ界でキャリアを積んできた。米国映画界とはほとんど縁がない。アカデミーがそうした人物に監督賞を出したのは、映画業界への貢献度よりも純粋に作品を評価したといえ、矢崎さんは「アカデミー賞の傾向に変化が見られる」と話している。

 

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