県が医師確保策の一環として今春から導入する総合医育成制度「いわてイーハトーヴ総合診療医育成プログラム」が、苦戦を強いられている。昨秋から参加医師の募集を始めたが、いまだに応募がないのだ。原因に、日本の医療システムにおける総合医の位置付けが明確でないことが挙げられ、医師が参加に二の足を踏むのだという。医師育成に取り組む他の自治体も同様で、頭を抱えている。現状を取材した。【湯浅聖一】
プログラムの対象は、初期臨床研修(2年)を終えた研修医や、専門医から転向を目指す医師。3年間の研修期間中は県職員として採用される。内科全般に対応し、専門医を補完する「病院型総合医」と、地域病院で保健・介護・福祉まで担う「地域包括型総合医」の2コースがある。それぞれ基幹病院と地域病院が連携して必要な技術を習得させる。
総合医には、初期診療に対応できる幅広い技術とともに、症状を診て専門病院や開業医などへ引き継ぐ能力が必要だ。プログラムで「病院型」を担当する県立中部病院(北上市)救急総合診療科の曽根克明内科長(47)は、「総合医が増えれば専門医の負担も減る。高齢化と医師不足が深刻な岩手のような地域こそ、総合医が必要だ」と強調する。
県は10年10月から参加医師を募集しているが、3月に入っても応募はない。県医療推進課の佐々木亨・地域医療推進担当課長は「いくつか問い合わせがあったので、興味を持っている人はいると思うのだが」と話す。
他県でも状況は同じだ。最も進んでいる千葉県でも08~10年度に1人ずつしかいない。昨年度から導入した香川県は応募がなく、11年度は1人が予定しているという。医療国保課の山崎卓美主任は「医学界で総合医の位置付けが明確でないことが一因。何を目指すのかを決めかねている」と実情を吐露する。
厚生労働省は07年、総合医が地域医療の窓口となって初期診療を担う「総合医構想」を打ち出した。しかし、開業医中心の日本医師会は患者の医療機関選択の機会を奪い、会員の診療報酬減少につながると反発し、議論は棚上げになっている。そのため、総合医が専門分野として認知されていないのが現状だ。
日本医師会も総合医の必要性は認めており、独自の認定資格制度の創設を検討しているという。中部病院の曽根内科長は「総合医を希望する医師はいる。だが資格がないと将来的に不安になる」と医師の心情を代弁する。
こうした中、千葉県の総合医3人を育成している県立東金病院は、日本内科学会や日本プライマリ・ケア連合学会の認定医、日本内分泌学会の専門医資格が取得できるプログラムを作成した。医学生へのPRとも合わせ、一定の成果を上げている。
曽根内科長は「岩手は奨学金制度と絡めるなどもしなければならないだろう」と指摘。プログラムを含めた総合医に対する魅力づけの必要性を訴える。
毎日新聞 2011年3月6日 地方版