チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26341] 【ネタ・習作】デジモン×ポケモンアドベンチャー 蘇る雷神龍伝説(デジモンアドベンチャー02×アニメ版ポケットモンスター)
Name: ピエロ◆dc9bdb52 ID:a1016b2d
Date: 2011/03/06 20:03
ただ今パソコン越しにこの画面を見ている皆様方。
初めまして、ピエロと申します。以後お見知りおきを。

今回私めが投稿させて頂く作品はデジモン02とアニメポケモンのクロスssとなります。時系列は02側はデーモンを暗黒の海に幽閉してすぐの辺り、
ポケモン側はウバメの森を抜けた辺りからスタートとなります。
一見ありそうで意外とssが無いことを最近知ったこの組み合わせ。なら自分で作ってしまえと考えたのが事の発端であります。
ちなみに、同じようにあると思ってたら意外と無かった組み合わせにJOJO5部×REBORN、ガンダムseed×00、ゼロの使い魔×ハリー・ポッターシリーズ、等があったりします。
 
さて、余談はこの辺りで止めておきましょう。
何分拙い文章力ですが、画面の先の皆々様方のお眼鏡に少しでも叶えば願ったりです。
それでは、どうぞ本編の方へ。

※3/5 第二話投稿+一部修正しました。といっても、修正部分はほんの一、二語なのでお気に留めないでも結構です。
 
※3/6 デジモン側原作との釣り合いにより第一話および第二話を一部修正。今後の進行に関しては特に支障はありませんので、これからも本ssを続けさせて頂きたく思います。詳しくは感想の方にて。
 私めの不手際で皆様にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。今後も本ssをよろしくお願い致します。



[26341] 第一話
Name: ピエロ◆dc9bdb52 ID:a1016b2d
Date: 2011/03/06 20:07
 青々と生い茂る森林の葉と、額に着けたゴーグルのスモークグレーのレンズを輝かせる太陽の方を茫然と少年は見上げていた。
 青を基調としてファイヤーパターンの模様が描かれたボア付きジャケットとクリーム色の短パンを身に着け、無造作かつ四方を向く短髪を薄らと汗濡らしたその少年は、背を折ってとぼとぼと覚束ない足取りで歩いている。疲労し切って犬のように舌を出している事も含めて、さながら墓から蘇ったばかりのゾンビのようにも見える。

「なぁ~、ブイモン~」

 太陽の方を向いたまま、少年が誰かに声を掛ける。
 その気だるげな声に反応し、やはり気だるげな声が少年の右隣から返って来る。

「なぁに~?」

 少年の周りに人間はいない。その代わり、少年と同様に舌を出して太陽を見上げながら歩く生物が少年の隣にいる。
 全身がほぼ青一色で口周りと腹が白いその生物の背は少年の腰より少し低い程度で、後頭部から稲妻形に折れ曲った角のような器官が一対伸びている。少年のものより一回り大きい頭部の上半分を占領する赤い大きな目は少年と同様に疲労の色を帯びており、その足取りもやはり少年のそれと同様に幽鬼が彷徨っているようにしか見えない。

「腹減ったぁ~」

「俺もぉ~」

 ブイモンと呼ばれたその生物が間延びした返答を返すと共に、少年とブイモンの腹が同時にグルグルと鳴る。その間の抜けた合唱に少年とブイモンが、やはり同時に顔を俯かせて深い溜め息を吐く。
 何で俺達こんな目に遭ってんだろ?
 一向に終わりの見えない土肌の道を見てウンザリしながらそうごちた後、いよいよ朦朧としてきた頭の中で少年――本宮 大輔は事の発端の回想を始めた。



 デジタルモンスター。縮めてデジモン。
 生物のデータが実体化することにより生まれる彼らが住む世界はデジタルワールドと呼ばれる仮想空間で、そのデジタルワールドの安定を望む者により、不具合の修正のために選ばれた大輔のような人間は選ばれし子供達と呼ばれる。
 最初はただ、そのデジタルワールドに行こうとしていただけだった。
 暗黒の種と呼ばれる物質を求めて現実世界に現れたデーモンを暗黒の海へ幽閉し、その後世界を闇に統一、支配しようとしたベリアルヴァンデモンを倒したことで、立て続けに起こったデジモン絡みの騒ぎもようやく一段落着いたので、久々に遊び目的でデジタルワールドに行って羽根を伸ばそうという話になったのだ。そこで、ニューヨークの家族の下に戻っていた太刀川 ミミとセンター試験が近づいてきた城戸 丈の二人を除く、1997年の選ばれし子供達と2002年の選ばれし子供達(以後、前者を旧選ばれし子供達、後者を新選ばれし子供達とする)、およびそのパートナーデジモン達がお台場小学校のパソコン室に集まった。

「よぉし、皆集まったわね。それじゃ……デジタルゲートオープン! 選ばれし子供達、出動!」

 いつもデジタルワールドに行く時と同様、6年生で新選ばれし子供達の最年長である井ノ上 京の号令と共にデジヴァイスをパソコンのディスプレイ前に掲げる。そうしてディスプレイが発光し、一瞬の吸い込まれるような感覚の後、その光が収まる頃には彼らはデジタルワールドに転送されているのだ。本来ならば。
 ところが、今回は少し違った。
 ディスプレイが発光して吸い込まれるような感覚が発生するまではいつも通りだった。しかし、いつもならすぐに晴れる筈の光がなかなか消えず、更には振動するような妙な感覚も走った。
 そのいつもとは違う状態を不審に感じ始めたところで、視界を覆っていた光が消えた。
 そして光が消えてすぐ大輔の目に入ってきたのは、幾何学的なものを感じさせるデジタルワールドのそれと真逆と言っていい、むしろ現実世界のそれに近い青い空とそこら中に広がる深緑の森林が彩る自然。そして、共に転送されて傍らに立つブイモンと自分を取り囲み、両の前足に付いた大きく鋭利な針を自分達に向ける人間大の巨大な蜂の群れだった。



 その後、問答無用で一斉に襲いかかってきた蜂達にブイモンを進化させて応戦することも忘れ、どうして襲われなければいけないのか分からないまま、大輔はその場からすぐに逃げ出した。そのまま、かれこれ3,4時間ほど逃げ回ることで蜂達は撒く事が出来たのだが、今度は朱色の胴体に紫と黄色の線が入った、見るからに毒々しい巨大グモの群れに極太の糸を吐かれ、それからも逃げ切ったかと思えば今度は頭から湾曲した二本角を生やして、口から炎を吐く黒色のドーベルマンの群れに襲われ、結局戦闘はおろか物を食べる事も忘れて、朝まで見た事も無い生物達から逃げ回るハメになった。
 結果、碌な睡眠も取れず、碌に物を口に入れないまま、丸い胴体に時計の針のような隈取りを付けた梟らしき生物のホーホーという鳴き声が聞こえる頃には、大輔とブイモンはすっかり疲弊し切っていた。
 ようやく落ち着けた二人は、眠気も足の痛みも押し退けて激しい自己主張をする腹の減りを抑えるために食糧探しに出たが、数個の木の実を見つけただけで腹の足しになりそうなものは未だに口にしていない。更に、クリスマスを終えて正月を迎えていた現実世界とは真逆に、これまた太陽が素晴らしいまでに自己主張して夏かと見間違うほどに気温が高く、そこそこ冬の環境に慣れてきていた二人の体力を容赦無く奪っていく。
 そうして、陽炎が漂う森林と土の道の中、どうしようもない腹の減りと喉の渇き、身体の節々の痛みと猛烈な眠気にギリギリのところで耐えながら、まともな食糧を探して彷徨い、今に至るわけである。

「「……腹減った~ぁ」」

 懇願にも似た大輔とブイモンのぼやき声が重なり、続いて腹の音が再びシンクロして響く。彼らのこの悲鳴も、本日すでに34回目である。
 ところで彼らには疑問がある。

「あのハチとかクモとか犬ぅ、何だったんだ~?」

「知らな~い、あんなデジモン見たことな~い」

「つ~かぁ、アイツらデジモンなのかぁ~」

「知らな~い」

 まずは自分達を襲った生物達のことだ。夜明け頃に見た梟のような生物も含めて、現実世界はおろかデジタルワールドでもあんな生物達を二人は見た事が無い。
 とはいえ、二人ともどのようなデジモンが存在するかを全て知っているわけではない。恐らく、今まであった事の無いデジモンなのだろうと二人は踏んでいた。

「そもそもぉ、ここドコだぁ~?」

「知らな~い」

 それに“この場所”だ。デジタルワールドは現実世界のコンピュータ・ネットワークから送られる情報などを基に作られた世界で、その基盤となる情報が伝達されるまで欠損する関係から、現実世界、つまり人間界では有り得ない事象(荒野の真っただ中に存在する自動販売機、奇怪な色に染まった空等)が何かしら起こっているのが普通である。ところが、最初に訪れた森林から今彼らが歩いている道まで、前述の奇妙な生物達の存在を除いて、これといった異常は見られなかった。まるで、現実世界の田舎にでも迷い込んだかのような感じだったのだ。
 しかし、今の大輔の服装はデジモンワールドに転送された際に自動的に着替えさせられるそれであり、例の生物達の事も含めて現実世界の田舎というのは有り得ない話だった。恐らくデジタルワールドの、今まで来た事の無いどこかのエリアに飛ばされたのだろうと二人は踏んでいた。

「つ~かぁ、皆どこ行ったぁ~?」

「知らな~い」

 そして更に気になるのが、共にデジタルワールドに転送されたはずの他の選ばれし子供達のことだ。デジタルワールドに転送されると、基本的に選ばれし子供達はある一カ所の地点に全員纏めて転送される。ところが、今回大輔が転送された場所にはブイモンしかおらず、他の選ばれし子供達はおろか、そのパートナーデジモンさえ誰一人としていなかった。
 また、大輔を含めた新選ばれし子供達が持つ新型デジヴァイス――D-3の名称で呼ばれるようになったそれは他のデジヴァイスの信号をキャッチして位置を確認することが出来るのだが、どういうわけか今のところ反応が無い。更にメール機能を搭載した携帯端末Dターミナルもどういうわけか電波状況が圏外になっており、メールの送受信が出来なくなっている。
 つまり、他の選ばれし子供達の居場所も状況も知る方法が無く、また大輔とブイモンも見た事の無い生物が存在するエリアで孤立状態になっているということである。これは考えるまでも無く危険な状態であり、早急に事態の回復を図らなければならない状況である。
 最も、そんな重大課題さえも今、大輔とブイモンは頭の隅に置いていた。
 否、置いておかざるを得ない。何故ならば、そんな問題よりも更に深刻で早急な対応を施さねばならない問題に直面しているからだ。

「「……腹減った~ぁ」」

 ずばり、空腹である。
 更にいえば喉の渇きも、である。
 仲間の心配や危険な状況を置いて考えるべきことか、と第三者がそんな彼らを見れば文句や叱咤の一つでも言いたくなるかもしれない。だがしかし、他の選ばれし子供達を探すにも、危険な状況を回避するにも、まず先立つ物が必要だ。
 そして、一晩中森林の中を逃げ回り、熱い光を送る太陽に晒されている現状の大輔達にとっての先立つ物は空腹と乾きを満たす食糧なのである。
 最も、少々残念なことに大輔とブイモンの食糧探しは仲間の心配と状況回避の問題を解決するために仕方なく選んだ手段というわけでは無く、純粋な動物的本能から起こした行動であるのだが。

「「……腹減った~ぁ」」

 そしてその成果は未だに実らず、二人の36回目のぼやきが腹の音と再度シンクロする。
 かれこれもう何時間経っただろう? 太陽はすっかり南中し、二人の頭は覚醒と半覚醒をしきりに繰り返す危険な状態に入っており、ほぼ無意識で「腹減った」の台詞を喋り、足腰を立たせる事でどうにか歩いている状態である。
 つまり、このどちらかの行動が取れなくなった時、二人は限界に達し、歩みを止めざるを得なくなるといえる。そして、その時はすぐにやってきた。

「「……腹減っ」」

 37回目のぼやきを二人同時に漏らそうとした時、ブイモンが小石に蹴躓いたのだ。
 べしゃりと顔面から地面に突っ込む形で斜め向きに倒れたブイモンの胴体に、続いて大輔が上がらない足を引っ掛け、そのままブイモンと×を描くように倒れ込む。
 先ほども言った通り、無意識下で足腰を立たせる事で二人は覚醒と半覚醒の間を行き来しつつ歩く事が出来たので、それを止めてしまえば限界が来てしまう。更に悪いことに、二人は地面に倒れこんでしまった。つまり、横になってしまった。疲れ切った状態で横になれば、その後どうなってしまうかは考えるまでも無い。

「……腹減……た」

 食いモン探さなきゃ。そう思うも、急激に重くなり、下がっていく瞼に大輔は抗う事が出来ない。
 それまで彼らを突き動かし、支配していた生理的欲求の順位が食欲から睡眠欲にとって代わられたのだ。もはや大輔とブイモンは湧き上がる眠気により、夢の世界へと誘われるのみだ。
 大輔とブイモンはめのまえがまっくらになった。



 延々と続く森林だらけの薄暗い情景の奥に、薄らと光が見えた。それが、生い茂る森によって昼間でさえ薄暗いとされるウバメの森の終わりを示していると理解するや、彼は一目散にその光目掛けて駆け出した。

「出口だー!」

 草むらと森を掛け抜けて土の道に降り立った少年は、興奮のあまりつい叫び声を上げる。南中高度から少し西に降り出した太陽の光が、そんな彼を出迎え、持て成すように照らし上げた。
 手を加えた形跡の無い、ボサボサの黒髪の大半を内部に収めているであろう赤と白のキャップが目立つ少年だ。黒いシャツの上から半袖の青いジャケットを纏い、下は薄水色の長ズボンを身に着けている。
 ふと、風が通り過ぎて少年の鼻を撫でた。燦々と降り注ぐ太陽光と暑めの気温によってカラッと乾き上がった風は、湿気が強くジメッとしたウバメの森の空気とのギャップもあり、とても気持ちの良いものだった。
 ジャケットの袖から伸びた両腕を上げ、う゛~と唸りながら少年は背伸びをしようとする。
 そこへ突然、強烈な衝撃を後頭部が襲った。

「いてっ! 何すんだ!」

 後頭部の痛む部分を撫でつつ、怒鳴りながら少年は後ろを振り返った。
 見ると、ウバメの森の出口付近に置いて行った仲間の一人である少女が、彼女の荷物を詰め込んだバックを両手で持ちながら、怒りの形相を浮かべていた。

「何すんだ、はこっちのセリフよ! このバカサトシ!!」

 オレンジ色の髪をポニーテールに纏めた少女は上にほっそりとした腹を出したタンクトップ、下にサスペンダー付きのホットパンツを履いており、頭一つ分高い位置から繰り出されるその怒鳴り声は、まるでスピーカー越しに叫んでいるのかのような凄まじいボリュームである。
 思わず少年――サトシは両耳を塞いで怯んでしまう。

「アンタ何先走ってんのよ! 勝手なことしてんじゃないわよ!!」

「勝手なことって何だよ! 別に迷惑掛けたわけじゃないだろ!!」

 少女が息継ぎのために一旦顔を引いたのを見計らい、あらん限りの声を出してサトシは怒鳴り返した。
 すると、少女が一旦息継ぎし、すぐにボリュームの上がった怒鳴り声がサトシの耳を突き抜けた。

「そういうところが迷惑だしガキだってのよっ!」

「何ぃッ!」

「何よッ!」

 互いに怒りの唸り声を上げ、鼻先を突き合わして睨みあう。一触即発の状態である。
 そんな触れたら飛び火してくるだろう状況の二人の間に、敢えて介入する存在がいた。

「サトシ、カスミ、そのくらいにしておけ」

 呆れたような、しかし落ち着いた声が二人に掛けられる。
 互いに互いに向けていた険相と睨みを、サトシとカスミと呼ばれた少女が一斉に声のした方向へ向ける。

「何だよ(何よ)タケシ! 邪魔すんなよ(しないでよ)!!」

 同時に放たれたサトシとカスミの怒号を浴び、しかしそれに対しタケシと呼ばれた少年は動じる事が無かった。
 オレンジ色のシャツの上から緑色のライフジャケットを身に着けた褐色の肌の少年で、腕に青と赤の△や□模様が入った巨大な卵を抱えている。面長の顔の中心よりやや上の糸目はつり上がり気味の眉と同じラインを描き、彼が若干怒っている事を示していた。

「こんなところで喧嘩したって仕方無いだろ。それにサトシ。今のはお前が悪い」

 諭すような口調でそう言ったタケシに対し、即座にサトシは噛み付いた。

「タケシまで俺が悪いって言うのかよ!?」

 すると、聞き分けの無い子供の意見を聞いて呆れたように、はぁとタケシがため息を吐いた。

「サトシ、お前は何で先走った?」

「何でって……出口が見えたからに決まってるじゃないか!」

「そうか? 俺には“森の奥に光があるように”しか見えなかったぞ?」

 そう言われ、頭に?マークを浮かべるサトシに、タケシは言葉を続ける。

「そうだな……例えば、光の奥に崖があるかもしれないとか、そういうことは考えなかったのか?」

「崖って……何言ってんだ! 普通に出口だったじゃないか!」

 サトシがそう言い返したところで、タケシとサトシの間にカスミが割り込む。

「結果的にそうだったってだけでしょ! それに崖っていうのは例えで、先に危ないものがあったらどうするんだって話よ! 本当にバカなんだから!」

「何ぃッ!」

「二人とも、喧嘩は止めろ!」

 再び火が付き出そうとした二人をタケシが一喝する。

「一言多いぞカスミ。だが、カスミの言う通りだ。サトシ、もし光の先が出口じゃなくて、崖みたいに危険な場所だったらどうなったと思う?」

「どうって……」

 もし光を潜った先が崖だった場合を、サトシは想像してみた。
 あの時、ようやくジメジメとして陰気なウバメの森からようやく抜け出る事が出来ることに目を囚われていたサトシは、危険に対する注意を含めたそれ以外の事を何も考えていなかった。もしそんな状態で崖に出れば突然のことに止まる事も出来ず、そのまま真っ逆様に落ちていただろうことが簡単に予想できる。それどころか、ヘタをすれば追い掛けて来たタケシやカスミ達も一緒に落ちてしまうことになっていたかもしれない。
 そこまで想像して、あ、と声を漏らしたサトシの怒りはすっかり収まっていた。

「分かったみたいだな」

「ああ。俺、知らないうちに皆に迷惑掛けてたんだな」

 代わりに湧き上がってきた申し訳ない気持ちのままに、サトシは二人に頭を下げた。

「カスミ、タケシ、ゴメン」

「ふん。分かればいいのよ」

 腕を組み、カスミが鼻を鳴らす。

「そうだな、分かればいいんだ。だけどサトシ。謝るのは俺とカスミだけじゃないだろ?」

 糸目を下ろしたタケシがそう言うや、タケシが抱えていた卵がモゾモゾと動き出し、更にサトシの足元から黄色い何かが飛び出してくる。

「ピカ!」

「チョゲ、プリリリィ」

 足元の黄色い鼠のような生物とタケシの腕の中の卵のような生物が、それぞれの鳴き声を上げて、サトシに自分達の存在をアピールする。

「あ、いけね。ピカチュウ、トゲピー、ゴメンな」

 腰の辺りに前足を当てて仁王立ちする鼠のような生物と、タケシからカスミに渡される途中の卵のような生物にも、サトシはそれぞれ謝罪した。
 黄色を基調に背中に黒い筋が入り、円錐状の耳と稲妻形の尻尾の先を黒く染めたピカチュウはサトシが謝った事を確認すると彼の身体を駆け上って右肩の上に乗る。また、□や△模様が入った卵の殻で胴体を覆い、頭部を幾つかの角状の突起で彩ったトゲピーは、カスミの腕の中でチョゲチョゲと鳴きながら円錐状の前足を軽く振った。

「よし。じゃあそろそろ行こうか。次はコガネシティだったな」

「コガネシティって確かジョウトシティ一の大都会なのよね。あ~、楽しみぃ。デパートでショッピングしたり、美味しいもの食べたり~」

「コガネシティかぁ。確か三つ目のジムがあるんだよな。く~っ、楽しみだぜぇ!」

 次の目的地に待つであろう様々な楽しみを想像し、カスミは目を輝かせ、サトシは興奮のあまり武者震いする。そして、その興奮のままに、拳を作った右腕を振り上げてサトシは叫んだ。

「いよぉーし! 改めて、コガネシティに向けて、しゅっぱあーつ!」

「おーっ!」

「ピカピー!」

 サトシの号令に、彼と同様に腕を振り上げて、カスミとピカチュウが声を上げる。いずれも次の目的地への期待に胸が昂り、打ち震えていた。特に、三つ目のジムが待っているサトシとピカチュウはちょっとした闘争心さえ燃え出している程だった。
 だが、そんな彼らに燃え上がる心は、すぐに水を掛けられて鎮火してしまうのであった。

「あ、ちょっと待ってくれ」

 ふとそんなことを言い出したタケシに、出鼻を挫かれる形になったサトシとカスミ、ピカチュウは批難を浴びせる。

「何だよタケシ! いいところだったのに」

「早くしてよ! ショッピングに美味しい食べ物があたしを待ってるのよ!」

「ピカピー!」

 各々勝手な事を述べる二人と一匹にばつの悪そうな表情を浮かべつつも、

「いや、だけどなぁ、人が倒れているのを見過ごすわけにはいかないだろ?」

と言いながら、前方を指で指示した。
 え? と同じ反応を返し、タケシが指差す方向をサトシとカスミは見やった。
 タケシが指差す方向は、丁度彼らの進行方向と同じで、木が立ち並び、延々と続くような土肌の道が陽炎を立たせている。その奥の方を良く見ると、確かに倒れている人らしき物体が見えた。

「ちょ、何でこんなトコで倒れてんのよ! ていうか、大変じゃない!」

「だろ? だからちょっと待ってくれって言ったんだ」

 突然の事に動揺するカスミとは対照的に、最初に見つけたせいかタケシはそれなりに落ち着いている。
 そしてサトシはというと、

「すぐに助けなきゃ! いくぞピカチュウ!」

事を確認して即座に地面に降りたピカチュウに指示を与え、その場から駆け出していた。

「あ! おい、サトシ!」

「先に行ってるから後から来てくれ!」

 何か言おうとしたタケシにそれだけ伝えて、土肌の道を全速力でサトシは掛け抜ける。
 あっという間に距離が縮まり、倒れている人間の姿が明確に確認出来るようになってきた。どうやら倒れているのはサトシとそれほど歳の変わらない少年らしく、青が基調のファイヤーパターンのジャケットと短パンを身に着けている。

「! ポケモンか?」

 更に近づいて分かったが、どうやら少年の下で青い生物が下敷きになっているらしい。こちらも早く助けねばならないと、サトシは足を急がせた。

「おい君、大丈夫か!?」

 少年に駆け寄り、肩を揺さぶりつつ声を掛けるが、反応は返ってこない。同様にピカチュウも少年の下敷きになっている青い生物の頭を叩くが、やはり反応は返ってこない。どうしたものかと逡巡し出したところに、丁度よくタケシとカスミが追いついた。すぐにタケシが少年の容体を聞いてくる。

「倒れていたのはその子か? 具合はどうだ?」

「気を失っている。俺が声を掛けても全然反応しないんだ。それに、ポケモンも下で倒れているみたいで」

 少年の右側から顔を出す青い生物の頭にサトシは顔を向け、ピカチュウが一鳴きする。

「分かった。それじゃあ、そこの木陰に彼らを運ぼう。俺とサトシはこの子を運ぶから、カスミはそのポケモンを頼む」

 道のすぐ右側の木陰を指差し、タケシが指示する。その指示にサトシとカスミ、ピカチュウは頷き返し、すぐにサトシは少年の左腕を、タケシは右腕をそれぞれの肩に抱え上げる。
 その途中、少年の下敷きになっていた生物の姿がサトシの目に入る。
 仰向けに倒れているので後ろ半分しか見えないが、途中で段差状に曲った後頭部の一対の角のような器官と、下半身から生える太い円錐状の尻尾が印象に残った。
見た事無いポケモンだな、ドラゴンタイプかな? と何気なくそんな思考が浮かんだが、

「よし、運ぶぞ」

というタケシの掛け声に応答したことで、すぐにその思考は中断された。



 選ばれし子供達が一人、本宮 大輔。
 ポケモンマスターを目指す少年、マサラタウンのサトシ。
 これが本来出会うことの無かった二人の少年の最初のコンタクトであり、ポケモンとデジモン、住む世界も生態系も、起源さえも違う二つの種族が織り成す物語の始まり。そしてジョウト地方を舞台に巻き起こる、この世界を賭けた戦いの、開幕の合図であった。
 サトシ達の旅は、そして一度は終わりを迎えたと思えた大輔達の冒険は、まだまだ続く。

TO BE CONTENUED……



[26341] 第二話
Name: ピエロ◆dc9bdb52 ID:a1016b2d
Date: 2011/03/06 20:09
 気が付くと、大輔は芝生の上に寝かされていた。
 目の前には青々とした木が立ち、暴力的なまでの輝きを放つ太陽から大輔を守ると共に、木陰を提供して彼を冷やしていた。
 また、妙にスースーする額に手をやると、掛けていたハズのゴーグルが無い。ギョッとし、慌てて(といっても、疲労が残っており、客観的に見たその動きはむしろのんびりしたものなのだが)どこにいったのかと首を動かすと、すぐ右に置いてあった。
 ほっと大輔は安堵する。このゴーグルは旧選ばれし子供達の一人であり、同時にお台場小学校サッカー部のOBである八神 太一から受け取った大切な物であり、もし失くしていたら彼に合わせる顔が無かった。

「お、気付いたか」

 ゴーグルを手に取って額に掛け直していると、右側から声がした。丁度ゴーグルが置いてあった位置の延長線上から聞こえて来たので、そのまま少し視線を上げて大輔は奥を見やった。
 見ると、糸目の少年が地面から突き出た岩の上に座って大輔を見ていた。
 歳は太一達旧選ばれし子供達と同程度だろうか? オレンジ色のシャツの上に緑色のアーミージャケットを纏った褐色の肌の少年をしばらくぼんやりと眺めていたが、すぐに大輔の目線は彼の手元に移動した。
 少年の前で燃え上がる焚火。その火に炙られる鍋。そしてその鍋から漂い、大輔の鼻を擽る芳香。
 漂ってくる香りを感知した大輔の鼻の粘膜はその情報を即座に脳へ送信。その情報を受け取った脳は過剰なまでに信号を送り、大輔の内のある欲望を急激に肥大化させていく。
 その欲望。先ほどまで大輔とブイモンを、デクスリューションしてひたすらデジコアを追い求めるデクスドルゴラモンのごとく、本能のままにウバメの森を抜けさせて、なお歩かせたその欲望。しかし予想外の事故により睡眠欲に負け、彼らが限界を迎えると共にその鳴りを潜めていた欲望。
 そして今、ヴァンデモンがヴェノムヴァンデモンとして復活するがごとく、爆発的に発生して未だ疲労困憊の大輔の身体を突き動かす衝動のようなその欲望!

「食いモオオオォォォォォン!!」

 その名を、食欲といった。



 タケシは唖然としていた。いや、愕然としていたといってもいい。
 何故彼はそのような状態になっているのか?
 簡単だ。彼の目の前で起きていることを見れば、そんなことは一目瞭然だ。

「うおおおおおおおおお!」

 タケシの目の前で、先ほどまでタケシが作っていたシチューを、先ほど道の真ん中で倒れているの助けた少年が、鍋ごと引っ掴み、雄叫びを上げながらもの凄い勢いで掻き込んでいるからである。
 何故叫びながら食べるのか? 何故鍋ごと引っ掴んで食べるのか? そもそも、何故道のド真ん中で倒れていたのか? どこか他人事のようにそんな疑問が頭の中を駆けていったが、いずれもそんなことはタケシの知る由も無い事である。
 しかし、ただ一つ確かな事がある。
 このままこの少年の蛮行を放っておけば、今日の自分達の昼食は抜きだということだ。
 そのことが分かっているからこそ、フリーズ仕掛けた頭でなおタケシは行動を取った。

「お、おい君、それは君一人だけのものじゃ――」

「ガルルルルルル!」

 しかしながら、同時に判断を見誤ってもいた。
 少年を止めようと差し出されたタケシの手に、すかさず彼はヘルガーのような凄まじい唸り声を上げて噛み付いた。

「イテエエエエエェェェェッ!!」

 親指以外の指を食い千切られんばかりの強烈な痛みに絶叫し、力任せにタケシは腕を振ったが、しかし少年が離れる事は無かった。そのアゴの力、オーダイルやワルビアルが如し。
 少年の噛み付きを振り解けず、ポケモンを出す事も忘れたタケシの、身も凍るような阿鼻叫喚が辺り一帯に響き渡った。



「うぅ゛ん……」

 まどろみのような深い眠りからブイモンが目覚めたのは、どこからか騒がし過ぎるほどの叫び声が聞こえて来たからだ。

「何だよ、ウルサイなぁ……」

 ぼやける目を腕で擦りつつ起き上がろうとしたが、しかし疲労から来る重さで身体が動かなかった。それはもう、幼年期の姿であるチビモンに退化しなかったのが不思議なくらいである。
 仕方なく声のする方に頭だけ向けると、何故か大輔が猛獣のようにギラついた目でライフジャケットを着た見知らぬ少年の右手に噛み付いており、噛まれている少年が地獄で責め苦を受ける亡者のような叫びを上げながら右手ごと大輔を振り回すという、何がどうなっているのかさっぱり分からない状況が見えてきた。

「何やってんだよ大す――」

 何やってんだよ大輔。そう言葉を噤もうとしていた口を、何気なく大輔の胸の辺りへと視線を移してブイモンは止めた。
 何故か? その答えは大輔の腕の中にある。
 では、大輔の腕の中にあるのは何なのか?
 大輔の腕の中にあるもの。それは鉄製の鍋であり、その中から芳しい芳香と湯気を立たせる、

「食いモオオオォォォォォン!!」

であった。
 更にいえばブイモンもまた大輔と同様に、気絶するまでそれだけに突き動かされ、ウバメの森を抜けた後もなお彷徨わせた強烈な食欲があった。そして今、眠りから目覚め、獲物を見つけたブイモンも、大輔同様再び食欲に取り付かれ、ある種の生存本能に突き動かされたデクス体として身体の疲れも忘れ、跳び出すのであった。

「俺の食いモオオオオォォォォォンッッ!!」

 ブイモンの動きは速かった。
 それこそ、速さに特化した完全体デジモンでさえ、これほどの速さで動ける者はいないだろうといえるほどの速さだった。
 その凄まじい速さで大輔や少年との距離を一気に詰め、すかさず大輔から鍋を奪い取るや、その中身目掛けて顔面を突っ込ませた。

「ブマイ、ブマイッ(美味い、美味いッ)!」

 ほぼ側頭部が嵌った状態の鍋の淵の僅かな隙間から、くぐもったブイモンの感激の声が漏れた。
 目一杯の空腹と疲労の末の食に勝る至福の時間は無い。一晩中飲まず食わずで倒れたブイモンならば尚更である。
 しかし、それは大輔も同じであった。

「何しやがんだブイモオオォォン!!」

 自分の獲物を横からジャッカルに掻っ攫われたライオンのような咆哮を上げ、ブイモンの頭から大輔が鍋を引き剥がした。

「何すんだよ大輔えええぇぇぇぇッ!!」

 負けじとキツネに獲物を横取りされた虎のごとき叫びを轟かせ、大輔の手からブイモンは鍋を奪った。

「これは俺の食いモンだあああぁぁぁぁッ!!」

「違うやい! 俺の食いモンだあああぁぁぁいッ!!」

 引き剥がしては奪い取り、奪い取っては引き剥がす。極限の食欲というある種の狂気の光を目に輝かせる二人は、互いに餓えた猛獣の雄叫びと唸り声を上げ、キリの見えない鍋の取り合い奪い合いを際限無く続ける。
 そして遂に二人の戦いは、互いに鍋を掴み、睨み合いながら互いに鍋を引っ張り合う段階に入った。この段階に来れば、後は純粋な力と食欲が強い方が勝つのみである。
 人かデジモンか? ライオンか虎か? 果たして勝利の女神、もとい食の女神が微笑むのはどちらなのか?

「「ガルルルルルルルルルル」」

 互いに引かず押さず、大輔とブイモンは一進一退の攻防を繰り広げる。互いに見えているのは鍋と良い匂いを放つそのクリーミーな中身、そしてギラギラと目を輝かせて“俺の食いモン”を奪おうとするパートナーという名の“敵”。一瞬でも気を抜いたり、他の事に注意を向ければ、あっという間に鍋を取られて“俺の食いモン”を食い尽される。だからこそ、二人は鍋と、“俺の食いモン”と、“敵”以外には一切何も見えていない状態である。
 故に、食の女神は彼らのどちらに微笑まなかった。

「ピカチュウ!“電気ショック”だ!」

 女神がほほ笑んだ相手。

「ピィ~カァ~」

 それはライオンの威を借りた選ばれし子供でもなく、また虎の威を借る古代種デジモンの末裔でも無かった。

「チュ~~~~ッ!」

 女神がほほ笑んだ相手。それは――

「「ウワワワワワワワワっ!!」」

――黄色い電気鼠であった。
 大輔とブイモンは再びめのまえがまっくらになった。



「――つまり、空腹で倒れちゃって、起きたところにタケシのシチューがあったから、思わず食いついちゃったってこと?」

「「ああ(うん)」」

 内心信じられずにそう問い掛けると、プラスティック製の皿から中身を掻き込んでいた目の前の一人と一匹が雁首を揃えてコクコクと頷いた。
 昼食のシチューが出来上がるまでの時間潰しということで、周辺の茂みの中へポケモン探しに潜り込むサトシに半ばお目付け役として同行していたのだが、その途中で突然タケシの悲鳴が聞こえて来たのだ。何事かと、丁度通りがったので戦闘を仕掛けようとしていたオオタチを目の前にして逃げなければならない事に不服を言いつつもUターンするサトシと共にタケシの下に戻ると、少年と生物がシチューの入った鍋を獣のような唸り声を上げて鍋を取り合っており、その横でタケシが茫然と尻もちを付いていた。全くどういう事なのか分からない状況に一瞬戸惑うカスミとは対照的に、とにかく少年と生物を止めなければと先行したサトシはピカチュウに“でんきショック”を指示。少年と生物を再び気絶させることでその場は事無きを得たのだった。
 ちなみに彼らが食べているシチューはどうにか鍋の中に残っていた分である。元々少年が食べる分を考えてタケシが多めに作っていたのが幸いしたのだが、しかしその大半は未だ腹が満たされないと主張した一人と一匹に多めに分配された。
 結果、カスミとサトシ、タケシの更に盛りつけられたシチューの量は、皿底からほんの少し盛り上がるだけの量だった。
 その事に対する怒りをぶつけてやろうと、何故鍋に食らいついたかの理由を訊いたのだが、上の通りの返答が返ってきて唖然とするあまり、そんなカスミの怒りはすっかり鎮火してしまった。

「……アンタ達バカじゃないの?」

「俺は違うよ。大輔はバカだけど」

「何だと! 俺のドコがバカだってんだよ?」

「だってジュンが大輔のこといつもバカだって言ってるじゃん」

「姉貴の言う事真に受けてんじゃねーよ!」

 そのまま、何やらワケの分からない飛躍をし、激化していく少年と青い生物の論争にタケシが仲裁に入るのを眺めつつ、急激に鈍い痛みがしてきた額を押さえてカスミは溜め息を吐いた。
 それにしても、ホントに珍しいポケモンよね、と生物を眺めながらカスミは心の中で呟いた。
 青い体色に腹と口周りが白いその身体はカスミの腰より少し小さく、後頭部から伸びた一対の角のような器官と円錐状の太い尻尾は竜の子供をイメージさせるその姿は初めて見るものだ。更にそれだけで無く、何とこの生物はカスミ達の前で堂々と喋ったのだ。
 普通、ポケモンが喋ること無い。基本的に彼らは種族ごとの鳴き声とジェスチャーでトレーナーとのコミュニケーションを取る。この生物のように人間の言葉を喋る、ないしはテレパシー等のそれに近い方法でコミュニケーションを図るポケモンは極めて少ない。
 最も、同じように喋ることが出来る数少ないポケモンを連れた集団と毎日のように遭っているせいか、そのことに関するカスミ達の驚きは意外と小さかったが。
 ただ、ポケモン用の餌であるポケモンフーズを生物に与えようとした時、少年も一緒になってポケモンフーズを拒否したのは多少妙だとは思ったが。

「ハハハッ、面白いなお前ら」

「ピカピカピカ」

「チョゲチョゲチョゲ」

 そしてサトシとピカチュウ、トゲピーは、そんな少年と生物を見て面白がっている。そんな様子に、呑気なモンねと思いつつ、自分も五十歩百歩だということをまず分かっていないだろうサトシに、更に頭を痛めるのであった。

「「面白くねーよ(ないよ)!」」

 少年と生物が同時にツッこむが、当のサトシとピカチュウは全く気にしていなかった。

「まぁまぁ。それはそうと、自己紹介しようじゃないか。まだお互いのことが分かってないだろ?」

 いきり立ちかける少年と生物に、咄嗟にそう呼びかけることでタケシが落ち着かせる。その様子を、ウバメの森を抜けた直後の事も思い出しながら、なんだかんだで年長者よね、とカスミは感心する。これで“病気”が無ければもっといいのだが。
 そんな風な事を考えているカスミを尻目に、タケシの進言に何を思ったのか、妙に気合の入れた口調でサトシが自己紹介を始めた。

「よぉし、それじゃ俺からだ! 俺はマサラタウンのサトシ。でもって、ピカチュウに、チコリータに、ヒノアラシ。ゼニガメに、フシギダネに、ヘラクロスだ!」

「ピカ!」

「チコっ!」

「ヒノ?」

「ゼニゼニ」

「ダ~ネフシッ!」

 少年と生物の視線が集まり、ピカチュウと頭部から葉っぱを生やしたチコリータが元気よく一鳴きし、続いて黒色とクリーム色の体毛に覆われたヒノアラシが何故呼ばれたのか気付いていないような声を出す。その横で丸いオレンジ色の甲羅から手足と頭、尻尾を伸ばしたゼニガメは少年と生物にサムズアップを送り、先が五つに分かれた角を頭部から生やしたヘラクロスが自分の背中の種から蜜を吸おうとするのを、“つるのムチ”で叩いて阻止するフシギダネ。
 続いて、親指で自分の顔を指し、タケシが自己紹介を始める。

「俺はポケモンブリーダーのタケシだ。それでコイツがイワークで、コイツがズバット。それからロコン、イシツブテにクヌギダマだ」

 ゴツゴツとした頭から覗く目を笑顔の形にするイワークとイシツブテ、パタパタと皮膜状の翼を忙しなく羽ばたかせるズバットに、六本の触り心地の良さそうな尻尾を揺らすロコンとマツボックリに似た身体を小さく跳ねさせるクヌギダマ。
 そして次はカスミの番である。

「でもって、アタシがカスミで、この子がトゲピー。それとヒトデマンにニョロモ、コダック。それから今は出してないけどトサキントね」

 チョゲチョゲと三角形の指を可愛らしく振るトゲピーに、ヘアッと特徴的な鳴き声を上げるヒトデマン。そして腹から渦巻状の黒い腸を覗かせて飛び跳ねるニョロモに、三本の毛を頭頂部から生やした間の抜けた顔を傾けるコダック。
 へぇ~、と少年と生物が感嘆の声を漏らす。

「何か、皆すげぇ一杯パートナーいるんだなぁ」

「あれ? でも、前にゲンナイさんが人間一人にパートナーデジモンは一体みたいな事言ってなかったけ?」

「そうだっけ?」

 少年と生物が顔を合わせて何かを話し合い出す。途中で聞こえてきた“デジモン”という単語が少し気になったが、

「おい、何二人で話してんだよ? 今度はお前らの番だぜ」

と一人と一匹に面白くなさそうに催促するサトシに気を引かれ、ポケモンって言ったのを聞き間違えたのね、とカスミは即座に自己解釈して少年と生物の方を再度見やる。

「お、おお……ま、いっか。え~と、俺は本宮 大輔。お台場小学校5年A組でサッカー部所属で、ポジションはボランチ。好きなものはラーメンだ」

「俺ブイモン! 大輔のパートナーで、好きなのはチョコレート!」

 タケシと同様に自分を親指で指しながら大輔が自己紹介し、続いて元気が良く張りのあるブイモンの声が響いた。
 その内の大輔の自己紹介で出て来た“オダイバ”なる聞き覚えの無い地名がまた少し気になったが、しかしブイモンのような珍しいポケモンを連れていることから、どこか遠い地方から来たのだろうとカスミは解釈した。そう考えれば、あまり頭の良く無さそうなこの二人が道の真ん中で倒れていた理由も、何となく想像が付くからだ。

「大輔に、ブイモンか。よろしくな」

「ピカチュー」

 サトシとピカチュウが握手しようと、それぞれの手を伸ばす。
 その手をそれぞれ握り返し、大輔とブイモンがニッと笑う。

「おう、よろしくなサトシ!」

「よろしく、ピカチュウ」

 彼らに釣られて、サトシとピカチュウも笑顔を返す。
 そんな様子を微笑ましそうに眺めるタケシと違い、暑苦しいわね~、と手を仰ぎながら彼らを冷やかすカスミであった。



 大輔とブイモンが自己紹介する様子を見ていたのはサトシ達だけでは無かった。
 互いの自己紹介を終え、和気藹々と談話を始める彼らを双眼鏡越しに覗く、三つの視線が土肌の道を挟んだ向かい側の茂みの中にあったのだ。

「懐かしいなぁ。俺も昔、実家のパーティーであんなふうに始めて合う子と自己紹介し合ったりしたっけ。こう、執事がでっかいケーキカットするの見ながらさぁ」

「くだんない事言ってんじゃないの。つーか何それ? 今も昔も貧乏なアタシへの当てつけ?」

 何気無く言葉を漏らした視線の主に、別の視線の主が不愉快さをありありと表わした口調でそう言う。
 あ、いけね、と禁句を言ったことを理解したその声の主は、すぐにバツの悪そうな声で釈明する。

「別にそんなつもりはないよ。大体、今は俺も貧乏だし」

「どぉかしらねぇ?」

 しかし、双眼鏡の接眼レンズの間から覗かれた目には、ジットリとした光が宿っていた。どうやら、完全に根にもってしまったらしい。
 こうなると最早話を聞いてくれない事を、長い付き合いの中で良く理解していた視線の主は嘆息する。そして、せめて相方がさっさと忘れてくれる事を祈りながら、レンズの奥に映る少年少女達に話を戻すことにした。

「しっかしハデな格好してるなぁ、あの新しいジャリボーイ。炎模様のボア付きジャケットなんて、子供が着るようなモンじゃないぞ」

「いいトコの世間知らずのお坊ちゃん何でしょ? アンタと同じでさ」

「だからそういうつもりじゃ……あ、いえ、何でも無いです」

 無駄だと分かりつつも、露骨な嫌みを言って来た相方に少し言葉を荒げ掛けた彼だが、しかし向けられた視線の鋭さにたじろいでしまう。怒らせると手がつけられない事も、また素手じゃ全く敵わないことも、また長い付き合いの中で良く熟知していた。というか、身体が覚えてしまった。

「……にしてもさぁ。何かしらねぇ、あの青くてちっこいの?」

 視線を双眼鏡に戻して、すぐ相方がそんな疑問を投げ掛けて来た。
 相方の言っている事が彼にはすぐに分かった。先ほどピカチュウと握手し、今は皿の中の料理を食べつつ、少年少女達に混ざって何か話しているような素振りを見せている生物の事だ。
 青を基調して口周りや腹が白いその生物は、後頭部から途中で折れ曲って段差を作る角状の器官を一対、太くて長い円錐状の尻尾を一本生やしている。ドラゴンの子供を連想させるその姿は、彼らの記憶には無いものだ。

「新しい方のジャリボーイの手持ちみたいだけど。新種のポケモンかなぁ?」

「おまけにジャリボーイ達と何か話してるみたいね。もしかして、アンタと同じで喋れるんじゃない?」

 彼の“新種のポケモン”という言葉にニヤリと口元に笑みを浮かべた相方が、未だ会話に参加していない三つ目の視線の主の肩を叩いた。
 相方の問い掛けに、三つ目の視線の主は双眼鏡から目を離さず、どこか同情するような口ぶりで応えた。

「ポケモンは普通喋らないニャ。あのポケモンが喋れるとしたら、最初から喋れる珍しいポケモンか、一時の気の迷いで無駄な努力をした結果のどっちかだニャ」

「ア~ラ、随分分かったようなこと言うじゃない?」

「意外と自分が“一時の気の迷いで無駄な努力をした結果”だったりするんじゃないか?」

 相方に続いて、単なる冗談のつもりでからかうように彼は言った。
 ところが、三つ目の視線の主は、面白がって笑い出す彼と相方に反論の一つも出さず、ただ黙って双眼鏡を覗くだけだった。
 どうやら図星だったようである。

「……そ、その、ゴメン」

 周囲の空気が途端に重さを増したような気がするのは、恐らく気のせいではない。
 そんな空気に当てられて笑う気が失せた彼と相方は、すぐに三つ目の視線の主に謝罪を述べるが、

「いいニャ。どうせ……本当のことだニャ」

と、やはり双眼鏡から目を離さずに彼が応えてしまったので、更にその場の空気が重くなってしまう。
 しばらくの沈黙。その沈黙を破ったのは相方だった。

「と、ともかく! あの青くてちっこいのと、ついでにピカチュウを奪うわよ!」

 空気の重さに耐えられなかったのだろう。そして彼女と同様に耐え切れなくなってきていた彼も、少しでも場の重い雰囲気を変えたかったのでその一声に便乗する。

「そうだ! でもって、サカキ様に献上して幹部昇進! ついでにお前もペルシアン追い退けて、サカキ様のお膝下に返り咲く! そうだろ?」

 その言葉が効いたのだろうか。ピクリと三角形の大きな耳を震わせ、しゃがんでいた三つ目の視線の主が立ち上がった。

「そうだニャ……ニャーにはあの憎きシャムネコを引き摺り下ろして、サカキ様のペットに戻るという重大な使命があるんだニャ。あの青いポケモンには悪いけど……ピカチュウ共々、ニャー達のための生贄になってもらうのニャ!」

 ようやく双眼鏡を顔から離し、三つ目の視線の主が声を張り上げる。
 それまでの重たい空気は何処へやら。大きな両目に野望の炎を燃え上がらせる三つ目の視線の主を筆頭に、彼らは皆気合に満ち満ちていた。
 野望は二つ。彼らが属する組織の幹部への昇進。そして“サカキ様”なる人物のペットに返り咲くこと。

「よぉーし、それじゃあ早速ピカチュウと青いのの捕獲の準備始めるわよ!」

「おう! ホワイトホール、俺達には白い明日が――」

「待ってるニャー!」

突き合わせられる三つの拳。その後ろで、巨大な影が金属特有の鈍い光を輝かせた。



互いの紹介を終える大輔とブイモン、サトシ達。
しかし、彼らは本当の意味では互いのことをまだ知らない。選ばれし子供とポケモントレーナー、デジモンとポケモン、そして世界の違いに、まだ気づいていない。
 そしてその違いを互いに知り合うための時間を与えることなく、大輔とブイモンのこの世界での最初の戦いに向けて、物語の歯車はゆっくりと回り続ける。 
サトシ達の旅は、そして大輔達の冒険は、まだまだ続く。

TO BE CONTENUED……


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00498795509338