前原外相辞任:政権運営視界ゼロ ポスト菅、乏しく

2011年3月6日 21時39分 更新:3月6日 23時9分

無言で首相公邸を出る前原誠司外相=2011年3月6日午後8時15分、三浦博之撮影
無言で首相公邸を出る前原誠司外相=2011年3月6日午後8時15分、三浦博之撮影

 前原誠司外相が菅直人首相に辞意を伝え、仙谷由人前官房長官に続いて内閣を支える柱が去ることになった。内閣支持率の低下に悩む菅政権は党内の支持も急速に失っている。ポスト菅の本命だった前原氏が傷付き、民主党政権自体に今後の戦略が描けない混とん状態だ。11年度予算関連法案の成立見通しもたたないことに加え、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題など難題を抱える日本外交への影響も避けられず、菅政権は一段と窮地に追い込まれた。

 政府・与党内には11年度予算関連法案の審議が行き詰まる「3月危機」を乗り切るため、菅直人首相を交代させたうえで、新しい首相であらためて与野党協議に臨むか、衆院解散・総選挙に打って出る方策も取りざたされていた。だが、前原氏の辞任でその選択肢も厳しくなった。

 野田佳彦財務相や蓮舫行政刷新担当相も、脱税事件で有罪判決を受けた男性の関係企業からの献金やパーティー券購入が発覚。また、岡田克也幹事長は小沢一郎元代表の処分を巡る対立で、中間派も含め党内の支持を急速に失っている。

 「倒閣運動」を進めてきた小沢グループも、小沢元代表自身は党員資格停止処分を受けて代表選に出馬できず、ほかに有力な首相候補も持たない。ベテラン衆院議員は「だんだん後任がいなくなるから、ますます菅さんは元気になる」と語った。

 主流派にも非主流派にもめぼしい「次の顔」が見あたらない中、「絶対に自分から辞めるとは言わない」(首相周辺)という首相がこのまま粘って解散に持ち込むシナリオも現実味を帯び始めた。小沢元代表に近い党幹部は「菅首相にできるはずがない」と声を荒らげる。菅グループ幹部も「菅首相で解散すれば菅グループも落選するんだから、みんな反対だ」と語るが、政権の先行きは不透明感を増している。

 一方、自民党など野党は、民主党が首相交代で政権浮揚を図る選択肢は取りにくくなったと判断。国民年金の第3号被保険者の切り替え漏れ問題を抱える細川律夫厚生労働相とあわせ、首相の任命責任を追及し早期の衆院解散・総選挙に追い込む構えだ。

 自民党の谷垣禎一総裁は6日夜、「菅政権の政権担当能力、統治能力の欠如が改めて露呈した以上、一刻も早く解散・総選挙を行い、責任ある体制を再構築すべきだ」。石破茂政調会長は「首相の任命責任は残る」と指摘した。菅政権が予算関連法案への協力に望みをかけていた公明党の山口那津男代表は6日夜、記者団に「辞任はやむを得ない。内閣は求心力を失っており、総辞職か解散をせざるを得なくなっている」と指摘。社民党の福島瑞穂党首も「首相のガバナンスが問われる」と批判した。みんなの党の渡辺喜美代表は「菅内閣のドミノ崩壊が始まるだろう」と述べ、共産党の市田忠義書記局長は「外相辞任で済むことではなく、国会で引き続き真相を究明する必要がある」とコメントした。【野原大輔、野口武則】

 ◇日米外交に痛手 普天間閣僚会合控え

 前原誠司外相が辞意を伝えたことは、今月の主要8カ国(G8)外相会議をはじめ外交日程が立て込む中、日本外交にマイナス影響を及ぼしそうだ。4月末からの大型連休には日米同盟深化や米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題の節目となる日米外務・防衛担当閣僚会合(2+2)を控えており、米国と良好な関係の前原氏が交代すれば、日米関係での大きな痛手となる。

 外相就任からわずか半年。前原氏は5日、神戸市で開かれた外交政策に関する国民との対話集会で、自身が力を入れる「経済外交」の新方針として、日本の高い医療技術などを「ジャパン・ブランド」と位置付ける方針を発表したばかりだった。

 複雑化する対米・対中・対露関係の改善に向け、次の一手を打ち出す段階に入った時期でもある。首相や外相が頻繁に交代する日本外交の現状は、各国には政治情勢の不安定に映る。外務省幹部は「外交日程はしばらく様子見だ。中国や北朝鮮など周辺国からはなめられるな」と不安げに語った。

 前原氏は日米関係で、大型連休に開催する方向で進めてきた2+2を前に、同盟強化の象徴とする新たな日米安保共同宣言の策定に向けて、日米外交・防衛当局が急ピッチで調整を進めてきた。日本の政局が不透明さを増す中、その策定作業も停滞する中での親米派外相の交代は、日米関係改善モードが停滞することを意味する。

 日中間では尖閣諸島沖の漁船衝突事件(昨年9月)で複雑化した関係を改善しようと、4月に外相就任後初めての訪中を調整していた。楊潔〓(ようけつち)外相らと会談し、来年の日中国交正常化40周年に向けた日中関係改善策や、中国が一方的に延期を通告した東シナ海ガス田共同開発の条約締結交渉の再開問題、朝鮮半島情勢などについて協議する予定だった。【犬飼直幸、西田進一郎】

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