中国政府は５日開幕した全国人民代表大会（全人代、国会に相当）に、2015年までの国家運営の指針となる第12次５カ年計画の草案を提出した。実質国内総生産（ＧＤＰ）の伸び率の目標を前の５カ年計画より引き下げ、高成長より持続的な成長、ＧＤＰより民生、「量より質」を重視する姿勢を鮮明にした。

　中東の激変を受け、中国でも民主化を求める声が出ている。背景にあるのは、格差拡大や汚職の広がり、不動産価格の高騰などへの不満の増大であり、国民の権利意識の高まりだ。新５カ年計画は、こうした問題に対処することで社会、ひいては政権の安定を目指そうとしているといえる。問題は具体策と実行だ。

　前の５カ年計画も、所得格差や過剰投資、環境破壊などを抑える方針を打ち出していた。だが、空前の高成長の下で、こうした矛盾はむしろ大きくなったのが実態だ。

　このため新計画案は、11次計画以上に国内の不満を和らげることに重点を置き、特に低所得層の収入増に力を入れる方針を明確にした。

　こうした措置は社会の安定だけでなく個人消費の拡大を促し、投資と輸出に頼った成長モデルからの脱却に役立つ。世界経済にも好影響を及ぼす公算が大きく、日本企業は具体策を注視する必要があろう。

　要となりそうなのは、政府・国有企業に有利な所得分配の仕組みや、富裕層に有利な税制の改革だ。ただこの面で新計画案はなお物足りない。人民元/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3EAE1E7EBE2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXの切り上げも望まれるが、明確な方向は示していない。

　経済の質的発展と並んで重要なのは、統治の質の向上だ。温家宝首相は５日の演説で、強い軍隊の建設と社会管理の強化の必要を強調した。経済の高成長を背景に中国財政は豊かになっているが、共産党政権はそれを軍備の増強やネット監視などにつぎ込んでいる。

　共産党政権は一党独裁を放棄する構えを見せていないが、長期的に見れば中国でも民主化の機運が高まるのは必然だろう。それにどう対応していくかは、共産党政権にとって大きなテーマのはずだ。

　新５カ年計画の２年目に当たる12年には、政権指導部の世代交代が予想される。幅広く国民の声をくみ上げて問題を解決していく仕組みをめざし、政権に批判的な人々との建設的な対話に乗り出すときだ。

　日本政府をはじめ国際社会は、軍事的な圧力など中国の膨張的な対外政策に備える一方で、その経済、社会、政治の質的な発展を促す地道な努力も求められる。