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社説:中国全人代 政治改革は不可避だ

 中国の温家宝首相が5日、全国人民代表大会で「政府活動報告」を行い、今年の施政方針を明らかにした。

 中国では来年の共産党大会と再来年の全人代を通じて胡錦濤国家主席や温首相らが引退し、習近平国家副主席らの次世代政権に移行する。中国を世界第2の経済大国に導いた胡温体制にとって、今年の温首相報告はその総括である。

 温首相は、高度成長がもたらしたひずみや格差是正の調整期に入ったことを訴えた。

 中国の「社会主義市場経済」は共産党政府の高官と一部の資本家が結託した「特殊権益集団」が、市場の富を吸い上げるシステムである。「太子党」と言われる高官の子弟はその核心だ。だから貧富の格差が生まれるのは当然なのだ。格差を調整するには、特殊権益集団の既得権を抑えなくてはならない。だがそれを実行する官僚が既得権益層にいる。言うはやすく実行は難しい。

 全人代の直前、中国の経済成長を象徴する事件が起きた。高速鉄道建設をめぐる汚職だ。鉄道相と、「中国高速鉄道の父」と言われた副技師長兼運輸局長が摘発された。

 中国大陸を縦貫し、横断する高速鉄道の開通は、中国発展のシンボルとなっている。日本やドイツなどから導入した新幹線車両を中国で独自に「改良」し、時速350キロという世界一の高速で走らせている。その技術を海外に輸出して日本など本家を脅かしている。

 だが、恐ろしいことが明らかになってきた。前鉄道相らは工事のリベートで巨額の蓄財をしただけではない。自分の業績を大きく見せるため短期間にむやみに路線を延ばし、技術力のない下請け会社をかき集めて突貫工事を命じた。線路の地盤沈下や、資材横流しによる高架橋の手抜き工事などが起きている。

 ドイツ人監督は計画全体の見直しを求めたが拒否され辞職した。ある高速鉄道幹部は「怖いので乗らない」という。前鉄道相は、建設資金のために債券を発行した。鉄道省の負債総額は少なめに見ても1980億ドル(約15兆8400億円)という、信じられないような数字が報じられている。

 胡主席は、早くから「調和社会の建設」を目指したが、世界不況とぶつかり景気回復を優先させざるをえなかった。その副作用がいま公害、インフレ、住宅難、土地収用紛争などの形で噴出している。高速鉄道は一例にすぎない。

 政策調整を実行するには、特殊権益集団を監視する仕組みが必要だ。政治改革による民主化である。首相報告が絵に描いた餅になればどうなるか。エジプト型デモを最も恐れているのは中国指導部だろう。

毎日新聞 2011年3月6日 2時32分

 

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