多くの人たちの関心が「どうやって」「どのように」という点に集中している。見方はまちまちだ。
「1人でやったとはとても思えない」という驚きの声がある一方、若い人の中には「あれぐらいの文章なら手元を見なくても結構打ち込める」との指摘もある。そもそもどのようにしたら携帯電話を使ったカンニングが可能なのか、さっぱり分からない、という年配も多い。
このような反応のばらつきこそがネット社会の現実だ。詳しい人はとことん詳しく、不案内な人は説明してもさっぱり要領を得ない。
携帯電話の機能は驚くべき速度で進化しているが、それを安全に安心して使いこなすための法整備や社会のルール作りは遅れがちだ。
京都大学などの入試問題を試験会場からインターネットの質問サイト「ヤフー知恵袋」に投稿した事件は、ネット社会のそのような一面を浮き彫りにしたといえる。
京都府警は、19歳の男子予備校生を偽計業務妨害容疑で逮捕した。
カンニングそのものを罰する法律はない。カンニングを理由に受験生が逮捕されるのは極めて異例だ。業務を妨害した場合などに適用される偽計業務妨害罪を大学入試のカンニングに適用するのも初めてである。
予備校生は「自分1人でやった」と供述しているという。試験中に監視員の目を盗んで携帯電話の煩雑な操作を繰り返すことがほんとに可能なのか。それが事実だとすれば、試験監督のあり方が問われなければならない。
機密情報を次々に暴露して各国政府を震撼(しんかん)させた「ウィキリークス」。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の現場映像を流した動画投稿サイト「ユーチューブ」。そして、今回の、質問サイトを利用した驚くような手口の「ハイテク・カンニング」。このところネット絡みの事件が相次いでいる。
いずれも、既存のマスメディアでは不可能な「反応の瞬時性」と「広域性」を同時に発揮した事件だった。
だが、ネットは利用した人の「足跡を残す」。大相撲の八百長事件で明らかになったように、消去されていた携帯電話のデータを復元することも可能だ。
今回は、ネット上の住所であるIPアドレスが発信元を特定する決め手になった。最新の情報ツールを使って、世間をあっと言わせたにしては、自分が残した足跡に無頓着な幼さが目立つ。
19歳の予備校生は、現役の時、早稲田大学と明治大学を受験して失敗。昨年3月末、受験勉強に専念するため親元を離れ、仙台市の予備校の寮に移り住んだ。
センター試験で満足のいく結果が得られず、焦っていたという。
彼をここまで追い込んだのは何だったのか。容疑者逮捕後に付きまとう、やるせなさの正体は何なのだろう。
大学入試の監督強化だけでは済まない、さまざまな問題が、この事件には内包されている、と感じる。