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2011年3月6日(日)付

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外相の進退―まず調べ説明してから

予算関連法案成立のメドが立たず、足元では小沢一郎元代表を支持するグループとの確執が増すばかりの菅直人首相にとっては、極めて深刻な追い打ちである。前原誠司外相の進退問題が[記事全文]

規制仕分け―全面公開テコに大胆に

初めての「規制仕分け」が、きょうから始まる。国の規制や制度のあり方を、国会議員や民間の有識者が公の場で議論する作業である。規制改革は一般にはなじみの薄いテーマだ。なるべ[記事全文]

外相の進退―まず調べ説明してから

 予算関連法案成立のメドが立たず、足元では小沢一郎元代表を支持するグループとの確執が増すばかりの菅直人首相にとっては、極めて深刻な追い打ちである。

 前原誠司外相の進退問題が急浮上している。政治資金規正法が禁じる外国人からの献金受領を認めたためだ。

 前原氏は仙谷由人前官房長官らとともに、菅首相の進める「脱小沢」路線の牽引(けんいん)役だった。外交・安全保障政策に明るく、鳩山由紀夫前政権で傷ついた日米関係を立て直すうえでも、重要な役割を担っている。

 外相就任後わずか6カ月。日米同盟の深化や普天間問題の節目となる日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を控えた時期に退任となれば、日本の外交にとっても打撃となろう。

 問題とされたのは、前原外相の地元の京都市内で焼き肉店を経営する在日韓国人の女性から、4年間で計20万円の献金を受け取っていたことだ。

 規正法は、日本の政治や選挙に対する外国の影響を防ぐため、外国人から寄付を受けることを禁止している。前原氏は、この女性から寄付があったことは知らなかったと説明しているが、外交の責任者という立場の重さを考え、進退を検討しているという。

 前原氏はほかにも、脱税事件で有罪判決を受けた男性が関係する企業から献金やパーティー券代を受け取っていたことが明らかになっている。

 民主党政権は、鳩山前首相や小沢氏の政治資金問題で、国民の深い幻滅を招いてきた。前原氏のケースは、金額が限られ、刑事事件として立件されているわけではないが、「クリーンな政治」を掲げる菅政権の重要閣僚だけに、簡単に見過ごすわけにいかないのは当然だ。

 自民、公明など野党は、参院への問責決議案提出も視野に、前原外相の辞任を求めている。民主党内でも、辞任やむなしとの声が上がっている。

 しかし、この問題はまだ表面化したばかりだ。女性から献金を受けることになった経緯や献金の総額など、前原氏による事実関係の調査と、国会や有権者に向けた説明はこれからである。

 「事務的なミス」(民主党の岡田克也幹事長)なのかどうかを含め、解明すべき点は多い。辞任か否かの判断はその後のことだろう。

 政治的駆け引きのなかで、重要閣僚の進退がこれほど短兵急に取り扱われる展開には首をひねらざるをえない。

 予算案と関連法案の修正が焦点となるなか、野党が政権打倒一辺倒になって世論の共感を得られるだろうか。

 疑惑の当事者には、まず徹底して説明責任を果たしてもらう。それすらしないという強硬な態度は論外として、辞任で手早く幕引きにするというのも責任ある姿勢とはいえない。

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規制仕分け―全面公開テコに大胆に

 初めての「規制仕分け」が、きょうから始まる。国の規制や制度のあり方を、国会議員や民間の有識者が公の場で議論する作業である。

 規制改革は一般にはなじみの薄いテーマだ。なるべく多くの国民の関心と支持を改革推進のテコにするために、外部の視点と全面公開という「事業仕分け」の手法を活用することは、意味のある試みといっていい。

 規制にはそれなりの理由があり、関係者の利害も複雑に絡み合う。事業仕分けのように、その場で「廃止」「見直し」と結論を出すのは乱暴かもしれないが、改革の方向性はできるだけ明示してほしい。

 仕分けの対象は、新成長戦略の柱となる環境、医療、農業分野を中心にした12項目。政府内で検討されている膨大な項目からすれば、ごく一部に過ぎない。議論は出尽くしており、あとは実行するかどうかの政治的決断だけだという「仕分け不要論」もある。

 しかし、議論の過程をガラス張りにし、規制の現状と改革した場合のメリット、デメリットを国民の前にすべて明らかにすることは、政治の決断に対する世論の支持と理解を高めることにつながるに違いない。

 小泉構造改革を批判して、政権を奪取した民主党は当初、規制改革に熱心とはいえなかった。

 確かに、負の側面は否定できない。たとえば、労働分野の規制緩和が大量の非正規労働者を生み、格差社会の一因となった。しかし、それは規制改革そのものが間違っていたというより、セーフティーネットの整備など、社会的影響に対する備えが不十分だったことに主な原因があると見た方がいい。

 新しいビジネスの芽を育て、日本経済を活性化させるうえで、やはり大胆な規制改革は欠かせない。

 規制改革はまた、菅政権が掲げる「平成の開国」を実現する鍵も握っている。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の締結には、EUが強く求める非関税障壁の見直しが必要だ。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を目指すなら、規制改革を通じた農業の強化だけでなく、投資やサービスなど幅広い分野で、規制の見直しは避けて通れない。

 新規参入を阻止し、既得権益を守りたい業界団体。規制を通じて権限と仕事を維持したい霞が関。業界団体の意向を代弁することで政治的な見返りを得たい族議員。自民党政権時代、この「鉄のトライアングル」が規制改革を阻む岩盤と言われた。

 民主党政権が、政権交代により古いしがらみを断ち切ったと胸をはるなら、それにふさわしい改革の実をあげねばなるまい。政府が今月末に閣議決定する規制改革の全体像を注視したい。仕分けはその第一歩に過ぎない。

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