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2003/02/25 IPログ保存で2ちゃんねるは変わるか
(CNET Japan)
AERA 2004年7月12日号
巨大掲示板の徹底解剖と行方
さらば、2ちゃんねる
コントロールしきれないほど膨れ上がった空間、扇情的な世論、そして相次ぐ訴訟。
社会の見方も厳しくなってきた。27歳の管理人は、もうすっかり冷めている。
ライブドアが買収の動き
プロ野球の近鉄買収に名乗りを上げたネット企業大手「ライブドア」。6月30日の会見では、堀江貴文社長兼CEO(31)が、
「プロスポーツ界、ひいては社会の発展に貢献したい」
と気勢を上げて注目を浴びたが、その2週間前、ライブドアによる別の「買収劇」が、ネット業界を驚かせていた。
「2ちゃんねる」と、見た目や使い勝手がそっくりの「したらばJBBS」の営業権を、1億円で買うと発表したのだ。
「したらば」は、2ちゃんねるの管理人、西村博之氏(27)が仲間と99年、2ちゃんねるの派生サービスとして、立ち上げた。
「レンタル掲示板」と呼ばれるサービスで、2ちゃんねるのような機能の匿名掲示板を、自分で作れる。
管理人は、西村氏の仲間の23歳の男子大学生。この学生は今春、ライブドアの新卒採用に応募した。
その際、気付いたライブドアの採用担当者から、買収話を持ちかけられたという。
「いくら?と聞かれたので、じゃあ1億円と言ったら、値切られることもなく決まってしまいました」(学生)
ライブドアの旺盛な「買収欲」の背景には、今年4月の公募増資で385億円の現金を獲得したことがある。
ライブドアは、検索サイトから証券会社までそろえたネットの総合企業グループだが、先行するヤフーや楽天には、
ユーザー数やアクセス数で大きく水をあけられている。
「匿名掲示板のような人の集まるサイトは、ユーザーを取り込む大きな力になる。したらばを買収したのは、
ゆくゆくは2ちゃんねるそのものの買収を視野に入れているからでは」(業界関係者)
確かに、この推測を裏付けるかのように、ライブドアはこのところ、2ちゃんねるとの関係を急速に強めているのだ。
西村氏が昨年始めた「2ちゃんねるプロバイダー」の回線などは、ライブドアが提供している。
ライブドアが5月にリリースしたブログ検索システムは、西村氏が役員の会社「未来検索ブラジル」が構築した。
堀江社長に直撃した。
「運営が困っていると聞いて、サーバーを提供するとオファーしたことはありますけどね」
堀江社長は2ちゃんねるそのものの買収については否定したが、西村氏については、
「うちが買収したソフト製作会社に社員としていたこともありますし、そもそも身内というか、仲間みたいなもの」
と、意外にも親密さをアピールした。2ちゃんねる買収の動きは、過去にもなかったわけではない。
西村氏によると、2001年8月、冗談で「売ります」と告知したところ、リクルート社が内々に3億円という額を示してきたという。
2ちゃんねる稼ぎの構造
2ちゃんねるの最大の特徴は、これだけ巨大な存在になりながら、現在も西村氏が個人で所有し、
管理しているという特異なシステムにあると言ってもいい。
西村氏自信は、東京プラス、東京アクセスという2社の社長をしている。
2社の登記上の所在地は東京都北区にある西村氏の実家になっている。
だが2社とも、2ちゃんねるの広告代理業などを請け負う会社で、2ちゃんねるの運営はあくまで個人としての西村氏だという。
それでは、この巨大掲示板は、個人の手でどのように運営されているのだろうか。
特に経営面。大きな支出は、サーバーの利用費だ。
2ちゃんねるにある掲示板は、ジャンル別に約500個。
それをおさめた100台近いサーバーのほとんどは米シアトル郊外にあり、N.T. Technology社が管理を請け負っている。
この会社はレンタルサーバーやクレジット決済代行などをしている会社で、日本の代理店関係者が00年、
広告掲載を引き換えに西村氏にサーバーの無料提供を申し出たのがきっかけで、つきあいがはじまったという。
サーバーは米国に
アクセス数の急増などで現在は有料となり、西村氏が直接管理費を支払っている。
社長のジム・ワトキンス氏(40)によると、その費用は月約2万ドル(250万円)。
「特別に値引きしてるよ。こんなに巨大な掲示板の管理を担当できるのは、とても誇りだからね。
韓国や中国からのハッカー攻撃がすごくて大変だけど、対応に追われているうちに、気づいたら技術力がすごくあがっていたよ」
自身の説明によると、ワトキンス氏は元米軍人で、陸軍のネット関連の仕事をしていた。
真偽はわからないが、米国内で日本企業絡みの殺人事件が起きたときには、
「2ちゃんねる上の事件関連の書き込みについて、アクセス記録を見せてほしいと、FBIの捜査官が来たこともあった」という。
一方の収入。主な収入源は広告だ。掲示板ごとに2〜4個のバナーが出ている。
全ての掲示板に1ヶ月間バナーを出す場合の正規料金は150万円。
広告主の一つであるネット関連会社の担当者は、
「今年3月から利用していますが、反応は非常に良い。すべての掲示板に出したかったが、枠がいっぱいで出せなかった」
書き込みも商用利用
いかがわしい広告もある。
目に付きやすいメニュー画面にある六つのバナーのうち三つが「クレジットカードのショッピング枠を現金化します」という広告。
普通にはお金が借りられない多重債務者などに、現金を得る手段を提供する怪しいサービスだ。広告主の1社が取材に応じた。
「うちは、広告を出したくても他のメディアでは断られる。費用対効果はトントンだけど、それなりにアクセスがあるので、今後も出し続けるよ」
有料会員の存在も小さくない。2ちゃんねるは、発言がなくなって一定時間が経ったスレッド(書き込みのまとまり)は、お蔵入りして読めなくなる。
年間約4000円(実際はドル建て)の会費を払って会員になると、それが読めるようになる。
関係者によると、会員は約3万人で、クレジット会社などへ支払う手数料などをのぞくと、年間20万ドルの収入。
主に、サーバーの補強費に充てているという。
「書き込み」もビジネスに利用されている。東京・渋谷の株式会社ガーラは、
ネット上の「中傷」や「商品批判」に敏感な企業約80社を顧客に、掲示板などの書き込みを監視するサービスを提供しているが、
そのために、実は2ちゃんねるの書き込みを「商用利用」する契約を前出の東京プラスと結んでおり、使用料を払っている。
額は不明だが、ようは、2ちゃんねるを監視する会社からも収入を得ているのだ。
ロイヤルティー収入も
また最近では、他の企業との提携で、2ちゃんねるの名前をつけたサービスも続々始めている。
今年5月にはじまった「2ちゃんねるオークション」もその一つ。
アングラ情報を販売するサイトで有名な電網社が、ロイヤルティーを西村氏に支払って運営している。
本堂昌哉社長(32)によると、「大手のヤフーオークションは、トラブル回避のために出品できるものに制約が多い。
違法でないものなら何でもOK、というネットオークションをしませんか」と持ちかけて実現させた。
扱うものはたとえば、近所の主婦が作ったクッキーや、昆虫、さらには「使用済み下着」でもいい。
他にも、前出の「2ちゃんねるプロバイダー」や「2ちゃんねる検索」など。
西村氏は収支の詳細を明かさないが、2ちゃんねる全体について「赤字ならとっくにつぶれてます」と話す。
さらに巨大な「提携先」もある。関連する地域ごとの掲示板「まちBBS」は、東京・恵比寿のNHN Japanが、サーバーを無償提供している。
この会社は、ヤフーのような検索サイト「NAVER」を運営する韓国のネット企業最大手「NHN Corporation」の日本法人で、
2ちゃんねるやヤフーなどの掲示板の内容についての、検索サービスをやっている。
そのため一日一度、各掲示板の内容をすべて読み込んで、NAVERのサーバーに蓄積している。
ちなみに、このNHNは、世界有数の韓国巨大企業グループ、サムスンともつながりがある会社だ。
賠償不払いのからくり
つまり、これほどの事業展開と収益活動を、建前では関連会社がしながら、2ちゃんねる本体は西村氏がすべて個人で担っている実態。
そのひずみが端的に現れているのが、相次ぐ裁判への対応だ。
「名誉毀損」などでこれまで20件以上の訴訟が企業や個人から起こされ、今年6月末の時点で西村氏が支払わなければならない賠償額は、
判決が確定したものだけで少なくとも合計1520万円、判決が出たが確定していないものも加えると2千万円を超す。
だが西村氏は判決を事実上無視し、一件も支払っていない。なぜそんなことが可能なのか。
「差し押さえをするにしても、個人口座や個人資産を知るすべがない。広告や出版で収入を得ているはずなのですが」
ある訴訟で原告代理人を勤めた弁護士は言う。
わかったとしても、差し押さえなどの強硬手段には出にくい事情もあるらしい。別の弁護士は話す。
「例えば財産の差し押さえを執行して、それ自体がニュースになってしまうと、2ちゃんねるでまた叩かれかねない。
二次被害、三次被害の恐れを考えると、手が出しにくいんです」
アクセス数は頭打ち
ちなみに、講談社「Web現代」の「2ちゃんねる占い」には
「このコンテンツの売り上げの一部はひろゆきの裁判費用ならびに運営資金として有効に活用されます」とある。
Web現代編集部は、「2ちゃんねるっぽさを演出するしゃれ」と説明するが、前述した通り、西村氏は賠償金を支払っていない。
一方で、こんなデータもある。今年で開設5年目を迎えた2ちゃんねるは、当初は「若者限定メディア」のイメージが強かったが、
最近は幅広い世代に浸透してきた。だが実はアクセス数は、2年前から頭打ちなのだ。
ネット視聴率を調査しているネットレイティングス社の調べでは、03年1月に、4億ページビューに達したのがピーク。
以降は、変動はあるものの微減傾向にある。
『2ちゃんねる宣言』の著者で、一時運営にも携わった井上トシユキ氏は「ユーザーの入れ替わり」とみる。
「ネットの盛り上がりには限界があって、飽きた人がだいぶ離れました。今いる人の多くは、
最高潮の盛り上がりを見せた2002年日韓W杯以降に2ちゃんねるを知った人でしょう」
著しい誹謗・中傷の書き込みに対しては、その発信者の記録の開示を管理人に求めることができるプロバイダー責任法も2年前に施行された。
別の弁護士はこんな警告をする。
「我々が本当に許せないのは、ひどい書き込みをした本人。だから速やかに発信者情報を開示してもらって、発信者に損害賠償を請求したいが、
法的手続きに1人で対応しているため、発信者情報開示の仮処分を申請しても、裁判所からの通知がうまく送達されないことも多い。
その間に記録がなくなったと言われれば、西村氏に損害賠償を求めるしかない。
法人化して苦情処理を組織立てて対応しないと、結局、不利になるのは西村氏自身なんです」
買収費4億から8億円
そうした不適切な投稿の削除は、2ちゃんねるの場合、「削除人」と呼んでいるボランティアが行なっている。
その数約300人。たとえば、「電話番号」が書かれた場合は、「見つけ次第、削除OK」となっている。この削除人である男性会社員は言う。
「自分が楽しんでいる場を、自分できれいにしているだけ。まあ自警団みたいなものですかね。
でも、2ちゃんが企業運営になったら、削除人はやめるかな」
削除人には、削除できる範囲などについてランク付けがあるが、このボランティアをまとめるサイトを運営しているのは、何と高校3年の男子生徒だ。
「2ちゃんねるみたいな大きな土俵で活躍できるのが楽しいし、将来したい仕事の経験にもなる」と言う。
一筋縄ではいかない巨大な匿名の言論空間。もし企業が本気で買い取るとしたら、値段はいくらなのだろうか。
企業買収に詳しいネット関連会社の幹部は言う。
「4億から8億ぐらいの値はつくのでは。本気でやれば、広告だけで年3000万円ぐらいの収入になる。
本気で買おうと考えているところ、あるんじゃないですか」
2ちゃんねる管理人 西村博之氏
「余力があっても支払わない」
「惰性で続けてたが、もう飽きた」
―判決で命じられた賠償金を支払わないのは。
払えないですよ。合計したら2千万円超えてるんじゃないですかね。
もし払える余力があっても払わないんじゃないですか。
―それはなぜですか。
これは払う義務ではなく、(勝訴した相手側が)お金を取る権利だと思うんですよ。
相手からすれば債権だけど、こちらにとっては義務じゃないと思っています。
―今後も敗訴が続くと、請求額がたまっていきます。
生活や、2ちゃんねる運営する上でネックにはならないのですか。
個人的なネックと言えば、自分がマンション買ったりすれば、すぐに差し押さえになりますよね。
まあ、別に買うつもりもないですが。2ちゃんねるの運営上では、別にネックになっていませんね。
―法人化しないのは、個人の方が都合がいいからですか。
会社にする必要性もないし、面倒ですからね。
でも、本当に危機管理するんだったら、会社組織のほうがいいですよ。
たとえば有限会社を資本金1万円で作って、それに賠償請求を負わせて、
赤字で倒産させればいいわけですから。個人で不動産をもてない今の状況の方が都合が悪いですよ。
―2ちゃんねるを企業が買収すると言うことは。
難しいんじゃないですか?訴訟コストを差し引いて、利益が出るとは思えません。
まあ、もし買いたいところがあって、ぼくに何かデメリットがなければ、
可能性としてはゼロではないですけど。
―将来は。
10年は持たないんじゃないですかね。いずれ需要がなくなるでしょう。
ネットの掲示板でコミュニケーションを取りたいという人はそもそもニッチですからね。
どこかの企業が、きちんとしたものを運営し始めたら勝てないですよ。
―設立した5年前と今で違うのは。
飽きましたね。今も続いてるのは、惰性でしょう。もう面白いことは起きないですよ。
―引き継ぎたいと言う人が現れたら。
何もデメリットがなければ、引き継ぎますよ。
僕に問い合わせが来ないとか、トラブルが発生しないとか。
でも、まともに収支計算できる人なら、引き受けないでしょうね。