「全員が生きているうちに解決できてうれしい」。3日に患者側と国との間で初めて和解が成立した新潟地裁の新潟水俣病4次訴訟。症状を背負わされたまま老いも進むなか、早期の和解は悲願だっただけに、新潟市内で会見した原告らは喜びの声をあげた。
阿賀野患者会会長で原告団長の山崎昭正さん(69)は「未認定の原告171人が一時金などの対象になり、生きているうちに解決できた」と感無量の涙をハンカチでぬぐった。「潜在患者が名乗り出られるよう、これからも住民健康調査の実施などを国に働きかけていきたい。公害を後世に起こさせないよう、次の世代に伝えていきたい」と話した。
手足のしびれや耳鳴りなど水俣病特有の症状に悩まされながら、裁判を闘ってきた原告たち。副会長の山田サチ子さん(75)は「みなさんの支援でここまでたどり着けたことはうれしく思う」とし、国などに対しては「これから私たちも体が衰えていく。介護や福祉を充実してほしい」と注文をつけた。
昭和電工の村田安通常務は「私たちにとっても最良の選択をしたと思っている。和解によって、水俣病に関わる問題の解決が前進すると考えている」と話した。【畠山哲郎、岡田英、塚本恒】
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■解説
新潟地裁で3日に成立した和解は、水俣病を巡る訴訟で国が初めて応じた点で、未認定患者救済問題の大きな節目となる。ただ患者側が指摘する「潜在患者」問題がなお残っており、必ずしも「最終解決」とは言えない。
一時金210万円支払いなどの和解条項は、計約3000人が訴えた全国4地裁の集団訴訟でほぼ共通する。熊本など残り3地裁も今月下旬に和解の見通しで、水俣病被害者救済特別措置法(09年)の大枠に沿った形で救済が進むことになる。新潟地裁ではさらに、平均年齢が70歳を超す原告に配慮し、被害者手帳所持者らに、介護保険サービス利用料の一部を原因企業の昭和電工が負担するなど独自の成果もあった。
ただ、同じく原告側が強く求めた阿賀野川流域での住民健康調査は合意に至らなかった。原告らでつくる阿賀野患者会などの住民検診では昨年、受診した43人全員が「水俣病」と診断された。差別や偏見を恐れてまだ名乗り出るのをためらう「潜在患者」が多数いると主張、掘り起こしのため同調査を訴えた。
新潟水俣病の認定申請者(1月末現在)は延べ2395人だが認定患者は698人。公式確認から46年を経た今も被害の全容は解明されていない。しかし、国側はメチル水銀と症状との因果関係の証明は難しいなどとして調査に難色を示し、今後も患者側と協議を続けるという。
司法や行政に名乗り出た人だけを対象にするなら、その場しのぎの救済の繰り返しに終わる。水俣病の全体像を明らかにし最終解決を図る努力が、国や原因企業は今後も求められる。【畠山哲郎】
毎日新聞 2011年3月4日 東京朝刊