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社説:リビア情勢 軍事介入はまだ早い

 リビアに対する飛行禁止空域の設定が検討課題になっている。90年代にフセイン政権のイラクやボスニア・ヘルツェゴビナに対して科された懲罰措置が約20年ぶりに浮上してきた。リビア情勢が険悪化の一途をたどっていることの反映だろう。

 確かにカダフィ政権のやり方は目に余る。国連安保理は先月、対リビア制裁決議を採択した。武器禁輸やカダフィ大佐一族の国外渡航禁止、海外資産凍結などを決め、無差別的な暴力が「人道に対する罪」に当たる疑いがあるとして国際刑事裁判所(ICC)への付託も盛り込んだ。

 しかし、リビア情勢はなかなか改善されない。風前のともしびと思われたカダフィ政権が巻き返している印象もある。リビア上空をカダフィ政権の航空機が飛べないようにする措置が欧米で検討されるようになったのも無理はなかろう。

 空軍力を縛らないとカダフィ政権がなりふり構わぬ攻撃を続け、さらに多くの血が流される。あるいは、カダフィ派と反カダフィ派とでリビアが二つの国に分裂しかねない。その間にイスラム過激派がリビアに流入することも懸念材料だ。

 しかし、現時点での飛行禁止措置は逆効果になる恐れもある。20年前のイラク空域封鎖は、湾岸戦争によってイラクの対空防衛網がすでに破壊されていた。そのために米軍機などが比較的容易に封鎖空域をパトロールすることができた。

 リビアに飛行禁止空域を設定する場合は、巡視する航空機が地上から攻撃されぬよう、あらかじめリビア軍の対空ミサイルなどを無力化すべきだという声もある。具体的には北大西洋条約機構(NATO)による事前の軍事行動が検討課題になってくる。これは高いハードルだ。

 そもそも反政府勢力の中にも米欧の介入に反対する声がある。飛行禁止空域を通じて米欧の軍事介入が明瞭になれば、政変が起きたチュニジア、エジプトにも反米感情が高まり、大きな揺り返しが予想されよう。

 オバマ大統領は3日、初めてカダフィ氏名指しで退陣を呼び掛けた。それが最良の解決法であるのは自明だが、産油国リビアで同氏が最高権力者の座に固執し、ますます多くの市民が殺され、原油価格が高騰した場合、国際社会はどう対応するか。

 軍事介入の可能性を頭から否定することはできない。このままではリビア情勢はきな臭さを増すばかりだろう。しかし、まずは欧米やアラブ・アフリカ諸国などが協力してリビアとのチャンネルを探り、カダフィ氏の退陣を根回しすることが大切だ。40年以上リビアに君臨してきたカダフィ氏も、国民全体の幸せのために身の振り方を考えるべきだ。

毎日新聞 2011年3月5日 2時30分

 

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