2010-03-19
■「非実在青少年」問題は条文構造が9割
少し時間ができたので、現行条例と改正案を読みながら一連の議論を少し追ってみました。「ゾーニングすればいい、表現規制には反対」っていう人はたぶん条例をちゃんと読んでない。これ表現規制じゃないんだよ。ましてや「文化が滅びる」なんて、ずいぶんオーバーだなと思いました。僕も(エロ)マンガやアニメが大好きだから、不安の声も理解できるつもりだけど、今回の流れでは都議会側に同情する部分もあります。賛成派が不当にフルボッコにされているように見えるので、少し発言して議論に飛び込んでみようと思います。青少年保護育成条例の構造について簡単な図を描きました。
緑の部分は、「図書類」(2条2項)一般。
オレンジの部分(P)は、いわゆるエロ本やエロビデオの類いで、青少年に見せないようにゾーニングする努力義務がある部分(7条)。
赤の部分(Q)は、エロ本等のうちで、特に露骨なもの。都が「指定図書」のレッテルを貼ることができる部分。赤の部分のエロ本は、青少年に販売したりすると、罰則まである(8条・9条)。
この2段階構造は、元々の条例においても、改正案においても変わりません。改正案においては、オレンジの部分と赤の部分に、「非実在青少年」の本やアニメが明文で加えられている、ということです。
表現規制ではない
まずはっきりさせておくべきは、改正案が通ったあとも、漫画家、作家、同人サークル、クリエイターなどなどの人は、これまで通り全く自由に描くことができるし、描いたらいいということです。
たしかに、18歳未満の人に対しては売れなくなります。けど、青少年の発達に悪影響を与えるようなエロいコンテンツなら、それもやむなしということを理解して、18歳以上の大人に売ったらいいのです。18歳以上の人に売ることは元条例も改正案も規制していません。
エロマンガやエロアニメなど二次元のものについて、ゾーニングすべきところ、今まで上手にできていなかったので、これからはちゃんとしましょうね、しないとだめですよ、という条例改正案なのであって、行政権が表現の内容規制をしようとか、そういうものではないことがわかると思います。それでも、「文化が滅びる」かな?
オレンジの部分と赤の部分を混同した発言をしないで
次に、2段階に設定されてる話。
「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」(新設、7条2号)については、図書の販売等をする人に対して、青少年の目に入らないようにするような努力義務が課されます。努力義務があるだけで、不健全図書にされたりするわけでもなく、この場合たいしたことありません。
「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」(新設、8条2号)については、都知事が不健全だと「指定」することができ、その場合青少年への販売や貸与が禁止され、コンビニ等には並べるときにシュリンクラップして隔離する義務ができます。
こうやって、2段階に設定されているのだけれど、ネット上ではオレンジの要件を赤の効果と結びつける発言がちらほら見えて、よくないなと思いました。
藤本さんは「都は、過激な性表現のある作品のみが対象と言っているようだが、条文を照らすとそれは事実ではない」と指摘。現行条例でも不健全図書の規定がある中、改正案では「非実在青少年」に関する規定を新設しており、青少年の性を肯定的に描いたさまざまな作品が対象となり得ると懸念する。
「文化が滅びる」――都条例「非実在青少年」にちばてつやさん、永井豪さんら危機感 - ITmedia News
IT media newsより引用
例えば漫画評論家の藤本さんの発言とされるこの部分も、オレンジと赤を混同してるように見えます。藤本さんが言うような、青少年の性を肯定的に描いたさまざまな作品は、オレンジの部分に入るかもしれないけれど、赤の部分にはまず入らないよね。不健全図書にはなりえない。(まさか強姦モノの成年向けコミックを「青少年の性を肯定的に描いたさまざまな作品」とは呼ばないでしょう。)
「ちょっとセクシーな描写があったら、すぐ不健全図書にされてしまうから、不当だ」っていう意見は、ここを混同しているか、意図的に誇張して議論を操作しているかのどちらかで、よろしくないなと思います。
反対派の主張のうちで僕が共感するもの
- 都条例が青少年を18歳未満と定義するのはおかしい。16歳以上の女子高生がセックスする話を描いて何が悪いのか。婚姻できる年齢だし、自然な性行為ならいいのでは。
僕もそう思います。(まあこれは改正案に限った話ではないですね。)
- 文言が曖昧なので、恣意的な運用がされうる。
僕もそう思います。わいせつ系の法文はいつも曖昧で、具体性に欠くところがあり、大きな問題ですね。今回は、3月17日付けで、条文の文言をかなり制限的に解釈する都の見解が発表されています。今後の審議の中では、ここにある具体的な解釈を、できる限り法文に取り込む努力をしてほしいと思います。
- 小学生に見える外観のキャラが小学校に通っていたりするけれど、作品内の設定では、実はエルフで100歳だとか、○×星人だから200歳だとか、宣言されているとき、そういうのをどうするのかはっきりしない。
3月17日付けの都の見解では、たとえ幼児に見えても、18歳以上と設定されていれば、「非実在青少年」にあたらないとしています。するとザル法にも見えます。変な話ですね。
- そもそも、指定図書制度自体が良くない制度だ。それを少しでも強化することになる今回の改正案には反対だ。
大きな主張ですがありでしょうね。
- 「非実在青少年」の規定はわざわざ加えなくても、元条例の解釈を広げれば、難なく規制できるはず。
これについては鋭い指摘が匿名ダイアリーに上がっています。http://anond.hatelabo.jp/20100319054706 新設される「非実在青少年」の規定は、元条例の部分集合にすぎないように読めるというのです。たしかにそうです。都議会は律儀なことをしているな、という感想さえ抱きます。
今後も感情的にならずに条文に立ち返った議論を
何よりマズかったのは、異常に早く審議が進んで、「都議会は都民に気づかれないようにこっそりとヤバいことをしている」というような印象を与えたことでしょうか。エロマンガのゾーニング行政を変えることになるこの改正案、今後もみんなが感情的にならず条文に立ち返った議論をして、妥当な結論がもたらされることを願っています^^
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