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フランチェス子の日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter


2011-01-30

読書メモ「整形美女」

整形美女 (新潮文庫)

整形美女 (新潮文庫)

全身整形を希望する繭村甲斐子は、ながい睫毛とおおきな瞳「一分の狂いなく設計されたような鼻梁」と、適度に厚い上品な唇、完璧な歯並びとあわいさくら色の歯茎、そして絹織物のような、なめらかで光沢のある肌をした、抜群のプロポーションをもつ絶世の美女。しかし、彼女はその容姿をにくんでいる。はれぼったい一重の、豆つぶのような目。わずかに上向き気味ぎみのひくい鼻。ちいさな口にボテッとしたほっぺた。バストの隆起はささやかで、ウエストはくびれず、ヒップはぺたっとたいらな体型。それが甲斐子のかんがえる理想の顔とからだだった。なぜ?そう問われて彼女はいう。「____復讐でしょうか」おもわず引き込まれるふしぎな導入部だ。アダムとイブの息子で、人類最初の兄弟、カインとアベルの物語を下敷きにした、この奇妙な小説には、ふたりの「整形美女」が出てくる。繭村甲斐子(まゆむらかいこ)と、望月安倍子(もちづきあべこ)だ。甲斐子は安倍子の「大ヒットする外見」と、それに自然と呼応する内面、醸しだす雰囲気、つまり「計算されつくしたさっぱりとした笑顔」や「においたつような清潔感のある不潔感」を「美人」と定義づけ、あたらしいアイデンティティを得るための参考にする。一方、凡庸なルックスの安倍子はなんとなくながされて美容整形をくりかえす。のだが、そのとき持参したのは同郷の同級生、甲斐子の写真だった。愛を手に入れるには美を、美を手に入れるには愛を、失なわなければならない皮肉、それらに振りまわされる甲斐子と安倍子の人生を「整形美女」はスリリングにえがく。なにがうつくしく、なにがみにくいのか。美容整形は不倫か否か。また、不倫とはなにか。本書は美醜と倫理を巡る鋭い考察に溢れている。

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