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2011年3月5日(土)付

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予備校生逮捕―若者の失敗、どうみる

京都大などの入試問題が試験中にネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が逮捕された。偽計業務妨害容疑である。カンニングは、一緒に勉強してきた多くの仲間を裏切る行い[記事全文]

中国国防費―不透明さが懸念を呼ぶ

中国の2011年の国防予算は、6011億元(約7兆5千億円)に上ることが明らかになった。10年の実績と比べて12.7%も増えるが、中身は相変わらず不透明なままで、近隣諸国の懸念はつのるばかり[記事全文]

予備校生逮捕―若者の失敗、どうみる

 京都大などの入試問題が試験中にネットに投稿された問題で、仙台市の男子予備校生が逮捕された。偽計業務妨害容疑である。

 カンニングは、一緒に勉強してきた多くの仲間を裏切る行いだ。社会的影響も大きかった。ただ、日本ではカンニング行為そのものを罰する法律もない。まだ19歳。処分は慎重に判断すべきだろう。

 予備校生は「携帯を股の間に隠して操作した」と話しているという。捕まってみれば、器用だが幼い手口にも思える。世間の大騒動との落差に、ネット社会の今が浮かびあがるようだ。

 入試を離れれば、どこの大学も頭を痛めているのが、学生が出すリポート類のコピペ対策だ。都合よいデータをネットからかき集め、引用元も示さず切り貼り(コピー&ペースト)する。考察部分まで他人のを借用し、悪びれない学生が増えている。

 覚えていなくても、考え悩まなくても、検索すれば15秒ほどで見つかる。手軽に、即座に、何でも、答えをネットから拾う風潮が広がっている。

 ネットに参加する人の間で情報を交換し、知識を共有する。そんな「集合知」の営みも盛んだ。今回使われたヤフー知恵袋や、ウィキペディアは、その代表例だろう。だが、ネット情報には「正しさ」が必ずしも確立していない。現に予備校生の質問への回答は、正解ばかりではなかった。

 子どものときから情報端末を手にする機会は増えている。ネットや携帯を利用する際のルールやモラルから、きちんと身につけさせる必要がある。

 ネットにはどれだけ頼ってよいか。自分で考えること、自力でなすべきことはなにか。あふれる情報から何を疑い、何を取捨選択し、自分の考えにどう生かしてゆくか。そうした「情報リテラシー」は、これからの学校教育の大きな柱になる。

 ネットは匿名社会だと思われがちだが、不正を働けば痕跡をたどることはできる。予備校生も、わずか数日で特定された。ハンドルネームで覆面をしていても、ネットに参加する者には責任が求められるのだということも、社会で共有してゆきたい。

 各大学や文部科学省は不正受験をどう防ぐか、対策の強化を急いでいる。カンニングを見抜けなかった大学が、監督態勢を厳しく再点検すべきなのは言うまでもない。

 他方、大学が最初にこの問題をつかんだ段階で、「不心得者よ、名乗り出よ」と呼びかけるような手立てはなかったか。今思うと、ネットの進化についてゆけない大人社会が、過剰に反応した面はないだろうか。

 冷静に考えよう。ネットや携帯のなかった昔から、若者はときにとんでもない失敗をしでかすものだから。

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中国国防費―不透明さが懸念を呼ぶ

 中国の2011年の国防予算は、6011億元(約7兆5千億円)に上ることが明らかになった。10年の実績と比べて12.7%も増えるが、中身は相変わらず不透明なままで、近隣諸国の懸念はつのるばかりだ。

 きょう開幕する全国人民代表大会(全人代)の報道官をつとめる李肇星前外相が記者会見で説明した。

 李氏は予算増の理由として、装備増強や軍事訓練増加、軍人の待遇改善などをあげた。

 インドの記者からは国防費増加は隣国への圧力になるのではないかとの質問が出たが、「国内総生産(GDP)比で2%以下で、多くの国より低い」と述べた。そのうえで「防御的な国防政策を実行しており、どの国にも脅威とならない」と話した。

 中国は空母建造など海軍を増強するだけでなく、ステルス戦闘機や高性能ミサイルの開発によって空での存在感も強めている。そういう現実を踏まえれば「脅威とはならない」という簡単な説明では、対外的に説得力はない。

 李氏は「国防予算は法に基づき全人代の承認を受け、執行にあたっては国家と軍隊の監督を受けている」とも述べる。だが実のところ、中国国民のほとんども実態を知らない。

 政府の収入と支出について、予算案や審議の過程、執行状況が公開される民主国家とは違い、中国では国防予算だけでなくすべての予算が不透明さに包まれている。国防費に研究開発費や海外からの装備購入費などは含まれておらず、米国からは実際の国防費は2倍以上との見方が出ている。

 中国では、89年の天安門事件で傷ついた軍の威信は、海外や災害などでの活発な活動により、国内でかなり回復している。軍服姿でホテルのレストランで飲食したり、百貨店で買い物をしたりしても問題にならない。軍と民の関係は日本では考えられないほど強いのだ。

 軍が主導する膨大な費用のかかる宇宙への進出も、誇りに思う人が多い。だから、国外からのような厳しい視線は見られず、国民から国防予算への批判はほとんど聞かれない。

 そんな国民感情を背景に、右肩上がりの経済成長をバネとして、中国の国防費は当面伸び続けるだろう。

 その結果、アジアの隣国では中国脅威論が高まるだろうし、対抗して軍事強化を図っている国も少なくない。

 尖閣諸島沖の事件や南シナ海での摩擦などの後に再び強調されるようになった「中国平和発展論」も、まともに受けとめられなくなるだろう。

 中国の目覚ましい発展は、平和な周辺環境があってのことだ。軍事力強化はそんな環境を台無しにし、結局は不利益を招きかねない。地域の大国としてその大局を見通してほしい。

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