【社説】北に言い掛かりの口実を与えた漂流民の処遇

 先月5日、漁船に乗って延坪島に近い西海(黄海)の北方限界線(NLL)を越え、韓国側の海域に入った北朝鮮の住民31人のうち4人が韓国への定着の意思を示した、と韓国政府が今月3日に発表したところ、北朝鮮はすぐさま反発し、31人全員の送還を要求した。韓国政府は4日、北朝鮮に帰還したいとの意思を示した27人を、板門店経由で北朝鮮側に引き渡そうとしたが、北朝鮮は同日夜「31人全員を返してほしい」として引き渡しを拒否した。

 韓国政府は2004年以降、北朝鮮の住民が集団で韓国入りした29件の事案のうち、18件については全員を送還した一方、9件については全員の韓国定着を認め、2件については一部の韓国定着を認める措置を講じた。これは、国家情報院や軍、警察、政府の関係者が合同で行う尋問を経て、北朝鮮の住民たちの自由な意思を尊重し決定したものだ。ところが北朝鮮は、全員を送還しなければ「帰順(韓国に定着させる)工作だ」と言い掛かりをつけてきた。

 北朝鮮は今回も「事件の処理をめぐり、南朝鮮(韓国)当局の立場や姿勢について考え直さなければならなくなった」と脅迫した。全員を送還しなければ、南北関係をさらにこじれさせるというわけだが、仮にそうなったとしても、韓国への定着を希望した人たちを北朝鮮に帰すことはできない。北朝鮮が帰還した人たちに「反逆」のぬれぎぬを着せ、むごたらしい刑罰を科すのは目に見えている。韓国への定着を希望した4人が最後の最後まで明確な意思を示さず、躊躇(ちゅうちょ)し続けたのも「そのまま北朝鮮へ送り返されたらどうなるか」という恐怖心があったからだろう。

 韓国政府は今回、31人の処遇を決めるまで1カ月近くを費やした。政府は「調査対象者があまりにも多かった」と説明したが、過去に比べ長い時間がかかったことは事実だ。その上、政府は先月初め、31人が韓国側へ漂流してきた事実を初めて確認した際にも「韓国への定着を希望している人はいない」とコメントした。それが、ここへ来て結論が変わったため、北朝鮮が「帰順工作だ」と言い掛かりをつけてきたのだ。

 今後も北朝鮮の住民たちがNLLを越えて韓国側へ入るケースはたびたび起こると考えられるが、今回のように調査に時間がかかり、韓国への定着を認めるか、帰還させるかをめぐる結論が二転三転するようでは、南北関係もまたこじれることになりかねない。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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