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社説:企業結合審査 独禁法の原点も大切に

 企業結合に対する審査について公正取引委員会が見直しを行うことになった。合併や経営統合に関する審査の際の負担を減らしてほしいという企業側の求めに沿って簡略化を図るという。

 経済活動のグローバル化が進む中で国境を超えた企業の淘汰(とうた)が進んでいる。資源分野で特に顕著で、鉄鋼生産に使う鉄鉱石や原料炭では、新興国の需要拡大も加わり、資源メジャーと呼ばれる巨大企業が価格交渉を優位に進めている。

 一方、半導体や液晶パネルといったエレクトロニクス分野では、韓国企業の攻勢を受け日本企業は苦戦しており、自動車でも同様の事態が懸念されている。

 資源メジャーとの価格交渉能力を高めなければならないし、世界的な市場獲得競争に互角に渡り合っていけるだけの体力を備える必要もある。そんな日本企業を取り巻く状況を背景に多過ぎる企業を集約し、国内競争で疲弊している現状を改善すべきだという考えが広がっている。

 バブル崩壊後、日本では長期にわたり経済の低迷が続いた。その間に世界のビジネス環境は大きく変化している。それに対応するには、時間を買うという意味合いも含め日本企業にとって、M&A(企業の合併・買収)が大きな意味を持っている。

 企業結合審査について公取委が柔軟に対応し、日本企業の活性化につながることを期待したい。

 ただ、鉄鉱石や石炭などの上流部門の権益獲得で出遅れたり、積極的な投資を怠り韓国企業の先行を許してしまったのは、経営者の判断ミスによるところも大きいはずだ。日本企業の競争力の低下を、公取委と大きく関連付けてとらえるような風潮は、問題の核心をはぐらかすことにつながりはしないだろうか。

 また、日本企業の競争力強化は必要なこととはいえ、消費者の利益が犠牲になるようでは本末転倒だ。

 企業結合に際して、業界を所管する大臣との協議を盛り込んだ産業活力再生法の改正案について、公取委は「ユーザーや消費者が不利益を被らないか、という観点から判断していく点は変わらない」と説明している。

 所管大臣との協議は審査の途中で行うものではなく、独禁法に抵触するか否かについては、公取委が独自に判断するというのも、当然のことだろう。

 長期化や提出資料が膨大になるなど、企業結合審査について企業側は問題点を指摘している。消費者やユーザーの利益という独禁法の原点が前提となるが、激しく変わる競争環境に日本企業が柔軟に対応できるよう、公取委の積極的な取り組みを期待したい。

毎日新聞 2011年3月4日 2時31分

 

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