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社説:入試投稿逮捕 情報倫理教育の徹底を

 大学入試問題のネット質問掲示板投稿事件は、仙台の予備校生(19)が偽計業務妨害容疑で京都府警に逮捕され、捜査は急展開した。

 予備校生は問題が投稿された京都大学などを実際に受験しており、このサイトから答えを得るため試験会場から送信していたとみられる。

 「1人でやった。合格したかった。すごく反省している」などと供述しているというが、なお不明な点も少なくない。

 監督者や他受験生がいる会場で果たしてどのようにしたら可能なのか、共謀者や教唆者はいなかったのかなど、詳細に詰める必要がある。

 あきれたカンニングではすまない問題をはらんでいる。同時広範囲に多くの人々に情報をさらすネットを悪用した影響は大きい。今回の事件発覚後、多くの受験生たちはまじめな努力をあざけるような不正だと憤ったが、こうした不信感の広がりは軽視できない。

 行為には幼稚さが漂う。掲示板への投稿は不特定多数の人々の目にこれをさらすことになり、発覚するのは時間の問題だ。

 また匿名でも、サーバーへの接続記録など機器使用の「足跡」が残り、所有者らは絞られる。

 こうした一種の幼稚さと結果の重大性の落差は若者の事件にしばしば見られるところだが、今回の事件でもそれはいえよう。

 今回の不正発覚を受けて、各大学では携帯電話の持ち込みチェックに力を入れている。大学受験生たちが携帯電話の一つ一つを調べられている光景はつらいものがある。

 国立大学協会の幹部が「受験生を見たら泥棒と思え、というわけにはいかない」と苦渋の表情で語っていたが、それは大学人に共通した思いだろう。

 再発防止のために監督体制の強化や携帯持ち込み厳禁など手だてを講じるのは当然としても、自治・自律・真理探究が大学の根本理念であり、その重要な第一歩である入学者選抜に「不信」のベールがかかっては青雲の意気にも影が差そう。

 それ以前の段階の学校教育の中で子供たちに電子機器やネットの不正利用、情報の悪用などを強く退ける心をはぐくむことが肝要だ。

 「速くて簡単。今の子供たちは便利な公式ですぐ答えを出したがる傾向がある」とは小学校の先生の指摘だ。こうした性向も背景にあるかもしれない。試行錯誤しながら答えに至る過程の楽しさを子供たちにじっくり教えたい。

 またどこでも持ち込め、生活全般に便利なツールである携帯電話については、公共のルールやマナー、節度を考える機会ともしたい。

毎日新聞 2011年3月4日 2時32分

 

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