ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
2011年 耳の日&ひな祭り記念LAS小説短編 大和撫子
「シンジ、話があるの」

夕食の片づけを終えたシンジは、葛城家のリビングでテレビを見ていたアスカに呼ばれた。
何の話だろうと、アスカの所へ行くシンジ。
数分の会話の後、目を疑うような光景が展開されていた。
丈の長いジーパンとシャツに着替えたアスカが、シンジを膝枕しているのだ。
ミサトが見たら冷やかされそうなものだった。

「さあミサトが来ないうちにさっさと済ませてしまうわよ」

アスカもその事を分かっているのか、耳かき棒を取り出してシンジの耳を掘り出した。

「アスカ、本当に大丈夫?」
「初めてでも耳かきなんか簡単よ!」

不安そうに聞くシンジに、アスカは自信満々にそう答えた。

「シンジの耳の穴って見やすいわね、これは耳かきがやり易そうだわ」

アスカの言葉を聞いて、シンジはホッと息をもらした。
アスカの操る耳かき棒は順調にシンジの耳垢を取り除いて行く。

「それにしても、耳かきなんて他の人にしてもらえるなんて、思わなかったよ。僕は小さい頃に母さんを亡くしてしまったし」
「ふふん、ありがたく思いなさい」
「アスカが耳かきをしてくれるなんてかなり驚いたし」
「何よ、アタシにはそんな事似合わないって言いたいの?」

アスカが身を乗り出すと、アスカの胸がシンジの目前まで迫った。

「うわっ」

自分の顔に触れそうになった所でシンジが声を上げると、アスカもあわててシンジから体を離す。

「やらしいわね」
「勝手に近づけたのはアスカだろう?」

シンジがアスカに強く言い返そうと頭をあげると、またシンジとアスカの胸との距離が近くなった。

「ほら、頭を下げなさいよ!」
「分かったよ……」

シンジはアスカの言葉に従い、頭をアスカの膝に付けた。
アスカは興奮してしまっているのか、耳かきの仕方も先程より雑になってしまった。

「さあ、終わったわよ!」

アスカはそう宣言するとさっさと立ち上がろうとした。
そのアスカをシンジがあわてて引き止める。

「待ってよ、両方やるって約束したじゃないか」
「……仕方無いわね」
「自分で言い出した事じゃないか」

反対側の耳を掃除するためにシンジは顔の向きを変えた。
こちらからはアスカの体は見えない。
さらにほっぺたに感じるのは固いジーンズの感触。
シンジは残念な気がしてならなかった。
それでも、アスカに耳掃除をしてもらっていると言うのは気分の良いものだった。

「はい、今度こそ終わったわよ」

シンジの至福の時間は意外と早く終わってしまった。
もっと耳垢が取りにくい耳だったら良かったのに。
そんな事をシンジは思っていた。

「たった10分で5,000円何て高すぎると思うけど」

シンジは苦笑しながらアスカに5,000円札を渡した。

「耳垢を全部とるって約束だったじゃない。それとも、膝枕に期待してたの?」
「そ、そんな事無いよ」

シンジは真っ赤になってアスカの言葉を否定した。
夕食の片付けの後、小遣いの前借りをミサトに断られたアスカは、今度はシンジにお金を貸してくれるように頼んだ。
しかしシンジの財布の紐も固かった。
そこで、アスカはシンジの耳かきをすると提案して来たのだ。
タンクトップにショートパンツと言った刺激的な服装のアスカに言われたシンジは、その誘惑に乗ってしまった。
甘い妄想が打ち砕かれてしまったとは言え、シンジは詐欺だとアスカに訴える気持ちは起こらなかった。

「どうせ、加持さんとのデート代に使うんだろうけど」

お金を手に入れて嬉しそうにするアスカを見て、シンジは少し寂しそうにそうつぶやいた。



その一週間後のひな祭りの日、シンジとトウジとケンスケの3人は葛城家のリビングで部屋の飾り付けをさせられていた。
ここでひな祭りパーティをやると言うのだ。
言い出したのはアスカで、ミサトも賛成したと言う事だった。

「どうせミサトさんはお酒が飲めれば何でもいいんでしょう」
「甘酒なんてお酒のうちに入らないわよ」

夕食の席でミサトはシンジにそう答えていた。

「しかし、惣流と委員長はワシらに準備を押し付けて何をやっとんのや」
「委員長の家で準備をしているって言うけど」
「何の準備や?」
「もちろん、あれだろう? 今日は良い被写体が撮れそうだ」

ケンスケは予想が付いているようで、楽しそうにカメラの調整をしていた。
部屋の飾り付けや料理の準備が終わった所でインターホンが鳴らされる。
アスカ達が来たようだ。

「うわあアスカ、その着物……」

玄関を開けたシンジは驚いた。
目の前には髪を結って赤い着物を着こなしたアスカが立っていたからだ。

「ヒカリのお姉さんに着せてもらったのよ、どう? 見とれて声も出ない?」
「……うん」

シンジが素直に感動を表すと、アスカは少し顔を赤くしたが誇らしげな表情になる。

「これで、アンタの言っていた大和撫子ってのにグッと近づいたでしょう」
「アスカ、あの事を気にしてたの?」

アスカが得意顔でシンジにそう言うと、シンジは驚きの声を上げる。
少し前にシンジはアスカと言い争いをした。
その時怒ったシンジはアスカを大和撫子とは正反対の女性だと馬鹿にするように言ったのだ。
ケンカは収まったがアスカはシンジにリベンジする機会をうかがっていたらしい。

「別に僕はアスカに大和撫子になってもらいたいって言ったつもりは無いんだけど……」
「酷い言い草ね、せっかくアンタに借りたお金を足して着物を買ったのに」
「お金が必要だって言うのは、着物を買うためだったの?」
「まあまあ、良いじゃない。着物を着たアスカが可愛いって言うのは事実なんだし」

むくれたアスカをなだめるようにミサトがそう声を掛けた。

「お、委員長も着物やったんか」
「うん、お姉さんのお古を着せてもらったの。まだ少しサイズが大きいけど」

トウジに言われると、ヒカリは少し顔を赤らめながらそう答えた。

「ミサトさんは何で着物じゃないんですか?」
「忙しくて仕立てる時間が無かったのよ」

ケンスケに言われてミサトは苦笑しながら答えた。
サイズがきつくなって着れなくなったとは言えない。

「それにしても、着物を着た委員長は大和撫子そのものやけど、惣流は馬子にも衣装やな」
「何ですって!?」

トウジの言葉を聞いたアスカは、怒ってトウジに殴りかかろうとした。

「アスカってば、大和撫子は殴っちゃいけないのよ」
「むうぅ」
「おー恐、やっぱり惣流はじゃじゃ馬や」

ヒカリに止められて、アスカは寸前で引き下がった。

「シンジ君は大和撫子タイプの子が好きなの?」
「分かりません、でもアスカは今のままの方が良いような気がします」
「そうね、しおらしいアスカは何か調子が狂うわ」
「ミサトもシンジも言ってくれるじゃないの!」

ミサトとシンジの会話はアスカの耳に届いてしまったようだ。

「そうだ、綾波は誘ったの?」
「誘ったわよ、でも来るのは嫌だって」

シンジの質問にアスカはため息をついて答えた。

「そっか、まだ賑やかなパーティとか苦手なのかな」

納得したようにシンジは寂しそうにつぶやいた。



そのパーティの翌日、シンクロテストのためにネルフに行ったシンジとアスカは青い着物姿のレイを見て驚いた。
一目見てその着物の価値に気が付いたアスカは震える声でレイに尋ねる。

「ファースト、その高そうな着物はどうしたのよ?」
「昨日あなたは電話でひな祭りパーティで大和撫子の姿を碇君に見せると言っていた。だから私も碇君に大和撫子を見てもらうの」
「もしかして、綾波は着物が無かったから家に来なかったの?」

シンジの言葉にレイはうなずく。

「碇君、私の大和撫子はどう?」
「う、うん、良いと思うよ」

シンジは冷汗を浮かべて退き気味にそう答えた。
レイは褒められたと思いわずかに顔を赤くした。

「その着物はどうしたの?」
「碇司令に欲しいと言ったらすぐに用意してくれたの」

レイの言葉を聞いたシンジとアスカの顔は険しくなる。

((……えこひいき))

シンジとアスカの心の声は一致した。
自分達には小遣いの前借りは決して認めないのにレイの要望は聞き入れる。
2人はそんなゲンドウに腹を立てた。
ゲンドウはそんな2人の心には気付かず、着物を着たレイを見て機嫌が良かった。
レイも着物が気に入ってしまったのか、私服はすっかりその着物になってしまった。

「綾波はまだ僕が大和撫子が好きだって勘違いし続けているよ……」

着物姿のレイをネルフで見かける度にシンジはレイの誤解をどうやって解けばいいのか思い悩んだ。
見かねたアスカとヒカリが協力してレイの私服を街に買いに行くと言う事で、やっと騒動は収まるのだった。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。