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[26017] (習作)あにっき(インフィニット・ストラトス 転生TS)
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/26 16:54
 この作品は山無落ち無意味無の練習作品です。
基本的に皆様が原作を読んでいること、もしくはアニメを観ている事前提で話を進める予定です。
とある場所で、オリ主が原作知識ありだと勘違いさせてしまったようだったので、上の文を修正しておきます。
ちゃんと主語を書かないとダメですね。申し訳ありませんでした。



[26017] いっぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/18 23:30
 俺は成人式の日に死んだ。
久しぶりに会った高校時代の友人と、調子に乗って飲みすぎて、道端で眠ってそのまま凍死してしまったらしい。
運の悪いことに、その日はこの冬一番の寒さだったらしい。
だったらしいだったらしいばかりなのは、なんか威厳のないちっさい閻魔様が俺の死因を懇切丁寧に教えてくれてるからなのだ。

「ということですがわかりましたか?」

 俺はわかったことを全身で表すためにぶんぶんと縦に体を振る。
何でそんな面倒なことをしているかといえば、人魂になってしまった俺は言葉を発することが出来ないからなのだ。

「それにしても、あなたは本当に面白味のない人生を歩んできましたね。それにあんな死に方をされた親御さんが不憫です。」

 そんな閻魔様の言葉に余計なお世話だと思ったが、親不孝をしてしまったことに気分が暗くなる。

「まあ、あなたは特に善行も悪行もしていなので、一度魂を浄化して転生するといいでしょう。ではあちらのゲートをくぐりなさい。」

 俺は体を縦に振って了解の意を示してから、ふよふよただよってその指し示されたゲートへと近づいていった。

「ちょっ、そっちではないですよ!その隣ですよ!」

 しかし俺は、そんな閻魔様が慌てているのに気づかずに、間違えて隣のゲートをくぐってしまったのだった。

「……まあ、たいした違いはないですからいいですけどね。」





 そんなこんなで前世の記憶を持ったまま、私が女に転生して早15年。
鏡には小柄ながらねーさんである織斑千冬に良く似た顔立ちの美少女が映っていた。
自分で美少女なんていうと痛い子っぽく感じるが、ねーさんはキリッとして、とてもかっこいい美人さんなので自分を卑下すると、ねーさんもブス扱いになってしまうのでしょうがない。

「うん、寝癖もないし、問題ないな。」

 そんな独り言をつぶやきながら、私は自慢の腰までとどく姫カットな長い黒髪を入念に確認する。
本当は髪の毛を短くしたいと思っていたこともあるのだが、幼少のころ自分が女であることを意識できる様にと髪の毛を長くしたり、
できるだけかわいらしい服装をして、格好から女性であることになれるようにしていた名残だ。
まあ今じゃ私服はださださで、にーさんの服を勝手に拝借したりして友人の妹に、「千夏さんは本当に残念な美少女ですね。」と言われる有様である。
後天然女たらしでラブコメ体質なにーさんが、「せめて髪の毛くらいは女らしくしたらどうだ?」などと可哀想な子を見る目をしながら言うので、渋々髪の毛は長いままにしていたが、
これは最近では、切らなくて良かったと思えるようになってきたので、不本意ではあるがにーさんに感謝してもいいと思う。
ちなみになぜ女性であることになれようかと思ったかといえば、中学高校とほぼ間違いなく制服はスカートであろうことから立ち振る舞いに慣れておいて、
なれない動作で下着をちらちら見せるなんてことがないようにするためだ。
もしそんなことになったら、痴女以外の何物でもないのでそれだけは避けなければならなかったからなのだ。
おかげで今では、ミニスカートも穿きこなせるようになってしまったが、未だにスカートを穿く時、少しの緊張と羞恥と背徳感で胸が高鳴る。
しかしそれが嫌な感じがしないから困ってしまう。
多分前世で女装する機会があったら、女装癖がついてしまっていただろう私は間違いなく変態だ。
しかも前世の私はなかなかがっちりと厳つく毛深かったので、とてもではないが可愛い女性物は似合わない存在だったからそんな性癖に目覚めなくて本当に良かったと安心する。

「なつー、もう行こ~。」

 などとどうでもいいことを考えていると入学式の前日に寮に入ってルームメイトになった布仏本音、略してのほほんちゃんが扉の方からゆったり声をかけた来た。
その愛称にたがわずゆったりとした動作とのほほんとした空気、それとなぜか長めの袖とその愛らしさでまさにのほほんちゃんといった感じの可愛らしい娘だ。

「ちょっとまって、鞄取ってくるから。」

 そう返事をして机の上においてある鞄を取ってのほほんちゃんの元へ移動した。

「お待たせ、それじゃ行こうか?」
「うん」

 そして私達は今日から通うことになるIS学園へ向かうことにした。
まあ学園は目と鼻の先にあるようなものだから急ぐことはないんだけどね。





 学園に着きクラスを確認すると、のほほんちゃんと同じクラスだったので、そのことをお互い喜び合ってから教室に向かった。
するとそこには見知った顔が2つあった。
一つはかなり懐かしいが、威圧的な鋭い目と私の幼少のころの記憶のままの髪型をしているので、おそらく篠ノ之箒だ。
確か箒はにーさんにいじめかっこ悪い(キリッ)ってされて助けられてからデレた幼馴染その一だったはずだ。
ニュースなどを観てにーさんがIS学園入学するであろうことは予想がついていたであろうから、
IS学園選んで良かったとでも思って、にーさんに見つかりやすいようにするために、当時の髪型にでもしているんだろうか?
そんなことしなくても多分あのにーさんのことだから気づきそうなもんだけどな。
まあ好意に関しては地球が滅んでも気づかないだろうけどさ。
たしかそんな箒に私はかつて剣で一度も勝てなくて一方的にライバル視していた気がする。
無手でなら前世の経験と合わせて軽く投げ飛ばせるのだが、竹刀をもたれると勝てなかったと記憶してる。
そしてもう一つはなぜか兄妹なのに、同じクラスになってしまったにーさんの織斑一夏だ。
こういうものは気を利かせて別のクラスにするものではないのだろうか?
知らないけどさ。
まあたいした問題ではないので、にーさんの席は私の席の前のようだから、肩身が狭そうなにーさんに声をかけることにした。

「おはよう、にーさん。昨日ぶりだね。」
「おっ、おう、千夏。おはよう。」

 にーさんはなんとも情けない表情でそう返事をすると、教室のあちこちで先を越されただのなんだのざわつき始めた。
まあざわつくのもにーさんが肩身が狭いのもわからないでもないが、私はそんなこと気にせずにーさんにルームメイトののほほんちゃんを紹介することにした。

「にーさん、この可愛い生き物は、私のルームメイトののほほ……布仏本音ちゃんです。覚えておいてくださいね。」
「ああ、俺は織斑一夏。ずぼらな妹だけど仲良くしてあげてくれ。」
「うん、なつとは仲良くするよー。おりむ~もよろしくね~。」
「お、おりむー?」

 などと自己紹介してると、クラスメイト達は関心ないように装いながらも私達の話を一字一句聞き漏らすまいとしているのは、やはりにーさんが珍獣のようなものだからだろう。
本当にルームメイトが癒し系ののほほんちゃんで良かった。
ミーハー気分丸出しの娘がルームメイトだったら、姉のことと合わせてかなり面倒くさいことになっていそうだ。
それにしてもこちらをちらちら伺う箒も気になるなら自分から声をかけてくればいいのに、そう思いながら視線を向けるとさっと慌てて目を逸らされた。
などとしているうちに扉が開いて、そこから小柄で可愛らしい印象の若い女教師が入ってきたので私達は席に着いた。



 その後も色々にーさんが騒がしかったりしたが、おおむね問題なくその日の授業を終えて、放課後を迎えた。
まあ流石ににーさんがセシリアさんと決闘することになったりしたのは予想外だったなぁ、などと席について勉強中のにーさんの前に立ちながらぼんやり眺めながら考える。

「うぅ……」

 そしてにーさんはなんとも情けない呻き声をあげながらぐったりとうなだれた。

「い、意味がわからん……。どうしてこんなにややこしいんだ……?」
「そうがっくりするのも判らないでもないけど、自業自得なところもあるよね。」

 そう私が言うとにーさんが、恨みがましい目を私に向けた。

「……でも参考書のこと教えてくれておいてもよかったじゃないか。」
「……はぁ、古い電話帳と間違えて捨てるとか意味がわからないよ。」

 私がそう呆れて俯き加減で額に手を添えて頭を横に振ると、にーさんは「ぅぐっ。」と、奇妙なうめき声を上げて目を逸らした。

「ああ、織斑くん。まだ教室にいたんですね。よかったです。」
「はい?」

 にーさんがそう呼ばれて返事をしてそちらを向いたので、私も釣られるようにそちらに視線を移すとそこには副担任の山田真耶先生が書類を片手に立っていた。

「えっとですね、寮の部屋が決まりました。」

 そう言って山田先生はにーさんに紙と鍵を渡す。
私はその紙を覗き込むとその紙には1025号室と書かれており、おそらくこれがにーさんの部屋番号なのだろう。

「へぇ、にーさんは私のお隣さんになるんだね。」
「そうなのか?」
「うん」

 それにしてもにーさんは、当分自宅から通う予定だと聞いていたけど、もう都合がついたのだろうか?
などと疑問に思っていると、にーさんも疑問に思ったのか山田先生にそのことを尋ねた。

「俺の部屋、決まってないんじゃなかったんですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど。」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。」

 そのにーさんの疑問を山田先生が説明してからにーさんに耳打ちをした。
何をささやいているかは聞こえないけど、おかげでにーさんを遠巻きに見ていた娘さん達がにわかにざわめきたつ、そりゃ男女が顔を息がかかるような距離に近づけたら何事かと思うよね。
山田先生は多分天然入ってるんだろうな。
などと眺めてたらにーさんもそのことに気づいたのか少し眉をしかめた。

「……あの、山田先生、耳に息がかかってくすぐったいんですが……」

 しかし、男ならこれはご褒美なのではないだろうか?この年頃の男なら、山田先生の、女性の良い香りが、とか考えてドキドキしそうなものなのにな。
にーさんを見てると、時々自分の考えはおかしくいのではないかと思ってしまう時がある。

「あっ、いやっ、これはそのっ、別にこれはわざととかではなくてですねっ……」
「いや、わかってますけど……。それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一度家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら──」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え。」

 そう声がしたのでそちらを向くと、いつの間にか来たのか知らないがねーさんがいた。

「ど、どうもありがとうございます……」
「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯の充電器があればいいだろう。」

 まったくその通りなのだがなぜかにーさんは少々不満そうな顔をしている。

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で食べて下さい。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。
学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑くんは今のところ使えません。」
「え?なんでですか?」
「え?なんでにーさんはそんなこともわからないの?」

 私はついなに言ってんだこいつという目でにーさんを見つめる。

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

 そしてねーさんは呆れを含んだ口調でそう言った。

「あー……」

 その私達姉妹の反応ににーさんは、ようやくここが女の園だということを思い出したらしい。

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、ダメですよ!」
「い、いや、入りたくないです。」

 そしてにーさんはにーさんで心にもないことを言う。
まあここで素直に「はい、入りたいです。」なんて言えないよね。

「ええっ?女の子に興味がないんですか!?そっ、それはそれで問題のような……」

 さらに山田先生がすっとんきょんなことを言い出したので、私はついぽかーんとした顔をしてしまった。
なんという発想の飛躍、山田先生は天然で妄想癖でもあるのだろうか?
そして廊下では山田先生の明後日の方向な発言に尾ひれが付いて、織斑くんは男色かも?でもそれもいいわね的な会話がなされている。
そんな状況に私は開いた口がふさがらないというかぽかーんとしてしまった。
流石女子高生、私の理解のはるか上を行く生き物だ。

「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで。織斑くん、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草食っちゃダメですよ。」

 山田先生はそう言うと、そそくさとねーさんと共に教室から出て行ったので、私はそれを間抜けに口を開けたまま見送った。

「ふー……」

 にーさんがなにやらため息をしたのではっとわれに返りそちらを向くと、どことなく疲れた顔をしたにーさんが席から立ち上がっていた。

「にーさん、一緒に帰りましょう。」
「うん?ああ帰ろうか。」

 そして私達はまだざわついている教室周辺から離れて、寮に帰るのだった。
まあ寮まで50メートル程度の短い道のりだけどね。



 そして私達は部屋の前にたどり着いた。

「それじゃあ後でにーさんの部屋に行くね?」
「え?なんでだ。」
「私はにーさんと違って、入学前に参考書も目を通していたからね。少しくらいならISのこと教えてあげられるよ?」

 そう私は小首をかしげながらにーさんを見上げた。
まあ実際は、パワードアーマーなんてロマンあふれる物に興味津々で、白騎士事件のころから色々調べたりしていたんだけどね。

「なにっ、本当か!?」
「まあ、それ位はね。それじゃあまた後でね。」
「おう。」

 そうにーさんと約束をしてから、私は自分の部屋の扉を開いた。

「あ、なつー、おかえり~。」

 すると先に帰って来ていたらしい着ぐるみパジャマで、とても可愛らしいのほほんちゃんが出迎えてくれた。

「のほほんちゃん、ただいま、お姉さんの所に行っていたんじゃないの?」
「行ってたよー、でも今日はすぐ帰れたの~。」
「そうなんだ。」

 そう会話をしながら私は机に鞄を置いているとなにやら隣がどたばたと騒がしくなりだした。

「なんだろう?ちょっと見て来るね。」

 私が部屋から出ようとすると、のほほんちゃんがゆっくりした動きで私についてくる。

「あ、私もいく~。」

 そして二人で廊下に出るとにーさんが1025室の扉に、なぜか頬のすれすれに木刀の切っ先が扉から生えた状態でもたれかかっていた。
そして木刀の切っ先が扉の向こうに沈んでいくと、数秒後にーさんの頭めがけて扉を貫通して木刀が突き出され、それをすんでのところでにーさんは避けた。

「って、本気で殺す気か!今のかわさなかったら死んでるぞ!」

 などと扉の向こうに向かって怒鳴り散らしている。
状況がよくわからないので私はとりあえずにーさんに声をかけることにした。

「にーさんは、何やってるの?」

 するとにーさんは冷や汗たらして引きつった顔でこっちを向いた。

「あ、ああ、実は、その、部屋に箒がいたんだ。」

 なぜかにーさんは視線を泳がせながらしどろもどろにそう言った。
私はついわけが分からないという感じで眉をしかめたが、にーさんはそのことには気づいていないようだ。
とりあえず私はこの場を納めるために、箒に話を聞かなければいけないなと考えた。

「とりあえずにーさんは私の部屋で、のほほんちゃんの相手しててね。私は箒とちょっと話してみるからさ。」
「あ、ああ、頼む。」

 どうもこの騒ぎを聞きつけて、ぞろぞろと部屋から女の子が出てきているみたいなので、にーさんの精神衛生のために、私達の部屋にでも避難しておいてもらうことにした。
なんというか視線のやり場に困るような格好をしている娘ばかりなので、廊下に放置はするのは可哀想だからね。

「のほほんちゃん、お願いしてもいい?」

 そう頼むとのほほんちゃんは、にこにこしながらにーさんの腕にしがみついた。

「うん、いいよー、頼まれたー。おりむ~、行こー。」
「あ、ああ。」

 そうしてのほほんちゃんににーさんは、部屋に連れて行かれた。私が言うのもなんだが、いくらなんでもにーさんは流されすぎじゃないだろうか?
まあいいかと私はため息を一つしてから、にーさんの部屋をノックした。

「箒、覚えてる?私だ。千夏だ。ちょっと話をしない?」

 すると扉が開き、そこにはなぜか剣道着を着た箒がいた。
何でこんな所で剣道着なんて着てるの?そう疑問に思いながら私はぽかーんとしてしまった。

「千夏か、久しぶりだな。」
「あ、うん、久しぶりだね、箒。にーさんには声かけてたみたいだけど、私にはかけてこなかったから忘れられてるのかと思ったよ。」

 私は気を取り直してニヤニヤしながら返事をした。

「なっ、べっ、別にそんなんじゃないからなっ!」

 じゃあどんなんだ?ともお思ったが話がこんがらがるのでやめた。この幼馴染は、私ににーさんが好きなことを気づかれていないとでも思っているのだろうか?

「はいはい、とりあえず中に入れてくれる?」
「う、うむ。」

 とりあえず部屋の中に入りベッドに腰掛けて話をすることになった。

「で、何やってたの?にーさんは、一応山田先生に今日からこの部屋を使うように言われてたよ。
だから別ににーさんがやましい気持ちでこの部屋に侵入したわけじゃないからね。」
「そ、そうなのか。」

 それにしても髪の毛はぬれたままだしシャワーでも浴びていたのだろうか?

「そういうことしないとは思うけど、もしかしてにーさんにシャワー浴びてる所覗かれでもしたの?」
「いっ、いやっ、そんなことはないぞっ、うむっ、千夏が心配するようなことはなかったぞっ!」

 私が心配そうにそう尋ねると、なぜかあたふたと箒は否定しだしたので、私はため息を一つ吐いた。
とりあえず覗いたのでないなら、にーさんが何かしらのラッキースケベイベントでも起こしたのだろう。
昔からにーさんは、ラブコメ体質とでも言うのだろうか?フラグを無意識に立てたり、
ラッキースケベで可愛い女の子のおっぱいをもんだりとやらかしているので、別段珍しいことではないのだ。
まあなぜか攻略対象外であるはずの、妹の私にまでラッキースケベを起こすのはどういう了見だろうか?と、思うこともあるんだけどそれは今は関係ないね。

「とりあえず、山田先生に言えば部屋を替えてもらえると思う。年頃の男女が同室なのより兄妹が同室な方が自然だと思うからね。
……私と箒の部屋を替えてもらうことはできると思うけど、どうする?」

 私はそう小首をかしげて箒に聞いてみた。

「う、うむ、そ、そうだな。ではそうしよう。」

 するとどこか上の空な返事をする箒に、私は思わずまたため息を吐いてしまった。

「でも部屋を替わると、せっかくのにーさんとの距離を縮めるチャンスをふいにすることになるよ?」
「なっ、私は別に一夏のことなどっ!」

 などと箒は顔を真っ赤にして慌てて言うが、そんな様子ではまったく説得力がないんだよね。
それにしてもなんか面倒くさくなってきたな。

「別に箒が誰のこと好きだろうが私には関係ないけど、きっとこんな環境じゃいつにーさんに彼女が出来てもおかしくないよね?
それににーさんのことだから、無意識で女の子たらしこんでも不思議じゃないしね。」

 私は箒の顔を覗き込みながらそう言った。正直にーさんのことが好きな娘なら、私が出来る範囲でフォローはするけど特別肩入れはせず、できるだけ平等に応援するのだ。
まあさすがににーさんを紹介してとかそういう面倒くさいのは相手にしないけどさ。

「わ、わかった。部屋はこのままで頼む。」

 そして箒は数分考え込んでから俯いて蚊の鳴くような声でそういった。

「はい、素直でよろしい。」

 私はにこやかにそう返事をしながら立ち上がり、部屋を出ることにした。

「じゃあにーさん呼んで来るからね。それまでに心の整理をしといてね。」

 そう言いながら手をはたはた振りながら部屋を後にした。
そして自室に戻ると楽しそうなのほほんちゃんに引っ付かれているにーさんがいた。
いたも何も私が頼んだことなんだからいるのは当たり前なのだが、流石にこの状況は想定外だった。

「あー、なつー、お帰りー。」

 そう言ってのほほんちゃんがゆっくりした動きで私のほうに近づいてきた。

「ただいま、にーさんはもう部屋に戻っても大丈夫だよ。」
「ああ、ありがとな、千夏。」

 そう言うとにーさんは自分の部屋に帰る為に立ち上がる。

「あぁ、そうだ。にーさん、ISのことは箒に教えてもらうといいんじゃないかな?」
「箒に?千夏は教えてくれないのか?」
「別に私が教えてもいいけど、箒は同じ部屋なんだから教えてもらいやすいでしょ?」
「それもそうだな。うん、じゃあ頼んでみるよ。千夏、色々ありがとうな、後のほほんさんもまた明日な。」

 そう言ってにーさんは、部屋に帰っていった。それにしても早速仲良くなってるにーさんとのほほんちゃん、流石ほほんちゃんの癒しパワーだなと感心する。

「気にしないでいいよ。兄妹なんだからね。」
「おりむ~、またねー。」

 そして私達は手を振りながらにーさんを見送った。

「のほほんちゃんもにーさんの相手ありがとね。それと感謝の印にこれを進呈しよう。」

 とりあえず私はチロルチョコをのほほんちゃんにあげた。
チョコレートは頭の栄養なので、私はいつもチロルチョコを数個持ち歩いているのだ。

「ありがとー、なつー。」

 そういうや否やのほほんちゃんはチロルチョコを口の中に放り込んで、うまー、うまーと幸せそうな顔になった。
私はそれを尻目にしながら机に向かい、机から表紙に大きく"あ"と書かれた日記を取り出した。
これはにーさんが箒を惚れさせたころからつけ始めた兄観察日記、略してあにっきだ。
この日記はにーさんが、いかに鈍感で女の子を可哀想な目にあわせているかを克明に記すことが目的の観察日記であると同時に、にーさんの精神的な成長を綴った物だ。
もっともその鈍さは一向に改善されておらず、まったく成長していないのだけれども。
そしてねーさんがたまに私にばれていないと思い込んで、これを読んでニヤニヤしたりする。

「なにしてるの~?」
「日記を書くの。」

 不思議そうにのほほんちゃんに聞かれたので、私はのほほんちゃんのほうを向き返事をすると、のほほんちゃんは日記かーと言ってベッドにころんと寝転んだ。
なんというかその仕草が可愛らしかったのでつい頬が緩んだ。
さて、今日は久しぶりにいろいろ書くことがあるのでちょっと気合入れようか。





 4月某日

 今日からIS学園での生活が始まった。
ショートホームルームで自己紹介となり、にーさんの自己紹介とねーさんの登場以外はさらっと終わった。
ねーさんはやっぱり大人気で、キャーキャー黄色い声がすごかったがとても嫌そうな顔だった。
まあねーさんは昔から女の子らしい女の子ではなくそういうのりは好きではなかったのでしょうがないか。
そういう私も当然そういうのりにはついていけないのであまり好きではないけどね。
そしてにーさんは空気読めていない人だったらしくクラスメイトの期待を裏切る簡素な自己紹介をした。
その後の一時間目の授業もつつがなく終わり久しぶりに会った箒と話でもしてみようかと思って立ち上がろうとしたら、
その箒はこの女ばかりの空気にやられてダウンしているにーさんに話しかけてそのままを廊下に連れて行ってしまった。
私はここにも幼馴染はいますよーっと、ついついしゃしゃり出たかったがせっかく勇気を振り絞ってにーさんに声をかけたのだから自重したのだ。
そして置いてけぼりの私はのほほんちゃんに癒しを求めてのほほんちゃんと会話したのであった。
2時間目もにーさんが「ほとんど全部わかりません」なんて開き直ったことを言ってねーさんに怒られたりする程度で他は問題なく終わった。
休み時間にイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんが何を思ったかにーさんに絡んでた。
その後の3時間目は、再来週おこなわれるクラス対抗戦に出るクラス代表者の選出で、なぜかにーさんとセシリアさんが決闘することになった。
これはツンデレフラグ?なんて思ったけど流石にそんなことはないよな。
それにしてもセシリアさんは日本を馬鹿にしすぎ。
こういう世界は自分の国が中心に回ってると思い込むのはよくないと思う。
まあどうでもいいことだけどね。

 そして今日はもうこれ以上何もないだろうと思っていたら最後に箒がやってくれた。
にーさんの予定が早まって今日から入寮することになったので、にーさんと一緒に帰った。
その後隣のにーさんの部屋がどたばたうるさいので様子を見に行ったらなにやらにーさんが木刀で攻撃されていた。
どうも同室になった箒と何かあったようなので仲裁もかねて間に入ることにした。
そして箒の様子からしてにーさんは何かしらラッキースケベなイベントを起こしたようだ。
流石にーさん、ラブコメ体質にもほどがある。
その後なんだかんだあったが、年頃の男女で同室より兄妹で同室のほうが問題にならないので、
山田先生に私と箒の部屋を変えるように頼もうか?と、箒に尋ねたが今のままで良いと言うので頼まないことになった。
流石恋する乙女、多少の貞操の危機なんてなんでもないらしい。
むしろ既成事実作っちゃえくらいの気概なんだろうか?箒に限ってそんなことはないか。
もっとも女の子に手を出すにーさんなんて想像もつかないけどね。
まあ私が部屋を替わらない様に煽ったようなものなんだけどさ。
そんなこんなで明日からもなにかにーさんがやらかしそうで楽しみだ。




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 ちょろいさんはちょろ可愛いですね。
でもちょろいさんの登場シーンはカットしました。
だってちょろ可愛いのはデレてからだからしょうがないよね?



[26017] にぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/18 23:28
朝目を覚ますと目覚まし時計がなる5分前の5時55分だった。
今日もまた目覚まし時計に勝ったなと、益体もないことを考えながら、魔性の誘惑をする布団から抜け出すのであった。
私は同居人であるのほほんちゃんを起こさない様に、物音をたてない様に寝巻きにしているショートパンツと、
にーさんからぱくった私には大きめのシャツを脱いで、ブラジャーを身に着けてからジャージを着た。
いい加減になれないといけないのだが、ブラジャーは女性の象徴的に思えるので、いまだに何か後ろめたい気分になってどきどきするから困る。
そして私は長い髪をゴムで一括りにして、ランニングシューズを履き外にジョギングに出た。




 40分ほど運動した後、しっかりストレッチをして、部屋に帰りシャワーを浴びてさっぱりする。
それから制服に着替えて身支度を整え終えても、のほほんちゃんはまだ幸せそうに寝ていた。
そろそろ起きて、身支度をして朝食をとらないといけない時間なので、可哀想だがのほほんちゃんを起こすことにした。

「のほほんちゃん、もう起きる時間だよ。」

 そう私はゆさゆさ揺すぶって起床を促す。

「……ぅん、……あとちょっと。」
「だめだよ。朝ごはん食べる時間なくなるから。」
「……あと五分だけ~。」

 そう言ってのほほんちゃんは、往生際悪く布団を頭までかぶってしまった。
しかし私はため息をひとつ吐き、その布団を引っぺがしてあげると、恨みがましい目で私のほうを見た。

「なつの意地悪ー、鬼ー、悪魔ー。」
「はいはい、のほほんちゃんも起きて支度しないと、朝ごはん食べる時間なくなるよ。」

 私はのほほんちゃんが、もぞもぞベッドから這い出て顔を洗いに行くのを尻目に、のほほんちゃんの着替えの準備をすることにした。
そしてのほほんちゃんの身支度も整い、私達は一年生寮の食堂へと向かった。
寮の食事はバイキング形式なので、私はご飯と味噌汁と少量の浅漬けをトレーの上に乗せる。
そしてきょろきょろと、空いている席はないかと探していると、のほほんちゃんが何か見つけたのか、ゆっくりした動きでそちらへ向かった。

「わー、おりむーだ~。おはよー。」
「へ、ああ、おはよう、のほほんさん。」

 どうやら見つけたのは、にーさんと箒だったらしい。

「おはよう、箒、にーさん。席空いてるかな?」
「うむ、おはよう。」
「ああ、おはよう、千夏、空いてるぞ。」

 するとのほほんちゃんは、そのままにーさんの隣に座り、箒、にーさん、のほほんちゃんと両手に花状態になった。
まあ両手に花も何もあたり一面花畑状態だけどさ。私はにーさんの正面に座り、「いただきます。」と食前の挨拶をした。

「千夏、相変わらず食が細いな。朝はちゃんと食べないとダメだぞ?」
「食べられないんだからしょうがないでしょ。」

 にーさんが私のトレーに乗ってるご飯を見てそんなことを言ってきた。しかしそんなことは今に始まったことではないので、そう言われても困る。
前世では、朝は丼飯三杯、そして昼はドカベンを早弁して、お昼に安い学食の定食を平らげ、再び夜にこれでもかと言うくらい食べていたものだ。
しかし今生ではなぜか食がとても細いのだからしょうがない。私は多分女の子だからだろうと、勝手に結論付けている。
もっともねーさんもよく食べる人なので、穴だらけの持論なんだけどね。

「わー、おりむーは、朝からたくさん食べるんだねー。」

 するとにーさんのトレイを覗きこみながら、のほほんちゃんが感心するように言った。

「俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん取らないと色々きついんだよ。」

 こんなもっともらしく言っているにーさんだが、これはねーさんの真似をしてそうしてるだけなんだよね。本当ににーさんは、ねーさんのことが好きすぎるから困る。
にーさんもねーさんもそんなつもりはないのだろうけど、にーさんがねーさんにマッサージしている時の二人は、ある意味バカップル並のイチャツキ具合だと思う。

「ていうか、のほほんさんは、朝それだけしか食べないで平気なのか?」

 そう、のほほんちゃんの朝食はお茶漬け一杯だけなのだ。

「てひひ、大丈夫だよー、なつがチョコくれるし~。」

 あげるも何もまだ一回しかあげていないのに、もう私はチョコをくれるルームメイトという認識なのだろうか?
などとご飯をよく噛みながら、二人の会話を聞いていてふと会話に参加していない箒を見ると、ポーカーフェイスで隠しているが、少しイラッとした顔で朝食を完食していた。
まあ元がキリッとした美人系な顔立ちなので余計分かりにくいんだけどね。

「……織斑、私は先に行くぞ。」

 そう言って箒は、さっさと席を立って行ってしまった。それにしても織斑って。
昨日は何も進展しなかったのだろうか?それどころか厚い壁でも造ってしまったのだろうか?まあ、昔から箒は素直じゃないから、なかなかうまくいかないのだろう。
ついでににーさんは、そういう感情の機微に、像並みに鈍いのでなかなか難しいのかな?
そう思ってにーさんに呆れを含んだ視線を投げかけた。まあにーさんはそんな私に気づかないんだけどね。
などとぼんやり考えながら、にーさんとのほほんちゃんの会話を右の耳から左の耳に聞き流しながらご飯を食べた。
それにしてもこの白米はおいしいね。浅漬けもよい塩梅だ。
すると突然手を叩く音が食堂に響いた。

「いつまで食べてる!食事は迅速に効率よく取れ!遅刻したらグラウンド10週させるぞ!」

 ねーさんの凛とした声がよく通り、それを聞いた食堂にいる全員が、急いで食べ始めた。
無理もない、このIS学園のグランドは、確か一周5kmあるらしいからね。私はそんな周りを尻目にご飯を食べ終え、「ごちそうさまでした。」と食後の挨拶をするのであった。




 一時間目も終わり、私はとりあえず箒と旧交を温めることにした。流石にいまだにギクシャクしているのは、可哀想だからね。
なので少々上の空気味で、外をぼんやり眺めている箒の前に立ち顔を覗き込んだ。

「箒、ちょっと話さない?」
「うっ、うむ、か、かまわないぞ。」

 私の顔が近いことに気づいて驚いたのか、箒はどもりまくりだ。

「じゃあ廊下に行こう。ここはにーさんのせいで少々騒がしいからね。」
「……そうだな。」

 そして私達は教室を出ることにした。

「昨日はにーさんと何か話したの?」
「……いや、特に何も。」

 そう蚊の鳴くような声で、否定しながら頬を赤く染めて、私から目を逸らした。これじゃあいかにも何かありましたと、言っている様なものなのにな。
なので私はじとーっとした目で箒を見つめる。

「…………で?」

 私のその視線に耐えらなくなったのか、箒はため息を漏らした。

「たいしたことじゃない。一夏が私の、その、なんだ。下着を手に取ったくらいだ。」

 そう箒は顔をそむけたまま不機嫌そうに、それでいて恥ずかしそうに言った。なんとなくだか状況が見えた気がする。

「つまりにーさんが、箒の下着を見てもたいして反応しなかったって所だね。」
「う、うむ、そんな所だ。」

 そう箒は今にも消え入りそうな声で、私の推理を肯定した。私はにーさんの朴念仁ぶりに、頭を手で支えながら、ついついため息を漏らした。

「にーさんはね、ちょっとあれなんだ。ねーさんの下着とか洗濯して見慣れているからね。」

 そう箒だけに聞こえるような声で言うと、箒は汗を一筋たらせて顔を引きつらせた。
本当は私が洗濯すればいいのだが、いつの間にかにーさんが洗濯を終えていたりする。
基本的に交代で家事はやっているはずなんだけどなぁ。洗濯が終わって干そうと、洗濯機を開けると洗濯物がなくなっていて、
もうにーさんが干し終わらせていたりとか、取り込んでたたもうと思ったころには、とっくににーさんがやり終えていたりする。
まあ私の行動が遅いというのもあるんだけど、なんでも先にやっちゃうってどうなのよ。

「そ、そうなのか、千冬さんのを見慣れいているのか。」
「……まあにーさんを手に入れたいなら、それとは関係なくとも、ねーさんが最大の壁になるしね。」

 そう言ってため息をもらす。にーさんの鈍感さとか抜きにしても、最大の壁であるねーさんを納得させて、にーさんと付き合うのは至難の業だと思う。
などとフォローをまったく出来ないまま予鈴がなってしまい、私はちょっと申し訳なく思った。

「そうだ。にーさんには、ISのことを箒から教えてもらう様に言っといたからね?せっかくのチャンスだから、素直になってがんばってね?」
「なっ、なにをっ!」

 私はそう言いながら、抗議したそうな箒を無視して、急いで教室に戻って席に着いた。



 そして今日も何事もなく午前中の授業を終えて、私はにーさんでも誘って食堂に行こうかと思ったが、
なぜか早速セシリアさんに絡まれていたので、のほほんちゃんと食堂に行くことにした。
食堂にたどり着いた私は、日替わり定食の食券を購入した。今日は鯖の塩焼き定食らしい。
肉もいいけどやっぱり魚もいいね。特に生まれ変わってからは、肉はなんだか重たくて、食べるのがきつくなった。
無論、肉が嫌いになったというわけではないのだけど。

「お姉さん、日替わり定食お願いします。あと、ご飯は少なめにしてください。」

 私は、そう言いながら食券をカウンターに置いた。年上の女性をお姉さんと呼ぶのは、前世のころからの癖で、
前世で私に柔術を教えてくれて可愛がってくれた師匠曰く、「そう呼ばれて、少なくとも悪い気は、しないでしょうからね。」だそうだ。
その師匠は、とても尊敬できる人だったので、そんなものかと思い、私も師匠に倣ってそう呼ぶようにしていた。
しかしまあ私は、柔術の弟子としては不出来な弟子だった。なにせ私は柔よく剛を制す、なんてものから程遠い力任せの技術しかなかったのだ。

「はい、日替わり定食お待ち、お譲ちゃんには、サービスしといたよ。あんた小さいんだからよくお食べ。」
「……あ、ありがとうございます。」

 なぜかおばさんは上機嫌に、ご飯は少なめにと言った筈なのに、これでもかと言うくらい山盛りに盛られていた。
そして私とのほほんちゃんは空いているテーブルを探して席に着いた。

「なつは、ご飯山盛りだねー。食べきれるの~?」

 ここ数日の付き合いで、私が小食だという事はのほほんちゃんも知っているため、心配してくれているようだ。

「うん、まあ、がんばるよ。」
「おー、がんばれ~。」

 そうのほほんちゃんが、頼りない声援を送ってくれた。私は気を取り直して、この山盛りのご飯をがんばって攻略することにした。
そんなこんなで一生懸命食べていると、救世主が現れた。

「わー、おりむーだ~。一緒に食べよー?」

 のほほんちゃんが嬉しそうににーさんに声をかけ、私は顔を嬉しさのあまり、気持ち悪いくらいにこやかな顔でにーさんと箒を出迎えた。
その私の顔を見てにーさんは顔を引きつらせながら、私達と同じテーブルに着いた。まあ私はそんなこと気にしないんだけどね。

「にーさん、私のご飯あげるね?返事は聞かないから。」
「……千夏はいつもそうだな。」

 そうにこやかに有無を言わさずご飯を食べてもらうことにすると、にーさんはあきらめた様な顔で、私からまだ山が半分も減っていないご飯を受け取ってくれた。
うん、やはりにーさんは、こういう時だけは頼りになる良い男だ。

「なつー、良かったねー。」
「うん、食べすぎで死ぬところだった。」

 そんな私とのほほんちゃんのやり取りを見て、にーさんは気を取り直すように一息ついた。
そして再び私は残りの鯖の塩焼きを食べ始めた。
さっきまでは、そびえ立つ山盛りのご飯に圧倒されて、味を気にしていられなかったのだが、やはりこうして余裕を持って食べる食事はおいしいね。
しかし前世ならこの程度余裕だったのにな。なんてことを考えながら私はにーさんと箒の様子を伺うことにした。

「ISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週の勝負で何も出来ずに負けそうだ。」
「くだらない挑発に乗るからだ、馬鹿め。」

 昼食を食べながらようやくにーさんは、箒に頼むようだ。それにしても箒は本当に素直じゃない。
こんなばっさり切り捨てるなんて、内心では相当テンパッているのだろうか?そうでもないか。

「そこを何とか頼む。」

 するとにーさんは、はしを持ったまま拝むように手を合わせて、箒に頼んだ。

「………………」

 しかし箒は黙々と食事を続けている。多分素直になりたい心と素直になれない心で葛藤でもしてるんだろうね。
そんなんじゃこの事態を嗅ぎつけたほかの娘に、にーさんの教師役掻っ攫われちゃうよ?
そう訴えかけるように私は、とっとと素直になりやがれこのツンデレがっ!と、視線を箒に投げかける。
その視線に気づいたのか、箒がようやく返事をしようとした時だった。

「なあ、箒──」
「いっ、一夏が、一夏がそこまで言うなら!教えてやらないでもないぞ!ど、どうしてもというなら、しょ、しょうがないからなっ!」

 にーさんが何か言おうとしたが、即箒がそれをさえぎった。……それにしてもにーさんは本当に空気読めてないな。
せっかく箒が勇気出そうとしたのに、まあ結果として箒を焦らせて踏ん切りをつけさせたからいいけどさ。
なのでどもって上擦った声で、慌てた様子の箒を私とのほほんちゃんは、生暖かい目で見守ったいた。

「ほ、本当か!教えてくれるのか?」
「そ、そう言っている。」

 にーさんは本当に嬉しそうにがばっといった感じで箒の顔を見た。そして箒もわずかにだが顔が赤くなっている。
まあにーさんはそんなことお構いなしだし、多分気づいてないんだろうね。

「今日の放課後。」
「ん?」
「剣道場に来い、腕がなまってないか見てやる。」

 この展開に私達は、みんなえ?何言ってるの?という顔になってしまった。もちろん箒の考えがわからないでもない。
たしかに剣の経験があれば、ISに乗って戦う時もそれが生かされるのはわかる。
でもにーさんはそれ以前の問題だということをわかっているのだろうか?まあきっと箒にも考えがあるのだろうと私は納得することにした。

「いや、俺はISのことを──」
「見てやる。」

 そしてにーさんの反論を箒はバッサリと切り捨てた。

「……わかったよ。」

 それににーさんは、やれやれといった感じで同意した。
私とのほほんちゃんは、それをぽかーんといった感じで見守ることしかできないのであった。



 そして放課後、私はにーさんが箒に完敗するのをまあ当然だよねと、思いながら見ていた。
そりゃ中学3年間帰宅部で、バイトに励んでいたのだからしょうがないよね。まあ中学生ができるアルバイトってのもよくわからないんだけどさ。

「織斑くんてさあ。」
「結構弱い?」
「ISほんとに動かせるのかなー。」

 それを見ていた女子達は、落胆したのか勝手なことをひそひそ囁きあう。私はそれを尻目に、更衣室へ向かった箒の後を追った。
すると鏡の前で箒はニヤニヤしたり、はっとわれに返ったり、その後、急にしおらしく恋する乙女がするような吐息を漏らしたりと、なかなか面白いものが見れた。
そして何を思ったか、腕組をしてうんうんとうなずいたりしている。

「いや!そ、そのようなことは考えていないぞ!」

 などと急に独り言をしゃべりだした。私はそれを本当に何やってるんだろうと、ぼーっと眺めた。

「故に正当だ!」

 なにが正当なのか知らないが、握りこぶしを作って声を荒げる箒だった。

「いや、何が正当なの?」

 私は、箒の奇行についつい声をかけてしまった。

「なっ!なんで。い、いつから見ていた!」

 などと箒は羞恥で顔を真っ赤にして、恥ずかしい所を見られた時のお約束なことを私に言った。

「……うん、わりと最初からかな?ここにいるのは、まあなんとなくかな。」
「くっ……」

 残念なことにね。私はそう思いながら握りこぶしをプルプル震わせて、やり場のない怒りを抑えている箒を見た。

「……見なかったことにするね?また後でね?」
「ちょ、ちょっと待て!千夏!」

 私は箒の怒声を無視してそそくさと、その場を後にした。



 某月某日

 今日は朝からにーさんと箒がギクシャクしてた。
何とかしようと思ったが、私にできることは特になかった。
なんか自分達でちゃんと関係修復をしたようだ。良いことだ。
それにしても山田先生は本当に天然だ。まさかISの使用感をブラジャーの着用で、例えるとは思わなかった。
そりゃ男なんていないことを前提に授業を考えるのもしょうがないことなんだけどさ。
おかげでにーさんを意識する女子と、その空気にいたたまれなくなったにーさんという、なんとも気まずい雰囲気になってしまった。
そして休み時間は、にーさんに群がる女子女子女子の群れ。うん、うらやましいんだかうらやましくないんだかよくわからない状況だね。
昼休みになったらなったでセシリアさんが、なんかにーさんに絡んでたけど、どうせたいしたことじゃないだろうから、私はスルーすることにした。
昼食はのほほんちゃんとにーさんと箒で食べた。そして食事中に箒がにーさんにISのことを教える約束をしていた。
まあ若干不安が残るやり取りだったけど問題ないよね。



[26017] さんぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/21 20:38
 某月某日

 今日はにーさんとセシリアさんが対決した。
にーさんは善戦したが、自分の機体特性をしっかり把握していなかったので、自爆して負けた様なものだ。
それにしても照れてるねーさんをからかうとは、山田先生は大物なのだろうか?それともただの天然なのだろうか?
そう言えばこれでにーさんは専用機持ちになったのか。
それにしても武器が刀剣一本だけとか男らしすぎる。しかもねーさんとお揃いとかどれだけ仲がいいんだこの姉弟は。
まったく妬ましいものだ。
そして私も何時かは専用機持ちになりたいものだ。

 女郎花(オミナエシ)

 花言葉は約束を守る
カラーリングは名前の通り女郎花色を黒で縁取りしたもの。
他のISと比べてかなり細身だが、強固なシールドバリアーと他を凌駕する加速性を持つ機体。
武装はワイヤードフィストと千式複合ライフル
紐付きロケットパンチ、でも利用方法は遠距離から無理矢理つかんで引き寄せ&ダッシュで接近してそのまま地上に急加速して地面に叩きつけるように投げつける。
しかし開発者の意図は明らかに紐付きロケットパンチであった。
千式複合ライフル
ISの身長と同じ位の長さのライフル。
拡張ロングバレルをはずしてサブマシンガンモードに移行することが出来る。
銃の底部、拡張ロンバレル部分に取り外し可能な160cmのブレードが付いている。
正直そのせいでバランスの悪い武器となっており集弾率はあまりよくない。
ワンオフアビリティは質量を持った残像(笑)。
実際はシールドエネルギーを実体化させ分身しているように見せかけそこにあたかもいるかのように敵ISをもだますアビリティ。



 ……何を書いているんだ?まったく恥ずかしい。私はそう思いながら、今書いた恥ずかしい妄想を赤面しながら消した。

「なつー、何してるのー?」

 私はそれに体をビクンっと痙攣させて、顔を引きつらせながらそちらを向いた。するとのほほんちゃんが、顔を真っ赤にしてる私を不思議そうに見ていた。

「いっ、いやっ、何でもない!うん!何でもない!日記を書いてるだけだよ!そ、そうだ。このチョコをあげよう。」

 そう言って私は、のほほんちゃんにチロルチョコをあげた。のほほんちゃんはそれをわーいと言いながら口の中に放り込んだ。
……こんな恥ずかしい妄想、誰にも知られるわけにはいかないよね。
私は日記を机の中にしまい、今日はさっさと寝ることにした。



 そして翌日の朝のショートホームルームは、にーさんのおかげでクラスは大盛り上がりになった。
まあにーさんが何かしたというわけじゃないんだけどね。

「では、一年一組代表は織斑一夏君に決まりです。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 山田先生は、私いい事に気づきましたと、どや顔でそんなことを言ったのだ。
そりゃ唯一の男のIS乗りが代表になったんだから、盛り上がるのはしょうがないよね。まあその代わりにーさんはがっくりと肩を落としてなんか影を背負ってるけどさ。
でもなんでそんなことになったんだろう?勝ったのはセシリアさんなのに。

「先生、質問です。」

 そんな風に疑問に思っていたらにーさんが挙手をした。

「はい、織斑くん。」
「俺は昨日の試合に負けたんですが、何でクラス代表になってるんでしょうか?」

 にーさんが、私も疑問に思ったことを質問した。

「それは──」
「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 すると山田先生の言葉をさえぎって、セシリアさんが勢いよく立ち上がり、腰に手を当て胸を張ったなんとも威風堂々とした姿勢でおっしゃった。
ああなんだセシリアさんが、にーさんにデレたのか。
どういう心境の変化か知らないけど、あの顔は間違いなくにーさんに恋する乙女の顔とオーラだ。
もう何年もにーさんの側にいたからわかる。間違いない。
どんな些細な変化だろうと、私はにーさんに惚れた人を見分けれる自身があるのだ。
……しょうもない自信だけどさ。

「まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれを考えてみれば当然のこと。
なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のないことですわ。」

 まあ、セシリアさん云々じゃなくても、いくらにーさんに専用機があろうとも、同じように専用機を持ってればにーさんに勝てて当然なんだよね。
IS稼働時間の差というのは、単純に飛行機の飛行時間とは違い、乗り手の習熟度を上げるだけではなく、ISにも意識のようなものがあるので、
一緒にすごすことにより相互理解が深まり、よりISは動かしやすいように搭乗者に合わせてくれるようになる。
そして専用機持ちでこの学院に入学するという事は、入学前から専用機に触れているはずなので、それだけ一般の生徒達より多くの時間を自分の専用機と過ごしてるはずだ。

「それで、まあ、私も大人気なく怒ってしまったことを反省しまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。
やはりIS操縦には実践が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いに事欠きませんもの。」

 そのセシリアさんの言葉にまたクラスは大盛り上がりだ。

「そ、それでですわね。」

 セシリアさんは、一つ咳払いをしてあごに手を当てた。ほんのり顔に朱がさしてるのは多分気のせいではないだろう。

「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトなISの操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を遂げ──」

 ああ、今までのは、このにーさんに近づく口実のための前ふりだったのか。などと感心しながら聞いていたら、バン!と机を叩く音が響きさえぎられた。
私はその音がするほうを見ると箒が立ち上がっていた。

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接頼まれたからな。」

 なぜか私がの所を強調する箒、まあ間違ってはいないけど箒は相当へタレな感じだったよね。
それにしても早くも可愛い女の子を惚れさせるとは、我が兄ながら恐ろしいものだ。
私は喧騒をよそに、これからにーさんの周りが今以上に騒がしくなるであろうことに、胸を躍らせるのであった。





──────────────────────────

 私の考えたかっこいいIS(笑)
登場予定まったくないですけどね。
一夏VSセシリアは、アニメで見たほうが断然楽しめるのでカットです。



[26017] よんぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/19 23:29
 にーさんとセシリアの決闘からあっという間に時間がたち、今やもう4月も終わろうという時期になっていた。
セシリアとはにーさん経由で友人関係になることができ、今では呼び捨てで名前を呼び合う仲になれた。
でもいまだになぜにーさんに惚れたのかはわからない。もしかしてお父さんにも殴られたことがなかったのに、にーさんに斬られそうになって惚れたのだろうか?
……うん、ありえないね。まあそんな益体もないことは置いておくとして、今はこの学校指定のISスーツだ。
ISスーツに限ったことではないのだが、このIS学園は誰の趣味か知らないが、
体操服が絶滅危惧種で最早フィクションの中でしかお目にかかれないようなブルマーだったり、学校指定の水着も結構古いタイプのスクール水着だったりする。
最新の設備だらけなのに、なぜここだけ男の欲望が具現化したようなものなのだろうか?
まあISスーツも十分男の目からしたら、目の保養になるような代物なんだけどさ。
つまり何が言いたいのかと言うと、こう女を性的に意識させる衣服は、平静を装うのにガリガリ精神が削られるのだ。
それでも15年間の女性としての生活で、変に思われれないように、挙動不審になどならない様に習慣付けてあるけどね。
なのでできるだけ意識しないように私は、学校指定のISスーツを着るために制服を脱ぎ始める。

「わー、なつはおっぱい大きいねー。」

 制服を脱ぎ、下着姿になっていた私の胸をまじまじとのほほんちゃんに見られていた。
そしてなぜかクラスメイト全員が一斉に私の胸を凝視した。
正直このクラス、と言うかIS学園の平均はかなり高いと思うので、私程度の胸の娘はそこらじゅうにいると思うんだけどね。

「なつはちっちゃいのに大きいねー。」

 確かに私の身長は、同世代の娘より若干低めではあるが、のほほんちゃんだってそう変わらないはずだ。
なんて思っていると、すぅっと、ゆっくりとのほほんちゃんの腕が私の胸に伸びた。

「え?なっ、何を!」
「なつはいつも部屋のシャワーで済ますしちゃうんだから、たまにはよいではないか~よいではないか~。」

 確かにできるだけ、みんなの裸を見ないために行動してたけど、それは例え女になろうと、自分以外の裸を見ると胸が高鳴ってしまうんだからしょうがないじゃないか。
……まあ、自分の体でも、極たまに変な気分になることもあるけど、そんなこと誰にも言えるわけがない。

「なつは形も感度もいいんだねー。」
「くぅ。」

 私の胸をつたなくもむのほほんちゃんの手に、思わずあえいでしまいそうだったのが、そんな醜態をこんな所で晒せるわけがないのだ。

「そ、そんな、遊んでる余裕はない、よ、のほほん、ちゃん、遅れたら大変なことになる、よ?」

 私がそう切れ切れに言うと、のほほんちゃんも次がねーさんの授業だということを思い出したようで、「そうだったねー。」と、自分の着替えをゆったりと再会する。
私は息が荒くなりながらも、何とかのほほんちゃんの手から逃れることができた。そしてため息を一つ漏らした私は、ISスーツに着替えることにした。



 私達がグラウンドに整列して授業が始まった。

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもいう。織斑、オルコット。ためしに飛んでみろ。」

 そうねーさんが、専用機を持つにーさんとセシリアを指名した。

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開に一秒とかからないぞ。」

 そう急かされて、もたもたしてた二人はようやく集中し始めた。と思ったけどにーさんはどうでもいい事考えていそうだ。
現に「集中しろ。」などとねーさん注意されてる。
そしてセシリアと少し遅れてにーさんに、光の粒子が体からあふれ出て、それが最収束するように二人の体にまとわりついていく。
いつ見ても思うのだが、どことなく現実感のない光景だ。幻想的というには現実的で、かといって現実的かといわれればそうでもない。
きっと変身ヒーローの変身が、現実になったようなものなのだろう。
後セシリアのIS、ブルー・ティアーズは、青い涙とでも訳すのだろうか?もしそうなら遠隔武器のビットを涙にでも例えているのだろうか?
などと思考があちこっちに飛ばしながら考えていると、二人の体にまとわりついていた光の粒子が、徐々にIS本体の形を具現化していった。

「よし、飛べ。」

 そしてねーさんは、二人がISを装着したのを確認するや否やそう命じた。
セシリアはそれにすばやく反応して行動に移し、あっという間に急上昇して行き、にーさんはそれに遅れるように飛んでいった。
しかもにーさんの上昇速度はセシリアより遅いようだ。

「何をやっている。スペック上の出力は白式のほうが上だぞ。」

 そうねーさんは、通信回線越しににーさんを叱責する。私は目を凝らして上空の様子を伺った。
そして空の上で滞空している二人は、いちゃいちゃしだした。まあにーさんは、アドバイスでももらっているだけのつもりなんだろう。
そしてその状況に箒は、多分イラっときたのだろう。山田先生からインカムを奪い取った。

「一夏っ!いつまでそんな所にいる!早く降りてこい!」

 そうインカム越しににーさんを怒鳴りつけた。そして山田先生は「返してー。」と言いながら箒からおたおたしながらインカムを奪い返そうとしている。
それにしても箒も恋敵ができたおかげで、少しはにーさんへ積極的にアプローチするようになるのかな?
もっとも問題はにーさんが、好意に鈍感なことなんだけどさ。二人の好意に気づかないとか、意味がわからないな。
まあ見ている分には面白いからいいけど、限度があるよね。

「織斑、オルコット、急下降と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10cmだ。」

 今度はねーさんがそう言うとセシリアが華麗に完全停止を成功させた。
そして次はにーさんが何を思ったのかすさまじい轟音を響かせて墜落した。なんというか加減というものを知らないのだろうか?

「馬鹿者、誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする。」
「……すみません。」

 ねーさんに叱責され、にーさんはがっくりと謝罪する。そしてにーさんは、自分で作ったクレーターから浮遊して出てきた。

「にーさん、大丈夫?」

 ISのシールドバリアーがあるので、大丈夫なのは分かりきっているが、私はほんの少しだけ心配だったので、小走りで近寄り聞いてみた。

「おう、大丈夫だ。」

 そういったにーさんをよく見ると、本当に大丈夫なようで、白式にも汚れ一つないくらい無傷だった。

「それにしても、箒にISのこと教わってるんじゃなかったの?」
「そうだ、情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう。」

 私がふと思い浮かんだ疑問をにーさんにぶつけていると、隣に目じりを吊り上げて腕を組んだ箒が、仁王立ちした。
そんな箒の言葉に、にーさんはなんとも微妙な視線を箒に向けた。

「貴様、失礼なことを考えているだろう。」

 目じりをさらに吊り上げた箒の言葉に、にーさんはなぜばれた。と、いうような顔をする。
しかしどうしてにーさんはいつも、こうしょうもないこととかを考えている時は、顔に出るのだろうか?

「大体だな一夏、お前というやつは昔から──」

 そう小言をはじめた箒を尻目に、セシリアがにーさんと箒の間に入って箒の小言ををさえぎった。

「大丈夫ですか、一夏さん?お怪我はなくて?」

 汚い、流石セシリア汚い。箒ににーさんを精神的に突き落とさせて自分は、優しく接して点数稼ぎ。
……まあいくらなんでもそんなわけないか。それに例えそうだったとしても、にーさんにそんなことしても、鈍感すぎて無駄だしね。
そんなセシリア腹黒説を妄想しながら私は二人の口論を眺めていた。
その後もにーさんの周りがにぎやかな感じで授業は続いていったのだった。



 授業も終わり、放課後私はとりあえず入部した料理部ですごした。
以前からにーさんには、「どうしてこんな雑に作ってるのに美味いんだ?」と、理不尽なことを言われていたのだ。
そりゃ私の料理は、目分量で適当だけど、前世の母さんがそうだったし、私はそれを見て料理を覚えたんだから、どこも問題はないはずだ。
大体味なんて味見しながら作れば、普通にそれなりの物ができるんだからいいじゃないか。
とはいえ流石に理不尽に、いつまでもあーだこーだ言われるのも癪なので、これを機にしっかり料理を覚えようと料理部に入部したのだ。
それに料理部は毎日活動しているわけではないので、活動してない日を自主トレーニングに当てれるので都合がいい。
まあそれなら最初から体を動かす部活、例えば剣道部とか柔道部にでも入ればいいのだが、
前世からあわせて、こういった活動は格闘技ばかりというのも、面白味がないので入るのをやめた。
そして今日の料理部の活動は、なぜかようかん作りだったのだ。
ようかん作りになった理由が部長曰く、「素敵な駄洒落が思い浮かんだの。ようかんはよう噛んで食べてね!なんちゃってなんちゃって。」などと嬉しそうに言ったのだ。
しかしそれはありきたりすぎる上に、あまり面白くない駄洒落だったので、部員一同愛想笑いするしかなかった。
まあそんなことはともかく、このようかんは、今日のにーさんのクラス代表就任パーティーに丁度良かったので、部長の駄洒落以外は料理部に入ってよかったと思っている。
そんなことを考えながら、私はねーさんを求めて職員室に向かった。
案の定職員室には、ねーさんと山田先生がいた。

「ねー……織斑先生、今いいですか?」
「何だ、織斑妹。」

 私はうっかりねーさんと言いそうになり、キッと睨まれたので、慌てて呼びなおした。まったく危ない所だった。

「それで、何の用だ?」
「うん、これ今日の部活で作ったから、よかったら食べて。」

 言葉の先を促されたので、私は用件を告げながら、部活で作ったようかんをねーさんに差し出した。
なんというか調子に乗って作りすぎてしまったので、ねーさんにもお裾分けをしようと考えたのだ。

「ようかんか?どうせお前のことだから作りすぎたのか?」
「うん、そうだよ。甘さ控えめだから、織斑先生の口にも合うんじゃないかな?山田先生と食べてね。」
「ふぅ、そういうのは受け取らないことにしているんだがな。」
「いいじゃないですか、せっかく妹さんが作ってくれたものなんですから。」

 ねーさんはため息をつきながら困った顔をしたが、山田先生がそうフォローを入れてくれた。
考えてみたら人気者のねーさんが、プレゼントなんて受け取ってたらきりがないか。
そう思い私はねーさんに食べてもらうのは、あきらめようかと思っていたらねーさんが受け取ってくれた。

「ふむ、それもそうだな。後で頂くとしよう。」
「うん、ありがとう。」
「なんでお前が礼を言うんだ?」

 私はにこやかに礼を言うと、ねーさんにそう突っ込まれた。確かになんで私が礼を言ってるんだ?
まあたいした問題ではないので、少しねーさんと話してから寮に帰ることにした。



 そして夕食後の自由時間。寮の食堂で、私達一年一組の生徒全員+どこからか紛れ込んできたほかのクラスの娘で、にーさんのクラス代表就任を祝うことになった。
そして壁にはでかでかと『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙がかけてある。
やはり他のクラスと違って、にーさんがいるおかげで、色々楽しくはしゃぐ機会ができるのは、にーさんには悪いけど良いことだろう。
しかしこれはにーさんだからこうなるのであって、もし前世の私がにーさんの立場ならこうはならなかったろうと思う。

「というわけでっ!織斑くんクラス代表おめでとう!」
「おめでと~。」 

 そして私達は、にーさんに向かってクラッカーをぱん、ぱん、ぱーんと乱射するのであった。
クラスメイト達はそれぞれこのことで盛り上がってる中、当の本人であるにーさんは若干気乗りしないような顔をしている。
まあにーさんはクラス代表に、なりたかった訳じゃないから、わからないでもないけどね。
なので私はそんなにーさんへ、この妹である私が、素敵なプレゼントをあげて慰めてあげよう。
そんなことを考えながらのほほんちゃんとにーさんに近づいた。

「にーさん、クラス代表就任おめでとう。」
「おりむーおめでと~。」

 私は嫌味になるくらい、これでもかという滅多にしない笑顔で、にーさんを祝福してあげた。

「ああ、ありがとう。」

 それににーさんは、顔を引きつらせてお礼を言ってくれた。流石に鈍いにーさんでも、私がこの状況を面白がっていることを察しているのだろう。
にーさんの不幸は蜜の味的な?そんな感じだ。
まあそれは置いといて、私は目的のものをにーさんにあげることにした。

「はい、これは可哀想なにーさんへの、妹からのささやかなプレゼントだ。ありがたく食べてね。」
「ありがとうな、千夏。」

 にーさんが、今日の部活で作ったようかんを今度は素直に、うれしそうに受け取った。
私はおもわずその笑顔に照れてしまう。

「い、妹ちゃんに抜け駆けされた!」
「しまった。その手があったかぁ。」
「……千夏、まさか貴様も……」
「千夏さんもライバルなんですの?……これは厄介な敵ですわね。」
「……兄妹の禁断な関係、……背徳的でいいかも。」

 などと周りが訳のわからない感じで、盛り上がってしまった。

「おりむ~いいなー。なつのよーかんいいな~。」

 しかしのほほんちゃんが、そんな空気を無視してにーさんの腕に引っ付いて、羨ましそうにようかんを見つめた。
それにしてもまさか周りが、こんな面倒くさい反応をするとは思わなかった。

「のほほんちゃん、安心して。ちゃんとのほほんちゃんの分も部屋にあるから、明日にでもお姉さんと一緒に食べるといいよ。」

 私のその言葉に、のほほんちゃんはわーいと万歳をする。ああ、ほんとうにのほほんちゃんは和むなぁ。

「今の所はこれで我慢してね。」

 私はそう言ってのほほんちゃんにチロルチョコを上げた。
そしてにーさんとセシリアが、新聞部のかなり適当な取材を受けて、にーさんとセシリアのツーショット写真を撮影するという流れになった。
まあそんなに世の中セシリアに都合よく動いていないので、撮影の瞬間に二人の周りに集合して、集合写真になってしまった。
当然私も写真には写っている。セシリアには悪いがそうした方が良いと思ったからだ。
そして文句を言おうとしたセシリアは、クラスメイトみんなに簡単に丸め込まれてしまい、苦虫を噛み潰したような顔になった。
そんなセシリアをみんなで、にやにやした顔で眺めるのであった。

「千夏、お前も一緒になにやってるんだ?」
「にーさん、楽しいことはみんなで楽しむものだよ?」

 写真撮影に何気なく参加してた私を見つけたにーさんが、呆れて私にそんなことを言うので、私はそう答えてあげた。
その後も私達は楽しくすごしたのであった。



 某月某日

 今日も一日にーさんをめぐって、にーさんのすぐ側でセシリアと箒が、恋の鞘当をしていた。もちろんにーさんはそんなことに気づかない。
それを授業中までやってしまうこの二人はすごいね。感心してしまう。まあ通信回線越しだったからよくわからなかったけどね。
ついでにまったく気づかないにーさんはやっぱり相当あれだと思う。
それとにーさんの今日の自主トレーニングは、どうやら箒とおこなったらしい。
今日も仲良く一緒に帰ってきてたし、箒もしっかりがんばっているようだ。このままがんばってほしいものだ。
そして今日は織斑一夏クラス代表就任パーティーをクラスのみんなでやった。
にーさんはクラス代表になりたくなかったのだろうからげんなりしていたが、自分のことを珍しい生き物だと例えたりたりしているのだから、
いい加減希少動物が、みんなのおもちゃにならないわけがないことに、気づくべきである。
なので今日も我がクラスメイト達に、体の良いおもちゃとして扱われるのであった。
それにしてもあの新聞部は大丈夫なのだろうか?見たことないけど、あの新聞部副部長の様子からして、きっとゴシップ紙のようなものなんだろうな。
まあ写真はちゃんと焼き増ししてくれるそうなのでどうでもいい事かな?





────────────────

 兄が妹にニコポ(笑)
しかし妹には効かなかった。
それにしてもISはセクハラ要員の女子がいないから困る。
なのでよいではないか~よいではないか~と言わせたかったのでのほほんさんにセクハラしてもらった。
今は後悔している。でも反省はしていません。
後最後に、鈴は一人だけ2組で扱い難そうだから困る。



[26017] ごぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/21 20:39
 今日もいつものごとく朝早く起き、早朝トレーニングを軽くこなしてシャワーを浴び、のほほんちゃんを起こして着替えさせて、寮の食堂で朝食を食べてから、いつものように学園へのほほんちゃんと話しながら向かった。

「ねー、ねー、なつー、今日から二組に転校生が来るんだってー。」
「転校生?」
「そー、てんこうせー。中国の代表候補生だって言ってたー。」

 私のオウム返しをのほほんちゃんがより詳しい情報で答えてくれた。
なぜそんなことをのほほんちゃんが知っているのかというと、お姉さんと多分幼馴染の更識さんと一緒に生徒会役員だからなのだそうだ。
多分幼馴染というのは、のほほんちゃん曰く「むかーしから代々うちは、更識家のお手伝いさんなんだよー。」ということらしいから多分なのだ。
まあ生徒会役員らしいけど、誰がどんな役職なのかは、聞いてないので教えてもらってはいないんだけどね。
しかし転校生の情報とかも、生徒会が扱うものなのだろうか?まあよく知らないけどさ。

「中国ねぇ。」

 中国といえばにーさんに惚れてた娘がいたな。よくにーさんの友人と一緒に遊んだものだ。
と、思い出していたらいつの間にか教室にたどり着き、その後ものほほんちゃんと他愛のない会話をした。
するとにーさんが登校してきて、セシリアと箒が早速にーさんにちょっかいをかけ始める。
それにしても花に群がる虫のように、にーさんの周りに女子が集まるなぁ、なんて思いながら私はそれを眺めていた。
まあどっちかというと、花がにーさんに群がってるんだけどさ。
そうどうでもいいことを考えながら、にーさん達の会話に耳を傾けた。
どうやらクラス代表戦について話しており、にーさんに発破をかけているみたいだ。そんな中、セシリアがここぞとばかりににーさんにアプローチをかけている。
なんといっても専用機持ちなので、トレーニング相手にはもってこいだしね。なにせISの貸し出し申請はとても面倒くさいものなのだ。

 それにしてもやっぱりみんなのにーさんにかける期待は、とても大きいようだ。
なにせクラス代表で専用機を持ってるのは、4組と我が一組だけ、2組にも今日専用機持ちが転校してくるらしいが、まあ関係ないだろう。
そしてなぜ、にーさんにこんなに期待を寄せるかといえば、もちろんにーさんが唯一の男性のクラスメイトでISを使えるのだからがんばってほしい、
かっこいいところを見せてほしい、というのもあるのだろうが、なんと一位クラスには優勝賞品として、学食デザートの半年間フリーパスが配られるのだ。
甘味が前世のころから好物の私にもたまらない商品なので、当然私もにーさんには頑張ってもらいたい。
ちなみに甘いものがどれくらい好きだったかというと、多分ファミレスのパフェを毎日食べても飽きないんじゃないかなってくらいに好きだったのだ。
もっとも厳つい男がそんなことしたら、いい物笑いの種になるのでそんなことはしなかったけどね。
だから私は前世では、小さいころにパフェを片手で数えるほどしか食べたことがないのだ。

「織斑くんがんばってねー。」
「フリーパスのためにもねー。」
「今のところ、専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ。」

 まあ私のことはともかくとして、そんな賞品の為にこうやってクラスの女子が応援するのも当然のことだよね。

「──その情報、古いよ。」

 などとちょっと懐かしい、凛としたよく通る声が、教室の入り口のほうから聞こえてきた。
それにしても、出てくるタイミングでもドアの向こうで、うかがっていたのだろうか?もしそうならご苦労なことだな。

「二組も専用機持ちが代表になったの。そう簡単には優勝できないから。」

 そう声のする方を向くと、腕を組み片膝を立ててドアにもたれかかっていたのは、鈴だった。
……にーさんなら凛とした鈴の声とか、考えちゃうのだろうか?流石にそれはないか。
それにしても、転校して間もないのに何でクラス代表になってるのだろうか?まあ鈴のことだから何か強引なことでもしたのだろう。
そして鈴はなにやら宣戦布告に来ただの言い出したが、空気を読めてないにーさんのおかげで、せっかく格好つけてにーさんの前に現れたのに、
その肝心の自分を魅力的に見せたい相手にぶち壊されていた。
しかしこれは高校デビューとかを知ってる人の前でやるような痛々しさだね。
そんなにーさんに食って掛かるが、ねーさんの登場で鈴は尻尾を巻いて逃げて行く、流石ねーさんだなと感心しながら私は自分の席に戻るのだった。
その後、にーさんの不用意な発言のおかげでにーさんは質問攻めにあうが、これから朝のショートホームルームが始まるのだから、
ねーさんがそんなことを許すはずもなく、ねーさんが出席簿で片っ端から叩いて黙らせるのであった。



 そんなこんなで一時間目の授業も終え、お手洗いにでも行こうかと廊下を歩いていると、鈴に声をかけられた。

「千夏、久しぶりね。」
「そうだね、一年ぶりくらいかな?鈴。」

 思わずりんりんと呼びたくなったが、昔そう呼んで機嫌を損ねたことがあるので自重した。
他にもりんちゃんさんと呼んで、馬鹿にしてるのかと怒られたり、おりんりんと呼んで、白い目で見られたりしたこともある。
なのでそれ以来、私は人に愛称を付けるのを自重していたりする。

「……ところで千夏に聞きたいことがあるんだけど、もちろんいいわよね?」
「……まあいいけど。」

 一応疑問系で尋ねてきているが、鈴は明らかに拒否したらわかるわよね?的な感じで凄みながら、いいわよね?を強調して言った。
お手洗いに行きたかったが、まあ別に切羽詰っているわけではないので、それに付き合うことにいた。

「で、なに?大体何が聞きたいのかは、予想つくけどさ。」

 そんな投げやりな私の言葉に、鈴はちょっとむっとした顔をした。

「あのつり目のポニーテールの女は何なの?」
「篠ノ之箒、幼馴染だよ。まあ鈴とは入れ違いみたいな感じで、転校したから面識はないはずだね。」
「……ああ、あの女が。」

 面識はなくとも多分にーさんから、昔箒のことを聴いたことがあるのだろう。でもそんなことが聞きたかったんじゃないんだろうな。

「一応にーさんは今も、誰とも付き合ってないよ。」
「なっ、何を急に言い出すのよ!」

 そう私は面倒くさかったので、さらっと鈴が一番知りたそうなことを教えてあげると、鈴は慌てたようにそう返答した。
しかしその表情には明らかに安堵が含まれている。

「だ、第一、私と一夏は約束してるんだから、そ、そんなの当たり前よ。」

 鈴は徐々に落ち着きを取り戻して、終いにはフフンと、胸をそらしてそんなことを言った。
約束ねぇ、たしかある日にーさんが、なぜか自慢気に「鈴に料理上達したら毎日酢豚をおごってあげるって言われたんだぜ。」と、言ってたのを思い出した。
まさかこれのことだろうか?これは俺のために毎日味噌汁作ってくれの逆バージョンで、さらに味噌汁の変わりに酢豚なのだろうか?
もしそうなら鈴はなんと浅はかなのだろうか?にーさんがそんなこと言われても、少し考えれば額面通りにその言葉を受け取る可能性が、98%以上あることに気づけるはずだ。
残りの2%は奇跡が起きてにーさんが好意に気付く可能性だ。まあこれは身内贔屓と希望的観測なんだけどね。
そして私は思わず小さくため息を吐いた。

「鈴、にーさんとの約束って、酢豚を作ってあげること?ならにーさんは、多分その言葉のままの意味で受け取ってると思うよ。」
「な、何であんたがそのこと知ってるのよ!そ、それにそんなことないわよ!……ないはずよね?」

 私が諭すようにそういうと、鈴は私の言葉を否定しようとしたが、否定しきることができなかった。
とりあえず何で私が知っているかを教えてあげて止めをさすことにした。

「何時だったかにーさんが自慢げに、鈴が酢豚を毎日おごってくれる的なこと言ってたからね。そんなこと私に言うくらいだから、多分鈴の気持ちに気付いてないよ。」

 そうぽんぽんと鈴の肩を叩きながら、やれやれにーさんには困ったものだね。
といった感じで私が言うと、鈴はぶつぶつ独り言をつぶやき始めたので、とりあえずフォローになってないフォローをすることにした。

「ま、まあにーさんが、そんな回りくどい告白に気付けるようなら、鈴と会う以前にとっくに彼女ができてたと思うよ?それに万が一って可能性もないわけじゃないしね?」
「そ、そうね、……千夏のは憶測だしね。」

 そう言って、鈴は受け入れがたい未来予想図をがんばって否定しようとしてたら二時間目の予鈴が鳴り始めた。

「あ、もう戻るね。鈴も教室に戻りなよ?」

 私はそう言いながら鈴に教室へ戻るように促すと、鈴は何か考え込むようにうなずいて、自分のクラスへ帰っていった。



 そして2時間目も終わり、今度こそお手洗いに行こうと私は腰を上げた。

「あー、私も行くー。」
「そう?じゃあ行こう。」

 そうのほほんちゃんが言いながら近づいて来たので、一緒に行くことにした。
そして用も済ませて、私が手を洗っているとのほほんちゃんが、何か思い出したように聞いてきた。

「そーいえば、中国からの転校生はなつの知り合いだったのー?」
「鈴のことだったら、友達だね。」

 手を洗い終わり、私達はのんびりと廊下を歩きながら会話を続ける。

「たしか小学5年生のころに引っ越してきて、中学2年の終わりごろに引っ越しちゃったんだよね。」

 そんな私の説明にへーとかほーとか相槌を打つのほほんちゃん。
うん、そんな仕草も可愛いな、なんて思いながら、私は昔を思い出しながらさらに話を続けた。

「鈴も確か最初のころはにーさんにつんけんしてたんだよね。
でもなんか鈴が名前でからかわれてたらしくて、そのからかってる奴らをにーさんがとっちめたらしいんだ。
それから徐々ににーさんと鈴は友人関係になって、ついでに私も一緒に遊ぶようになったんだ。」
「なつはついでだったの~?」

 とりあえず当たり障りのない鈴との関係を語った。流石に鈴がにーさんのことを昔から好きだったなんて、そのことに関係ないのほほんちゃんに語るのもなんだしね。
そして教室の前にたどり着いた私達は、教室には入らないで廊下で話の続きをすることにした。

「んー、私の友人関係は、ほとんどにーさんの友人をにーさん経由で知り合うことが多かったからなぁ。」

 私はのほほんちゃんにそう答えながら、過去を振り返ってみた。
今生になってもやはりメンタリティの違いからか、話が合わないからか、なかなか女の子の友達を作る事ができなかったのだ。
それより男の子であったにーさんの方が、まだわかりやすかったので、ついついにーさん達と遊んでばかりになってしまったのだ。

「なつは、ブラコンなんだねー。」
「え?」

 するとのほほんちゃんが微笑ましいものを見るような顔をした。
私は思わず鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまう。……客観的に見ると私は、いつもにーさんの後をついて回ってるような印象なのだろうか?
なんかとてつもなく恥ずかしい事実に気付いてしまったような気がして、顔がほてってきたのがわかる。
などとしていたらごまかすのにもってこいな、三時間目の予鈴が鳴り始めた。

「あ、せ、席に着かないとね!」
「そうだねー。」

 のほほんちゃんは、テンパリ気味の私をニコニコ眺めながら私と一緒に教室に入るのであった。



 某月某日

 今日はなんと鈴が二組に転校して来た。
朝からにーさんに会いに来たのか、かっこつけて登場したが、昔を知るにーさんに突っ込まれてまるで道化のようだった。
それにしても今日は鈴のおかげで、箒とセシリアが午前中の授業に、まったく身が入ってなくて散々な目にあってて大変そうだったな。
さっさとにーさんとはどういう関係だったか聞きに行けばいいのに。
もしくは私に聞いても良かったのにね。まあ私に聞くよりやっぱり本人に聞くのがいいか。

 昼休みは、にーさんと箒やセシリアやのほほんちゃん、そのほかにもたくさんのクラスメイト共に食堂へ行くと、
そこには待ち構えていた鈴がいたので、一緒に食事をすることになった。
そしてにーさんに惚れている娘達が牽制しあってるのに、予想通りにーさんはまったく気付かなかった。
鈴といえば、昔は週3回くらいは、鈴の家の中華料理屋に行ってたな。懐かしいな。
そういえば当時、ねーさんがあまり家に戻れなくなりだしたころから、にーさんと食事を作る機会がめっきり減っていったなぁ。
私が小食で、作る量も半端になるというのもあったけど、明らかににーさんはねーさんのために作ってたからなぁ。
まあわからないでもないんだけどね。私もねーさんには感謝をしてもし足りないくらいだしね。
そしてその日の夜、にーさんの部屋でお茶を飲んでたら鈴が突然来て、箒に男と同室は落ち着かないだろうから、部屋変わってあげてもいいわよなどと、白々しいことを言った。
まあほぼ同じ条件を持ってるんだから、どっちがにーさんと同室でもおかしくないよね。
……いや、やっぱりおかしいか。
まあそんなこと箒が納得するわけもないんだけどさ。
それにしてもあのタイミングで約束を覚えているか聞いたのは、やはりにーさんが鈴の意図を正しく理解していると思いたかったからだろうか?
まあ予想通りの結果になってちょっと可哀想だと思ったので、にーさんに非難の視線浴びせといたけどさ。





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  千冬の塩入コーヒーは次の話だったということで修正修正。
ちゃんと書く時は確認しないとだめですね。とりあえず該当部分はさんぺーじめからコピペして移動しただけです。
後さんぺーじめもちょっと書き変えときましたが、どうせ日記部分ですのでたいした変化はありません。



[26017] ろっぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/23 17:53
 鈴が転校してきて早数週間がたち、クラス対抗戦もアクシデントが起きて中止になった。
私は椅子に腰をかけて、無茶をして気絶したにーさんをぼんやり眺めていると、にーさんがうめき声をあげて目を覚まし、辺りを見回し始める。
私はにーさんのその様子に安堵のため息を漏らした。

「気がついたか。」

 仕切りのカーテンを半分くらい開けて、ねーさんが入ってきた。

「体に致命的な損傷はないが、全身に軽い打撲はある。数日は地獄だろうが、まあ慣れろ。」
「はぁ……」

 ねーさんの説明を今一理解できてないにーさんは、視線を窓の外に移し、私もそれに釣られて外を見ると、空は茜色に染まっていた。
ああ、もうこんな時間なのか。

「衝撃砲の最大出力を背中から受けたんだぞ。しかも、ISの絶対防御をカットしたな?よく死ななかったものだ。」

 そうねーさんは少し呆れて言った。本当にあの時は肝をひやす思いだったなと、私はにーさんの顔を見た。

「まあ、何にせよ、無事でよかった。家族に死なれては寝覚めが悪い。」
「そうだね。にーさんが死ぬと悲しむ娘が沢山いるからね。」

 私はいつもと違い穏やかな空気のねーさんにそう同意した。でもにーさんは、私の言ってる意味がわかってないんだろうな。

「千冬姉、千夏。」
「うん?なんだ?」
「なに?」
「いや、その……心配かけて、ごめん。」

 にーさんのその言葉に、思わずきょとんとした後顔を見合わせ、思わず私達姉妹は小さく笑った。

「心配などしてないさ。お前はそう簡単には死なない。なにせ、私の弟だからな。」
「そうそう、にーさんはねーさんの弟なんだから、殺しても死ぬわけないよ。」

 そう私がにこやかに、ねーさんの言葉に、うんうんとうなずきながらそう言うとねーさんから拳骨をもらった。

「いった~。」
「馬鹿なこと言ってるんじゃない。」

 私が、涙目になって上目遣いでねーさんを見ると、怖い顔をしてにやりと口元を歪ませた。

「では、私は後片付けがあるので仕事に戻る。お前も、少し休んだら部屋に戻っていいぞ。後は千夏、頼んだぞ。」

 そうねーさんは言って、保健室から出て行くと同時にだれか入れ違いで入ってきたのか、わざとらしい咳払いが聞こえる。
私もにーさんもそれが誰か気付き、思わず苦笑いで顔を見合わせた。
そして仕切りのカーテンが箒の手によって全開に開かれ、私とにーさんはそちらを向いた。

「よう、箒。」
「う、うむ。」

 にーさんが箒に声をかけると、箒が腕を組んでふんと鼻息を漏らす。
私はとりあえず、席を立ちこの場を箒に任せておくことにする。

「箒、私はちょっとのどが渇いたから、何か飲んでくるね。その間にーさんをよろしく。」
「あ、ああ、頼まれた。」

 私は気を利かせて、箒ににーさんのことを頼んで保健室を後にした。
そして私は、清涼飲料水をゆっくり飲み一息ついてから、にーさんの元へ帰ると、今度は鈴が保健室に入っていく所だったので、私は保健室の前でボーっと待つことにした。
その数分後、今度はセシリアが勢いよく保健室に入って行く、ああ、本当ににーさんはもてもてだなぁ、なんて思いながらもう少しだけ待ってあげるかとため息を漏らす。
だがしかし、すぐになにやら鈴とセシリアの言い合う声が廊下まで聞こえてきたので、私は再びため息を一つ吐いて、保健室に入り、二人の口論に割って入った。

「鈴もセシリアもいい加減にしろ、にーさんは一応怪我人なんだ。にーさん、もう、寮に帰ることくらいはできるよね?」
「あ、ああ、大丈夫だ。帰ろう。」

 私のその言葉ににーさんは渡りに船といった感じだ。

「げ、千夏。」
「ち、千夏さんが何でいますの?」

 そして鈴とセシリアが私のほうを恨めしそうに見るが、今回は流石ににーさんが可哀想だったので黙殺する。
それにしても、何でいますの?もなにもセシリアが保健室に入る時廊下にいたじゃないかと、突っ込もうかと思ったが、
もし「一夏さんのことで頭がいっぱいで、気付きませんでしたわ。」なんて言われたら友人としてあまりに寂しいのでやめた。
とりあえずにーさんのかばんを持ってあげて、一緒に帰ることにした。



 私はにーさんと部屋の前で別れて、鞄を机に置いた後、寮の食堂の利用できる時間が、もうあまりなかったので、急いで食堂へ向かった。
私は少な目のご飯と味噌汁、それと少量の野菜炒めをトレーに置いて、どこに座ろうかあたりを見渡した。
するといつもの着ぐるみパジャマを着たのほほんちゃんが、いつものようにゆったりした速度で夕食をとっていたので、私はその隣で食べることにした。

「あー、なつー、おかえりー。」
「うん、ただいまのほほんちゃん。」

 近づいてくる私に気付いたのほほんちゃんが、そう出迎えてくれたので、私は隣に座りながらそう答えて、いただきますと合掌した。

「おりむーは大丈夫だったのー。」
「うん、全身に軽い打撲だって、でももう元気に部屋に帰ったよ。」

 のほほんちゃんもやはり心配してくれていたのだろう。そう聞かれたのでもう大丈夫であることを教える。
そしてやはりというか、周りで食事を取っている女の子達が、興味津々と言った様子で聞き耳を立てていた。

「なつよかったねー。」
「そうだね。」

 そして私はゆっくりよく噛んでご飯を食べ始めた。



 食事を食べ終え部屋に戻った私は、制服を脱いで、シャワールームへ向かった。
私はシャワーのバルブを開き、シャワーノズルから出るお湯が丁度良い熱さになるのを待った。
頃合になり私は、ノズルから降り注ぐ熱めのお湯を頭から浴びる。そしてそれは自慢の黒髪を濡らし、しっかり鍛えられてはいるが、女性らしく丸みを帯びながらもしなやかな、
それでいて出ているところはでて、引っ込む所は引っ込んでいる、なかなか理想的だと思う体を這う様にお湯が流れていく。
そして私はシャワーを浴びながら、今日のことを思い出した。
にーさんが最大出力の衝撃砲をわざと背中に受けて、瞬時加速を作動させた時は一気に血の気が失せ、嫌な汗をかいた。
例えそれが、にーさんの意図する結果を引き寄せるための行為だったとしても、その時ただ見ているだけの私に判る訳がなかったので、なにをしているのか理解できなかったのだ。
そしてその急接近によるにーさんの会心の一撃でも、謎のISは倒しきることはできず、謎のISが反撃にほぼ接射状態で、にーさんにビームを叩き込もうとしていた時は、心臓が止まるかと思った。
でもセシリアが、狙撃でそれを阻んでくれて本当に感謝している。どうもにーさんは、セシリアの狙撃を見越していたみたいだが、それにしてもよくわかったものだ。
さらにその後にーさんが、ビームに飛び込むように飛び立った時は思わず、両手を祈るように握り締めてにーさんの無事を祈ってしまった。
そんな思わずしてしまった自分の、そのなんとも女の子っぽい行為に、後で自己嫌悪してしまった。
そして今もちょっとそれを思い出して羞恥で顔が熱くなる。
なので私は一度思い出すのをやめるため、お湯を止めて、洗髪して体を洗うことにした。

 シャワーを浴び終えた私は、体を拭いて寝巻きに使ってる元にーさんのシャツと、ショートパンツをはいて鏡に映る少し情けない表情をした自分の顔を見る。
これは良くないと思い、私は目を閉じ深呼吸をして再び鏡の中の自分を睨む。
うん、これでねーさんに良く似た強気な顔になった。
こんな遠くからただ見守ることしかできないのは心臓に悪い、だから今よりもっと努力して、にーさん達と同じ場所に立てるようにがんばらなければいけないな。
とはいえ、専用機なんてそう簡単に手に入るものでもないんだけどね。
そう私は決心を新たにしようとしたら、なにやら廊下が騒がしいので、見に行こうとするとのほほんちゃんが扉から廊下を伺っていた。
私も廊下に顔を出してみると、にーさんとむすっとした箒がなにやら見詰め合っていた。

「どうかしたのか?まあとりあえず部屋に入れよ。」
「いやここでいい。」
「そうか。」
「そうだ。」
「…………」
「…………」

 部屋の中に誘うにーさんとそれを断る箒、そして再び訪れる沈黙。
しかし箒の顔には何かしら決意じみたものがあるように感じる。告白でもするのだろうか?そんなことはないか。

「……用がないなら俺は寝るぞ。」
「よ、用ならある!」

 何も言わない箒に焦れたのか、にーさんがそんなことを言ってあせった箒が大声を出した。
にーさんも男なら多少の沈黙くらい待ってあげればいいのに。
あ、でもにーさんは怪我人なのか。ならしょうがないか。

「ら、来月の学年別個人トーナメントだが……私が優勝したら──」

 箒がにーさんの目を見ないで、頬を紅潮させる。そして一呼吸置いて、心を決めたのだろう。

「付き合ってもらう!」

 やはり視線を合わせずに、ピシッとにーさんに指差した。
そんな箒の可愛らしさに思わず胸がキュンッとなった。
これがにーさんの友人が言っていたギャップ萌えというやつだろうか?
のほほんちゃんとはまた別のベクトルで、なんか可愛いな。

「……はい?」

 しかしにーさんは状況がわかってないようですっとんきょんな声をあげた。
私は思わず心の中で、「ダメだこりゃ。」と、昔懐かしいコントの台詞を呟くのであった。




 某月某日

 今日はクラス対抗戦でにーさんと鈴が対戦した。
鈴もにーさんが鈍感なのは今に始まったことじゃないんだから、好きならそこも許容して、鈍感なにーさんにあわせて、
わかりやすい愛情表現をするくらいの度量を見せればいいのに。まあこれは、鈴に限ったことじゃないんだけどね。
……でもにーさんのことだからそれでも気付かないかもしれないなぁ。

 そういえば、謎のISの乱入でこの対抗戦は流れてしまった。まあその謎のISも、無茶をしたにーさんと鈴とセシリアの連携攻撃で追い詰め、
最後はにーさんが止めをさしたようだ。それにしてもにーさんも無茶をするもんだ。
しかしそんなことよりねーさんだ。やはりいと言うかなんと言うか、言葉ではなんと言おうがにーさんのことが心配だった様だ。
コーヒーに間違えて塩入れるとか、普段のねーさんならまずしないようなミスが本当に可愛らしかった。
でもねーさんのファンにはこんな姿もったいなくて見せられないな。はぁ、それにしても今日は久しぶりに可愛いねーさんが見れて幸せだった。
こんなことめったにないから幸せすぎる。
それにしても山田先生は、口は災いの元という言葉を知らないのだろうか?

 そういえばにーさんと箒の部屋が別々になった。
箒はせっかく同じ部屋だったのにそのチャンスを生かせず終いだったようだ。
でも最後の最後に「学年個人トーナメントで優勝したら付き合ってもらうぞ。」なんて言えた事は良かったと思う。
隣のにーさんの部屋をノックするものすごい音が聞こえてきた時は、何事かとお思ったよ。
部屋から顔を出して廊下を見たら、箒が頬を紅潮させてにーさんとそんな約束をしていたから2度びっくり。
だからよくがんばったと褒めてあげたいくらいだ。
……でも相手はにーさんだから、買い物かなんかに付き合う約束程度にしか思ってないんだろうなぁ。
可哀想な箒……




────────────────────────────────

 それにしてもようやく1巻分終了です。
今回は長さのわりに難産でした。というか前回も難産でしたけどね。
なので次はちょっと更新遅れます。



[26017] ななぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/02/27 20:29
 六月に入って最初の月曜日の早朝、今日もめでたく目覚まし時計に勝利した私は、のほほんちゃんを起こさないように、ジョギングに行く準備をする。
そして廊下を歩いていると、こんな時間に会うのは珍しいセシリアと出会った。

「おはようセシリア、こんな時間に何してるの?」
「え?あ、お、おはようございますですわ?」

 なぜか意味不明な朝の挨拶が返ってきた。よく見るとセシリアは食材らしきものが入った袋を持っていた。

「セシリア、そんなものもって何してるの?」
「な、何でもありませんわ!」

 私がニヤニヤしながら聞くと袋を後ろに隠す。私はその様子にあまりからかっても悪いなと思い、後ついでににーさんのためを思い一つ提案することにした。

「手伝ってあげようか?」
「手伝いなんて必要ありません!この間だってわたくしの料理をおいしいって言ってくださいましたわ!」

 そう私の提案をフンッといった感じで却下してプイッと横を向いてしまった。
私はそんなセシリアを見てやれやれといった感じでため息を吐いた。

「セシリア、男の子にはね、女の子が作ったものは、例えどんなに不味くても不味いなんて言えないものなんだよ。」
「でっ、でも!そんなはずは──」

 私の言葉を否定しようとするセシリアの言葉をさえぎるように、セシリアの顔の前に手をかざして待ったをかけた。

「こんなところでこんな時間に大声は、だめだよ。ともかく、妹の私が言うんだから間違いないよ。とりあえずキッチンに行こう?」

 私の言葉にう~っとうなりながらも、こんな所で騒ぐわけにもいかないということをセシリアは理解したのか、不承不承首を縦に振った。
そしてキッチンに着いた私は、とりあえずセシリアが持っている食材を見て何を作るのか確認する。

「ふ~ん、サンドイッチを作るんだ。安心して、変なところがなければ手を出さないからさ。」
「変なところなんてありませんわよ、この完璧なわたくしがミスなんてありえませんわ!千夏さんはそこでぼーっと見ていらっしゃればいいんですわ!」

 そう言ってセシリアは調理に取り掛かった。結果は、まああれだよね、予想通り酷いものだった。
見た目だけ写真に似せようとするから、使う調味料はとりあえず味度外視で、色で選ぶという暴挙に出たりする。
ほかにもパンに何も塗らなかったりしたので、とりあえず溶かしバターとかマヨネーズにマスタード混ぜたものを塗らせたり、
卵サンドをマスタードで、より黄色くしようとしたりもしたが、とりあえずマヨネーズを持たせて味を調えさせた。
しかも、止めるたびに文句をぶつぶつ言うので、一度失敗させてそれを食べさせて納得させるという、とても食材の無駄なことをやらせてしまった。

「……とりあえずセシリア、味見することを覚えたほうがいいよ。」
「……不本意ですがそのようですわね。」

 まあこれでもう、セシリアもとんでもないものをにーさんに食べさせることもないだろう。
ちなみに報酬として食材を分けてもらい、私の分のサンドイッチも作っていたりする。

「とりあえず何か困ったらマヨネーズを入れればいいんですわね。」
「…………」

 ある意味間違ってはいないが、間違っているセシリアであった。



 ショートホームルーム前の教室は、みんなISスーツのカタログを片手にわいわいと盛り上がっていた。
なぜならそろそろISの実戦訓練も本格的になってくるので、自分用のISスーツを買うためなのだ。まあ学校指定のISスーツもちゃんとあるんだけどね。
などと盛り上がっていたら山田先生が説明しながら現れる。そしてすらすら解説できたことに、みんな山田先生のことを褒めだした。
ただし山ちゃんだの山ぴーだの愛称で、そこにはどこにも尊敬はなく、ただ親しみやすさしかないのであった。

「今日からISスーツ申込開始ですからね。予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 などと言わないでいい事までいって、その豊かな胸をそらして得意げな顔をする山田先生。しかし色々な愛称で呼ばれていることにようやく気付いたようだ。
しかし山田先生は本当に愛されているね。その親しみやすさから愛称が確か8個とかあった気がする。

「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」
「えーいいじゃんいいじゃん。」
「まーやんは真面目っ子だなぁ。」
「ま、まーやんって……」

 などと次から次に山田先生は、マヤマヤだのヤマヤだの素敵な愛称で呼ばれては、顔を引きつらせてた。
私もついヤママヤーって言おうかと思ったけど可哀想だったのでやめた。

「と、とにかくですね。ちゃんと先生をつけてください。わかりましたか?わかりましたね?」

 そう山田先生は念押しに言うが、明らかに帰ってくるのは生返事ばかりであった。
などとクラス一同による山田先生弄りをしているとねーさんが教室に入ってきた。

「諸君、おはよう。」
「おはようございます。」

 さっきまで山田先生を玩具にしてたのが、嘘だったかのように、みんな息もぴったり朝の挨拶をねーさんに返す。

「今日からは本格的な実戦訓練を始める。訓練機ではあるがISスーツを使用しての授業になるので、各人気を引き締めるように。
各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れないようにな。忘れたものには代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。
それもないものは、まあ下着でも構わんだろう。」

 私は流石に下着はまずいでしょって、思ったけど、ねーさんのことだから忘れたら本当にやらせかねないから困る。

「では、山田先生ホームルームを」
「は、はいっ。」

 連絡事項をを言い終わったねーさんは、山田先生に後を任せた。
しかし山田先生は油断しきっていたのか、めがねのレンズを拭いていたので、慌ててめがねをかけ直した。
そんなんだから山田先生は、みんなに弄られるんだろうな。悪いことではないよね?親しみが持てて親近感がわくんだからさ。
まあ教師としていいかどうかは知らないけどさ。

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも2名です!」

 その山田先生の言葉に教室が揺れるのではないかというくらい大きな驚愕の声が轟いた。
いくらなんでもこのクラスばかりに転校生とかおかしくない?そう思ったが、そう言えばうちのクラスはにーさんがいたんだっけと考え直した。
どっかの国が、珍獣的なにーさんに接触するために、圧力でもかけて転校させたのだろうか?
でもそれなら鈴だって同じクラスになっててもおかしくないはずだよね?それとも中国はそういうことをしなかったのだろうか?
疑問は残るけどまあいいか。
そんなざわめきの中、二人の転校生が入ってきた。

「失礼します。」
「…………」

 そんな転校生を見た私達クラス一同は、言葉を失うのであった。どうも片方は少年?みたいだからしょうがないと思う。
でも私はその少年に何か違和感を覚えた。なんというのだろうか?
私は自分の立ち振る舞いがあまり女性らしくはなかったので、できるだけそれを矯正しようとした経験がある。
だから何か無理矢理男らしく振舞っているように感じてしまうのだ。
でもそんなこと絶対の自信を持って、「その少年は男装の女の子だ!」なんて断定する自信はなかった。
そのため私はその少年から目が離せなくなってしまったのだ。
そんな風に見つめていたらいつの間にか転校生が自己紹介するという流れになっていた。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします。」

 そうデュノア君にこやかな顔でそう告げて一礼した。

「お、男……?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を──」

 そう誰かが呟いたのをシャルル君は律儀に答え、それにクラス中が歓喜の悲鳴で包まれた。
私はそんなことも耳に入らないくらい、デュノア君に穴が開くんじゃないかというくらい凝視した。
そして私はもう一人の転校生が、自己紹介してるのも気付かないでずっとデュノア君を見つめていたが、なにやら人を叩く乾いた音がして、ハッとわれに返った。
そしてその音のほうをを向くと、にーさんがもう一人の転校生に、なぜか頬を平手打ちされていた。
状況読めてない私は、あほみたいに口をぽかーんと開けて、何事かと周りを伺うが、周りのもみんな同じようなものなので、みんな訳が分からないということが分かった。

「いきなり何しやがる!」
「ふん……」

 怒鳴るにーさんをつまらない物でも見るかのような目で一瞥してから、その転校生は空いている席に座った。
するとねーさんが咳払いをすることによって注目を集めた。

「ではHRを終わる。各人は着替えてすぐに第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 言い終えるや否やねーさんがパンパンと手を叩いて、私達に授業の準備をするように促した。
そして私はにーさんとデュノア君が、教室から出て行くのをぼんやり眺めながら着替え始める。
着替えも終わりぼんやりとしながら、さてグラウンドにでも行こうかと教室を出ようとしたら、のほほんちゃんがいつも通りのゆっくりとした動きで、私の横に並んだ。

「ねーねー、なつー、デュノアくんに熱い視線送ってたけど、なんでかなー?」
「あ、熱い視線?……まあじっくり見つめてはいたけど、そういうのじゃないよ。なんていうのかな……」

 のほほんちゃんが興味津々といった感じで聞いてきたので、のほほんちゃんが期待しているようなものではないと否定して、見つめていた理由を言おうかどうか一拍考え込む。
まあ、言っても特に問題ないかと結論付けて、再び口を開いた。

「そう、なんていうか、デュノア君の動作とかにね、違和感を感じたんだ。男の子らしくないというかそんなね。」
「えー、そうかなー?」
「んー、ただなんとなく女の子ががんばって男の子っぽくしてるような気がしたんだ。あ、でも気のせいで私の勘違いだと思うから、忘れてね?」

 そう感じたままに話したが、やはり確信がもてないことなので、とりあえず忘れてもらうことにした。

「そうかー、てっきりなつはデュノア君みたいなのが、好みなのかと思ったよー。ざんねんざんねん。」
「へ?」

 そんなのほほんちゃんの言葉を聞き、自分がまじまじと男の子を見つめていたことを今更ながらに思い出し、顔がほてって鼓動が早まるのがわかった。
いや、ありえないでしょ、確かにそんなことしてたらそう勘違いされてもおかしくないけど、私が男を好きになるなんて。
いや、やっぱり今生は女なんだから問題ないのか。いやいやでもそういう問題じゃないし、やっぱり男を好きになるなんてと、思考がループする。

「なつは面白いねー。」
「うぅ……」

 そんな私の様子を見て、のほほんちゃんにそんなこと言われて、なんとも情けない顔をしてもきっとしょうがないはずだ。



 そして授業が始まり、にーさん達がいちゃいちゃしたり、ねーさんが出席簿で誰かをはたいたようだが、さっきののほほんちゃんとの会話のせいで、
どうも落ち着かない気分で、ちらちらデュノア君を観察してしまう。
……そう、何もやましい事はない、これはデュノア君が本当に男なのかどうか確認するために、観察しているのだ。
私はそう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせようと試みた。

 なんやかんやでいつの間にか授業は、山田先生対鈴とセシリアの模擬戦をやるという流れになっていた。
そしてなぜかデュノア君が、山田先生の使用しているラファール・リヴァイヴの解説をしていたので、ついつい聞き流しながら上空の戦いを見る。
しかし普段はあんなだが、流石にIS学園の教師なんてやってるだけあって、山田先生はなかなか強いようで、二人を手玉に取るような巧みさで軽くあしらってしまった。
その後、専用機持ちをリーダーに班を作ることになったが、案の定蜜に吸い寄せられる虫のごとく、男であるにーさんとデュノア君にみんな殺到する。
まあこんな調子で班が決まるわけもなく、この状況に頭が痛くなったのか、ねーさんは面倒くさそうに額に手を添えて低い声で告げた。

「この馬鹿者どもが……出席番号順に一人づつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」

 そんなねーさんの言葉で、流石にIS背負って百周とか無茶なことをやらされてはたまらないので、あっという間に班分けが完了した。

「最初からそうしろ、馬鹿者どもが。」

 ねーさんはそうため息をもらした。ちなみに私はデュノア君の班になった。
そしてデュノア君の班員達がなにやらキャーキャー黄色い声ではしゃぎながら、デュノア君の前に並んで声をそろえて「お願いします!」と、お辞儀をしてデュノア君に握手を求めている。
なにこの80年代後半から90年代前半の匂いがぷんぷんするやり取り。

「え、えっと……?」

 そんな様子に困って救いを求めるような顔をするデュノア君、なんというか、そういう顔も可愛いような気がするけど、本当に男なんだろうか?
どことなく女の子特有の可愛らしさに見えるのだが……
などとその様子を眺めていると、ねーさんが我が班員全員をスパパパーンと出席簿で叩き、「いったああっっ!」と叩かれた子達がハモって悲鳴を上げながら、頭を抱えこんだ。
そして最後に私もなぜかはたかれた。

「っ、何で私まで?」

 私は頭を押さえながらねーさんを上目遣いに見上げる。

「連帯責任だ。織斑妹、後ぼんやり眺めてないで止めてやれ。」

 そしてねーさんはさっき叩いた子達のほうに向き直った。

「さて、やる気があって何よりだ。それならば私が直接見てやろう。最初は誰だ。」
「あいえ、その……」
「わ、私たちはデュノア君でいいかな~……なんて」
「せ、先生のお手を煩わせるわけには……」
「なに、遠慮するな。将来有望なやつらには相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順ではじめるか。」

 そんなやり取りを尻目に私は、デュノア君の横に並んだ。

「私は織斑千夏、とりあえずよろしくね、デュノア君。」
「うん、よろしく織斑さん、えっと、一夏の妹?」
「うん、鈍いにーさんだから、色々迷惑かけると思うけどお願いね。後紛らわしいと思うから千夏って呼んでね。」
「わかったよ、僕のこともシャルルでいいよ。」

 などと会話をしながらISの装着、機動などを順調に進めていたらねーさんに叩かれた子達に気付かれた。

「あー!千夏ちゃんが抜け駆けしてるー!」
「ずるいんだな!千夏ちゃんはずるいんだな!」

 などと非難轟々だがそれも再びねーさんの出席簿で沈黙した。



 そして午前中の実習も終わり、今日はサンドイッチもあるので、のほほんちゃんと外で食べようかな、なんて考えていたが、残念ながら生徒会室に行くとの事。
なので大量の女子に囲まれているシャルルをにーさんがどこかに連れて行ったので、私も一人で食べるよりはにーさん達と食べたほうがいいかなと思い、小走りで後を追った。
そして移動中にセシリアや鈴に箒といった、いつもにーさんを取り合ってる子達と合流して、屋上に向かうことになり、道すがらふと食べ物を何も持ってないシャルルに疑問を持ったので聞いてみる。

「シャルルは、お昼なに食べるの?」
「僕は購買部でパンを買うつもりだよ。」
「まだ買ってないの?なら、ちょっと多めに作った私のサンドイッチを一緒に食べない?」

 なので私は、これは渡りに船だと思い、一人では食べきれない量のパンをシャルルに手伝ってもらおうと考える。

「いいの?」
「一緒に食べようと思ってた子と食べられなくなっちゃったからね。ちょっと食べきれないんだ。」
「じゃあ、ありがたくもらおうかな。」

 そうシャルル君がにこりと微笑む。それにしても本当に男なんだろうか?なんかこうドキッとする可愛らしさと、どことなくその仕草が女の子っぽく感じてしまう。
でもこれは、シャルルの第一印象からくる、私の偏見かもしれないからなんともいえないか。

「どうしたの?」
「え?な、なんでもないよ!」

 などと考えてたら、シャルルが顔を覗き込むようにしてきたので、思わず驚きで顔が紅潮してしまった。
しかしなんというか距離感が男の子らしくないというか、そう、にーさんに通じる鈍感さとでもいいうのだろうか?でもにーさんみたいに鈍いわけでもないからまた別物なんだと思う。
それに男の子特有の匂いがしないような気がする。わからないことだらけだけど、シャルルは本当に男の子なのだろうか?
疑念が残るけど、まさか「シャルルは本当に男なの?」なんて聞くわけにも行かないので、確認のしようがないな。
そんなことを考えながら、私はにーさん達の後について屋上に向かった。

 屋上に着いた私達はお昼をそこで食べることにした。
しかしどうもにーさんは、箒と一緒に食べる約束をしていたのに、シャルルを連れてきて一緒に食べようとしていたようだ。
もっとも私もついて来てしまった以上、邪魔者以外の何者でもないのだが、今更私だけ気を使って席を離れても意味がないので、箒には申し訳ないが今回は二人きりで食べるのは、あきらめてもらおう。
まあ鈴とセシリアがいる以上、二人きりなんてほぼ不可能だとは思うけどね。
なのでそんなにーさんに呆れて、私とシャルル君と顔を見合わせて苦笑しあった。

「シャルル、それじゃあ遠慮しないで食べてね。」
「うん、ありがとう。それじゃあいただきます。」

 シャルルの食前の挨拶を聞き、私も手を合わせて「いただきます。」と挨拶をする。
その後もにーさんと女の子達が、キャッキャウフフしてるのを眺めながら、私とシャルルはサンドイッチを食べた。

「このサンドイッチ、美味しいですね。」
「結構いい素材だったからね。」

 私がセシリアの作ったサンドイッチとセシリアに、ちらっと視線を注ぐと、シャルルが、ああなるほど、といった顔をして理解してくれた。
などといったやり取りをしていると、にーさんが鈴の酢豚を食べて、とうとう次はセシリアのサンドイッチを食べる時がきたようだ。

「こほん、わたくしの手作りサンドイッチもどうぞ。」
「うっ……。い、いただきます。」

 セシリアははにかみながらにーさんに、サンドイッチを差し出す。そしてにーさんは死刑執行台に上るような、そんな雰囲気をを背負いながらそれを受け取った。
はたから見たらかなり失礼だよね。まあセシリアは毒料理という前科持ちだからしょうがないけどさ。
そしてにーさんがサンドイッチを恐る恐る口に運ぶ。

「!……!?」
「ど、どうかしら。」

 言葉に詰まったにーさんに、恐る恐るといった感じで尋ねるセシリア。多分一度私にダメだしを食らって、自信がもてないのだろう。
……なんかそれはそれで、アドバイスした私に失礼ではないだろうか?

「本当のことは早めに言った方がいいわよ。」

 などと何気に酷いことを酢豚を食べながらさらっと言う鈴。まあしょうがないことだけどさ。

「……普通に食える。あ、ああ、普通に美味しいんじゃないかな。」

 以外と普通に食べられることに、驚きを隠せないにーさん。
そしてその顔が嘘を言っていないことに気付き、鈴と箒が信じられないものを見る目で、サンドイッチとセシリアを凝視する。

「そうですか!では、残りもどうぞ!」

 にーさんが心からそう思っているのがわかったのか、セシリアはぱあっと花が咲いたような笑顔で、残りのサンドイッチが入ってるバスケットをにーさんに渡した。
その後もにーさん達が、お弁当の食べさせあいっこしてるのを私とシャルルは眺めていた。

「……普通好意がないとあんなこと、気持ち悪くてできないよね?何で気づかないのかなぁ」

 そうシャルルに苦笑いしながら囁いたら、苦笑いでなんともいえない顔をされてしまった。



 放課後料理部で今週末に作る料理の話し合いを終えた私は、もうすぐ開催される学年個人別トーナメントに備えて、ねーさんにあるお願いをしに向かった。
ちなみに作る料理は旬の野菜のかぼちゃの煮つけだ。そして話し合いの最中、何か部長が嬉々として駄洒落を言ってた気がするけど、多分気のせいだろう。
そして職員室で、ねーさんとついでに山田先生を発見した私は、早速お願いすることにした。

「織斑先生、お願いがあるんですけど、今いいですか。」
「なんだ?織斑妹。」

 そしてねーさんは、どうした?という様な表情で先を促す。

「うん、学年個人別トーナメントも近いし、久しぶりに稽古つけてほしいかなってね。」
「ほぅ。」

 そう言うとねーさんの目は細めてきらりと光った気がした。そしてなぜか山田先生が、信じられないものを見るような目で私を見る。

「織斑さん!早まってはいけません。そんなことをしたら、ヒィッ。」

 そしてねーさんが、何か失礼なことを言おうとした山田先生を一睨みで黙らせる。

「それはかまわないが、何も私に頼まなくても篠ノ之は友達なんだろう?そっちに頼めばいいだろう。」
「箒はにーさんのことで頭がいっぱいだから……、それに、加減してない私の攻撃があたったら困るしさ。その点ねーさんなら私が本気で攻撃しても、当たる気があまりしないんだよね。」

 まったく当たらないわけではないんだけどね。有効打を与えるイメージがまったく思い浮かばないから困る。

「ふむ、まあいいだろう。今週の土曜の夕方ごろ時間を空けておけ。」
「うん、ありがとう、ねー……、織斑先生。」

 危うくねーさんと言いそうになったが、ねーさんに一睨みされたので、何とかこらえる。

「ところで織斑妹、少しは強くなったのか?」
「ふふふ、最近になってようやく、どうすればいいのかわかってきたよ。ただまあ試す相手がなかなか見つからなくてね。」

 そう胸を張って私は自慢げに言った。なにせ私は、目指すべき境地のイメージに、ねーさんと前世の柔術の師匠という最高に参考になる人を知っているのだ。
私は幼少のころ箒に、例えそれが剣術で私の本分ではないとはいえ、前世の経験があるのに、武術でまったく勝てないのはありえないことなのに勝てなかった。
そして勝てないということは、前世の経験なんてこの体では、ほとんど役に立っていないということだ。
ゆえに私は、今までの自分のあり方を正すべく、今の自分にあった体の使い方を再構築しなければならなかった。
それは力任せではなく、相手の力を利用して戦う前世の師匠が、まさに今の私が目指すべきものなので、私は前世の師匠の動きを模倣して、自分のものに昇華するべく練習を重ねてきたのだ。
もっとも、練習相手は主にねーさん相手だったため、ここ数年はほとんど一人稽古だったんだけどね。

「ほぅ、自信たっぷりだな。土曜が楽しみだ。せいぜい失望させるなよ?」
「うん、じゃあ土曜日よろしくね。」

 そう言ってねーさんは嬉しそうに微笑する。そしてなぜか山田先生は、驚愕の表情のまま固まっていた。



 某月某日

 なんか色々あった気がするけど、考えがまとまらない一日だった。
とりあえず良く思い出してみることにする。たしか今日は転校生が二人来て、ぽーくびっつ?ぼーでびっち?なんか違うな、
えーとそう、ボーデヴィッヒさん、ラウラ・ボーデヴィッヒさんがにーさんにビンタした。
何でビンタされたのかはよくわからないけど、なんかねーさんを尊敬しているみたいだから、このふにゃちん野朗が!お前見たいのがお姉さまの弟など許さん!的な理由なんだろうか?
ならなんで私はビンタされなかったんだ?まあそのうち理由も判明するだろうからいいか。
しなければしないで、にーさんに敵意を向ける珍しい女の子として、にーさんの友人に教えてあげたいネタになるからそれでもいいんだけどさ。

 そして今日から初めての実戦訓練。なぜかにーさんが山田先生のおっぱいを揉むというラッキースケベがあったり、にーさんの班の娘がお姫様抱っこされてたりしたようだ。
なんというかにーさんは自重するべきじゃないだろうか?まあ女の子達は喜んでたから別に問題ないのかな。
それと昼休みは、屋上でにーさん達と食べた。
にーさんは箒の手作り弁当をうまいうまいと言いながら食べていたな。後鈴の酢豚と私がアドバイスをしてあげたセシリアのサンドイッチも食べてたけど、よく食べるものだ。
まったくあれだけの量を食べても平気だとは、羨ましい。
そう言えばなぜか学年別トーナメントで優勝するとにーさんと付き合えるって噂が流れてたけどどういうことだ?


 それと関係ないけど今日はセシリアへのアドバイス料としてせしめた材料で作ったサンドイッチを食べた。
ただちょっと私には食べきれない量を作ってしまったので、お弁当がなかったシャルルに分けてあげた。
そしたら美味しいと言ってくれたのでうr



 
 な、何を喜々としてこんなことを書こうとしているんだ私は!こ、これでは、ま、まるで、い、いや考えるのはよそう。
そ、そうだ、今日の私はどこかおかしいんだ。明日になればいつも通りの私に元通りのはずだ。
……うん、今日はもう寝よう。それがいい、そう考えて私はもう寝る事にした。





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 2巻の内容はオリ主にちょっと主人公っぽいことやってもらおうと最初から考えてた話です。
まあ主人公らしさなんてほんのちょっとだけなんですけどね。
きっと今後も多分この作品のオリ主はモブ街道を歩き続けることでしょう。



[26017] はっぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/03/01 00:26
 今日も朝早くから軽く運動後にシャワーを浴びて身支度を整えてから、日に日に起こすのが手強くなっていくのほほんちゃんを起こす。

「のほほんちゃん、朝だよ。起きて。」
「……ん~むにゃむにゃ、……まだ。……ねむ。」

 のほほんちゃんは、そのまま布団を頭までかぶってしまった。

「っく。」

 それをひっぺがそうとするが、なぜか普段はよわよわなのに、布団を死守する時ののほほんちゃんは、私を軽く凌駕する力を発揮するから困る。
どうしたものかとちょっと考えて、頭から布団をはがせないなら、足元からめくってあげればいい事に気付いた。

「自分から起きないと後悔することになるよ。」

 なので私はニヤリと口を歪ませてぺろーんと足元から布団をめくった。

「……んん。」

 しかしめげずにのほほんちゃんは丸まって再び眠りにつこうとする。
そして私がため息をつき、肩を揺さぶろうとしたその時だった。

「……ん~、……なつ、……一緒、……寝よ。」

 にょきっと伸びた手につかまり引き寄せられて、胸に顔をうずめるように抱きすくめられてしまう。

「ちょっ、起きて、お願いだから起きて!」

 私はもがいて抜け出そうとするが、なぜかさらに強く抱きしめられて抜け出せない。

「ん~、ふかふか~。」

 そしてのほほんちゃんは幸せそうに顔をほころばせながら、私の胸に頬擦りをするのだった。



 今朝、のほほんちゃんを起こすのに初黒星だったおかげで、朝食を食べることができなかったが、ギリギリ遅刻だけは免れる事ができた。
まあ手持ちのチロルチョコ食べて、空腹で力がでないなんてことはなかったからいいんだけどね。
そして今日は土曜日。授業は午前中で終わり、午後は完全に自由時間となっている。
しかしアリーナが完全開放なので多くの生徒が、そこで自主訓練をおこなっているのだ。もっとも訓練用のISは数に限りあるんだけどね。
なので私はにーさんの訓練を見学して、アリーナの閉館時間ごろにねーさんと約束した剣道場に、のほほんちゃんと向かった。

 紺の胴衣に紺の袴をはいた私は、のほほんちゃんに手伝ってもらって軽く準備体操をしてねーさんが来るのを待っていると、ねーさんがボーデヴィッヒさんを連れてやって来た。

「待たせたな、織斑妹。もう準備できてるのか?」
「うん、もういつでもいけるよ。ところで何でボーデヴィッヒさんがいるの?」

 たしかさっきにーさんに喧嘩吹っ掛けてたのに、何でいるんだろうと、疑問に思ったので聞いてみた。

「ああ、お前の実力を知りたいそうだ。言葉で言うより見せたほうが早いとおもってな。」
「はぁ、まあいいけどさ。」

 それにしてもあれだろうか?私が弱かったらお前みたいのが織斑千冬の妹など許せん!ってなるんだろうか?まあいいけどさ。

「では早速はじめるか。」
「よろしくお願いします。」

 そしてねーさんが竹刀を手に取り、私と向き合った。私も長さ30cmほどの十手を手に持ちねーさんに一礼する。
この十手かというと、前世のころに習っていた柔術は、かつては捕縛術だったらしく、組み技はもちろん小型の武器の扱いや当身なども含まれる技術体系らしい。
流派の成り立ちとかは、師匠の話をよく聞いてなかったので覚えてはいないんだけどね。
そして私は右半身構えになりねーさんの攻撃を待つ。

「どうした。来ないのか?こないならこっちから行くぞ。」

 そう言ってねーさんが上段から切りかかってくる。
本来ならこちらから動いて間合いを潰したいところだが、おそらく最初ねーさんは様子見で来るだろうから、私の見切りがどこまでねーさんに通用するかも試したいのでそれでは意味がない。
次々襲い掛かる斬撃を私は避け続け、徐々に動きに無駄を減らしていく。

「わー、なつすごーい。」

 そんなのほほんちゃんの感心した声を聞きながら、私は斬撃との距離を薄皮一枚の距離まで縮める。まさに紙一重の距離と言えるんじゃなかろうか?
そして私はねーさんの上段からの斬撃に合わせてねーさんの側面に動いた。まず左手でねーさんの袖をつかみ右手を腹部に裏拳を当てる。
私はねーさんの斬撃の勢いをそのままに右手の拳を軸にして、ねーさんを縦に回転させるように左手を引く、そして軸の右手にねーさんの体が乗るような形になった時、拳が頭上に来るように弧を描かせた。
するとねーさんは綺麗に空を舞い、バシンと派手な音を立てて受身を取った。

「馬鹿な!」
「おー、なつすごいすごーい。」

 そう驚愕の声を上げるボーデヴィッヒさんと、嬉しそうに感嘆の声を発するのほほんちゃん。

「まあ、今のはねーさんが手加減してくれてたからね。」
「なんだと、あれよりまだ上があるのか?」
「へー、そうなんだー。」
「でなければ織斑先生を投げられるわけないでしょ。」

 そう言って、私がねーさんを投げることができた理由を教えてあげてから、深呼吸をした。
それにしてもボーデヴィッヒさんは、ドイツでねーさんから教導を受けていたのではないのだろうか?
まあ自慢ではないけど、例え手加減をしているねーさんの斬撃とはいえそれを避け続けられるような人はそうはいないので、驚くのも無理はないのかもしれないかな。
もっともねーさんが本気を出せば、こんなに余裕を持って避けれるわけがないのだ。下手をすれば初撃で一本取られてしまう。

「なんだ。その位はわかるようになったのか。」

 私は、にやりと笑うねーさんの手を取り起こすのを手伝った。

「しかし今の投げは、本来腹部に裏拳で殴ってから投げる技なのか?そんなものどこで覚えたんだ。」

 ねーさんは感心したような、それでいて呆れたように聞いてきた。確かに本来はあそこでカウンター気味に腹部を裏拳で殴るのだが、流石にそれをねーさんにやるわけにはいかない。
もっともねーさんなら、それを察して避けられてしまったかもしれないので、やらなくて正解だったかもしれない。

「うん、インターネットで調べて覚えたんだ。」

 とりあえず前世の記憶なんて本当のことは言えないので、適当に濁しておいた。そして私の言葉に一同納得してしまった。インターネットは魔法の言葉だったのだろうか。

「さて、それじゃあ次は本気で行くぞ。」
「はい。」

 再び私達は中央で一礼して構えた。そして先ほどとねーさんの雰囲気ががらっと変わる。
それはまるで私を飲み込むようなプレッシャーで、寄らば斬るぞ、といった感じで、殺気とでもいうのだろうか?そういったものがひしひしと伝わってくる。
まあ近寄らなくても斬られるんだろうけどね。
そんなプレッシャーを断ち切るように気合の声を上げ、今度は私から動くことにした。
まず間合いを詰めて組み手に持ち込まないと話にならない、しかし組んだからといって、ねーさんは剣だけの人ではないので安心することはできない。
まったくないないづくしだから困る。でもやらないと話しにならないので、私は一気に間合いを詰めるため大きく踏み込んだ。
だがしかし、そんな私の踏み込みなど意に介さないように、私の間合いに入る前にねーさんは袈裟切りに竹刀を振るう。
私は失敗を悟りその斬撃を十手で受け流す。
その後もなんとか間合いを詰めようとするが、そう簡単にはいかず、逆にねーさんの斬撃を危なげなく避けたり、十手で受け流して防戦一方になってしまった。

 その後私は、30分ほど竹刀を持つねーさんに挑み続けてから、無手での稽古をつけてもらった。そして今は制服に着替え終えたところだ。

「織斑先生、今日はありがとうね。」
「なに、気にするな。私もいい息抜きが出来た。そう言えば織斑妹、なにやらしょっちゅうデュノアを見つめているみたいだが、ああいうのが好みだったのか?」
「なっ、何を急に言い出すんだよ!」

 突然ねーさんが意味不明なことを言い出したので私は思わず声を荒げてしまった。

「お前は織斑兄とは違う意味で心配だからな。」
「そういうことはねーさんにだけは言われたくないな。」
「学校では織斑先生と呼べ。」

 つい私は思わずねーさんと言ってしまい頭をはたかれてしまった。

「ともかく、私はちょっとシャルルの仕草とか雰囲気が男の子っぽくないなって思って見てただけで他意はないよ。」
「シャルル、ねぇ……、まあお前がそういうならそれでも構わないんだがな。」

 そう私が一息でまくし立てるように言うと、ねーさんはニヤニヤしていた。そんな顔されても私がシャルルのことを好きとかそう言うことはないはずだ。
そう、ただ男か女かどっちか疑問に思っているだけのはずだ。

「ともかくそれじゃあ、のほほんちゃんも待ってるしもう寮に帰るね。」
「ああ、ちょっと待ってくれ、その、なんだ、ボーデヴィッヒのことを気にかけておいてくれないか?」

 そう言って私は思考を切り替えて帰ろうとする直前に、ねーさんが珍しくちょっと困った顔をした。
そう言えばボーデヴィッヒさんは、孤高というかそんな感じで孤立気味だから、一応ねーさんも教師なので心配なのだろう。

「うん、あまり期待しないでね。できる範囲程度で気にかけておくよ。それじゃ織斑先生今日はありがとうございました。」
「ああ、それで構わない、ではまたな。」

 そう言って私はねーさんと別れて、ボーデヴィッヒさんとも一緒に帰ろうかと思ったが、先に帰ってしまったようで、のほほんちゃんと共に寮へ帰るのであった。



 寮に帰ったのほほんちゃんと私は、寮の食堂で夕食を食べ始めた。

「なつは意外に強かったんだねー。」

 私とねーさんの立ち合いでも、思い出したのだろう。のほほんちゃんが突然そんなことを言ってくる。

「そうでもないよ。ねーさんを投げることが出来たのは手加減されていた最初だけ出し、後は一方的で思うように攻めることが出来なかったからね。」
「でも~、十手で受け流しててかっこよかったよー。」

 そうのほほんちゃんは、ぶんぶんと身振り手振りで褒めてくれた。

「それはありがと、でも受け流せたのはあれが竹刀で軽いから助かったんだよ。あれが真剣だったら軽く一回受け流そうとするだけで、手が痺れてたかもね。」
「そうなんだー。」

 私はちょっと照れて解説すると、のほほんちゃんは感心していた。まあ例え竹刀が軽いとはいえあんなもの食らったらたまったものではないんだけどね。
などと話していると、のほほんちゃんは何かに気付いたのか、私の後ろのほうに視線を移す。私もそれにつられて後ろに振り返った。

「あー、おりむ~は両手に花だ~。」

 のほほんちゃんの視線の先を見ると、左右に箒とセシリアがにーさんに胸を押し付けるように腕に引っ付いてやってきる。

「……にーさん何やってるの?流石に妹の私でもそれは引くわ。」

 ついつい半眼でそう言ってしまう。

「別に俺は好きで──」

 不満顔で何か言おうとしたにーさんが、言葉の途中で急に痛そうな顔をしたので何事かと思い、にーさんの両腕を見ると、ニコニコ顔の二人になにやら抓られていたので、私は呆れて思わずため息を漏らした。

「おりむ~は本当に女心がわかってないねー。」

 まったくその通りだなぁと、ついのほほんちゃん言葉にうなずいていると、にーさんはなんとも情けない顔になる。
その後にーさん達がイチャイチャするのを見ながら、私達は夕食を食べ終わらせた。

「そう言えばにーさん、シャルルはどうしたの?」
「え?あ、ああ、ちょっと風邪っぽいから部屋で休んでるよ。」

 どことなくしどろもどろなにーさん。何かあったのだろうか?まあいいか。
そしてなぜかのほほんちゃんが私をニコニコと、なにか微笑ましいものを見るような感じで見ている。

「だったらご飯どうするの?持ってってあげるならちゃんと考えて持ってってあげなよ。おじやとかスプーンで簡単に食べられるものとかさ。」
「お、おう、そうする。」

 そんなのほほんちゃんの視線を気にしないようにしながら、私はちょっと心配になったので、一応にーさんに助言して席を立った。



 その後私はシャワーを浴びて、そう言えばねーさんにボーデヴィッヒさんのこと頼まれてたことを思い出し、髪を乾かしてからボーデヴィッヒさんの部屋に向かい扉をノックする。
たしか確かボーデヴィッヒさんは、今一人部屋なんだったっけ?そう思い出しながら扉が開くの見ていた。

「なんのようだ。織斑千夏。」

 ボーデヴィッヒさんは不機嫌そうな声で出て来た。出て来たのはいいが、なぜかバスタオル一枚を身に着けているだけだったので、私は慌てて彼女を部屋に押し込め扉を閉める。

「ちょ、ちょっとなんで裸なの?もしかしてシャワーでも浴びていたの?」
「いや、寝るところだった。」

 もしかしてこの子は裸族なのだろうか?そんな疑問が私の頭を横切る。

「え?でも何でバスタオルしか身に着けてないの?」
「寝るときに着る服ががないからな。」
「ちょっとまってて。」

 なんだ。とんだずぼら少女なだけだったのか。取り合えず私は急いで部屋に戻り、元にーさんのシャツを二枚ほどもってボーデヴィッヒさんの部屋に戻った。

「ボーデヴィッヒさん、寝るときは取り合えずこれ着てパンツくらい穿きなよ?」
「ふん、そんなものは必要──」

 私は、ねーさん張りの鋭い眼光で一睨みすると、ボーデヴィッヒさんはびくっと怯んだ。

「いいから言われた通りにする!」
「……わかった。」

 ボーデヴィッヒさんは渋々といった感じで了承して、シャツとパンツを身に着けた。

「で、なんの様だ。」
「少し話をしようと思ったんだけど……」

 ボーデヴィッヒさんの部屋を見回してみると殺風景だった。これといった私物がまったくないのだ。
まあ備え付けのものがあるので、殺風景とはいえないかもしれないけど、寝巻きすら用意していないことから、なんか生活必需品とかも本当に最低限しか用意していないんじゃないだろうか?
なんかこの子のことが心配でため息がでる。

「ボーデヴィッヒさん、取り合えず学年別個人トーナメントが終わったらいろいろ買いに行こう。」
「かまわんが何でだ?」

 私の言葉に不思議そうな顔をするボーデヴィッヒさん。
部屋に必要最低限の物しかないのに、疑問を持たないなんて、本当に年頃の女の子なんだろうか?
まあこの年で軍人なんてやってるらしいから、人とずれているのかもしれないけどさ。

「取り合えず普段着る部屋着くらいはもってないと、誰か来た時に困るでしょ。」
「それなら制服が──」

 なにか言い訳をしようとしたので、私は再び一睨みして黙らせる。 

「困るでしょ?」
「あ、ああ。」

 私が強い語調で念押しにそう言うと、私の勢いに飲まれたのか、ボーデヴィッヒさんは首を縦に振った。

「それにねーさんにボーデヴィッヒさんのこと頼まれたからね。」
「教官に?」

 私の言葉には不思議そうな顔をするボーデヴィッヒさん。
ねーさんは、誰か一人をえこひいきする様な人じゃないから、不思議にでも思ったのだろうか?

「うん、一応ねーさんも教師だからね。」
「なるほどな。それと私のことはラウラと呼べ、織斑千夏。」

 だから私はボーデヴィッヒさんに、ねーさんの仕事が、今は何か思い出してもらって納得してもらった。

「私も千夏でいいよ。」
「それにしてもなぜ教官は、千夏に私のことを頼んだのだ?」

 ラウラは問題児であるという自覚はないのだろうか?まあ逆に問題児だと理解してたら、それはそれで面倒くさいんだけどさ。

「いつも一人でいるからだと思うよ。」
「それの何が問題なんだ?」

 なので取り合えず孤立していることをやんわりと教えてあげたが、理解してもらえなかったらしい。
多分集団生活で孤立することが、問題であることを理解していないのだろう。
それにしても軍隊で協調することとか学ばなかったんだろうか?よくわからないが軍隊なんて、規律とか協調性とか必要そうなイメージがあるのだがそうでもないのだろうか?

「何でか分かってない事が問題なんだと思うよ。」
「わからんな。」

 分からないことに多少の苛立ちでもあるのか、ラウラは顔をしかめる。

「それはおいおいわかるようになればいいんじゃないかな?取り合えず今日はもう帰るね。またね。」
「ああ、またな。」

 まあそういうことは、言葉でわからせるようなことじゃないだろうし、私が教えるべきことでもない気がするので、とりあえず自分でその答えは見つけてもらうことにした。
まあ私は友達になって、そういったことを理解する手助けになれればいいなって思う。
それにしても、なんだかとても疲れたような気がする。私は今日はもう部屋に帰る事にした。



 某月某日

 今日もにーさんが女の子とイチャイチャしながら訓練をしていた。
それにしてもにーさんは随分シャルルと仲良くなったものだ。
あまりの仲の良さに気持ち悪い妄想をする娘が出てきたのはびっくりだ。
とはいえにーさんのスキンシップはちょっと過剰な気もするけど多分気のせいだ。
なんか見ていてイラつくのも気のせいだ。そうに違いない。
まあそんなことはともかく、今日はにーさんがラウラに喧嘩売られてた。
しかしそのスルースキルは、女の子の好意をスルーすることで鍛えられていたのか、あっさりスルーしてた。

 後は久しぶりにねーさんに稽古つけてもらった。
久しぶりだったのでとても楽しく充実した時間だったので、あっという間に時間がすぎた。まあぼこぼこにされたんだけどね。






────────────────────────────────

 ラウラに元一夏のだぼだぼのシャツを着せたかっただけです。
今は反省してます。
ちなみに2巻の話はラウラとオリ主で組んで一夏とシャルの対戦にしようなんて考えてました。
しかしこの千冬戦を半分書き終えて、それって箒の専用機フラグ消失じゃね?って今更気付きました。
ということで兄妹対決と兄妹で協力して対ぱちもの千冬戦ができないことになりましたとさ。
まあそれは誰得展開なので別にいいかと思うことにします。
ちなみに武術とか知識が無いのでものすごく適当です。



[26017] きゅうぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/03/02 20:35
 そして翌日の夕食後、私は再びラウラとお話をするためにラウラの部屋に訪れていた。
すると今日は昨日あげたシャツをちゃんと着ていた。

「ちゃんと着てるね。えらいえらい。」

 私のその言葉に、ラウラはフンと鼻で息をしてそっぽを向いてから部屋に入れてくれた。

「今日は何をしに来たんだ。」
「昨日の話しの続き、後今日の事かな?」

 私の言葉を聞いたラウラは少し眉をしかめた。

「何でまたあんなことしたの?そんなににーさんのことが気に入らないの?」
「ああ、気に入らないな。あの男がいなければ教官が大会2連覇の偉業をなしえていただろうことは安易に想像できる。だから、私はあの男の存在を認めることは出来ない。」

 大会2連覇ね。あのにーさんが攫われた事件で、どこが一番得をしたかといえば、不自然に手際が良かったドイツ軍だと私は思っている。
どう考えてもドイツ軍だけがにーさんの監禁場所などの、事細かな情報を得ているとかおかしすぎるのだ。
なんというか、世界最強のIS乗りであるねーさんに貸しを作るために、ドイツが自作自演したのではないかと邪推してしまう。
もっともそんな確信のないことを誰かに話すわけではないんだけどね。

「でもそれってにーさんが悪いというより、人攫いをする人が悪いんじゃないかな?
それににーさんが存在しなかったとしても、その時は多分私が攫われていたはずだよ?それなら私の存在も認められない?」

 そしてにーさんが攫われた時、私は風邪をこじらせてしまい、家で寝込んでいたのだけれども、にーさんが存在していなかろうが、存在していようが、私も攫われる可能性があったのだ。
それにしても元気なにーさんと一人家で寝てる私。
どちらを攫うのが簡単かなんて考えるまでもないのに、なぜかんーさんが攫われたのはやっぱり健康状態が良いほうが面倒ごとが減るからだろうか?

「だが昨日の教官との稽古で、千夏が強いことは知っている。あれなら攫われるようなことはあるまい。」

 どうやらラウラは大きな勘違いをしているようだ。

「昨日とにーさんが攫われたころとじゃ、全然私の強さは違うよ。それに── 」

 私は少し考えて、一拍間を空ける。

「それにそもそも私の強さは、多対一を想定していない強さだよ。もちろんどんな状況でも戦う気概はあるけど、基本的に一対一でのみ実力を発揮するんじゃないかな。」

 きっと偶発的に多人数に襲われたりしたら、私が実力を出し切るのは至難の業だろう。無論まったく戦えないわけではないんだけど。
そして私とラウラはしばし見詰め合う。どうもラウラは私の言葉に納得がいかなかったようで、その表情にわずかながらに不満げに見える。

「私のことはともかくとして、にーさんが強ければ問題ないわけ?」
「ふん。あんなへらへらしたのが強いわけがないだろう。」

 私の問いかけにラウラは鼻で笑ってくれた。まあ強さなんて力だけが強ければいいなんて、どっかの世紀末な世界じゃないんだから、そんな道理が通るはずないと思うんだけどね。

「にーさんは確かに私より今は弱いかもね。でも、今弱くても一年後、いや、十年後はそうじゃないかもしれない。」

 それににーさん個人の力が足りなくても、にーさんは他から力を借りることが出来る。これも強さの形の一つだろう。
なにせにーさんが頼めば、いくらでも力を貸してくれる人達が沢山いるのだからね。……まあそれが女性ばかりっていうのもなんだけどさ。
もっともこんなことをラウラに今言っても理解してもらえずに、軟弱の一言で片付けられるだろうから言わないけどね。
もしかしたらラウラににーさんと、一度戦ってもらえば分かってもらえるかもしれないな。

「そんな先のことなど知るか。」
「まあ、他人なんだからそうだろうね。でも私は兄妹だからどんなに先のことだろうと楽しみだよ。」

 他人にこんなことをしゃべるのはちょっと照れくさいが、まあ私の中でにーさんとねーさんはとても大切な家族なのだからしょうがない。
だからにーさんの成長もとても楽しみなものなのだ。そしてそんなことを考えると思わず頬が緩んでしまう。

「その顔だ。なぜ教官も千夏も、あの男の話をする時はそんな顔をする!」

 ラウラはそんな私の顔を見て苛立たしげだ。それにしてもねーさんもにーさんについてラウラと話したのだろうか?
しかしそんなもの答えは決まっている。

「大切な家族だからね。」
「家族だと?そんなもの私は知らん!」

 そう、大切な兄ではなく家族なのである。なんというか、兄というより弟といった感じがするのは、やはり前世の20年分の記憶がそうさせるのだろう。

「なら、友達でも仲間でもいいと思うよ。」
「……私にそんなものはいない。」

 私の言葉に、わずかだがラウラに動揺が生まれたように感じる。

「ならこれから作ればいいんじゃないかな?」
「友達?そんなものは必要ないし、分かる必要もない。」

 しかし私の言葉をかたくなに否定しようとするが、どことなく心が揺らいでいるようだ。

「でも、もう私はラウラの友達のつもりだよ。」

 そんなことを言ったらなに言ってんだこいつ、みたいな顔でラウラに呆れられてしまった。
そして私も自分が恥ずかしいこと言ったことに気付き、顔が羞恥で朱に染まるのがわかる。

「……だ、だがまあ、千夏がどうしても私の友達になりたいというなら、しょうがないからなってやってもいいぞ。」
「うん、ありがとう。ラウラ。」

 しかしそんな私の様子に気付かずに、ラウラはどこか照れた様子で、私から視線を逸らして可愛いことを言ってくれた。
なんというかこう、保護欲にかきたてられる様な仕草でとても可愛らしいな。こうギュッとしたいというかなんというか。

「だが、お前の兄を叩きのめす事に変わりはないがな。」
「ふふ、それはどうだろうね?」

 物騒なことをとても良い笑顔でラウラが言うが、私もそれに笑顔で答えた。





 某月某日

 今日は放課後第三アリーナで、にーさんの訓練でも見学しようかとしてたらなぜか、ラウラがセシリアと鈴を挑発して二対一の模擬戦を始めだした。
ドイツの第三世代がどんな物か興味あったので、わくわくしながら見てたら圧倒的な差でラウラが勝ってしまったのでびっくり。
あのAIC、えっとなんだっけ?アニメインターナショナルカンパニーだっけ?全然違うな。
そうだ。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーだ。あれはすごかったね。なんというか反則みたいな感じでさ。
そしてセシリアと鈴のピンチに颯爽とにーさんとシャルル現れた。まあにーさんはいいとこなしだったけどね。
その後ねーさんが生身で仲裁に入った時は目を疑ったね。まさか生身でIS用近接ブレードをもってにーさん達とラウラの間に入るんだもん。

 後どうでもいいことだけどなぜか学年別トーナメントが二人組みでの参加になってしまった。
ラウラと組もうかとも考えたけど、専用機持ちと組んでも勝って当然で、自分のいる必要性がまったくない気がするのでのほほんちゃんと組むことにした。

 それと関係ないけど最近にーさんとシャルルが仲良くしてるのを見ているとイライラする。
にーさんが男友達と仲良くするなんて昔からあったことなのになぜだろう。



[26017] じゅっぺーじめ
Name: えのころ草◆97f44b13 ID:709cf4c1
Date: 2011/03/02 20:36
 学年別トーナメントもアクシデントで中止となり、私は負傷してしまったラウラのことが、気になったので保健室に来てみると、ちょうどねーさんが保健室から出て来たところだった。

「あ、織斑先生。ラウラはもう大丈夫ですか?」
「なんだ。織斑妹。ラウラが心配で来てくれたのか?そうだな、しばらくは動けないだろうが問題はない。」

 私の姿を確認したねーさんが少し意外そうな顔をする。

「それは良かった。でも心配も何も織斑先生が気にかけてくれって言ったんだよ?まあおかげでいい切っ掛けになったけどさ。」

 私はラウラが無事だったことに心底安堵する。でもねーさんにそんな顔をされるのは心外だ。

「お前は昔から友達作りが下手だったからな。」
「う、そ、そんなことは……、と、とにかくっ!問題ないならあっても平気だよね?」

 私は返す言葉がないので、慌てて本題に話を逸らす。

「ああ、かまわんぞ、ボーデヴィッヒに同年代の友人ができるのはいいことだ。もっとも、織斑妹では少々女友達としてはどうかと思うがな?」
「それは織斑先生にだけは言われたくないな。」

 私は口元をニヤリと歪ませてるねーさんに、軽口を返して保健室に入ってねーさんと別れてから、ラウラが寝ているベッドへ向かった。

「ラウラ、体は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。」

 私はベッドの上のラウラに、椅子に座りながらそう声をかけると、ラウラは瞳だけこちらに向けた。

「へぇ、眼帯の下はそうなってたんだ。てっきり見えないのかと思ってた。」
「変か?」

 普段眼帯で隠れている左目を見て私は思わず見惚れてしまう。

「そんなことないよ。なんかとっても可愛いかな。」
「か、可愛い?この私がか?」

 ラウラはあまりそういうことを言われたことがないのだろうか?ぽかーんとした顔になる。まあそんな顔も結構可愛いんだけどね。

「うん、とっても可愛いよ。なんか白猫とかそんな感じで。ああ、でも人間のオッドアイってちょっと神秘的かな?」
「そ、そうか、猫か。」

 ちょっとネコミミとにくきゅう付けたラウラを妄想して頬を緩めていると、ラウラにとても微妙な顔をされ、困ったことに微妙な空気になる。

「えーと、それで、にーさんと戦ってどうだった?」
「ああ、完敗だ。」

 これではいけないと思い、私は話題を変えようと思い聞いてみたら、憑き物が落ちたような顔でラウラは答えた。

「その割には全然悔しそうじゃないね?」
「そうだな。不思議とそう感じないな。」

 ラウラは本当に悔しいとは感じていないのか、とても穏やかな顔をしている。

「ふーん、もしかしてにーさんに惚れた?」
「ああ、惚れたかも知れないな。」
「え?」

 私は何気なしに冗談交じりでラウラに尋ねると、あまりにも意外なことをなんでもないことのように、ごく自然に答えた。
そりゃにーさんは天然の女たらしだけど、どういう心境の変化?私の理解のおよぶ範囲からはるか彼方なラウラの言葉に、私は呆然となる。

「そういうお前はどうなんだ?」
「な、なにが?」

 そんな呆然としてる私にお構いなく、ラウラが声をかけてきたので、私は我に返った。

「シャルル・デュノアのことだ。」
「え?」

 そして意外な事を聞いてくるラウラ。私はそれにぽかーんと口を開いて間抜け面を晒してしまう。まあラウラ以外誰もいないからいいけどさ。
それにしてもなんでここでシャルルが出てくるのか意味がわからない。

「あんな露骨に見つめていれば、今の私にでもわかる。」
「な、何を言ってるのかな?」

 ラウラはそんな私の表情を横目にしながら、さらに言い加えてくる。そして私はその言葉になぜか動揺してしまった。

「ふぅ、現実から目をそむけるのはよくないぞ。」

 ラウラは量目を閉じてため息を吐いて、咎める様に言う。

「私が、シャルルのことを好き?」
「違うのか?」

 ラウラは私のつぶやきに不思議そうな顔をする。
わからない。そもそも心臓が早鐘を打っているし、頭はくらくらするし、全身熱を持ったように熱くなるし、もう本当に何がなんだかわからない。

「……ちょっと考えてみるから、もう帰るね。なんかごめんね。」
「ああ、またな。」

 私は思考がよく定まらない頭とおぼつかない足取りで保健室を後にした。



 某月某日

 ついに学年別トーナメントが開催された。そして一回戦終了と共に中止となった。
なんという超展開。あまりのことにびっくりした。
その試合はラウラ&箒VSにーさん&シャルルの対戦で、あっという間に箒が脱落した。
そしてにーさんとシャルルがラウラを追い詰めたけど、なにやらラウラのISがおかしなことになって中止になってしまった。
その後は避難したので分からないがきっとろくなことではなかったのだろう。

 そう言えば今日ラウラに気付かされたことがある。
正確には気付かされたんじゃなくて目を背けていた事だ。なんというか今までの行動を思い出すと顔から火が出るほど恥ずかしい。
だから明日、このことはさっさとけりをつけようと思う。



 そう、けりをつけようと思う。今まで気になっていたのはシャルルの性別の違和感じゃない。
男なのにその男らしさがなくて、柔らかい物腰で男を感じさせないシャルルは、もしかしたら私にとって理想の男の子なのかもしれない。
私の前世の意識が、どうしてもそれを否定したかったのかもしれないが、認めるしかあるまい。
今日の試合でも私が誰に一番注目していて、誰を応援していて、その一挙手一投足に心動かされていたかを考えれば否定のしようがない。
にーさんでもなく、最近親しくなったラウラでもなく、私はシャルルだけを見ていたのだから。

「なつー、日記書いてるのー?」

 などと自分の心情を見つめなおしていたら、のほほんちゃんが私の兄観察日記を横から覗いていた。

「あー、なつはやっと好きなこと自覚したんだねー。」
「なっ、何を!」

 慌てて日記を机の中にしまい振り向くと、のほほんちゃんがいつもの着ぐるみパジャマを着てにこにこ顔で立っていた。
私は日記を読まれたことに血の気がサーッと引いたような気がして、なんか頭がくらくらする。

「の、のほほんちゃんは何でそこに立っているのかな?」
「んー、何度もなつのこと呼んだんだけど全然気付いてくれなかったから、それで何してるのかなーって、手元を覗き込んだんだよー。
後なつの表情がころころ変わって面白かったなー。」
「い、いつ頃から、観てたのかな?」
「30分くらい前からかなー?」

 ほとんど最初からじゃないか、私は何をやっているんだ?そう思いがっくりと肩を落とした。
「大丈夫。誰にも言わないからねー。」
「ほ、本当に?」
「うん、なつがデュノアくんを好きなことに気がついていないのは、多分おりむ~となつ自身くらいだったけどね~。」

 そののほほんちゃんの言葉に私は絶望した。

「そんなに私って分かりやすかった?」
「ん~、あれだけ熱い視線をデュノアくんに送ってたらねー。でも明日告白するなんてなつは大胆さんだな~。」
「……うぅ、なんか私って、にーさんのこと言えないくらい鈍いのかなぁ。」
「大丈夫だよ。なつはおりむ~と違って人に迷惑かけてないからねー。」
「……とりあえず、もう寝るね。」
「おー、一緒にねよ~。」

 そしてなんか最後に精神的にとても疲れたので、断るのも面倒くさくなり、そのままのほほんちゃんと同じ布団で寝ることにした。



 そして次の日の朝、私は普段より遅く起きて日課のトレーニングをさぼり、朝食も緊張からかろくにのどを通らなかった。
なんということだろうか。私は起きた直後から極度の緊張状態に陥ってしまったのだ。こんな状態で今日一日無事に過ごして、告白など出来るのだろうか?
しかし緊張するのも無理もないのかもしれないな。前世も含めて告白はおろか、恋愛感情とは無縁な生活を送ってきたのだから。
だから私は朝のホームルームまで周りのことなんて目に入らず、ただひたすら自分の席で、告白してもし付き合えたらどうなるんだろうとか、ひたすら明るい未来を妄想するために、自分の世界に入っていった。

「み、みなさん、おはようございます……」

 そして気付けばいつの間にか来ていた山田先生が、なぜかふらふらと元気がないようだ。
まあ今の私にはそんなこと気にする余裕はないので、ぼーっとその様子を眺める。

「織斑くん、何を考えているかはわかりませんが、私を子ども扱いしようとしているのはわかりますよ。先生、怒ります。はぁ……」

 なにやらにーさんを注意する山田先生だが全く元気がない。やっぱり私には関係ないことなので聞き流すことにした。

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」

 転校生ね。でも今日はそんなことどうでもいいのでやっぱり聞き流して、再び妄想の世界に帰ろう。
そんなことを考え始めた時だった。

「じゃあ、入ってください。」
「失礼します。」

 なぜか女装したシャルルが入ってきた。

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします。」

 そして私の頭は真っ白になった。
なにこの前世を含めて始めて恋をしたと思ったら、実は相手は同性でしたなんて漫画みたいな落ち。
いくら初恋は実らないものとはいえ、これはあんまりなんじゃないかな?というか最初の違和感を信じて確認してれば、こんな道化にならなくてすんだってこと?
なんかにーさんがふるボッコにあっているような気がするけど、私は脱力して体に力が入らないので、そのまま机に突っ伏した。





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 今回は短いのを二話まとめて投稿です。
ちょっと自分の気持ちを自覚させるシチュエーションが思い浮かびませんでした。
当初は、シャルとの戦闘超楽しい。これって恋?って感じで自覚させようと思ってたんですけどね。
ところで男装少女といえば、勝手に一人で盛り上がって勝手に失恋するのはお約束ですよね?


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