俺は成人式の日に死んだ。
久しぶりに会った高校時代の友人と、調子に乗って飲みすぎて、道端で眠ってそのまま凍死してしまったらしい。
運の悪いことに、その日はこの冬一番の寒さだったらしい。
だったらしいだったらしいばかりなのは、なんか威厳のないちっさい閻魔様が俺の死因を懇切丁寧に教えてくれてるからなのだ。
「ということですがわかりましたか?」
俺はわかったことを全身で表すためにぶんぶんと縦に体を振る。
何でそんな面倒なことをしているかといえば、人魂になってしまった俺は言葉を発することが出来ないからなのだ。
「それにしても、あなたは本当に面白味のない人生を歩んできましたね。それにあんな死に方をされた親御さんが不憫です。」
そんな閻魔様の言葉に余計なお世話だと思ったが、親不孝をしてしまったことに気分が暗くなる。
「まあ、あなたは特に善行も悪行もしていなので、一度魂を浄化して転生するといいでしょう。ではあちらのゲートをくぐりなさい。」
俺は体を縦に振って了解の意を示してから、ふよふよただよってその指し示されたゲートへと近づいていった。
「ちょっ、そっちではないですよ!その隣ですよ!」
しかし俺は、そんな閻魔様が慌てているのに気づかずに、間違えて隣のゲートをくぐってしまったのだった。
「……まあ、たいした違いはないですからいいですけどね。」
そんなこんなで前世の記憶を持ったまま、私が女に転生して早15年。
鏡には小柄ながらねーさんである織斑千冬に良く似た顔立ちの美少女が映っていた。
自分で美少女なんていうと痛い子っぽく感じるが、ねーさんはキリッとして、とてもかっこいい美人さんなので自分を卑下すると、ねーさんもブス扱いになってしまうのでしょうがない。
「うん、寝癖もないし、問題ないな。」
そんな独り言をつぶやきながら、私は自慢の腰までとどく姫カットな長い黒髪を入念に確認する。
本当は髪の毛を短くしたいと思っていたこともあるのだが、幼少のころ自分が女であることを意識できる様にと髪の毛を長くしたり、
できるだけかわいらしい服装をして、格好から女性であることになれるようにしていた名残だ。
まあ今じゃ私服はださださで、にーさんの服を勝手に拝借したりして友人の妹に、「千夏さんは本当に残念な美少女ですね。」と言われる有様である。
後天然女たらしでラブコメ体質なにーさんが、「せめて髪の毛くらいは女らしくしたらどうだ?」などと可哀想な子を見る目をしながら言うので、渋々髪の毛は長いままにしていたが、
これは最近では、切らなくて良かったと思えるようになってきたので、不本意ではあるがにーさんに感謝してもいいと思う。
ちなみになぜ女性であることになれようかと思ったかといえば、中学高校とほぼ間違いなく制服はスカートであろうことから立ち振る舞いに慣れておいて、
なれない動作で下着をちらちら見せるなんてことがないようにするためだ。
もしそんなことになったら、痴女以外の何物でもないのでそれだけは避けなければならなかったからなのだ。
おかげで今では、ミニスカートも穿きこなせるようになってしまったが、未だにスカートを穿く時、少しの緊張と羞恥と背徳感で胸が高鳴る。
しかしそれが嫌な感じがしないから困ってしまう。
多分前世で女装する機会があったら、女装癖がついてしまっていただろう私は間違いなく変態だ。
しかも前世の私はなかなかがっちりと厳つく毛深かったので、とてもではないが可愛い女性物は似合わない存在だったからそんな性癖に目覚めなくて本当に良かったと安心する。
「なつー、もう行こ~。」
などとどうでもいいことを考えていると入学式の前日に寮に入ってルームメイトになった布仏本音、略してのほほんちゃんが扉の方からゆったり声をかけた来た。
その愛称にたがわずゆったりとした動作とのほほんとした空気、それとなぜか長めの袖とその愛らしさでまさにのほほんちゃんといった感じの可愛らしい娘だ。
「ちょっとまって、鞄取ってくるから。」
そう返事をして机の上においてある鞄を取ってのほほんちゃんの元へ移動した。
「お待たせ、それじゃ行こうか?」
「うん」
そして私達は今日から通うことになるIS学園へ向かうことにした。
まあ学園は目と鼻の先にあるようなものだから急ぐことはないんだけどね。
学園に着きクラスを確認すると、のほほんちゃんと同じクラスだったので、そのことをお互い喜び合ってから教室に向かった。
するとそこには見知った顔が2つあった。
一つはかなり懐かしいが、威圧的な鋭い目と私の幼少のころの記憶のままの髪型をしているので、おそらく篠ノ之箒だ。
確か箒はにーさんにいじめかっこ悪い(キリッ)ってされて助けられてからデレた幼馴染その一だったはずだ。
ニュースなどを観てにーさんがIS学園入学するであろうことは予想がついていたであろうから、
IS学園選んで良かったとでも思って、にーさんに見つかりやすいようにするために、当時の髪型にでもしているんだろうか?
そんなことしなくても多分あのにーさんのことだから気づきそうなもんだけどな。
まあ好意に関しては地球が滅んでも気づかないだろうけどさ。
たしかそんな箒に私はかつて剣で一度も勝てなくて一方的にライバル視していた気がする。
無手でなら前世の経験と合わせて軽く投げ飛ばせるのだが、竹刀をもたれると勝てなかったと記憶してる。
そしてもう一つはなぜか兄妹なのに、同じクラスになってしまったにーさんの織斑一夏だ。
こういうものは気を利かせて別のクラスにするものではないのだろうか?
知らないけどさ。
まあたいした問題ではないので、にーさんの席は私の席の前のようだから、肩身が狭そうなにーさんに声をかけることにした。
「おはよう、にーさん。昨日ぶりだね。」
「おっ、おう、千夏。おはよう。」
にーさんはなんとも情けない表情でそう返事をすると、教室のあちこちで先を越されただのなんだのざわつき始めた。
まあざわつくのもにーさんが肩身が狭いのもわからないでもないが、私はそんなこと気にせずにーさんにルームメイトののほほんちゃんを紹介することにした。
「にーさん、この可愛い生き物は、私のルームメイトののほほ……布仏本音ちゃんです。覚えておいてくださいね。」
「ああ、俺は織斑一夏。ずぼらな妹だけど仲良くしてあげてくれ。」
「うん、なつとは仲良くするよー。おりむ~もよろしくね~。」
「お、おりむー?」
などと自己紹介してると、クラスメイト達は関心ないように装いながらも私達の話を一字一句聞き漏らすまいとしているのは、やはりにーさんが珍獣のようなものだからだろう。
本当にルームメイトが癒し系ののほほんちゃんで良かった。
ミーハー気分丸出しの娘がルームメイトだったら、姉のことと合わせてかなり面倒くさいことになっていそうだ。
それにしてもこちらをちらちら伺う箒も気になるなら自分から声をかけてくればいいのに、そう思いながら視線を向けるとさっと慌てて目を逸らされた。
などとしているうちに扉が開いて、そこから小柄で可愛らしい印象の若い女教師が入ってきたので私達は席に着いた。
その後も色々にーさんが騒がしかったりしたが、おおむね問題なくその日の授業を終えて、放課後を迎えた。
まあ流石ににーさんがセシリアさんと決闘することになったりしたのは予想外だったなぁ、などと席について勉強中のにーさんの前に立ちながらぼんやり眺めながら考える。
「うぅ……」
そしてにーさんはなんとも情けない呻き声をあげながらぐったりとうなだれた。
「い、意味がわからん……。どうしてこんなにややこしいんだ……?」
「そうがっくりするのも判らないでもないけど、自業自得なところもあるよね。」
そう私が言うとにーさんが、恨みがましい目を私に向けた。
「……でも参考書のこと教えてくれておいてもよかったじゃないか。」
「……はぁ、古い電話帳と間違えて捨てるとか意味がわからないよ。」
私がそう呆れて俯き加減で額に手を添えて頭を横に振ると、にーさんは「ぅぐっ。」と、奇妙なうめき声を上げて目を逸らした。
「ああ、織斑くん。まだ教室にいたんですね。よかったです。」
「はい?」
にーさんがそう呼ばれて返事をしてそちらを向いたので、私も釣られるようにそちらに視線を移すとそこには副担任の山田真耶先生が書類を片手に立っていた。
「えっとですね、寮の部屋が決まりました。」
そう言って山田先生はにーさんに紙と鍵を渡す。
私はその紙を覗き込むとその紙には1025号室と書かれており、おそらくこれがにーさんの部屋番号なのだろう。
「へぇ、にーさんは私のお隣さんになるんだね。」
「そうなのか?」
「うん」
それにしてもにーさんは、当分自宅から通う予定だと聞いていたけど、もう都合がついたのだろうか?
などと疑問に思っていると、にーさんも疑問に思ったのか山田先生にそのことを尋ねた。
「俺の部屋、決まってないんじゃなかったんですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど。」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。」
そのにーさんの疑問を山田先生が説明してからにーさんに耳打ちをした。
何をささやいているかは聞こえないけど、おかげでにーさんを遠巻きに見ていた娘さん達がにわかにざわめきたつ、そりゃ男女が顔を息がかかるような距離に近づけたら何事かと思うよね。
山田先生は多分天然入ってるんだろうな。
などと眺めてたらにーさんもそのことに気づいたのか少し眉をしかめた。
「……あの、山田先生、耳に息がかかってくすぐったいんですが……」
しかし、男ならこれはご褒美なのではないだろうか?この年頃の男なら、山田先生の、女性の良い香りが、とか考えてドキドキしそうなものなのにな。
にーさんを見てると、時々自分の考えはおかしくいのではないかと思ってしまう時がある。
「あっ、いやっ、これはそのっ、別にこれはわざととかではなくてですねっ……」
「いや、わかってますけど……。それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一度家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら──」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え。」
そう声がしたのでそちらを向くと、いつの間にか来たのか知らないがねーさんがいた。
「ど、どうもありがとうございます……」
「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯の充電器があればいいだろう。」
まったくその通りなのだがなぜかにーさんは少々不満そうな顔をしている。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で食べて下さい。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。
学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑くんは今のところ使えません。」
「え?なんでですか?」
「え?なんでにーさんはそんなこともわからないの?」
私はついなに言ってんだこいつという目でにーさんを見つめる。
「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
そしてねーさんは呆れを含んだ口調でそう言った。
「あー……」
その私達姉妹の反応ににーさんは、ようやくここが女の園だということを思い出したらしい。
「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、ダメですよ!」
「い、いや、入りたくないです。」
そしてにーさんはにーさんで心にもないことを言う。
まあここで素直に「はい、入りたいです。」なんて言えないよね。
「ええっ?女の子に興味がないんですか!?そっ、それはそれで問題のような……」
さらに山田先生がすっとんきょんなことを言い出したので、私はついぽかーんとした顔をしてしまった。
なんという発想の飛躍、山田先生は天然で妄想癖でもあるのだろうか?
そして廊下では山田先生の明後日の方向な発言に尾ひれが付いて、織斑くんは男色かも?でもそれもいいわね的な会話がなされている。
そんな状況に私は開いた口がふさがらないというかぽかーんとしてしまった。
流石女子高生、私の理解のはるか上を行く生き物だ。
「えっと、それじゃあ私達は会議があるので、これで。織斑くん、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草食っちゃダメですよ。」
山田先生はそう言うと、そそくさとねーさんと共に教室から出て行ったので、私はそれを間抜けに口を開けたまま見送った。
「ふー……」
にーさんがなにやらため息をしたのではっとわれに返りそちらを向くと、どことなく疲れた顔をしたにーさんが席から立ち上がっていた。
「にーさん、一緒に帰りましょう。」
「うん?ああ帰ろうか。」
そして私達はまだざわついている教室周辺から離れて、寮に帰るのだった。
まあ寮まで50メートル程度の短い道のりだけどね。
そして私達は部屋の前にたどり着いた。
「それじゃあ後でにーさんの部屋に行くね?」
「え?なんでだ。」
「私はにーさんと違って、入学前に参考書も目を通していたからね。少しくらいならISのこと教えてあげられるよ?」
そう私は小首をかしげながらにーさんを見上げた。
まあ実際は、パワードアーマーなんてロマンあふれる物に興味津々で、白騎士事件のころから色々調べたりしていたんだけどね。
「なにっ、本当か!?」
「まあ、それ位はね。それじゃあまた後でね。」
「おう。」
そうにーさんと約束をしてから、私は自分の部屋の扉を開いた。
「あ、なつー、おかえり~。」
すると先に帰って来ていたらしい着ぐるみパジャマで、とても可愛らしいのほほんちゃんが出迎えてくれた。
「のほほんちゃん、ただいま、お姉さんの所に行っていたんじゃないの?」
「行ってたよー、でも今日はすぐ帰れたの~。」
「そうなんだ。」
そう会話をしながら私は机に鞄を置いているとなにやら隣がどたばたと騒がしくなりだした。
「なんだろう?ちょっと見て来るね。」
私が部屋から出ようとすると、のほほんちゃんがゆっくりした動きで私についてくる。
「あ、私もいく~。」
そして二人で廊下に出るとにーさんが1025室の扉に、なぜか頬のすれすれに木刀の切っ先が扉から生えた状態でもたれかかっていた。
そして木刀の切っ先が扉の向こうに沈んでいくと、数秒後にーさんの頭めがけて扉を貫通して木刀が突き出され、それをすんでのところでにーさんは避けた。
「って、本気で殺す気か!今のかわさなかったら死んでるぞ!」
などと扉の向こうに向かって怒鳴り散らしている。
状況がよくわからないので私はとりあえずにーさんに声をかけることにした。
「にーさんは、何やってるの?」
するとにーさんは冷や汗たらして引きつった顔でこっちを向いた。
「あ、ああ、実は、その、部屋に箒がいたんだ。」
なぜかにーさんは視線を泳がせながらしどろもどろにそう言った。
私はついわけが分からないという感じで眉をしかめたが、にーさんはそのことには気づいていないようだ。
とりあえず私はこの場を納めるために、箒に話を聞かなければいけないなと考えた。
「とりあえずにーさんは私の部屋で、のほほんちゃんの相手しててね。私は箒とちょっと話してみるからさ。」
「あ、ああ、頼む。」
どうもこの騒ぎを聞きつけて、ぞろぞろと部屋から女の子が出てきているみたいなので、にーさんの精神衛生のために、私達の部屋にでも避難しておいてもらうことにした。
なんというか視線のやり場に困るような格好をしている娘ばかりなので、廊下に放置はするのは可哀想だからね。
「のほほんちゃん、お願いしてもいい?」
そう頼むとのほほんちゃんは、にこにこしながらにーさんの腕にしがみついた。
「うん、いいよー、頼まれたー。おりむ~、行こー。」
「あ、ああ。」
そうしてのほほんちゃんににーさんは、部屋に連れて行かれた。私が言うのもなんだが、いくらなんでもにーさんは流されすぎじゃないだろうか?
まあいいかと私はため息を一つしてから、にーさんの部屋をノックした。
「箒、覚えてる?私だ。千夏だ。ちょっと話をしない?」
すると扉が開き、そこにはなぜか剣道着を着た箒がいた。
何でこんな所で剣道着なんて着てるの?そう疑問に思いながら私はぽかーんとしてしまった。
「千夏か、久しぶりだな。」
「あ、うん、久しぶりだね、箒。にーさんには声かけてたみたいだけど、私にはかけてこなかったから忘れられてるのかと思ったよ。」
私は気を取り直してニヤニヤしながら返事をした。
「なっ、べっ、別にそんなんじゃないからなっ!」
じゃあどんなんだ?ともお思ったが話がこんがらがるのでやめた。この幼馴染は、私ににーさんが好きなことを気づかれていないとでも思っているのだろうか?
「はいはい、とりあえず中に入れてくれる?」
「う、うむ。」
とりあえず部屋の中に入りベッドに腰掛けて話をすることになった。
「で、何やってたの?にーさんは、一応山田先生に今日からこの部屋を使うように言われてたよ。
だから別ににーさんがやましい気持ちでこの部屋に侵入したわけじゃないからね。」
「そ、そうなのか。」
それにしても髪の毛はぬれたままだしシャワーでも浴びていたのだろうか?
「そういうことしないとは思うけど、もしかしてにーさんにシャワー浴びてる所覗かれでもしたの?」
「いっ、いやっ、そんなことはないぞっ、うむっ、千夏が心配するようなことはなかったぞっ!」
私が心配そうにそう尋ねると、なぜかあたふたと箒は否定しだしたので、私はため息を一つ吐いた。
とりあえず覗いたのでないなら、にーさんが何かしらのラッキースケベイベントでも起こしたのだろう。
昔からにーさんは、ラブコメ体質とでも言うのだろうか?フラグを無意識に立てたり、
ラッキースケベで可愛い女の子のおっぱいをもんだりとやらかしているので、別段珍しいことではないのだ。
まあなぜか攻略対象外であるはずの、妹の私にまでラッキースケベを起こすのはどういう了見だろうか?と、思うこともあるんだけどそれは今は関係ないね。
「とりあえず、山田先生に言えば部屋を替えてもらえると思う。年頃の男女が同室なのより兄妹が同室な方が自然だと思うからね。
……私と箒の部屋を替えてもらうことはできると思うけど、どうする?」
私はそう小首をかしげて箒に聞いてみた。
「う、うむ、そ、そうだな。ではそうしよう。」
するとどこか上の空な返事をする箒に、私は思わずまたため息を吐いてしまった。
「でも部屋を替わると、せっかくのにーさんとの距離を縮めるチャンスをふいにすることになるよ?」
「なっ、私は別に一夏のことなどっ!」
などと箒は顔を真っ赤にして慌てて言うが、そんな様子ではまったく説得力がないんだよね。
それにしてもなんか面倒くさくなってきたな。
「別に箒が誰のこと好きだろうが私には関係ないけど、きっとこんな環境じゃいつにーさんに彼女が出来てもおかしくないよね?
それににーさんのことだから、無意識で女の子たらしこんでも不思議じゃないしね。」
私は箒の顔を覗き込みながらそう言った。正直にーさんのことが好きな娘なら、私が出来る範囲でフォローはするけど特別肩入れはせず、できるだけ平等に応援するのだ。
まあさすがににーさんを紹介してとかそういう面倒くさいのは相手にしないけどさ。
「わ、わかった。部屋はこのままで頼む。」
そして箒は数分考え込んでから俯いて蚊の鳴くような声でそういった。
「はい、素直でよろしい。」
私はにこやかにそう返事をしながら立ち上がり、部屋を出ることにした。
「じゃあにーさん呼んで来るからね。それまでに心の整理をしといてね。」
そう言いながら手をはたはた振りながら部屋を後にした。
そして自室に戻ると楽しそうなのほほんちゃんに引っ付かれているにーさんがいた。
いたも何も私が頼んだことなんだからいるのは当たり前なのだが、流石にこの状況は想定外だった。
「あー、なつー、お帰りー。」
そう言ってのほほんちゃんがゆっくりした動きで私のほうに近づいてきた。
「ただいま、にーさんはもう部屋に戻っても大丈夫だよ。」
「ああ、ありがとな、千夏。」
そう言うとにーさんは自分の部屋に帰る為に立ち上がる。
「あぁ、そうだ。にーさん、ISのことは箒に教えてもらうといいんじゃないかな?」
「箒に?千夏は教えてくれないのか?」
「別に私が教えてもいいけど、箒は同じ部屋なんだから教えてもらいやすいでしょ?」
「それもそうだな。うん、じゃあ頼んでみるよ。千夏、色々ありがとうな、後のほほんさんもまた明日な。」
そう言ってにーさんは、部屋に帰っていった。それにしても早速仲良くなってるにーさんとのほほんちゃん、流石ほほんちゃんの癒しパワーだなと感心する。
「気にしないでいいよ。兄妹なんだからね。」
「おりむ~、またねー。」
そして私達は手を振りながらにーさんを見送った。
「のほほんちゃんもにーさんの相手ありがとね。それと感謝の印にこれを進呈しよう。」
とりあえず私はチロルチョコをのほほんちゃんにあげた。
チョコレートは頭の栄養なので、私はいつもチロルチョコを数個持ち歩いているのだ。
「ありがとー、なつー。」
そういうや否やのほほんちゃんはチロルチョコを口の中に放り込んで、うまー、うまーと幸せそうな顔になった。
私はそれを尻目にしながら机に向かい、机から表紙に大きく"あ"と書かれた日記を取り出した。
これはにーさんが箒を惚れさせたころからつけ始めた兄観察日記、略してあにっきだ。
この日記はにーさんが、いかに鈍感で女の子を可哀想な目にあわせているかを克明に記すことが目的の観察日記であると同時に、にーさんの精神的な成長を綴った物だ。
もっともその鈍さは一向に改善されておらず、まったく成長していないのだけれども。
そしてねーさんがたまに私にばれていないと思い込んで、これを読んでニヤニヤしたりする。
「なにしてるの~?」
「日記を書くの。」
不思議そうにのほほんちゃんに聞かれたので、私はのほほんちゃんのほうを向き返事をすると、のほほんちゃんは日記かーと言ってベッドにころんと寝転んだ。
なんというかその仕草が可愛らしかったのでつい頬が緩んだ。
さて、今日は久しぶりにいろいろ書くことがあるのでちょっと気合入れようか。
4月某日
今日からIS学園での生活が始まった。
ショートホームルームで自己紹介となり、にーさんの自己紹介とねーさんの登場以外はさらっと終わった。
ねーさんはやっぱり大人気で、キャーキャー黄色い声がすごかったがとても嫌そうな顔だった。
まあねーさんは昔から女の子らしい女の子ではなくそういうのりは好きではなかったのでしょうがないか。
そういう私も当然そういうのりにはついていけないのであまり好きではないけどね。
そしてにーさんは空気読めていない人だったらしくクラスメイトの期待を裏切る簡素な自己紹介をした。
その後の一時間目の授業もつつがなく終わり久しぶりに会った箒と話でもしてみようかと思って立ち上がろうとしたら、
その箒はこの女ばかりの空気にやられてダウンしているにーさんに話しかけてそのままを廊下に連れて行ってしまった。
私はここにも幼馴染はいますよーっと、ついついしゃしゃり出たかったがせっかく勇気を振り絞ってにーさんに声をかけたのだから自重したのだ。
そして置いてけぼりの私はのほほんちゃんに癒しを求めてのほほんちゃんと会話したのであった。
2時間目もにーさんが「ほとんど全部わかりません」なんて開き直ったことを言ってねーさんに怒られたりする程度で他は問題なく終わった。
休み時間にイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんが何を思ったかにーさんに絡んでた。
その後の3時間目は、再来週おこなわれるクラス対抗戦に出るクラス代表者の選出で、なぜかにーさんとセシリアさんが決闘することになった。
これはツンデレフラグ?なんて思ったけど流石にそんなことはないよな。
それにしてもセシリアさんは日本を馬鹿にしすぎ。
こういう世界は自分の国が中心に回ってると思い込むのはよくないと思う。
まあどうでもいいことだけどね。
そして今日はもうこれ以上何もないだろうと思っていたら最後に箒がやってくれた。
にーさんの予定が早まって今日から入寮することになったので、にーさんと一緒に帰った。
その後隣のにーさんの部屋がどたばたうるさいので様子を見に行ったらなにやらにーさんが木刀で攻撃されていた。
どうも同室になった箒と何かあったようなので仲裁もかねて間に入ることにした。
そして箒の様子からしてにーさんは何かしらラッキースケベなイベントを起こしたようだ。
流石にーさん、ラブコメ体質にもほどがある。
その後なんだかんだあったが、年頃の男女で同室より兄妹で同室のほうが問題にならないので、
山田先生に私と箒の部屋を変えるように頼もうか?と、箒に尋ねたが今のままで良いと言うので頼まないことになった。
流石恋する乙女、多少の貞操の危機なんてなんでもないらしい。
むしろ既成事実作っちゃえくらいの気概なんだろうか?箒に限ってそんなことはないか。
もっとも女の子に手を出すにーさんなんて想像もつかないけどね。
まあ私が部屋を替わらない様に煽ったようなものなんだけどさ。
そんなこんなで明日からもなにかにーさんがやらかしそうで楽しみだ。
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ちょろいさんはちょろ可愛いですね。
でもちょろいさんの登場シーンはカットしました。
だってちょろ可愛いのはデレてからだからしょうがないよね?