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3年前の超原油高を思い起こさせるような高騰ぶりである。産油国が集中する中東で民主化のうねりが噴き出し、政変や混乱が続いている。それを不安材料として、欧米などの先物市場で[記事全文]
「ケルトの虎」と呼ばれた頃の輝きはない。いま見えるのは、経済のグローバル化がもたらした影の深さだ。アイルランド下院(定数166)の総選挙で中道右派の最大野党、統一アイル[記事全文]
3年前の超原油高を思い起こさせるような高騰ぶりである。
産油国が集中する中東で民主化のうねりが噴き出し、政変や混乱が続いている。それを不安材料として、欧米などの先物市場では原油価格が相次ぎ1バレル=100ドルを突破した。
2008年の史上最高値(米市場で147ドル)には達していないが、中東の政変の連鎖で混乱が長引けば原油の高騰も続くだろう。市場には200ドルを超す恐れを指摘する報告もある。
国際エネルギー機関(IEA)は、100ドル水準の高値が今年いっぱい続けば、世界経済が第1次石油危機や08年のような影響を受ける恐れがあると警告している。
日本の国内物価への影響も出ている。航空会社の燃油サーチャージは4月発券分から上がり、レギュラーガソリンは1リットル=140円に迫る。今後、電気料金引き上げなども見込まれる。
日本は年間約10兆円の原油を輸入している。1割高くなれば1兆円もの国富が失われる。それで経済成長が0.1%幅押し下げられるという。
景気が持ち直しつつある大事な時だ。極端な燃料高となれば、また緊急対策も必要になろう。政府は物価の動きによく目配りしてほしい。
とはいえ、3年前はガソリンが180円超まで上がり、高騰ペースが激しかった。今回の上昇がそれほどでないのは、円高のおかげだ。3年前に1ドル=110円ほどだった円相場は今、82円前後。この大幅な円高が緩衝材となって、円建ての輸入価格はドル建て価格ほどには上昇していない。
日本では輸出産業への影響を恐れて円高を過度にいやがる「円高恐怖症」が根強い。だが円高には輸入資源価格の高騰を抑制する効能もある。そのプラス面も認めておくべきだろう。
原油高騰の背景には、新興国の経済成長に伴う需要増もある。原油高が長期的な傾向だとすれば、地道だが省エネと、天然ガスや原子力、さらには再生エネルギーへのエネルギー多角化政策をさらに進める必要がある。
短期的には、原油価格の安定に向けて期待がかかるのは、世界最大の産油国にして石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジアラビアだ。サウジが「リビアなどの産出減少分を補う用意がある」と言っているのは心強い。
中東民主化のうねりは、そのサウジにも広がる可能性がある。だが、それでも民主化は長い目でみれば、原油の取引を公正、透明で、より安定したものにする可能性がある。
原油輸入の9割を中東に依存する日本も、そうした視点から当面の動きに目をこらしたい。民主化が中東の政治的安定と世界経済の安定につながるよう、国際社会の一員として見守り、協力の道をさぐるべき場面である。
「ケルトの虎」と呼ばれた頃の輝きはない。いま見えるのは、経済のグローバル化がもたらした影の深さだ。
アイルランド下院(定数166)の総選挙で中道右派の最大野党、統一アイルランド党が勝利し、14年ぶりの政権交代が確実となった。
約80年にわたって下院第1党の座を占めてきた与党共和党は、歴史的な大敗を喫した。ギリシャに端を発するユーロと財政危機の津波が、政権与党を下野させたのは初めてのことだ。
法人税の低さをテコにした外資誘致による成長路線は、不動産バブルを引き起こし、世界金融危機をきっかけにあえなく崩れ去った。破綻(はたん)した銀行の借金を全額保証したため、政府の財政赤字は大きくふくらんだ。
成長の天国から不況の苦難へ突き落とされた有権者の怒りが、与党共和党に向かったのは当然のことだろう。
現行21%の付加価値税(消費税)の23%への増税、公務員2万5千人の解雇、こども手当の縮小――。国民の我慢のリストは延々と続く。
失業率は14%に迫る。人口450万の小国だが、首都ダブリンの空港や港から毎週千人もの若者が、仕事を探すため出国している。昔から多くの移民を出してきた国とはいえ、若者たちの心は苦渋に満ちているに違いない。
欧州連合(EU)は昨年11月、国際通貨基金(IMF)と連携して最大850億ユーロ(約9兆6千億円)の支援を約束した。政府の緊縮政策によって、財政赤字を4年以内にEU基準まで下げることが条件だ。
統一アイルランド党中心の新連立政権に、この苦い薬を飲むのをやめる選択肢はなかろう。新首相と目されるエンダ・ケニー党首は一層の予算削減を進めるとともに、返済条件の緩和をEUに求めていくという。
気がかりなのは国民にEUへの不信感が広がっていることだ。この国はEUの古くからの加盟国だが、2001年と08年にEUの機能を強化する条約の批准を国民投票でいったん拒否し、欧州諸国を戸惑わせた。
金融市場にはポルトガルやスペインなど財政赤字の大きい国々への警戒感がくすぶっている。日本政府は1月、アイルランド支援のためユーロ圏各国が共同発行した債券を購入した。
そんな状況の中で、アイルランドの経済再建が揺らいだり、EUとの関係がこじれたりしてユーロの信用が揺らげば日本もその影響を免れない。
明治時代、怪談をはじめとする日本文学を世界に紹介した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)、澄んだ歌声の国民的歌手エンヤ。この国が生み出した小説や演劇の名作、民謡の数々に多くの日本人が親しんできた。
そんな国の人々に一日も早く笑顔が戻ることを願いたい。