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現場発:ロボット開発最前線 熟練医でも難しい技を駆使 /岡山

 ◇「産業」から「医療福祉」「農業」へ

 宇宙ステーションで働く「人型」から自宅を掃除する身近な存在まで普及しつつあるロボット。経済産業省は10年4月公表の推計で、1兆円規模のロボット市場が20年2・9兆円▽25年5・3兆円▽35年9・7兆円になると予測。おかやまロボット研究会幹事の則次俊郎・岡山大教授(ロボット工学)によると、産業用ロボットの開発が一段落し、今後は医療福祉や農業分野への進出が見込まれるという。県内のロボット開発現場を訪ねた。【石川勝義】

 ■国の認可待ち

 人工関節を製造販売する「ナカシマメディカル」(東区、中島義雄社長)は、人工膝関節を骨に取り付ける手術用ロボットを97年から開発。研究拠点のR&Dセンター(北区)では、6号機で食肉用の豚の後ろ脚に人工膝関節を取り付ける実験を成功させた。

 人工膝関節は、大腿(たい)骨と脛(けい)骨に取り付けるチタン製器具2個と、その間に挟む樹脂で構成。手術では器具取り付け部の大腿骨を5面、脛骨を1面に切るが、計画通りの作業は熟練医でも難しい。

 医師はコンピュータ断層撮影装置(CT)の画像を基に、骨の切断部を決定。ロボットは骨に固定したアンテナを頼りに赤外線センサーで骨の位置を確かめて作業する。正確に骨を削れるうえ、従来約15~20センチだった切開部が半分程度で済むという。ロボットは厚生労働省の認可待ちだ。

 開発グループの高橋広幸課長(43)は「正確で再現性が高ければ医療現場で必要とされる。CTがある病院は多く一気に普及する可能性がある。価格は1億円以下に抑えたい」と話す。

 人工関節の手術が必要な変形性関節症などの病気は高齢者に多く需要があるが、気になるのが海外の動向。高橋課長によると同様の手術ロボットの部品が日本製だったり、開発した欧米企業を韓国企業が買収した例がある。「日本企業は医療事故を恐れて開発にあまり着手しないが、基本的な技術は確かなもの。医薬品関係の認可の迅速化など国にもサポートしてほしい」と訴える。

 ■重労働を代行

 産業機械を設計・製作する「光システムズ」(倉敷市、小林光樹社長)は、製品の外観を検査する「クオコン」(07年)、「イーグルアイ」(09年)を開発。両製品とも人の上半身型で、樹脂成形会社と自動車会社に納品した。小林社長(62)は「単なる機械との違いは専用機ではなく多用途に使えるところ。検査品が替わっても対応でき、人と違和感なく働ける人型にした」と話す。

 イーグルアイは片腕に8カ所の駆動部がある。両手に持った商品を両手首のライトで照らし、メッキ処理された鏡面に付いた指紋などを見つけ出す。両手を器用に曲げてチェックするさまは人のよう。蛍光灯の下で8人の従業員が行う作業を1台でこなし、24時間働ける。価格は4500万円前後だが「合理化、省人化を考えれば決して高くはない」(小林社長)。

 40歳で脱サラした小林社長は大手製鉄会社の元技術者。産業機械技術が強みだったが、15年前に始めた光学メーカーとの取引で画像処理技術が伸び、検査ロボットが生まれた。

 現在は農業分野に着目し、もやしを刈り取るロボットの開発を進める。雇用情勢が厳しい昨今だが「検品も農業も重労働。厳しい条件の仕事はロボットに任せ、人間はロボットを管理する世の中になるのでは」と話す。

 ■さらに身近に

 則次教授の研究室では空気圧ゴム人工筋を使ったロボット約20台の開発が進められている。空気圧ゴム人工筋はゴムチューブと経を広げると長さが縮む筒状の繊維を組み合わせたもので、空気を送ると収縮、抜くと弛緩(しかん)する。製品化に一番近い「パワーアシストグローブ」は手袋に人工筋が取り付けられ、手を「握る」「開く」が思うように出来なくなった人をサポートする。

 他にもリハビリでの利用を視野に「歩く」「起きあがる」などの動作に合わせたロボットが並び、4年生の小豆澤大地さん(23)は「人の動きに合わせてスムーズに動作させることが難しい」と話す。筋肉を動かした時の電圧差や脳波でロボットを動かすことも研究中だ。

 35年に9・7兆円と予測されるロボット市場の内訳は、製造2・7兆円に対し医療や検査、物流などサービスが4・9兆円に伸びると考えられ、より身近な存在になりそうだ。5月に岡山市で開かれる日本機械学会のロボティクス・メカトロニクスの講演会では約1240件の申し込みがあり、医療福祉関連が多かった。則次教授は「生活がより安全安心、快適になるのはいいが、一方で『収穫は自分でしたい』という農家もある。ロボットが人間の喜びや楽しみまで奪ってはならず、良い意味での共存社会を模索しなければならない」と指摘する。

毎日新聞 2011年3月2日 地方版

 
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