余録

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余録:「石の代わりにれんがを…

 「石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを」とは聖書が記すバベルの塔の工法だ。この話は実在した古代バビロンの巨大神殿がモデルという。ヘロドトスの「歴史」もバビロンはれんがとアスファルトでできていたと記す▲「聖域中央に縦横1スタディオン(約180メートル)ある頑丈な塔が造られている。塔の上に第2の塔が建ち、さらにその上に、というふうに8層に及んでいる。上るには塔の外側に全層をめぐるらせん形の階段がつけられている」。ヘロドトスが描く実録バベルの塔だ▲階段の途中には休憩用の椅子が設けられ、頂上の建物には黄金の卓と美しくしつらえた寝椅子が置かれていた。夜はみこが一人でそこに泊まるという。残念ながらこの古代メソポタミア最大といわれた神殿は残っていない▲天に届く塔をめざす人間に対し、神が言語を多数に分け、互いの言葉を通じなくさせて建設をやめさせたバベルの塔だった。だが、どっこい各地に散った人類もそんなことでは引き下がらない。今度は言葉の違う国ごとに「世界一」の塔を競って建設し始めたのだ▲ま、それは冗談だが、天の高みをめざす人間の心の弾みは古代からそう変わらないのかもしれない。建設中の東京スカイツリーが高さ600メートルを超え、自立式電波塔としては世界一になったと大々的に報じられた。開業は来春だが、今月中に目標の634メートルに達する▲この間もっぱら建設中の光景と、日に日に増す高さで街を活気づけてきたスカイツリーだ。いよいよ迎える大団円は、どうやらツリーをのぞめる首都圏一円で満開の桜によって祝福されそうだ。

毎日新聞 2011年3月2日 東京朝刊

 

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