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社説:与野党に訴える 予算修正で歩み寄りを

 2011年度予算案が衆院を通過した。本会議採決で小沢一郎元代表に近い民主党議員16人が欠席、党の内紛は泥沼化している。野党側は与党が予算案を関連法案と切り離し通過させたことに反発、重要施策や財源対策の裏付けとなる関連法案成立のメドは立っていない。

 菅内閣の運営が閉塞(へいそく)感を強める中、自民党は菅直人首相に衆院解散を求め、与党には首相の退陣で局面打開を求める声が出ている。だが、いずれも政治の混迷を打開する道とは言えない。

 今からでも遅くはない。与野党は関連法案の修正合意に全力を挙げて取り組み、接点を真摯(しんし)に探るべきである。

 ◇「熟議」遠い国会の醜態

 「熟議」とほど遠かった序盤国会を象徴するようなお粗末な予算の通過劇だった。

 野党の抵抗戦術を与党が数で押し切る中で時間は費やされ、未明の本会議で民主党議員の造反が起きた。午前3時半すぎに採決を終える旧態依然の国会攻防に嫌悪感すら感じた国民も少なくあるまい。

 特に理解できないのは、民主党会派に離脱届を出している小沢系議員16人の採決欠席だ。

 国会議員の党議拘束に議論があることは確かだ。だが、本予算案は首相指名選挙と並び重みのある議案であり、行動には政治責任が伴う。菅内閣に反旗を翻す一方で党からの除名をおそれたのか、反対票は投じず欠席するという集団行動は議員としての責任放棄に等しい。

 会派離脱騒動を黙認し「党内党」を放置している執行部にも問題がある。小沢元代表をめぐる対立激化をおそれ今回の造反も1人を党員資格停止、15人を厳重注意とする甘い処分方針となった。これでは自壊に歯止めはかかるまい。

 国会が「危機」にあることを与野党は直視すべきだ。予算案は衆院議決が優越し、年度内成立が確実だ。だが、特例公債法案など関連法案が成立しなければいずれ予算執行に支障を来し、多くの施策も中断する。「熟議」不発のツケが国民生活に回る懸念は否定できない。

 自公政権当時の「ねじれ国会」乗り切りのカードだった衆院で3分の2以上の多数による再可決で成立させる手段も、今回の16人造反で事実上、道は閉ざされた。自民、公明のいずれかと修正合意にこぎつけない限り、いずれ首相は退陣か衆院解散の道を選ばざるを得ない。

 だが、こうした展開は避けるべきだ。仮に首相が交代しても衆参「ねじれ」の国会状況に変わりはない。鳩山由紀夫前首相に続いて2代にわたり首相が衆院選を経ず政権を投げ出すようでは、後を継ぐ政権の正統性すら問われよう。

 一方で、即時の衆院解散も政治の混乱を収拾できない。予算関連法案すら合意できないままではいったい何のための国会だったのか、と言われよう。民主、自民を中心に政策の対立軸が不明なまま有権者の判断に資する争点が示されない選挙となりかねない点も問題だ。先の名古屋「トリプル投票」が警告した政治不信の厳しさを既成政党はより深く自覚すべきなのだ。

 だからこそ、与野党は関連法案の修正と向き合わねばならない。予算と関連法案は一体で採決すべきだという野党の主張には一理ある。だが、衆院での合意形成を探り与党が関連法案の採決を先送りしたのであれば、今回の措置はやむを得ない。

 ◇「解散」「退陣」道開けぬ

 自民党は民主党マニフェストに基づく主要施策の撤回を盛り込んだ予算組み替え案をまとめている。「解散一辺倒」でないとすれば前進だが、歩み寄りが事実上無理な案で突っぱねるばかりではいけない。

 議院内閣制の下、憲法が予算案に衆院の優位を認める趣旨を尊重しつつ、関連法案の修正にのぞむべきだ。修正合意を経て主張を予算に反映させる実積を残すことが「責任野党」にふさわしいのではないか。

 一方で、民主党も予算や関連法案修正に大胆に対応する必要がある。

 最大の焦点は「子ども手当」の扱いだ。マニフェストの象徴として標的になっているが、所得制限以外は自公政権時代の「児童手当」と実際にはそれほど差異が大きいわけではない。民主、公明両党を中心に接点を見いだすことは決して、不可能ではあるまい。

 現在の状況を生んだ責任の多くはむろん、菅首相にもある。党の内紛や小沢元代表の「政治とカネ」の問題に毅然(きぜん)とした態度を示せなかった。政策協議をめぐり野党に居丈高に歩み寄りを迫るかのような態度や、マニフェストの不備は小沢元代表の責任と言わんばかりの言動が国民の不信感を強めていることは間違いなかろう。

 予算の修正協議が進めば民主党はマニフェストの一層の見直しを迫られる。税と社会保障の一体改革案を含め、政策の座標軸を国民にきちんと説明する必要がある。

 首相が衆院を解散し、国民に信を問うべき時期もやがて訪れよう。そのためにも首相は党のマニフェスト見直し作業を前倒しし、これを主導しなければならない。

毎日新聞 2011年3月2日 2時30分

 

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